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オルドリクスの魔神器  作者: 上総海椰
16/33

4-1 王と姫

ヴァキュラを除いた四人の魔族がその場所にやってきていた。

『オルドリクス』の破片探しである。

四人の魔族たちは戦いのあった海岸付近でその光景を目の当たりにする。

「なんだこれは?」

ジーリアは眉をひそめる。

そこにあったのはいくつもの線が海岸に向けて引きずった跡。

二三本ではない、小さなものまで含めれば数百にも上る数だ。

それは自然にできたものではない。明らかに人為的な力によるものだ。

巨大なものから小さなものまで放射状に一点に向かって進んでいる。

「海に向かって続いている?そんな…まさか」

すぐにその場に居合わせた魔族はその最悪の可能性に思い至る。

『オルドリクス』が復活しているのだ。

またそれはドーラの推測を裏付けるモノでもあった。

探しモノの『オルドリクス』の破片は思いのほか早く見つかった。

小さな欠片が幾つか岩場に引っかかっていたのだ。

カリアがその欠片を拾い上げ、ドーラから手渡された瓶に入れる。

「しぶといな」

ジーリアは海岸の先を見据えながら、苛立ちまぎれにその台詞を吐き捨てた。

魔族たちは『オルドリクス』がまだ倒されていないことを実感する。


まだ戦いは始まったばかりということらしい。



ヴァロは会議の翌日、朝からヴィズルに呼び出され、言われるがままについてきた。

その城の地下に向かってらせん状に続く階段をヴィズルの背中を見ながら進む。

「すまないな、できるだけ部外者の方が都合がいいんだ」

にこやかに正装したヴィズル。

ヴィズルに言われるがままにヴァロとココルはその城の地下奥深くに向かっていく。

その途中にある扉を開きヴィズルはその部屋に入っていく。

ヴィズルに案内された部屋には装置の様なものがある。

「この装置は…」

その部屋にはさまざまなわけのわからない機器が所狭しと並んでいる。

「触るなよ。『船』の装置だよ。もともと魔女というのは『星の民』の子孫でもあるという。

同系統の技術を持っていたとしても不思議ではない。最もそれができると気付いたのはほんの最近だがな」

ヴィズルのことだ。かなり無理をしてつなげられるようにしたのではないか?

ヴァロはそんな気がした。ヴァロたちを残してヴィズルは一人奥の部屋に入っていった。

「ヴァロ君。そこの赤色のボタンを押してくれ」

「これか?」

ヴァロがそのボタンを押すと宙に映像が現れる。

誰もいない空の場所を映し出す。

しばらくするとエーダが現れる。

ヴァロは思わず声を上げそうになる。

映像を転送する魔法のことをフィアから聞いてなければ腰をぬかしていたことだろう。

ヴァロはとなりにいるココルの口を押える。

「ヴィズル…無事でしたか」

その声、表情、しぐさからこのエーダと言う女性が本気でヴィズルを心配していた様子が見て取れた。

もしこれが演技だったとしたら世界一の悪女だろう。

「あの綺麗な女性は?」

落ち着きを取り戻したココルの視線がその女性に釘づけになっている。

この世の者とは思えない美貌。

「ココルは初めてだったな。ミョテイリの聖堂回境師エーダだ」

「あの女性が…」

ココルはまじまじと見つめる。

「これはこれは『氷姫』が心配してくれたとは光栄だ」

まんざらでもなさそうな表情でヴィズル。

「ヴィズル、用件を簡潔に聞きます。五人の魔族が二つの太陽事件を引き起こしたのですか?」

「ああ」

後で聞くことになるが北の国々では、例のオルドリクスの一件は二つの太陽事件と言われ住民に不安にしているらしい。

ヴィズルは知っていた様子である。

なんだかんだ言ってもさすがはラムードの王ということらしい。

「順を追って話す。まず魔族五人の件だが、私の方で捕らえはした。聞けば五人はゾプタープ連邦から来たという。

話ではそれぞれが『爵位持ち』だと言っている」

エーダの顔から表情が消える。

「…『爵位持ち』。まさかあの伝説の?」

変化は劇的だった。端正な顔に見る見るうちに驚きの表情が広がっていく。

「それぞれの魔力の保有量から見てそれは間違いないと思っている。

さらに聞いて驚くなよ?そのうち一人はあのヴァキュラだ」

トドメを刺すようにヴィズル。

「ヴァ、ヴァキュラ公…まさかあの伝説の『聖剣喰い』…まだ生きていたとは…」

その映像越しにもエーダの衝撃が伝わってくる。

教会の支配域ではその存在はすでに伝説と言ってもいい。

ヴァロもはじめ聞いたときは耳を疑った。

その名は第二次魔王戦争中に聖剣使いと聖剣を屠ったとされる伝説の魔族の名である。

子供向け絵本でもその魔族は巨大な悪魔として描かれている。

(実際に見て会ってみればただの老人の姿だったが)

そんな伝説の魔族とこうして共闘する日が来ようとは想像もしていなかったことだ。

「さすがに骨が折れたよ。どうにか説得してラムードには連れてきた」

「説得って」

「こちらの方に処分を任せてもらって構わないだろうか?君としてもそちらの方がやりやすいんじゃないのか」

現在異邦…ゾプタープ連邦との国交は開かれていない。だが国交のあるラムードを経緯すれば話は別である。

もし引き渡されたとしても、ミョテイリの『氷結結界』を軽くあしらうほどの相手を閉じ込める結界は人間界でつくるのは厳しい。

文字通り処分に困るわけだ。ヴィズルの提案はエーダが喉から手が出るほどのものだろう。

「かまいません。こちらにはけが人は出ましたが死人は出ていません。ただゾプダーフ連邦にはミョテイリの城壁の修理代を請求してください」

当然と言った態度でエーダ。

「わかった。ゾプダーフとの仲介は私が引き受けよう」

「用件はこれで終わりですか?」

エーダはヴィズルを睨む。

「もう一つ頼みがある。むしろこちらが本題なのだが…」

「何かしら?」

気まずそうにヴィズルはエーダに切り出す。

「これからラムードは戦場になる。そちらのミョテイリに一時的に私の国の民を避難させてはもらえないだろうか」

「戦場って…どこの国と戦うというの?」

エーダがそう言うのも不思議はない。

現在大陸広しといえ最強の兵器、神槍を有する魔術王と敵対する勢力は存在しない。

さらに背後には幻獣王フィリンギもいると囁かれている。

もしそれを知りつつ敵対するのであればよほどの命知らずか、よほどの身の程知らずのどちらかだろう。

「異邦の兵器。『オルドリクスの魔神器』と言ったか。それにここが狙われているらしい」

ヴィズルの声にエーダはあからさまに表情をゆがめる。

「オルドリクスの魔神器…カーナ様が話しておられた『アデンドーマの三忌』のこと?」

エーダにはどうやら心当たりがあるらしい。

「そうだ」

「それは長い間沈黙を続けてきた異邦が動いた理由にもつながるのかしら?」

怪訝そうな表情でエーダはヴィズルを見つめる。

それもそうだろういきなりこんなことを切り出されたのでは疑問を持つのも当然のことだ。

ヴィズルは噛み砕いて事情を説明した。

「それは個人ではなく、国王としての頼み?」

「ああそうだ。この通り頼む。この私でも勝算があるかどうかはわからん」

魔術王は深く頭を下げた。

「…自信家のあなたらしくない」

エーダは非難するようにヴィズルを見つめる。

「弱気にもなるさ。何せあの第四魔王ドーラルイですら敗北している」

「…ドーラルイが負けた?あの『異形の壊求者』が?…それよりも…本当に復活していた…」

ヴィズルの言葉にエーダは顔をあからさまに引きつらせている。

エーダはドーラルイの復活に心当たりあるらしい。

「…心当たりがあるようだな」

「…」

エーダの表情がすべて物語っていた。

「とにかく私の国民を頼むよ。報酬ならばそちらの言い値で出してくれて構わない」

「それとこれとは話が別です。あなたの国とは同盟国。私たちの国にはその難民を受け入れる義務があります」

「…すまない。恩に着る」

恭しくヴィズルは頭を下げた。

「ただし、これは国と国の約束事。お互いの国が国として存続する場合に限ります」

「ああ、承知している」

ヴィズルは表情を崩さずに目を細めた。

「『オルドリクス』の問題は既に大陸全体の問題。もしそんなものが完成体となり、大陸で暴れれば魔王以上の災厄につながりかねません」

『オルドリクス』に対しての危機感に関しては共有できたらしい。

それに関しては大きな収穫ともいえる。

「理解してくれて助かる」

ヴィズルは胸をなでおろした。

「…コホン、私から一言言わせてもらっても?」

「なんだ?」

エーダは息を大きく吸い込んだ。

「こ、この甲斐性なし、そんなものいつも通り余裕綽々で片づけなさい。そしたら約束通りせ…せ、接吻でも何でもしてあげます」

顔を赤くして一息にまくしたててくる。

なるほど人を選ぶわけだとヴァロは背後で一人納得していた。

「了解。その言葉忘れるなよ」

ヴィズルはいつもの余裕の笑みを浮かべる。

その顔にやってしまったと言わんばかりにエーダは顔を赤らめ、眉を引きつらせる。

そうして通信が切れた。

最後のはエーダなりの檄なのだろうか。

ヴィズルは当然のようにその部屋から出てくる。

「なっ、いい女だろう。お堅いように見えて、中身は乙女なんだぜ」

ヴィズルは自慢するかのように、横にいるヴァロに話を振ってくる。

「あの…ひょっとして報酬っていうのは…接吻とか」

会話の中に出てきた疑問をヴァロはヴィズルに思い切って聞いてみた。

「そうだ」

ヴィズルは悪びれもなくそう答える。ヴァロは全身が脱力するのを感じた。

ココルは横で頭を抱えている。どうやらあの命がけの戦いは一人の女性のために行われたモノだったらしい。

魔術王といえば当代一の大英雄、それを口づけだけで動かすのもすごいが。

「あれで十年前まではこの私を虫でも見るかのような目だったんだぞ」

ヴィズルは陽気にヴァロに語る。今の姿からはとても想像はつかなかったが。

「何でもあの銀の髪は『星の民』で万いや十万に一人現れる突然変異だとか。

女王の資格を持つものに現れる証なのだそうだ。初代魔術王の書いた文献ではエルンも銀色の髪をしているらしい」

そう言えばカランティも銀色の髪をしていた。何か関係があるのかもしれない。

「子供のころに一目見たときからいつかは口説いてやろうと思ってた。もし私が命を張るものがあるとしたら、こことあの女のためだろうな」

満面の笑みでヴィズルは語る。

「それが『爵位持ち』と戦った理由…」

ココルは横で本当に呆れたような表情を見せていた。

「…まあそれもあったな」

悪びれもなく言うヴィズルの表情にヴァロたちは怒る気すら失せていた。

こういうところもこの男の魅力らしい。

「とにかくこれでラムードの民の心配はなくなった。…『オルドリクス』に全力で注力できるわけだ」

ヴィズルは薄く笑う。

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