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オルドリクスの魔神器  作者: 上総海椰
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3-4 暁の三賢者

その場に集まったのは魔術王、五人の魔族、ヴァロ、フィア、クーナ、このラムードの警備兵を束ねる武官八名、そしてラムードの宰相が一人。

武官は八人招かれており、ほとんど魔族や魔女が務めている。そのうち人間は一人しかいない。

ここはもともとフィリンギの支配地である。

さすがに侵略しようなど考える輩はいないらしいが、人に牙を向ける獣は少なくはない。

それから人々を護る使命を与えられたのが武官なのだという。

北方のヴァロと同じかそれ以上の体つきの者たちである。

だがそれを前にしても五人の存在感はそろしいまでに際立っていた。

ゾプダーフにおいて『爵位持ち』とは各部族を治める者たちである。それは人間界でいうところの一国を治めるに等しい。

その意味では彼らもまた王ともいえる。

強面の警備兵長たちも五人の『爵位持ち』を前にしてさすがに委縮しているらしく、どこかぎこちない。

言い換えればそれほどまでに力の開きがあるともいえる。少なくとも戦力になるとは思えない。

椅子に座りながらドーラは冷静に武官たちの武力を状況を分析していた。

「状況は説明してあるのカイ?」

ドーラに周囲の視線が向けられる。この者は第四魔王ドーラルイ。かつて人間界を混沌に陥れ、人類と戦った魔王の一人。

初めて見る魔王に誰もが息を飲む。

その様子を見てドーラは納得した素振りを見せた。

「一通りは事情を説明してあるみたいだネ」

「ああ、くれぐれもここでの話は外に漏らさないことを書類にしたためさせている」

聖堂回境師と第四魔王ドーラルイ、さらに異邦の『爵位持ち』。そうそうたる顔ぶれである。

「信用できるのカイ?」

ドーラが視線を向けると一同は一瞬びくりと反応する。

もし情報漏えいでも起きたのならば人間界において一大事件になる。

第四魔王ドーラルイ、ゾプダーフの『爵位持ち』が関わっているのだ。

これに現役の聖堂回境師が関わってきているとなれば、フィアの立場はおろか魔女たちの立場ですら危うくなりかねない。

情報は絶対に漏れてはならないのだ。

「そこは私を信用してもらうしかないな」

「…わかったヨ」

ヴィズルの言葉にドーラはしぶしぶ席に身を埋める。

「それじゃ、話し合いをはじめようか…」

ヴィズルが会議の始まりを告げるとドーラが一人立ち上がる。

「その前にもう一人話をつけなくちゃならない奴がいる」

ドーラはヴィズルの脇にとまるカラスを見つめる。

「…もういい加減に姿を現したらどうダイ?『暁の三賢者』エルン」

ドーラの一言に一斉にそのカラスに会議場の視線が集まる。

「『暁の三賢者』…エルンだと?」

ジーリアが睨むとそのカラスはびくりと痙攣した。

『暁の三賢者』は今回の事件の種をまいた張本人である。

横でそのやり取りを聞いていた魔術王は表情をピクリと動かす。

「…なぜそう言い切れる?」

ヴィズルが疑問の声を上げる。

「もし僕がその端末を近くに置くとすれば、ここの最大の権力者のそばに置くだろうからサ」

ドーラは目を細めカラスを注視する。

ドーラの目つきは獲物を見る『狩人』そのものだ。

「大方本体はこのラムードの中心付近にあるんだろうネ。場所は炉のある中核のあたりカナ?

とぼけとおすつもりなら今から本体をもってきてあげようカ?」

「…いつから気づいていました?」

さすがにこれ以上はと思ったのか、そのカラスは唸るように声を上げる。

カラスがしゃべる様を見てラムードの武官たちは驚く。

どうやら今までしゃべれることを隠してきたらしい。

「一目見たときからだヨ。その模造した生命からは生命の波長とは少し違ってたからネ」

魔族たちの反応から見ても気付いていたのはドーラだけのようだ。さすが魔法長といったところだろうか。

「全く…女性の秘密を衆目の前で暴き立てるなど本当に殿方の風上にも置けませんわね」

「いつまでも君がダンマリを決め込むからダロ。こっちは君が言い出してくるのを待ってたんだけどネ」

二人はいがみ合う。

「言っておくが状況は想像以上に悪いヨ。僕が気が付かなければ君は黙ってこれを見ているつもりだったのカイ」

「ええそうですわ」

「全く、リュミーサとはえらい違いだネ」

リュミーサと言うのはリブネントの聖堂回境師と聞いている。

ヴァロは会ったことはないがフィアはリブネント選定会議で会っていて、いろいろと気にかけてもらったようだ。

「リュミーサはお人よしなだけですわ。我々はただの標。その星に下りればその行く末を見守るだけの存在」

「この地が滅んでもカイ?元々は君らが蒔いた種だろう」

「ただの標は何が起きてもそれを眺めているだけでしょう?」

ドーラの問いにエルンは迷いなく応える。その姿にヴァロは気品のようなものを感じた。

「ずいぶん違うんだネ」

「リュミーサは自身を船から解き放ち、カーナから魔法の手ほどきを受け自身で守っていくことを選びました。

…在り方が根本から違うのです」

ふとヴァロは脇にいるフィアを見ると興味深そうに聞き耳を立てている。

「…選択の違いだろうサ。護るモノのために君は他者に力を求め、リュミーサはその力を自身に求めた」

「私は私の選択が間違いだとは思っていません」

「君の過去の判断などどうでもいいサ、肝心なのは今、目の前にある危機ダロ」

ドーラは冷ややかな態度でそのカラスを見据える。

「本当に女性相手に強引なのですわね」

エルンは不快感を隠そうともしない。二人と言うよりは一人と一匹といったところだろうか。

気まずい沈黙が会議室に立ち込める。

沈黙を破ったのはエルンの方だった。ドーラの言葉に小さくため息を漏らす。

少し目を細め、しばらくするとエルンはおもむろに語り始める。

「…『オルドリクスの魔神器』に弱点などありません。アレは我々が想定しうる最強最悪の兵器。

我々の持ちえる技術をすべてつぎ込んだ結晶ともいえます。完成された出力は星すら砕き、体の一部でもあればそこから復元は可能です」

「『オルドリクス』が完全無欠なのはリュミーサから聞いてわかってるヨ。僕が知りたいのは破片があれば複数体作れるかどうかだヨ」

ドーラの問いに周囲ははっとなる。

『パオベイアの機兵』と同じ機構をしているのならばその可能性もある。

もしあの『パオベイアの機兵』のように複数になられればこちらの勝ち目はなくなる。

「『オルドリクス』はそのようには作られておりません。『パオベイア』とはその点においてだけは異なります」

「それを聞いて安心したヨ。おそらくヴァキュラの一撃でかなりの損害を被っているはずだからネ」

ドーラはそれに安堵の表情を浮かべる。周囲も胸をなでおろしている様子だ。

「エルン、ここを移動することはできないのか?民を戦火に巻き込むわけにはいかない」

これはヴィズル。ヴィズルは民を守る王としての立場がある。

このラムードは空を飛ぶ『船』でもあるという。ならば移動することも可能だろう。

「残念ながらできませんわ。『船』は『種子』、一度根をその地に下ろしてしまうと、移動はできないのです。

…それに『船』の質量はすでに移動できる範囲を大きく超えていますわ。

もしそれでも移動させるというのなら城以外はすべて切り捨てることになります」

エルンの言葉にその場にいた者たちは頭を抱える。

もしそんなことになればラムードはこの地図から消えることになる。

それだけではない。一から居住区から何やらまで作るとなればかなりの時間と金がかかるだろう。

「やはりここで迎え撃つしか選択肢はないのか…」

「…」

ヴィズルの言葉にエルンは沈黙する。ラムード防衛という最悪のシナリオを考えなくてはならなくなったわけだ。

魔術王と五人の『爵位持ち』がいたとしても倒すことは容易ではない。

そうなれば文字通りこのこの地は戦火にまみれることになるのだ。

「それならば万が一のために民の避難を行おう。武官たちはミョテイリまでの民の避難を行ってくれ。

エーダには私の方から話をつけておく」

「王は?」

宰相らしき男はヴィズルに尋ねる。

「私はここの王だ。最期まで戦う」

「王」

ラムードの武官たちは一斉に抗議の声を上げた。

「なに、心配するな。私にはこの神槍エアリアがある。今までも、そしてこれからもここに仇なす者たちに容赦しない」

神槍エアリア。人類最強の兵器と言われ、その力はフィリンギの一撃にすら匹敵するという。

事実ヴァキュラとの一戦で雪原を荒野に変えている。

本気を出せばどれほどのポテンシャルがあるのか見当もつかない。

「各位はミョテイリへの住民の速やかな避難と周辺地域における村々への注意喚起を」

「はっ」

武官たちはそれぞれに頭を下げた。

「それじゃ、本題に入ろうカ」

ドーラはおもむろに切り出しはじめた。

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