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狂感覚に誘われ  作者: 亡霊
ep,2 
12/12

神よ、なぜ私は地獄にいるのですか?

 私は、酷い夢を見ている。


 「あ、おはようございます」 


 法に忠誠を誓い、法の為に働き、法に代わって正義を成してきた私が、地獄などという無法者が逝く場所にいるわけがない。

 ゆえに、これは何かの夢だ。

 目の前に転がる部下達も、鮮やかにランプの光を反射する赤い血だまりも、悪魔のような笑みを浮かべる二人の狂人も全て、夜が明ければ覚める悪夢に過ぎないのだ!


 「すみませんが、これから貴方に質問をしますので、全てに正直に答えて下さい」

 

 夢の分際で生意気な口を利く狂人に苛立つが、自分の夢に不服を言っても仕方がない。

 

 「私が訊きたいのは、一週間前に起きた大富豪殺人事件で、憲兵団がどれだけ情報を握っているか、ということなのですが、ご存じないでしょうか」


 不快に響く敬語を無視し、私は自身の頭が描いている夢のエピソードの行方を、どこか他人事のように見守ろうとしていた。

 いくら夢から覚めよと祈っても、意識が現実へと戻る気配が無い以上、私に出来るのは待つことだけだ。


 「無視ですか。それともご存じでないのでしょうか。先ほどは軽快に動いていた口で、快活に響かせていた声を、自主的に発するつもりはないのですか………そうですか、ではまず、声を出す練習から始めましょうか」


 無視を決め込んでいた私に、男はゆっくりと近づいてきた。

 あの狂気を体現したかのような笑顔を、私は知っていた。右手に持つステッキが、「研ぎ澄ませ」という呟きで鋭さを帯びていくのを、私は知っていた。この言い表せない不気味さを、私は知っていた。

 

 「待て!」


 衝動的に声を出していた。体中から嫌な汗が出てきた。この男を止めなければならないと、本能が訴えかけてきていた。


 「良かった、声は出るようですね。では、質問に答えて下さい。一週間前に起きた殺人事件の調査がどの程度進展していますか」


 この恐怖を、思い出した。これは、迫りくる死に対する恐怖だ。


 「お、俺は知らない!何も知らないんだ!!許してくれ!」


 「そうですか。それは残念です」


 狂人は止まらない。狂人は、私が信じた法を難なく喰いちぎり、狂人は、私が信じた正義を躊躇なく踏みにじる。


 「ギャアアアアアアーアーーアアアーアァァァ!!」


 剣が、私の左ふくらはぎを貫いた。


 「そんなに叫ばないでくださいよ。足に穴が開いただけじゃないですか。まだまだ死ぬには程遠いですよ」 

 

 「何も知らないと言ったじゃないか!」

 

 私は激痛に悶えながら、必死の思いで怒号する。私はまだ、気付いていなかったのだ。この狂人は、狂気に染まった人間に過ぎないと、根拠のない希望を抱いていたのだ。

 だが、違った。


 「ええ、分かっていますよ。知らないんですよね。僕が知りたかった情報を。つまり、今のあなたの価値はガラクタ同然なわけだ」


 狂人の笑顔が深みを増した。

 

 「そんなに現状から脱却したいのなら、君の信じる神にでも祈ればいいんじゃないですか?」


 おお、神よ。なぜ、私に地獄を見せるのですか。

 なぜ私に、安らかな死を与えて下さらないのですか。

 

 「じゃ、次は右側ですかね」

 

 神よ、なぜなのですか。私は、何か悪い事をしたのですか。

 

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