第九話 魔王、教師になる
「今日から二週間、お前達の担任をすることになったマオだ。よろしく。」
「おなじくユウです。よろしくお願いします。」
さて、王都にやってきた翌日。
依頼通り今日から臨時教師として働かなくてはならないのだが…。
「「「……。」」」
たった…三人だと…?
もうクラスじゃねーよこれ。
「えーと、まあ、なんだ。お前達が強くなれるよう今日から俺が鍛えてやる、光栄に思えよ。」
「「「……。」」」
こいつらウンともスンとも言わねえ…。
まあ、俺達の年齢について何も言われないのはいいが。
「と、とりあえず、右から順番に自己紹介でもしてもらおうか。」
「……はい。え……と、エリア・ドラコ…です……。」
…え、終わり!?
いや、もっとなんかあるだろ!?
「いや、あの…そうだ、趣味とか特技とかは何かあるか?」
「…えっと…その……。あの、読書…が、好き…です…。」
「読書か、俺も好きだぞ。じゃあ一番好きな本は?」
「…あの、その…カイト・トラオリーの…切望…です……。」
よりにもよってそれかよ…滅茶苦茶後味悪いやつじゃないか…。
「あ、ああ、もういいわかった。じゃあ次、頼む。」
次はもうちょっと明るい奴が来てくれ、頼むから。
「……私…は…イリス……、イリス・エラシオン…。趣味は特に無い…。よろしく……。」
そうか…特に無いのか…。
「…何か、特技とかは?」
「特に無い…。」
「…好きな食べ物とか…。」
「特に無い…。」
「…わかった、もういい…。」
ええい、次だ次!
三度目の正直だ、次こそもっと明るい感じが来い!
「…その…僕は…ユミト・エルビス…といいます……。」
まあ、わかってた。
ことわざなんて信用ならんな、まったく。
あ、二度あることは…いや、やめておこう、あまり考えたくない。
「趣味は…えっと…。」
流石に二連続で無趣味ということはないようだな、よかった。
せめて趣味くらいは話題がないとコミュニケーション取りづらいなんてもんじゃないからな。
「…その…ひ、日向ぼっことか…ですかね……?」
日向ぼっこ…日向ぼっこか…。
いや、人の趣味にケチつけるわけではないが…。
明るい趣味…か…?
そもそも、日向ぼっこは趣味なのか…?
…まあ、いい。
「と、とりあえずお前達がどれくらいできるのか見せてもらう。訓練場に行くぞ。」
「「「…はい。」」」
…凄まじく暗いけど、素直だな。
教師の方から言ってやれば、聞きそうなものだが。
「なあ。」
「…はい…なんでしょう……?」
「やっぱり、訓練とかあまりやる気出ないのか?」
「…そう…ですね……。あまり、意味があるとは………。」
ふむ、やはり自信のなさがネックか。
優れた自分というものがイメージ出来ていなかったりとかもあるかもしれん。
「そういえば、通常時の担任は誰なんだ?」
「えっと…ゴーシュ先生…です…。あと…副担任として院長先生もたまに……。」
「そうか、ありがとう。」
ゴーシュ先生か。
あとで話を聞いてみよう、何か参考になるかもしれないし。
「さて、訓練場はどこか空いてるかなっと…。お、第一が空いてるみたいだな。せっかくだし使わせてもらうか。」
学院には第一から第三までの訓練場があり、第一訓練場が一番大きい。
何か大会等の行事があるときはもっぱら第一訓練場が使われるらしいな。
「…さ、三人だと…第一訓練場は…大きすぎませんかね……?」
「まあいいだろ、記念だ記念。」
「…何の話ですか……?」
「いいからいいから。」
「…はあ……。」
初めての授業ということだしな。
何かこう、特別な事があるといいんじゃないのか。
なんとなくだが。
「とりあえず器具出すか、器具。おらユウ、やっとけ。」
「…はあ、仕方ないな。」
こいつ今まで空気になってサボってやがったからな。
本当は馬車馬のごとく働かせたいところだが、馬鹿だからな。
馬なだけに。
授業を任せるのは、まあ、ちょっとだけなら…。
「…うーん、どれだ?これ…じゃなさそうだし、これ…でもないし…。」
「違う、そこのやつだそこの。」
「あ、これか、なるほど。…って、重っ!?」
…やっぱ、馬鹿だなあ…。
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「はあ…はあ…。なんでこんなに疲れてんだ俺…。」
「お疲れさん。もう帰っていいぞ。」
「えっ!?」
「冗談だ。」
「あの…僕たちは…何をすれば……?」
「おう、今から説明する。と言っても、簡単なテストだ。」
「…簡単な…「テス…「ト…?」
おおう、息ぴったりだな。
「うむ、ここに設置した的に向けて一番得意な魔法を放て。」
「「「…い、一番…得意な…。」」」
「そうだ。無駄にごちゃごちゃしたのよりもこっちの方がわかりやすいからな。」
楽だし。
何より考えるの面倒だし。
「まあ、学院じゃあ魔法以外に近接戦もやるんだろうが、今回は面倒だからパス。」
「「「…はあ……。」」」
「というわけでやれ、ユミト。」
「…ぼ、僕ですか…?」
「そうだ、早くしろ。」
「は、はい……。」
さて、どんな魔法を使うのやら…。
「…えっと…な、何でもいいんですか…?」
「得意なやつならな、ほら早くしろ。」
「わ、わかりました…。…雷霆…!」
ユミトが唱えると、一筋の光が、轟音を響かせながら空を切り裂く。
ユミトの手から真直に伸びたそれは、的の中心を正確に射る。
瞬間、的が粉々に砕け散る。
しかし光はそれだけでは止まらず、訓練場の壁に当たり、轟音と共に大穴を開ける。
…被害はそれだけにとどまらず、訓練場が大きく揺れる。
立っているのも難しい程だ。
というか、実際にユウは転んでしまっている。
どんくさいやつだ。
「…どう…ですか…?」
「いや、どうってお前な…。」
明らかにやりすぎだろうこれは…。
というかあの的、かなり固くしてある特別製とか聞いたんだが…?
「…お前達は、確かできないとかいう話じゃなかったか…?」
「…はい…そうですよ……。」
「…いや、これでできないとか…。」
なんだ、もしかして王都学院って実はかなりの魔窟なのか?
「…いえ…そうじゃないんです…。僕達は…少し…調整が…苦手、なんです…。」
「…なるほど、そういうことか。」
「あ…でも…今日は…いつもよりも…調整…できてました…。」
あれでか…。
まあ、雷魔法なんかはかなり難しい部類だしな…。
「ん…僕達はってことは、二人もか?」
「…は、はい…わ、私は火魔法が……。」
「私は…風……。」
「火と風か…。」
チョイスが殺意に溢れてるな…。
「そんなの調整できないまま使ったら大惨事になるな。」
「…そうなんです……。おかげで…大会なんかも…参加できなくて…。」
「出禁……。」
「…他の魔法を使えば、もっと威力を抑えられるんじゃないか?」
「…それが…。」
「得意属性以外は…。」
「…からっきし。」
「…そうだよな、そりゃあ上手くできるなら最初からやってるよなあ…。」
うーむ、どうしたものか…。
「…ええい、考えてても仕方ない!特訓だ特訓!」
「「「…特訓…?」」」
「そうだ。もうこの際近接戦は置いといて、魔法の制御ができるようにする。」
「…そ、そんなこと…無理に決まってます…。」
「…今まで…何をしても…無駄…だった…。」
「いや、お前達が絶対に試していない方法が一つある。というか、この方法を意識して行った奴は俺たち以外にまだいないはずだ。」
「「「……?」」」
複合魔法のように細かな調整が必要な魔法には必須…と言っても、複合魔法くらいにしか使いはしないが。
普通は魔法を使ってくうちに自然と覚えられるのだが…。
一つの属性の魔法ばかり使っていると、たまに調整の感覚がつかめなくなることもある。
あと、魔力量が多すぎて制御できなかったりとかな。
…ただ、この歳になって制御できないというのは本当に稀だが。
「お前たちには、魔力操作という技術を教える。」
「「「…魔力…操作…?」」」
この技術が広めていいものなのかどうか悩みどころではあるが…。
まあ、別に広まったところでそこまで大事になるとも思えないが。
「よし、これからビシバシ鍛えてやるから覚悟しろよ!」
「「「ええ……。」」」
変なところで素直じゃないなこいつら…。