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魔王が転生した話  作者: 水白厂
第一章 少年期編
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第七話 魔王、初めての依頼をこなす

「オーク…いないな。」

「ああ…いないな。」

「まさかここまで見つからないとは…もう二時間くらい探してるんだが。」


 さて、意気込んで街から出てしばらく。

 今俺たちはフォルンの森でオークを探している。

 といっても、まるで見つかる気がしないのだが…。


「いやあ、まさかここまで見つからないなんてなあ…。流石試験、一筋縄ではいかないってことか。」


 いや…いくらなんでもおかしくないか?

 これだけ探しても見つからないとなると、もっと奥にいるか、隠れているか。

 まあ、オークが隠れるといった行動をとるとは思えないがな。

 …む、今草陰の方から物音がしたような…。


「なあマオ、いま音がしなかったか?」

「ふむ、やはりか。ユウ、気をつけろよ、魔物かもしれん。」

「ああ、わかってる…。」


 剣を抜き、ゆっくりと音のした方へ向かうユウ。

 どこか危なっかしいが、警戒はしっかりできている。

 なんだかんだ言って成長が早いな、ユウは。


「グゴォッ!」

「ッ!オークか!」


 草陰から勢いよくオークが飛び出してくる。

 その手には石槍が握られており、穂先はユウへまっすぐに向いている。


「そんな攻撃、当たるかよッ!」


 ユウはオークの攻撃を難無く避ける。

 その手には抜いた剣を強く握られており、カウンターで決めるつもりなのだろう。

 しかし、あちらから飛び出してくるとは。

 ふむ、この一匹だけか…?

 …いや、違うな。


「まだ来るぞ、気をつけろ!」

「グゴッ!」

「くっ、小賢しい真似を…!」


 時間差攻撃だと!?

 オークにそこまでの知能はないはず…。

 …いま、奥の方で物音がしたな。

 もう一匹がいて、それが逃げたか?

 しかし何故。

 これではまるで、この二匹が囮のよう…。

 …これは何かあるな、絶対。

 追うか、こいつらはユウに任せておいても大丈夫だろう。


「おいユウ、俺はもう一匹を探してくる。この二匹を殺したら先に街に戻ってろ、いいな!」

「え、あ、ちょっ!…ああくそ、わかったよっ!」


 そう言って俺はオークの横をすり抜けて行こうとする。


「グゴォッ!」


 しかし、そうはさせまいとばかりに片方のオークが槍で俺を突く。


「させるかよッ!」


 だがその突きはユウの剣によって阻まれ、俺に届くことはなかった。

 しかし、ユウも器用なことができるようになったな。

 敵と打ち合ってる最中に離脱の支援ができるようになっているとは。

 いや、格下相手で少し余裕があるだけか。

 今のユウならオーク二匹でようやく互角といったところだろう。

 まあ心配はするまい、なぜなら俺の弟子だからな。


「さて、追いかけてはいるが気づかれないようにしなければな…。」


 逃げているオークが向かう先にはきっと奴らの拠点があることだろう。

 普通、オークは拠点なぞ作ったりはしないのだがな。

 ただのオークだけでは群れすらつくらないほどだ。

 だが、ハイオークやオークキングというような上位種がいれば話は変わってくる。

 ハイオークがいれば群れを、オークキングがいれば集落すら作るのだ。

 まあ集落といっても、パレーテの街のような大きい街があれば洞窟の中にあることが多いのだが。

 さっきのオークは三人組で行動していた。

 そして一匹が気づかれないように逃げ、残りの二匹が足止めをする。

 普通のオークがこんな行動をとるはずがない。

 おそらく上位種によって訓練が施された斥候か巡視だろう。

 敵を発見したら情報伝達を最優先とするために。


「…洞窟が見えてきたな。あれか?」


 意外と近いところにあったな。


「…グ。」


 ふむ、入る前にあたりを警戒するか。

 やはり、魔物にしてはかなり高度な訓練を受けている様に感じるな…。

 …行ったか。


「さて、それじゃあひとつ潜入といきますかね。」


 中はどうなってるのかな…と。

 ふむ、最初は一本道か。

 簡単なダンジョンにもなっていそうだな。

 今は気づかれないよう、オークが見えないところまで離れたから道案内もいない。

 迷わないようにしないとな…。

 まあ、いざとなれば音でわかるが。


「む、分かれ道か…。」


 これは…そうだな、少し音を探ってみるか。

 …ふむ、右の方から足音がするな。

 さっきのオークか?


「まあとりあえず、追うとしようか。」


 はあ…、まったく、帰るのが遅くなりそうだな。


 ******************


 オークの拠点らしき洞窟をしばらく歩いていると、見張りらしきオークが二匹立っている扉を見つけた。

 明らかに自然物ではなく、十中八九オーク達が作ったものだろう。

 しかし、見張りをどうしようか…。


「…あまり使いたくはないが、魔法でスパッとやってしまうか?」


 どれだけの数のオークがいるのかはわからないし、あまり魔法は使いたくない。

 まあ、どれだけいようと俺が負けるはずがないんだが。

 確かオークキングはBランクだったか。

 Bランクといっても個体としての強さで言えばCランク弱くらいだが。

 オークキングがいると周りのオークも強くなる上に、そのオークの数が多いからな。

 その辺を考慮してのBランクだろう。

 まあ、俺にとっては数はあまり関係がないからCランクと言ってもいいだろうが。


「とりあえずあいつらを殺してしまうか。鎌鼬ウィンドナイフ。」


 俺が詠唱すると、切れ味鋭い風の刃が見張りのオーク達目掛けて飛んでいく。

 それは風切り音を出しながら飛んでいくが、オーク達が気づくことはない。

 なぜなら音が聞こえている時にはもう、オーク達の命は既に途絶えているからだ。

 この魔法の特徴は、速さ。

 その仕組みは単純で、風の刃を速く打ち出すというもの。

 鋭さ、そして打ち出す速さや強さも魔力操作の範囲なので、俺や風魔法を専門としている連中には簡単に扱える、言うなれば初歩の魔法だ。

 まあ、ここまでの速度と威力を出せるような奴はいないだろうが。

 もちろん、複合魔法ではない。

 ちなみに装甲の硬い魔物には効果が薄いなど、意外とこの魔法には弱点が多かったりする。


「…さて、ここまで気づかれないよう動いてきたのだが、ここの扉を開けたらほぼ確実に気づかれるだろうな。」


 まあ、いいか、別に。

 どうせ皆殺しだ、気づかれようが大して変わらん。

 むしろ気づかれたほうが楽だったかもな、見張りの片方は逃がしておけばよかった。

 …考えてても仕方ない、扉を開けるとしよう。


「さてと、どんなおもてなしが待っているやら。」


 そう言って扉を開ける。

 すると、そこには武装したオークの大群が待ち構えていた。

 そしてその後方の高台には、やはりオークキングと思しき個体が仁王立ちしている。

 流石、キングというだけはありその姿には威厳すら感じられる程だ。

 ふむ、別に見張りをどうしようが変わらなかったということか。


「…これはなかなか、面白いことになっているじゃないか。雑魚共が雁首(がんくび)揃えているとは、そんなに殺されるのが待ち遠しいか?」


 とりあえず挑発をしてみる。

 しかしオーク達は微動だにせず、こちらへ射抜くような視線を向けるばかりだ。


「ふん、その程度の挑発が、我らに効くと思うてか。随分と、舐められたものだな。」

「…ほう、まさか人語を話すことができるとはな。なるほど、どうやらオークキングは本当に高い知能を持つらしい。…だが、いくら高い知能があるからといって、そう簡単に言語を解することなぞできんよなあ?」


 すぐ身近で、ずっと聞いていた俺ですら十ヶ月はかかったのだ。

 そんなものをいくら知能が高いとは言え、魔物如きが数回聞いただけで習得できるか?

 いや、できるはずがないだろう。


「…何が言いたい?」


 ならば何故、奴が人語を解しているのか。

 理由として二つ三つ挙げられるが、おそらく奴は…。


「貴様、いままで何人の人を殺してきた?人語の習得もそれに伴ったものだろうが。」

「ふん、何かと思えばそんなことか。所詮この世は弱肉強食、弱き人間を食らって何が悪いと言うのだ?」


 …簡単な話で、数回で理解できないというならもっと多くの回数聞けばいいだけだ。

 それこそ、数え切れないほどにな。


「…まあ、所詮は魔物だ。会話をするだけ無駄ということだな。」


 なるべく早くに終わらせてしまおうか…。

 これ以上、気分が悪くならないようにな。


「一瞬で終わらせる。安心しろよ、苦痛も一瞬だ。」

「クッ、クハハハハハ!貴様、この数相手に勝てると、本気で思っているのか?だとしたら、よほどの馬鹿か、気狂いか。」


 俺が気狂いだと?

 それはそれは、笑える冗談だな。


「そちらが一人なのに対し、こちらは五百以上の兵を集めているのだぞ。勝てるわけがないだろうが!」


 一対五百?

 勝てるわけがない?


「くくく、五百?たった五百だと?その程度で勝った気になっているのか。」

「なんだと?」

「くははは。足りんと言っているんだよ、豚。」

「…貴様、やはり気狂いの類か。もういい、お前ら。殺してしまえ!」


 少しこいつらに本気を見せてやろう。

 久々だが使ってやろうじゃないか、大規模魔法を。


「ハーハッハッハ!俺を殺すというのならなあ!その十倍、いや百倍は持ってこなければ…、殺せるわけ…、ないんだよおおおおお!」


 しかしここは洞窟だ、水素爆発ハイドロイグニッションのような魔法は使えん。

 崩落する可能性もあるし、息が持たなくなるだろうからな。

 …ならば、衝撃を出さず、火を使わない魔法を使えばいい。


水斬狂嵐ストーム・マカブルー!」


 俺がそう唱えると、オークの大群を一本の大きな竜巻が襲う。

 オーク達の多くは竜巻に巻き込まれ、次々とその刃によって切り裂かれていく。

 さらに竜巻に巻き込まれなかった者も、竜巻から飛んでくる水の刃によってその命を絶つ。

 生き残ったオークは少ない。

 ざっと二、三十匹程か。

 この程度なら魔法を使わなくても大丈夫だな。

 さて、今使った水斬狂嵐ストーム・マカブルーは複合魔法で、中位風魔法の竜巻トルネードと、下位水魔法の水斬アクアナイフを組み合わせたものだ。

 見ての通り、水と風の刃が広範囲を切り裂く魔法で、風によって加速した水の刃が敵を襲う。

 水斬アクアナイフ鎌鼬ウィンドナイフよりも遅いが、威力が高く、長く残る。

 そのため一つの刃が複数の敵を切り裂くことになる。


「…な、なんだ、これは。どうなっているのだ!?」


 流石のオークキングも動揺しているな。

 まあ仕方ないだろう、自慢の兵を一瞬で半数どころか十分の一以下にまで減らされたのだからな。


「貴様、何をしたァ!」

「何をしただと?ただ魔法を使っただけだ。それよりもうおしまいか?手応えがなさすぎるな、貴様ら。」

「ぐ、クソォッ!行けお前ら、殺してしまえ!」


 やれやれ、さっきの余裕はどこへやら。

 やはり所詮は魔物か。

 少しばかり本気を見せただけなんだがな。


「グゴオオオオオ!」


 オーク達がそれぞれの武器を構えて襲ってくる。

 動揺、そしてなにより恐怖を隠しきれていないような攻撃だ。

 そんな攻撃に、俺が当たるわけがない。


「グゴオ!」


 オークの剣が振り下ろされる。

 それを俺は半身になって避け、すれ違いざまに首をはねる。


「まずは一匹。」

「「「グガア!」」」


 隙ができたと思ったのか、一気に三匹が襲ってくる。

 ふむ、三匹とも槍か。

 二匹が逃げ場を塞ぐように突き、もう一匹が踏み込んでついてくる。

 なるほど、よくできた連携だ。

 これでは迫り来る槍から逃げることは不可能だろう。

 平面的には。


「よっと。」


 槍が目前に迫る。

 しかし、その槍が俺に当たることはない。

 何故ならば俺が前方へと跳躍したからだ。


「グッ!?」


 オークには俺が一瞬で消えたように見えただろう。

 俺を見失い、戸惑っている。

 そんなオークの後ろに着地する。

 そしてそのまま身を翻し、三匹のオークを薙ぐ。


「これで四匹。」


 さて、この調子でとっとと終わらせてしまおう。

 …む、急にオーク達が向かってこなくなったな。

 流石に恐怖に耐え切れなくなったか。


「…どうした、来ないのか?」

「おい、どうしたお前ら!行け!行くのだ!早くそいつを殺してしまええぇ!」


 …うるさいな。

 こちとら怒りで切れてしまいそうだというのに。

 奴には少し黙ってもらおうか。


「どうやら死ぬのが待ち遠しいらしいな、貴様。いいだろう、すぐにそっちに行ってやるよ。」

「ひっ!ま、待て、来るな!お、お前ら、早く、早くそいつをおおおお!」


 オークキングがオーク達に命令するが、誰も動こうとしない。

 まあ、それも仕方ないだろう。

 命令している王があんな状態ではな。

 それに、恐怖で固まっているというのもあるだろうが。


「ふん、無様だな。この世は弱肉強食なのだろう?ならば弱者の貴様らが強者の俺に殺されることはごく自然なことのはずだ。…どうだ、少しは殺されるものの気分がわかったか?」

「や、やめろ。やめてくれえええええ!」

「…はあ、もういい。とっとと死ね。」

「ひっ!」


 あそこまで上るのは少々手間だな。

 魔力がもったいないが、魔法で終わらせてしまおう。

 他の奴らもまとめてな。


「せめて苦しまないようにはしてやる。…水斬狂嵐ストーム・マカブルー。」


 さっきと同じように竜巻と水の刃がオーク達を切り裂く。

 …どうせ魔法を使うなら、わざわざ剣を使う必要もなかったかな。

 まあ、オークキングがうるさくしなければそのまま剣だけで戦っていたが。


「さて、帰るか。結構遅くなってしまったしな。…おっと、耳を待って帰るんだった。」


 さっき剣で倒したやつのが一番状態がいいかな。

 こうなると剣で倒しておいたのは正解だったか。


「…これでよし。じゃあ改めて、帰るか。」


 今は大体正午くらいか?

 洞窟内だから詳しくはわからないが。

 今頃ギルドでユウ達が待っているだろうな。

 なるべく急いで帰るとしよう。

 …ああ、気分が悪い。

 もう当分、オークは見たくないな。

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