第四話 魔王、弟子ができる
家にユウが来てからしばらく経った。
ユウが来てからもいつもの生活をしていると、突然大事な話があると言われた。
なので、今からその話を聞いてやるところだ。
「で、話ってなんだ?」
「なあ、マオ、お前って実は強いよな?」
「…まあ、実はっていうか、普通に強いと思うぞ。」
具体的には山奥の魔物を鼻歌交じりに屠れるくらい。
「…頼む、俺を鍛えてくれ!」
「はあ?」
「俺には双子の妹がいるんだ。多分、俺がいなくなったから妹が次期当主になると思う。」
こいつ、妹なんていたのか…。
「妹は俺とは違って魔力が多かったんだが…やはり、兄としてはあいつのことが心配なんだ。多分あいつは王都学院に行くと思う。だから学院に入れるだけの力が、妹を守れるだけの力が欲しいんだ!」
美しき兄妹愛といったところか…このシスコンめ。
「まあ、反対する理由もないし、鍛えてやってもいいんだが…。厳しいぞ?」
「ああ、むしろ望むところだ!」
よし、こいつの覚悟は俺に伝わった。
この八年で、こいつを王都学院でトップを狙えるくらいにまで鍛え上げてやる。
「じゃあとりあえず座学からだ、ついてこい。あとこれからは俺のことを師匠と呼べ、いいな。」
「ああ、師匠!」
…まあ、敬語くらいはいいだろう。
**************
さて、ユウを鍛え始めて一年。
ユウは今日も村を元気に走り回っている、自分の体重と同じ重さの錘をつけて。
「鬼!悪魔ぁぁぁ!」
魔王です。
「はっはっは、そんなに元気があるならあと十週は走っても良さそうだな!」
「ひぃぃぃぃ!」
というか、俺もおんなじ事してるんだから我慢しろっての。
それに、まだ十週しか走ってないんだぞ。
「はっはっは、今日も元気にやってるみたいだなお前ら。」
「ああ、おはよう、サヤードさん、カサドさん、ウェナトルさん。ほら、ユウも挨拶しろ。」
「おっ、おは、おはようございます。」
村の中を走ってるもんだから村の人はよく見る。
一応、迷惑にならないようにかなり朝早くから走ってるんだが…。
サヤードさんをはじめとする猟師は、罠を仕掛けたりと朝早くから色々やることがあるのだ。
そのためサヤードさんたちが狩りに行く日の朝は毎回会う。
そのたびに少し足を止めて話をしているのだ。
「マオはいつも容赦がねえなあ。ちょっとは加減してやったらどうだ?」
「まさか、こっちはむしろお願いされてやってるんだ。加減なんてしたら逆に失礼ってものだろう。」
「ちょ、ちょっとくらいは…あ、いやなんでもない。」
「はっはっは!ところでマオ、狩りにはまだ行かねえのか?」
ユウを鍛え始めてから、山に行くのは止めていた。
確かに、そろそろいいかもしれないな、魔力操作もぎこちないができているし。
そうそう、ユウには魔力操作を教えている。
魔力が少ないんだから当然だがな。
魔力操作なんて今までに聞いたことがなかっただろうから苦戦しているようだ。
まああと半年もすれば大分マシになるだろう。
そうなったら奥まで連れて行ってやってもいいかもな。
「そうだな、明日からでも行くとしようか。まあ、毎日は行けんが。」
「おおそうか!これでまた多くの肉が食えるようになるな!」
「どうせ前みたく俺らとは別に行くんだろうが、肉だけはいっぱい狩ってきてくれよな!」
「任せとけ。メインはこいつの修行だが、それでも絶対に狩ってきてやる。」
「よし言ったな?絶対だぞ、楽しみにしてるからな!」
そう言いながら三人は山に向かっていった。
まああの三人が山に行くといっても、毎回安定して獲物が狩れる訳じゃない。
普通は一匹、せいぜい二匹、運が悪い時は収穫ゼロだってありえる。
さらにそこから他の人たちに配ったり税に入れる分も引くと、結構少なくなるからな。
それが大体倍になるんだから、喜ぶのも無理はないだろう。
さて、走り込みに戻るとしようかな。
「え、何?何の話だ?」
一人だけ話についていけてない奴がいた。
仕方ない、走ってるときにでも話してやるか。
**************
そして翌日、俺は山に来ている。
もちろん、ユウも連れてだ。
「フシャァァァ!」
おっと、魔物だ。
ふむ、魔猫か、下級の雑魚だ。
魔物はSとA~Fのランク付けがされていて、Sが一番上の七段階に分かれている。
ちなみに、この魔猫のランクはF、つまりただの雑魚だ。
いくら初めてとはいえ、ユウでも余裕だろう。
「よし行け、ユウ。」
「任せろ!…火球!」
ユウの手から火球が放たれる。
しかし、火球は魔猫に避けられてしまう。
「シャァ!」
魔猫は避けた勢いのまま、ユウへと向かって行く。
襲ってくる魔猫。
対してユウは剣を上段に構える。
カウンターで決めるつもりだろう。
さて、教えた通りにできるかどうか…。
「はああ!」
「ギャアアア!」
お、初めてにしてはなかなかの一撃じゃないか。
まあ初めてにしてはだが。
「はあ…はあ…。」
「まあ、上出来じゃないか?初めてにしては、だがな。」
「…一言余計じゃないか?」
「自惚れるな、お前なんぞまだまだひよっこだ。そもそもだな、魔法を使うなら外すな。お前は人より魔力が少ないんだから無駄遣いできないんだぞ。」
「うぐっ、確かにあそこはミスったが…。」
「それに相手はFランクだぞ、そんなのにいちいち魔法なんか使ってられるか、すぐに魔力切れするぞ。」
「むうう…。」
「まあ、それ以外は概ね大丈夫だ。特に一撃で仕留めたのは良かったな。…お前が以前どれだけ戦えたのかは知らんが、確実に成長しているだろう。」
「そ、そうか?それならいいんだが。」
褒められたのが嬉しいのか、ユウはどこか満足気だ。
まあ、褒めるべきところはちゃんと褒めてやらないとな。
そうしないとモチベーションも下がるだろう。
しっかりとした目的があるから余程のことがない限り大丈夫だと思うが。
なんにせよフォローは大切だ、もっと言うと飴と鞭だが。
「なんか師匠変なこと考えてないか?」
「…お前こそ、変な邪推するんじゃない。そんなに余裕があるならとっとと行くぞ。」
「ちょっ、待ってくれ、まだ血抜きも何もしてない!」
こいつ変に勘がいいな…危ない危ない。
そんな簡単に表情には出していない筈なんだがな。
…さてと、気を取り直してあと一匹、頑張って探すとしますかね。
「ガアアアアァァァ!!」
上の方から大気を揺るがすほどの咆哮が響いてくる。
「うおっ、な、なんだ!?」
「ふむ、どうやら魔熊がかなり下の方まで降りてきているようだな。」
「ま、魔熊!?Dランクの魔物がなんでこんなところに!?」
「大方奥の方から出張ってきたんだろう。ご苦労なことだ。」
「な、なんでお前はそんなに落ち着いてるんだ!?中級だぞ!?」
こいつ、自分が拾われたのが山奥だってこと忘れてないか?
「お前自分が拾われたのがどこか、よく考えてみろ。」
「…あっ。」
「はあ、全く…。むしろちょうどいいくらいだ。ついてこい、戦い方というものを教えてやる。」
「…ああ、わかった。」
所詮Dだ、俺からしてみれば魔猫と大して変わらない。
さっと行ってささっと倒すとしよう。
「グウウウウウウ。」
よし、見えてきたな。
「あれが、Dランクか…。」
「そうだ。Fランクと比べてどうだ?」
「ああ…。魔力がここまで伝わってくる。気を抜いたら一瞬で飲み込まれてしまいそうだ。」
「そうか、それは気のせいだ。」
「…そうか。」
確かにランクの違いは魔力の違いによるところが大きいが、まだユウはそれを感じられるほど鍛えていない。
「グウウ!」
おっと、気づかれたようだな。
「ユウ、しっかり見てるんだぞ。」
「ああ。」
さて、どうしてくれようか…。
よし、ここはひとつユウに派手な魔法でも見せてやるか。
「グアア!」
魔熊が俺めがけてその鋭い爪を薙ぎ払う。
「はっは、そんな攻撃当たらんよ!」
その攻撃を俺は潜るようにして避ける。
そしてすれ違いざまに剣で切りつけた。
さらにその勢いで少し距離を取る。
「グガアアアアアア!!」
よし、怒ってるな。
平常心を失えば避けれるものも避けれなくなる。
まあ、こいつは図体がでかいからよほどのことがない限り魔法は当たるだろうがな。
「さあよく見てな!これが本当の魔法ってものだ!」
魔熊がこちらへと突進してくる。
あんなに勢いをつけてしまっては正面からの攻撃すら避けれまい。
あるいは、上級なんかだとまた違うかもしれないがな。
「ただ突進してくるだけか…あまり人間を舐めるなよ!…水素爆発!」
俺がそう言うと、突き出した右腕から炎が吹き出す。
その炎は魔熊の方へと向かっていく。
そして炎が魔熊に触れようとした瞬間、大きな爆発が起こる。
「グガアアァァァ!」
魔熊は爆発に巻き込まれ、一瞬で黒焦げだ。
雄叫びを上げたが、もう生きてはいないだろう。
「これが魔法というものだ。わかったか、ユウ。」
「…ああ、しっかりとな。」
そう言ったユウの目は、憧憬の色に染まっていた。
「さて、帰るぞユウ。後処理をしておけ。」
「わかった。…なあ、いつか俺も、師匠みたいに戦えるようになれるか?」
「そんなもの、決まっているだろう。…たとえお前が嫌と言おうと、絶対にしてやる。」
「…ああ!」
**************
初めて山へ行った日から一年が経った。
九歳になった俺たちは、大体二日おきに山に来ている。
今ではユウも成長し、かなり戦えるようになった。
そんなユウは今、Dランクの魔物、魔狼と対峙している。
「せああっ!」
「ギャアア!」
ユウが魔狼めがけて剣を振り下ろす。
振り下ろされた剣を魔狼は避け切れず、直撃した。
ふむ、今の一撃は強烈だったな。
一応、成長はしているということか。
「よし。今日はこのくらいでいいだろう。」
「はあ…はあ…。やっと、か。」
「まったく、疲れすぎだ。少しは温存しろ。」
「いや中級相手に温存する余裕なんか…。」
…はあ、成長はしていてもやはりまだまだだな。
「帰るぞ、ユウ。グズグズするな。」
「ちょっおまっ、まだ処理が終わってない!」
「じゃあ早くしろ、三十秒だ。いーち。」
「くそっ、口答えするといつもこれだ。いつも無茶ばっか言いやがって…。」
「何か言ったか?」
「いやなにも言ってない!」
「そうかならいい。にーじゅう、にーじゅいち。」
「…全然いいと思ってねーじゃねーかああああ!」
まったく、弟子の分際で師匠に口答えなんぞ千年早いんだよ。
転生してから出直して来い。
「ぜえ、はあ、ぜえ…。や、やっと終わった。」
「まったく、それぐらい一瞬で終わらせろ。」
「そんなもん無理に決まってんだろ…。」
はあ、口の減らないやつだ。
「ふむ、そんなに走りたいか。いいだろう、家までダッシュだ。」
「そんなこと一言も言ってないだろ!?」
「なに、それだけじゃ足りない?そうかそうか、それならさっき麓の方で狩ったこいつらを背負って行くといい。」
「はあああああ!?」
「じゃ、俺は先に帰ってるから。またあとでなー。」
「…ち、ちくしょおおおぉぉぉ!」
はっはっは、愉快愉快。
…まあ、ふざけるのはこのくらいにして。
ユウを鍛えたこの二年で、わかったことがある。
それは、ユウがこと戦闘においては天才的なセンスを持っているということだ。
特にタイミングを掴むのが得意で、カウンターを外したことは一度もない。
だから修行は実戦をメインにしている。
山に来るごとにさらに奥へと進んで行っていたのだが…。
最近は進みすぎてユウの強さと魔物の強さがあまりあっていない。
そろそろ修行場を変える頃かもしれないな…。
と、そんなことを考えてるうちにもう村まで来てしまった。
もう家が遠目に見えるほどだ。
…む、家の前に誰かいるな。
って、なんだ父さんか。
「おかえり、マオ。」
「ああ、ただいま。」
「今日も山に言ってたのかい?熱心だねえ…。ってあれ、ユウはどうしたんだい?」
「ユウなら今頃必死に走ってると思うぞ。」
「またあの子に無茶させてるのかい…。」
「…まあ立ち話もなんだ、早く入ろう。」
「あ、ああ…。相変わらずマオはユウに厳しいねえ。」
「さて、なんのことかな。」
そんな話をしながら俺たちは家の中へ入っていく。
しかし、父さんと会うのも久しぶりだな…。
前帰ってきた時から大体半年ぐらいか。
「あ、マオおかえり。お父さん帰ってきてるわよ。」
「ああ、今少し話していたところだ。」
「あらそう。まあ座ってなさい、今お茶を入れるわ。」
「ありがとうイア、頼むよ。」
ふう、これでようやく一息つけるな。
「そういえば、なんでユウはあんなに強くなりたがってるんだい?」
「あれ、言ってなかったか、学院に入るためだよ。」
「…え?」
「いやだから、王都学院に入るためだって。」
「え、ええ?王都学院って、あの?」
「まあ、俺と父さんのあいだに認識の違いさえなければそうだな。」
そんなに驚くことか?
…ああ、そういえば俺が行くってことすら言ってなかったな。
それを言えば母さんにもか。
まあ、あの人は気づいてそうなもんだが。
「はあ、まさかそんなことを考えていたなんて…。お金はどうするつもりなんだい?」
「ああ、それを相談しようと思ってたところなんだ。」
「そこは丸投げなのかい…。」
丸投げとは人聞きの悪い。
…いやまあ、違うのかと聞かれたら実際そうなんだが。
「違うぞ。これはあくまで相談だ、相談。」
「図星なんでしょ、まったく。」
「うぐう…。」
くそう、父さんも母さんも心を読んできやがる。
ろくに隠し事もできないじゃないか。
「まあ、マオはしっかりしてるようでどこか抜けているところがあるからね。自分で全部計画されるよりはマシか。…はあ、いったい誰に似たのやら。」
「エル、マオ、お茶が入ったわよ。」
「ああ、ありがとう母さん。」
「ありがとう、早速いただくよ。…ってこれ、なんだかしょっぱいよ?」
「ああそれ、塩と砂糖間違えて入れちゃったのよ。」
「気づいたのにそのまま出すのかいっ!?」
「だって、もったいないじゃない。」
「…せめて、自分で飲もうよ。」
「嫌よ、そんな不味いもの。」
「…はあ、マオの性格が誰譲りなのかわかったよ。」
失敬な、流石に塩と砂糖を間違えはしない。
「…じゃあ、話を戻そうか。」
「ん、ああ。そうだな。」
「君たちは王都学院に入りたい、でもそんなお金はない。これで合ってるかい?」
「ああ、その通りだ。一応奨学金制度もあるが、なるべく利用したくないな。言うなれば最終手段だ。」
「そうだね、僕としてもオススメはできないかな。なにしろ後で後悔することになるからね。」
「じゃあやっぱり、先に稼いでおくほうがいいわけだな。」
「うん、あと六年で手っ取り早く大金を稼ぐ方法があるといいんだけど…。」
「…いや、流石にそんなものは。」
「何言ってんの、あれがあるじゃない。」
「え?」
「元手もいらなくて、大金が稼げて、さらに手っ取り早くて簡単よ。」
「いや、イアの言いたいことはわかるけど…。」
そんな夢のような職業があるわけ…。
「でもやっぱり、僕は危険だと思うけどなあ。」
…ああ、そういえばあれがあったか。
あまりいい思い出があるとは言えんが、一度経験したことがある奴が。
「冒険者か。」
「…うん、まあそうだね。でもやっぱり、もっと安全な方法を探したほうがいいと思うよ?」
「父さんは本当に心配性だな。俺とユウなら大丈夫だ。」
「大丈夫よ、マオとユウなら。」
「まあ、確かにこの二人ならいいかもしれないけど…。」
はあ…父さんの心配性にも困ったものだ。
まあ実際ちょうどいい、冒険者になればDランクなんぞ目じゃないほど強い魔物と戦えるだろうしな。
それに、対人戦闘もできるかもしれん。
なんにせよ、経験を積むのにはもってこいだな。
「ぜえ、はあ、ぜえ…ただいま。」
「よし、俺とユウは冒険者になるってことでいいよな。父さん、母さん。」
「まあ、仕方ないかな…。」
「私は最初から反対なんてしてないけど、いいわよ。」
「…え、何、冒険者?え、俺も?」
こうして俺たちは冒険者になることになった。
一人だけ話がわかってない奴がいるが、まあいいだろう。