第三話 魔王、弟ができる
この世界に生まれて約五年。
力をつけるためにいろいろ頑張ってきた。
とりあえずは魔力関係のできること、できないことを確認した。
俺は魔力操作に慣れているから、魔法による魔力消費を普通よりかなり抑えることができる。
そのため、この魔力量にして結構高位魔法を使うことができる。
まあ、容量的に結構ギリギリだから、積極的に使おうとは思わんが。
さて、高位魔法があまり撃てないとなると、今までの戦闘スタイルを見直す必要があるな。
今までは威力の高い魔法による力押しだったのだが…。
と、そこまで考えたところで複合魔法というのがあったのを思い出した。
複合魔法というのはその名の通り、複数の魔法を使った、というか混ぜた魔法のことだ。
この複合魔法の何がすごいって、とにかくコストパフォーマンスが非常に良いのだ。
単一属性の威力を上げると魔力消費の増え方は乗算で計算する。
対して複合属性の場合、魔力消費の増え方は加算で計算するのだ。
そして威力の上がり方は単一属性は加算、複合属性は乗算で計算する。
全くその通りという訳ではないが、イメージ的には大体あってるので説明としては充分だろう。
ただ、複合属性には色々難しいところが多いし、組み合わせる魔法の相性によっては威力の上がり方があまり良いとは言えないものもある。
しかしそれらを踏まえてみても、少ない魔力消費で威力の高い魔法を撃てるというのは非常に魅力的だ、使わない手はないだろう。
…え、何でそんなに便利なものを忘れていたのかって?
だって相性が良い魔法と悪い魔法の法則が意味不明すぎて、検証がだるすぎるんだもん。
確か、見えなくなるまで細かくした水を出す魔法と、普通の火を出す魔法を混ぜた時だったかな、まさかあそこまで大きな爆発が起きるとは思わなかった…。
もともと、火魔法を使った時何も起こってないのに火が消えるという、演出用の魔法を作りたかったのに。
一応、その細かい水に火を近づけると爆発するという性質があるということまでは検証したが…。
それ以来、怖くて複合魔法の開発もやらなくなったのだ。
…まあ、その話は置いといて。
結論としては、複合魔法による力押しになるのか?
一応、少しは小細工とかの工夫もする気はあるが。
というわけで、最近は新しい魔法の開発に精を出している。
複合魔法以外にも一つ、新しく研究もしているが…。
危険そうなので、あまり使いたくはないな。
*************
体を鍛え始めてから二年、今年で七歳になった。
俺は今村の近くの山へ、修行と食料調達を兼ねての狩りに来ている。
ちなみに何を狩るのかというと、普通の動物だったり魔物だったり、まあ色々だ。
ちなみに、狩りをしに行くと初めて言った時はそれはもう大反対だった…ということもなく、すんなりと了解してくれた。
なんでも魔法の練習を見てれば、ここら辺の魔物じゃ敵にならないことはわかるとのこと。
ただし中腹までで奥にまでは行くなという条件付きで、ではあるが。
なんでも奥にまで行くと、中腹までとは段違いに魔物が強くなるとのこと。
…そして俺は今、その奥にまで出張って来ている。
いやだってそんな風に言われたら行くしかなくなるって。
というか俺くらいになると奥の魔物もよゆーよゆー。
まあそんな訳で、今日も二、三匹の魔物を屠ってきたところだ。
奥で狩った魔物は山で食う、家に持って帰ったら奥に行ったことがバレるからな。
カモフラージュとして下で狩った魔物や動物を持って帰ってるし、多分バレてない、はず。
…さて、狩りも一段落着いたしそろそろ休憩を…って、ん?
少し降りたところに誰か倒れてるな。
どうやら村人ではないようだが…って、子供じゃないか。
「おーい、大丈夫かー!」
呼びかけてみるが反応はない、仕方がないし拾って帰るか。
「よいしょっと。…む。こいつ、やけにいい服着てるな、貴族か?」
山に捨てられる貴族、ねぇ…。
嫌な予感しかしないが、なんにせよ捨ててく訳にはいかんしなあ。
まあ、こいつが貴族だとまだ決まったわけでもないんだが。
…はあ、面倒なことにならなきゃいいが。
*************
さて、帰ってまいりました我が家。
俺に背負われている貴族らしき奴はぐっすりとおねんねしている。
地味に重いうえに獲物も持ってるからできれば歩いて欲しかったな…別にいいけど。
「ただいまー。」
「おかえりなさい、早かったわねマオ。あれ、その子はどうしたの?」
「山に捨てられてたから拾ってきた。」
「そうなの?じゃあ寝てるみたいだし、そこに寝かせておいて。毛布を持ってくるわ。」
…拾ってきた俺が言うのもなんだけど、もうちょっとこう、反応をして欲しかったな…。
いやまあことがスムーズに進んでいいんだけどさ。
それに、こんな人だっていうのも七年一緒にいるんだから知ってるしな。
まあ寝かせておくのは床でいいか、汚いからベッドには流石に寝かせられん。
どっこいしょ…。
さて、とりあえず魔力量を調べてみますかね。
…ふむ、やはり少ないな。
ただ、普通より少し少なめといった程度だが。
貴族は基本的に魔力が多く、魔力は遺伝するため貴族の子供も基本的には魔力が多いんだが…。
極稀にこういうことが起こるのだ。
理由はよくわかってないが、俺の見解では先祖返りといったところだ。
しかし、普通の貴族ならこの程度でもそこまで問題にもならんと思うんだが…。
…ん?
こいつ、襟のところに小さくなんか描いてあるな、家紋っぽいが…。
…ああ、そうかそういうことか、それなら納得がいく。
こいつの家の家紋は、丸の中に真一文字が書いてあるというシンプルなもの。
そしてそれを使っているのが…。
「エインズ家か…。」
この国で特に力の強い八家の一つ。
その八家はまとめてオクトと呼ばれ、オクトの家は全てが国の各機関の重要なポストについている。
例えば軍はサート家当主が元帥の座についているし、政治では王を除くとトゥレス家とカトル家が一番の権力を持っている。
まあそんな感じで、そのオクト家の一つがエインズ家というわけだ。
しかし、よりにも寄ってエインズ家に生まれてくるとはな。
というのも、エインズ家はこの国の魔法師のトップなのだ。
他の家なら、特にサート家なんかだったら魔力が少ない程度で捨てられることは絶対にないだろう。
こっちの魔法学は魔力操作に疎い、というか認識すらされてないようだからそっち系等を伸ばすことなんて無理だろうしな。
「う…ん。…ここは?」
「目を覚ましたようだな。」
「ッ、…誰だ?」
おや、思ったよりも好感触、意外に話せるかもしれんな。
「お前、山に倒れてたんだぞ。それを助けてやったのが俺というわけだ。」
「…そうか、助かった。ありがとう。」
ふむ、ちゃんとお礼も言えるようだ。
まあ、この国の貴族には傲慢なやつとかはあんまりいないそうだが。
「俺はマオ、お前は?」
「ああ…、俺はユウ。ユウ・エイ…あ、いや、なんでもない。」
こいつ…隠す気があるのかないのか、どっちだよ。
隠す気があるならせめて家紋の部分を破くか服を脱ぐかくらいしろっての。
「…はあ、お前の事情はだいたい察してるからいい。あと隠す気があるならその襟についてるのをどうにかするべきだな、ユウ・エインズ。」
「襟?…あっ。」
「今更気付いたのか、この間抜け。」
「…俺がエインズってことは」
「あーはいはい、黙っててやるからはよ脱げ。母さんがもうすぐ来る。」
俺がそう言ったとたんに焦って服を脱ぎ始めた。
脱ぎ終わった服を俺が受け取って、目立たないところに置いておく。
とりあえずはここに置いといて、後で燃やすなりなんなりしておこう。
「毛布持ってきたわよ…って、あら、起きちゃったのね。」
「ど、どうも。俺は、ユウと言います。」
「あー、いいのよ敬語なんて。私も堅苦しいのは好きじゃないし。」
「…そ、そうか?じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう。」
なんだこいつ、急にどもりやがって。
あ、もしかしてこいつ…。
(おいユウ、お前いくら母さんが美人だからといって、変な気は起こすんじゃねーぞ。)
(ちげーよ馬鹿!ちょっと美人だなって思ってただけだ。)
(…絶対にやめろよ。)
まあこいつも多感なお年頃、そういうのが気になっても仕方のないことかもしれんな。
「ところで、ユウ。どうして山の中なんかに?見たところ、この辺りの人ではなさそうだけど。」
「え、あ、いや、それはだな…」
…ユウよ、それじゃ怪しすぎるだろいくらなんでも。
さっきも思ったが、誤魔化しの下手なやつだな。
そもそも、そこは誤魔化さんでもいいだろうよ。
それに、母さんに下手な嘘ついても見破られるだろうしな。
多分もう大体の見当はついてるだろう。
「…捨てられたの?」
「ッ…。そう、だ。…なぜ、捨てられたと?」
「そんなもの、あなたの身なりを見ればだいたいわかるわよ。いい服を着てるし、手は綺麗だし。貴族だったんでしょ?」
「…ああそうだ。できれば、理由は聞かないでくれると助かる。」
「ふーん、まあいいわ。ところであなた、何月生まれ?」
…なんだ、嫌な予感がしてきたぞ?
「え、ああ、七月生まれだが…。」
「そうなの?じゃあ、マオの方がお兄ちゃんね。」
「え?」「は?」
「え?」
いや待て落ち着け…。
これはきっとあれだ、俺の方が少し生まれたのが早いねって、だからお兄ちゃんと思って接していいよっていう話だ多分、ていうかそうであってくれ。
「え、だってマオは五月生まれだよね?」
「そういう話じゃねーよ!」
「だって、連れてきたってことはそういうことじゃないの?てっきり、家に置いておくのかと。」
そんなわけねーだろ!
…いやまあ、確かに放ってはおけんのだが…。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
と、そこでユウから待ったがかかった。
多分話についていけなくなったんだろう、正直俺も半分位ついていけてない。
「なんでいきなり置いておくって話になるんだ!?というか、なんで俺の歳がわかったような言い方なんだ!?」
「だって、マオが連れてきたから面倒見ることになるだろうと思ったし、行くとこないでしょあなた。」
「うぐっ。」
「あなたが捨てられた理由って魔力が少ないからでしょ?この時期に捨てられるなんてそれくらいしか思い浮かばないし。じゃあ七歳ってことじゃない。」
「ぐはっ。」
この時期には毎年魔力鑑定がある。
その年に七歳になった、もしくはなる貴族の子女が魔力量の鑑定を行うのだ。
一応誰でも受けられるのだが、結構金がかかる上に自分の魔力量なんて魔法を使ってれば大体わかるので、受けるのはほぼ貴族だけなのだ。
「別に、あてがあるならいいのよ?でも、もしないって言うならこちらとしても拾った責任があるし、家に置いてもいいんだけどなーっていう話なだけ。」
それは深く考えずに拾ってきた俺への嫌味ですかね?
「う、ぐ、うううう。…どうかこの俺の面倒を見てください。」
「よし、決まりっ!マオもそれでいいでしょ?」
「ああ、うん、もうなんでもいいよ…。」
こうして俺に弟ができたのでした。