第十九話 勝機
「…よし、行くぞッ!」
相手はドラゴン、出し惜しみなんてしてられない。
最初から全力で行かないとな。
「業火!」
俺の両手から、炎が伸びる。
それはまるで蛇のように絡みつき、ドラゴンの体を飲み込んでいく。
「…やった、か?」
そう呟いた瞬間、炎が霧散する。
『カッカッカッ、その程度じゃあ効かんのう。』
…ほぼ無傷、かあ…。
一応、本気でやったつもりなんだけどな。
こりゃあ魔法は役に立たんな。
「仕方ない、剣を使うしかないか…!」
…とは言ったものの、剣で斬りつけた程度で切れるだろうか?
まあ、やってみるしかないんだけども。
「せいっ!」
掛け声とともに剣を薙ぐ。
すると、意外にもすんなりと刃が通った。
「…ははっ、意外と刃物には弱いんだな。」
『そうじゃのう、確かに薄皮のあたりは刃が通りやすいかもしれんの。』
…くそ、あれで薄皮少しを切った程度かよ。
まあ、ダメージが入るだけマシって所か。
『しかし、衰えたとはいえドラゴンの皮を切るとは、その剣はなかなか上等なものだと見た。』
「ふっ、これは俺が昔大枚叩いて買ったミスリルソードよ。名をグラム、そんじょそこらのなまくらとは格が違うぜ。」
こいつを買ったおかげで俺は数週間ほど一日一食になったけどな!
…しかし、そんな上等な剣を使って薄皮を少し切れる程度とか、どんだけ硬いんだよって気がしてくるな。
『まあ、この程度の傷であればすぐに再生するんじゃがな。』
そう言うと、俺が付けた傷が見る見るうちにふさがっていく。
「…硬い上に再生なんて、幾ら何でも卑怯すぎるだろ!」
『安心せえ、幾らドラゴンとて再生ができる者なんぞそうそうおらん。』
そうか、それなら安心…ってなるかよ!
そんな情報今この場じゃなんにも役に立たねえよ!
『さて、そろそろ此方からもいかせてもらおうかの。』
げ、攻撃が来るのか。
ドラゴンというと、炎のブレスに爪とか牙とかか。
ただ、今俺は懐に入り込んでいるからブレスや牙は無いだろう。
となると爪か。
まああんな質量じゃ体当たりだけでも十二分に威力があるだろうけどな。
取り敢えず、少し距離を取らないと。
「グアアアアアア!」
ドラゴンが咆哮するとともに翼をはためかせる。
「…飛ぶのかよ畜生!」
そりゃ翼があれば飛ぶんだろうけどさ!
…しかし、あんなでかい図体を翼二枚で支えるってどんだけだよ。
剣も届かなくなっちまったし…。
「グオオオオオ!」
またドラゴンが咆哮をする。
今度はさっきよりも大きく、強く。
すると、ドラゴンの口に炎が集まりだした。
「クソ、ブレスかよ!」
一応、前に炎を吐く魔物とはやった事がある。
あの時は運良く倒せたが、ブレスを避けるのは至難の業だった。
というか、もう一度やれと言われたらできるかどうかわからん。
…多分、その時よりも避けるのは難しいだろう。
まあ、あの時は結局避ける必要は無かったんだけどな。
『そろそろゆくぞ、準備はいいかの?』
「…いい訳ないだろ!」
クソ、こうなったら賭けに出るしかない。
一応、分の悪い賭けって訳でも無いんだ。
多分大丈夫だろ。
「…来る!」
ドラゴンが口に溜めていた炎を放つ。
瞬間、俺の目前に炎が迫る。
「はっ…!?」
早い、と言いかけた所で、止めた。
驚いている時間も勿体ないからだ。
俺は手に持ったグラムを突き出す。
そして、盾を作るように回転させる。
とにかく速く、炎が入ってこないように。
ここで炎を通したら甘く見ても俺は死ぬだろう。
「というか熱い!あの時の数倍熱い!手が融ける!」
もう既に心が折れそうだが、まだまだ炎は襲って来てる。
まあ、成功すれば熱さなんて気にならなくなるからな。
それまでの辛抱だ。
「………。」
回し続けて数秒、変化が訪れた。
グラムが輝き出したのだ。
そして炎を吸収していくグラム。
最後まで炎を食らい尽くしたそれは、赫奕と輝いている。
『ほう、初めて見るの。何じゃそれは。』
「魔法剣。俺の完全オリジナルだ。」
魔法剣とは、その名の通り魔法を剣に纏わせる技術。
気絶しながら練習した、俺の努力の結晶だ。
ただし、だからといって使えるという訳では無い。
燃費も悪いし、そもそも魔法をわざわざ纏わせる意味もあるかどうかも微妙な所だ。
もっとも、今回ばかりはどちらとも解決済みなんだけどな。
「さあ、ここからが魔法剣の本番だ。…焔刃!」
赤く輝いていたグラムが炎を纏う。
これこそが魔法剣、見た目だけは派手で格好良い技術。
この格好良さが好きで俺はこれを練習していたんだ、まさか使える日が来るとは思ってもみなかったがな。
「再生するのなら、再生させなければいい…。流石のドラゴンと言えど、傷口を焼かれたら再生できんだろう。」
そう、これが魔法剣が役に立つと言った理由。
再生さえさせなければ、死ぬまで斬り続ければいいだけだ。
そして、燃費を気にしなくてもいい理由は…。
「さあ、降りてこい!お前の魔法は俺には通じないぞ!」
奴のブレスは魔法だった、それをグラムで吸収したから、その分の魔力を俺が使えるのだ。
これが燃費を気にしなくてもいい理由だ。
まあ、もしもブレスが魔法じゃなかったら俺は死んでいた、その点が大分賭けだったな。
一応、飛ぶ時から魔法を使っている気はしてたんだけどな。
咆哮が詠唱の代わりなんだろう。
わざわざ魔法を使ったのだから、恐らく遠距離から攻撃する手段は魔法しか無い。
魔法ならばグラムで吸収できる、ならば空にいても魔力を無駄に使うだけだ。
『ふむ…仕方あるまい、ここは大人しく降りるとするかの。』
よし、これで後は斬り続ければ勝てる!
最初は無理だと思ってたけど、段々勝機が見えてきたぞ…!