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魔王が転生した話  作者: 水白厂
第一章 少年期編
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第十八話 勇者

「はああ…クソ。なんでこんな依頼受けたかなあ、俺…。」


 山登りだけでも辛いっていうのに、この後にもっと辛いのが待ち構えてるんだろ?

 まったく、やっぱりハッキリと断っておけば良かったぜ。


「…でも、魔力枯渇と聞いたら黙ってられないよな。」


 魔力枯渇というのは、その名の通り魔力が徐々に減っていく病気だ。

 罹ると行動する気力を無くしていき、死に至る。

 最終的に食事をとることができなくなり、呼吸も止めてしまう。

 そして特徴的なのが、この病気は女性しか罹る事がないという事。

 もっと言うと、妊娠した女性だけどな。

 まあ、そもそも罹った数も資料も少ないし、偏りがある可能性もあるんだけど。

 …俺の母親が罹った病気だから、よく知ってる。


「…そもそも罹ること自体数百年に一度くらいだって言われてるのに、なんで二人目が出たのかね。」


 まあ、どんな理由でも関係無いけどな。

 病気を無くす事はできないけど、せめて助けれる命くらいは助けたい。


「それに、どうやら色々と悲惨らしいしな…。」


 なんでも、山賊に襲われたとかなんとか。

 そのままアジトに連れられて、しばらくの間…まあ、そういうことに使われてたらしい。

 冒険者がその山賊を捕らえてくれなければ、売られていたかもしれないのだそうだ。

 その時に身籠った子供ごと、な。

 …山賊共は許せんが、捕らえられたのならもう何もできん。


「…本当、山賊ってやつはクズばっかりだ。まあ、クズだから山賊になんてなったんだろうが。」


 しかし、そんなことを気にしていても仕方ない。

 気にするのは、家族の仕事。

 俺の仕事は薬の材料をとってくることだ。


「そのためにも、まずはてっぺんまで登らないとな。」


 さて、気を取り直して行くか。


 ***************


「ぜえ…はあ…はあ…。よ、ようやく頂上か…。」


 広間みたいに整った空間に、洞窟がある。

 これ自然にできたものとは思えんな、整いすぎだろ。


「しっかし高いなあ…。雲が凄い下にあるぜ…。」


 こんなに高いと股間がすいーってなるな。


『ほう、此処に人が来るとは珍しい事も有るものだの。』


 む、なんだ、この頭に響く感じの声は…。


『今お主の頭に直接語りかけておる。』


 えっ何それ怖い。

 大丈夫なのそれ、頭がボンッてなったりしない?


『安心せえ、今迄何度かやっとるが、そんな事一度もありゃせんかったよ。』


 なるほど、それなら安心だ。


「…ところで、この声の主は誰ぞ?」

『すまんの、今出るからちと待っとってくれ。』


 ううむ…このおじいちゃんな感じ…。

 もしこの声がドラゴンの物だったらやり辛い事この上無いんだが、どうしようか…。


『待たせてすまんの。で、こんな所までわざわざ何用じゃ?まさか観光という訳でもあるまい。』


 洞窟から、赤い肌で羽を持った、でかい蜥蜴みたいなのが出てきた。

 …ドラゴンはでかい蜥蜴みたいな物だとは聞いた事があるが…でかすぎだろ!


『どうしたんじゃ、急に呆けおって。質問にはちゃんと答えんか。』

「お、おう…すまん。」


 いやいや、こんなでかいのを前にしたら誰だって止まるって。


『まあよい。で、此処に何か用かの?言っておくが何もありゃせんぞ。』

「あ、ああ。ここにドラゴンが居ると聞いたんだけど…あんたがそのドラゴンか?』

『うむ?確かに儂はドラゴンじゃが…。それがどうかしたかの?』


 うん、まあ…見た目からしてそうだよなぁ。

 えええ…、俺このおじいちゃんドラゴン殺したく無いよ?


「…ちょっと肝分けてくれない?」


 駄目元で聞いてみる。

 ドラゴンだからちょっとくらい無くなっても平気かもしれないし、ゲロっと出してくれるかも。


『阿呆、そんなものどうやって分けろと言うんじゃ。儂に死ねと申すか。』


 ですよねー、うん知ってたー。


『…まあ、どうしてもと言うなら別にやれん訳では無いがの。』

「本当か!?」


 すげえ、ドラゴンすげえ、マジ生命の神秘。


「じゃあ、適当にゲロっとやっちゃってください。持って帰るんで。」

『そんな都合良くできる訳なかろう。生物として気持ち悪いわ。』


 ええ…じゃあどうやってやるんだよ…。

 なに、もしかして俺が腹搔っ捌くの?

 ちょっと変なとこ切っちゃいそうで嫌なんだけど。


『儂をもしも討つことができれば、その時は肝くらい持ってくがよい。』


 なにそれ、死にたがりなの?

 さっき死ねと申すかって言ったよね?

 どっちなの?


『お主の覚悟と力を示してみよ。見事儂を討った暁には、この身を余すことなくくれてやろう。』


 すげえ、滅茶苦茶強そうなこと言ってる。

 え、俺こんなのと闘うの?

 無理じゃね?


『安心せえ、負けても体が死ぬだけじゃ。魂までは殺さんよ。』


 なにそれ知らない。

 え、なに、どういうこと?


「魂…って、何のことだ?」

『む?そうか、今の者には通じんのか。簡単に言うとだな、もしお主が死んでも、また違う者として蘇るということじゃ。』


 つまり、俺が死んでもまた違う奴になるだけで、そいつは俺だということか。


「なるほど…さっぱりわからん。」

『まあ、死んでもまた一からやり直す事になるだけ、ということじゃよ。少しだけ違うがの。』


 なるほど…少しわかった気がする。


「やり直すだけとは言うけど、記憶とかも無くなっちゃうんだろ?それなら、なるべく死にたくは無いぞ。」

『ふむ、確かにそうかもしれんの。』


 そうかもしれん、って…。


「あんたは怖くないのか?」

『うむ、儂はちと特別でな。死んでも記憶を持ったまま転生するのじゃ。』


 転生…ああ、蘇りの事か。


「…って、なんだよそれ、不死みたいなものじゃないか。」

『まあ、そうじゃな。じゃが、不死というのもそう良いものでは無いぞ?』


 …まあとにかく、肝を手に入れるにはこのドラゴンを殺さなくちゃいけない。

 ただ、その闘いの中での不安が一つ無くなっただけだ。


「つまり、あんたは殺しても大丈夫って訳だな。」

『…まあ、確かにそうじゃが…。その言い方はどうなんじゃ?』


 俺が死ぬのは不安なままだ。

 記憶がどうとかじゃなくて、依頼をこなせなくなっちまうからな。


「じゃあ、お手柔らかに頼むよ。」

『約束はできんが、まあ頭の片隅には置いといてやろう。』


 さて、悲劇のヒロインを救うため、伝説のドラゴンに立ち向かう勇者様だ。

 ここは一つ、気張っていこうかね。

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