第十六話 魔王、ドラゴン退治へ
「あ、マオ…。以外と早かったな…。」
「なんだ、待っていたのか?先に行っていろと言ったのに。」
エルフの森を出ると、少し行ったところでユウ達と合流した。
…何やらユウの方は疲れている様子だが。
「いや…アクトの荷物を取りに行ったら少しな…。」
「ああ…それは災難だったな。」
大方他のエルフに会って何か一悶着あったのだろう。
「まったく、連中にも困ったものだ。少し人を入れたくらいで出て行け出て行けと。こちとら元からそのつもりだというのに。」
「…お前は全然元気だな。」
「これくらい想定内だ。」
まあ、その中に居たのだから今更か。
…とはいえ、過去の事に触れられるとその限りでは無いらしいが。
『おい、此奴らは誰だ?』
『…用事がないとき以外は話しかけてこないんじゃなかったのか?』
『我だって暇なのだ、そのくらい察せ。』
こいつ態度でかいな。
『…まあいい。男の方がユウで、女のほうがアクトだ。ユウは俺の連れだが、アクトは…どうなるんだろうな。』
『ふむ…見たところアクトとやらはエルフのようだが、あの森から出たのか。』
『ちょっとしたいざこざがあったんだよ。というか、多分お前のせいだからな?』
『なに?我は何も…あっ。』
『おい、やっぱりお前なんじゃねーか。』
『いや…違うのだ。そう、あれは我は悪くないぞ。彼奴らが悪いのだ。』
『いいからとにかく何やったか言え。』
『…少し前、我の元を訪れた者達がおったのだ。二人組の男女でな、地下があることに気づいて降りてきたのだろう。そして我を見つけ、調べようとしたのだ。』
ふむ、その二人組の男の方が余所者なのだろう。
ということは、女の方がアクトの家族が友人か…そんなところか。
『最初は我も放っておいたのだ。そこまで大した奴らではなさそうだったしな。しかし、奴らは我の事をベタベタベタベタと触りおったのだ。さらには削ったりしおって…、流石の我も怒りを覚えてな、少し灸を据えてやったのだ。こう、呪い的な感じで。』
なんでその辺アバウトなんだよ。
というか別に削られるくらい構わんだろう、痛いわけじゃあるまいし。
『…それで?』
『うむ、そしたら少し刺激が強すぎたみたいでな、その日の夜に女が魔力を暴走させおった。その魔力には我の魔力も混じっていたからな、相当な被害が出たのだろう。』
『灸を据えるどころの話じゃないな。馬鹿だろお前。』
自分が何者なのか考えて行動をしろよ。
子供じゃあるまいし。
『…うむ…我も悪いと思っておる。』
『本当か?信用ならんな。』
邪神が何言ってるんだって話だ。
嘘くさいにも程がある。
『まあ、お前が嘘を吐いていようがいまいが関係無いがな。過去の事をどうすることもできんし、何より俺は部外者だ。気安く慰めもできん。』
といっても、慰めなんて必要なさそうだがな。
少なくとも表面上は。
『ふむ、貴様も一応色々と考えてはいるのだな。流石は我の見込んだ者よ。』
体奪うのに考えとか関係なく無いか?
というか一応ってなんだよ、失敬な。
「おいマオ、なにを呆けている。早く行くぞ。」
「あ、ああすまん。直ぐ行く。」
…なんか最近、大事に巻き込まれてる気がしてならないんだよな。
主に邪神関係で。
俺としては今生は静かに生きたいところなんだがな。
…いや、前回も静かといえば静かだったけれども。
まあ、何事もなくという意味でな。
しかしそんな俺の意に反して全く静かになる気がしないのは何故だろうな。
もう少し難易度低めでお願いしたいものだ。
***************
「すまない、冒険者登録をお願いしたいのだが。」
「あら、貴女は…この前のエルフちゃん?」
「アクトだ。今大丈夫か?」
「ええ、わかったわ。じゃあ、この登録用紙に記入してね。」
パレーテに戻ってきた翌日、俺達はアクトの冒険者登録に付き合っている。
どうやら俺達に世話になるのは気が引けるらしく、パーティを組むのは断られた。
しかし、最初のうちは不慣れなことが多いだろうとユウがお節介を焼き、三日間だけ一緒に行動することになった。
俺達は最初のオークの依頼の後、二回ほどエリックが付き添っていたな。
どちらも採取依頼だったが。
ちなみに、報酬は当分貸しにしておくということになった。
所謂出世払いというやつだ。
「…終わったぞ。」
「はい、じゃあプレートができるまで待っててね。」
「ああ。」
どうやら終わったようだな。
今のうちに依頼を見繕ってやるか。
「今日はどんな依頼があるかなっと。」
いつものゴブリンのやつ…これはメインにするようなものじゃ無いしな。
薬草採取…今はエリックが居ないのか、王都の方に行ってるのか?
引っ越しの手伝い…おい誰だこんな依頼した奴。
「…碌なのが無いな。」
いや、別に薬草採取でもいいんだが…。
どうせなら討伐依頼で大きく行きたい。
まあ、Fランクで大きくもなにも無いが。
「仕方無い、薬草採取のついでにゴブリンを適当に狩るとするか。」
まったく、Fランクの冒険者が少ない…というか、新しく冒険者になる奴が少ないのが問題だよな…。
まあ、こんな危険な仕事余程のことが無い限りやりたくはないがな。
「支部長!支部長は居るか!」
突然、扉が大きな音を立てて開き、大分焦った様子の男が入ってきた。
「ど、どうしたんですかエクスさん。そんなに焦って…まずは落ち着いてください。」
「落ち着いてなんかいられるか!早く支部長に伝えなくちゃいけないんだよ!」
ちょうどプレートを持ってきた受付の人がなだめる。
が、相当取り乱してるエクスには効果が無いようだ。
奴も一応Cランクなのだが…何があったのだろう。
「わ、わかりました、直ぐ支部長を呼んできますから、ここで待ってて下さい。」
ドタドタと音を立てて奥に入っていく受付の人。
エクスは近くの椅子に座ってそわそわと待っている。
…事情を聞いてみるか。
「ようエクス、帰ってきて早々何を焦ってるんだ?」
「マオ!お前何そんなに落ち着いてるんだよ!大変なんだぞ!?」
「いやだから何が大変なのか知らねーって。それで焦ってたら頭おかしいだろ。まず落ち着け。」
「ドラゴンだぞ!これが落ち着いていられるか!」
…何?
「すまんエクス、もう一度言ってくれ。俺の耳がおかしくなったのかもしれん。」
「ドラゴンだ!ドラゴンが出たんだよ!今そこの草原で魔物と動物を食らってやがる!」
…ドラゴン、か。
これも何かの因縁かね。
まさか二回もドラゴンを倒すことになるとはな。
「どうしたんだマオ、何があった?」
アクトと一緒にユウが話を聞きに来た。
「そこの草原にドラゴンが出たんだと。今は食事の真っ最中だそうだ。」
「ド、ドラゴン!?Sランクじゃないか!」
「ああ、だからちょっと行ってくる。」
「行ってくるって…何処にだよ?」
何処にって…まったく、決まってるじゃないか。
「ドラゴン退治だよ。」