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魔王が転生した話  作者: 水白厂
第一章 少年期編
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第十五話 魔王、取り憑かれる

「クソ、まだか!」


 今俺はユウの足跡を追って疾走している。


「この音は…もうすぐのようだな。少しペースアップするか。」


 しかし、あの男は本当に気に食わんな。

 畜生以下だ畜生以下。


「あー駄目だ、思い出したらまた腹立ってきた。もう考えるのはやめよう。」


 …少しずつ見えてきたな。

 ふむ、どうやら二人とも無事なようだ。

 ただ、アクトが座り込んでいる、まあ捻挫でもしたのだろう。

 つまり、ユウはアクトを庇いながら魔狼三匹を相手にしてるわけだな。

 余裕はあまり無さそうだ、加勢してやらないとな。


「悪い、遅れた!鎌鼬ウインドナイフ!」


 魔狼へと風の刃が向かっていく。

 それは一瞬で距離を詰め、魔狼の胴体を…な、避けられた!?

 いや、当たりはしたが傷は大分浅いようだ。

 しかし、あの速度で避けるとは…ただの魔狼じゃないな、やはり。

 この森に入ってから胸元のミスリルが光りっぱなしだったからな、もしやとは思っていたが…。

 しかし、もし邪神が封印されているのなら結界が張ってあるはず。

 どうやらここには普通の魔物も居るらしいし…一体どうなっているんだ。


「大丈夫か?」

「俺は大丈夫、でもアクトが足を捻ったみたいだ。」

「そうか、あとで回復魔法をかける。今はこいつらをなんとかしよう。」

「気をつけろマオ、こいつらただの魔狼じゃないぞ。」

「わかってる、今鎌鼬(ウインドナイフ)を避けられたからな。」

「あれを避けられたのか!?」


 多分、魔法を使う時の魔力の動きを察知したのだろう。

 魔法は殆ど避けられるだろうな。

 まあ、それならば剣で叩き斬ってしまえばいい話だ。


「ユウ、お前はアクトを頼む!」

「わかった!」


 さて、これで安心して斬ることに専念できるな。


「さあ、早く来い狼共!」


 …どうやら魔狼達は俺を警戒しているようだ。

 多分、鎌鼬ウインドナイフをくらったからだろう。

 あれは俺が使うと滅茶苦茶な性能だからな。


「どうした、来ないのか?ならばこちらから行かせてもらうぞ!」


 警戒されているため、魔狼達との距離は少し離れている。

 まあ、この程度の距離ならあって無い様なものだがな。


「ハアッ!」

「グアッ!」


 チッ、浅いな。

 とはいえ、片目をもらっただけまだマシか。


「グウッ!」


 仲間が傷つけられた事に怒ったのか、二匹が俺を挟むようにして飛びかかってくる。

 むしろ空中に出てくれると避けられる心配が無くて楽なんだがな。


「甘い!」


 魔狼達をその場で回転し、迎撃する。


「「グウッ!」」


 なっ、跳んだ!?

 クソッ、魔法が使えるタイプの魔物か。

 大方風で足場でも形成したのだろう。


「「グオオオオ!」」

「残念だったな…放電プラズマ!」


 バチバチと激しく音を立てながら、俺を中心として電撃が走る。

 俺を囲むように走った電撃は二匹の魔狼を焼き尽くす。

 残ったのは黒焦げになった二匹の魔狼の骸のみだった。


「さて、残るは一匹…。」

「グウアアアア!」


 残された一匹が飛びかかってくる。

 まったく、馬鹿の一つ覚えのようにぴょんぴょんと…。

 まあ、跳ねなかったからといって俺を倒せるという訳でも無いのだが。


「ハアッ!」


 剣を振り下ろし、魔狼を迎撃する。


「グアアアア!」


 今度は魔法を使われることも無く、斬り伏せることができた。

 …怒りで冷静さを欠いていたのだろう。

 なんとも呆気ないものだ。

 戻るか、アクトの治療もしなくてはいけないしな。


「……終わったぞ、大丈夫だったか?」

「ああ、何事も無かったぞ。早くアクトを治療してやってくれ。」

「ああ、わかってるよ…治癒ヒール。」


 患部に手を向け、唱える。

 すると患部を柔らかな光が包み込み、腫れが引いていく。


「…本当に回復魔法を使えたのか。それであの雷魔法の威力とは、お前は一体何者なんだ。」

「…まあ、ちょっとしたインチキみたいなものだ。」

「インチキ…?」

「なに、気にするな。…よし、終わったぞ。」


 普通の人間の十倍以上も生きているんだ、これをインチキと呼ばずして何と呼ぶ。


「凄いな、完璧だ。」

「まあ小さな怪我だったからな、そう難しいものでも無い。」


 さて…ここに邪神が封印されているのだから、様子を見に行かねばならんな。

 しかし、二人を連れて行く訳にもいかん。

 どうしたものか…。


「…それじゃあ依頼も終わったし、街に戻ろう。報酬を払う。」

「ここで払ったら駄目なのか?別に、わざわざ街まで着いてこなくても…。」

「いや、街まで行こう。元々これを終わらせたらこの森を出るつもりだったんだ。」

「出て行くのか?確かに、お父さんとは険悪な感じだったけど…。」

「それもあるが、この森にはもう私はいられない。他の皆も父上と似たような考えだからな。余所者を森に入れた私は出ていくしか無い。」

「そう…なのか。それなら、止めないけど…。金とか、大丈夫なのか?」

「…まあ、大丈夫だろう、多分。なに、冒険者になればいい。」

「お前意外といい加減だな…。」


 …なんか、こいつらいつの間にか仲良くなってるな。

 というか、こんな話されると報酬を受け取りづらくなるだろうが。

 …ああそうだ、この流れなら先に帰らせれば邪神の様子を見に行けるな。


「二人とも、先に帰っていてくれ。俺は少し寄るところがある。」

「ああ、わかった。一応魔狼達を確認してから帰るよ。」

「寄るところ?森には特になにも無いぞ。」

「いや、まあ少しな。じゃあ俺は行くから、後は頼む。」


 あるとしたら、地下や洞窟か…。

 探すのは少し手間だな。

 ミスリルの光が強くなる方へ行けばいいのだが…面倒だ。

 まあ、わかりやすい場所にあんな物を置いておける筈もないし、仕方ないのだが。


 ***************


「この辺の筈だが…どこだ?」


 胸のミスリルが先ほどよりも強く光を放っている。

 今では服の上から見てもわかるほどだ。

 正直鬱陶しい。


「この辺に洞窟は無かったし、やはり地面を調べるしかないか。」


 なんか、地下を調べられる魔法とかがあればいいのになあ。

 …いつ使うのかと聞かれたら、微妙なところだが。


「…ここ、少し感触がおかしいな。調べてみるか。」


 取り敢えず、掘ってみるか。

 ……当たりだな、扉が隠されていた。

 ただ、鉄で出来ているようで重そうだ。

 …一人で持ち上げられるか?


「フッ!ぬおおお……!…ぜえ、はあ、はあ…。い、意外といけるもんだな…。」


 ていうかこれ帰り俺一人で戻すのかよ…。

 なんでこんなに重労働しなくてはいけないんだ。

 しかも今から滅茶苦茶長い階段降りなきゃいけないんだろ、嫌になってくるわ。

 はあ…、面倒だ…。


 ***************


「ようやく着いた…。長すぎるんだよ、まったく…。」


 さて、何かおかしいところはあるかな、っと。


「……特には無さそうだな。石像も学院のやつと同じだし。」


 そういえば、呪いに注意しろとか言っていたな。

 どう注意すれば全くわからんから、どうしようも無いのだが。

 というかそもそも、呪いってどうやってかけられるんだよ、石像からビームでも出てくるのか?


『…久しいな、小僧。』


 な、何だ!?

 石像に触れたら、頭の中で声が…。


『そう怯えることはない、ただ頭に直接声を送り届けているだけだ。』


 いや、意味わかんねえよ!?

 クソ、これが邪神の呪いか…?


『前回はあの忌々しい男が居たが、今回は誰も守ってはくれぬぞ。小僧、その体を渡してもらおうか。』


 はあ?

 なに言ってんだこいつ?


『余裕でいられるのも今の内だ。さあ、その体を寄越せ!』


 くっ、何をしてくるというんだ…!

 ……なんだ、何も起こらないじゃないか。

 一体何をしたんだ?


『なに、我の力が効かないだと!?…くっ、子供と侮っていたか…。どうやら貴様も抵抗できるようだな。』


 抵抗って、何を言っているんだ。

 何か危害が加えられた気すらしないんだが。


『…まあいい、貴様も力をかけ続ければそのうち効いてくる筈だ。ククク、その時まで貴様の中に居させてもらおう…。』


 え、俺の中に居る?


『そうだ、この像に触れたのが運の尽きであったな。貴様の中に入らせてもらったぞ。』


 クソ、しくじったか…。

 …まあ、あまり危害が無さそうだからいいか。

 なんか体を乗っ取るとか言っているが、大丈夫だろう。


『いつまでその余裕が保つかな…。これから貴様は生き地獄を味わうことになるのだからな。』


 生き地獄、ねえ…。

 これでも精神に対する攻撃には耐性がついてると思うのだが。


「まあ、放っておいても問題ないか。それにこの像から邪神が出てきたっていうなら、この辺の結界も気にしなくてよくなるしな。」

『貴様…中々に適応力の高い奴だな。常人なら二つの魂が同じ体に入っているというだけで違和感が凄まじいのに、この我の魂が入っても嫌悪感一つ見せぬとは…。』


 まあ、違和感なんぞこの世界に来た時に飽きるほど感じたからな。

 今更という感じだ。


『く…選択を間違えたか…?しかし、奴も抵抗が強い…。やはり子供の方が…。』


 …ただ、こうも頭の中で好き勝手喋られると鬱陶しくて仕方ないな。

 少し黙ってほしいものだ。


『安心しろ、用事のない時は基本的に話しかけたりはせん。』


 それなら良いが。

 …そういえば、ミスリルはどうなるのだろうか。

 もしかして、光りっぱなしか?


『貴様が抑えようとすれば、我の魔力は貴様から漏れることは無くなる筈だ。』


 成る程…よし、止まった。

 しかし、聞けば教えてくれるとは俺をどうしたいんだ。


『貴様の精神が疲弊して壊れるのは良いが、怒りなどの感情はこちらも不快なのだ。』


 そういうことか。

 というか、意外と便利なんじゃないか、こいつ。

 邪神という事で、色々と知っている事も多そうだし。


『…外の事について聞かれても、我は殆ど答えられんぞ。』


 まあ、こんな地下にずっと閉じ込められていたわけだしな。

 なんだ、やっぱり使え無さそうだ。


『貴様…。クソ、やはりこやつは失敗であったか…?』


 まあ、なんにせよこれから宜しく頼むぞ。

 確か…マールだったか。


『…宜しくされても困るのだがな。』


 さて、じゃあ帰るとするか。

 変なのが増えたが、特に問題は無さそうだしな。

 まあ一応、今度学院に行った時に報告はしておくか。

 何時になるかはわからんが。


『…こやつの体は良さそうだと思ったのだがな…。これからが大変そうだ…。』

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