第十四話 魔王、エルフの森へ行く
王都から帰ってきて、一ヶ月程が過ぎた。
Cランクの依頼ともなるとそう多くあるものでも無いので、あれからまだ一つしか受けていない。
それ以外は今まで通りDやEランクの依頼を受けている。
「どうしてダメなんだ!こんなにも頼んでいるというのに!」
「だから、数日程度待ってくれないと……。」
「それじゃあ間に合わないって言ってるだろ!?」
…なんだか、やけに騒がしいな。
「なあマオ、いつもの受付の人、なんか絡まれて無いか?」
「ああ、完全に絡まれてるなあれは。」
待つっていうのは、依頼を受ける者が出るまでか?
ということは、ランクの高い依頼なのか。
「どうかしたんですか?」
「あ、ユウ君。それがね、この子が…。」
「なんだ、子供は引っ込んでろ!」
「いや、子供って…君も俺達とそう変わらないじゃ無いか。」
「ふん、お前達人と一緒にするな。私はエルフ、今年で六十八になる。」
「ろ、六十八!?」
人間の年齢で考えると、約十三歳か。
…やっぱりそう変わらないんじゃ無いか?
「あ、そうだ!ユウ君達がこの依頼を受ければ良いじゃない!」
な…滅多なことを言わないでくれ。
面倒事に巻き込まれるのは御免だぞ俺は。
ユウがどうなのかは知らんが。
「何?こんな奴らに任せろというのか?」
「ええ、今予定が空いてる冒険者の中で、一番信頼できると思うわよ?」
「な…こんな子供達がか!?」
「さっきから子供子供って…。確かに子供だけどさ、一応Cランクなんだけど。」
まだなったばかりだがな。
「C?Cランクだと!?…証拠だ、証拠を見せろ。」
証拠って…どれだけ疑ってるんだよ。
嘘をついてどうするというんだ。
「証拠…ギルド証でいいか?ほら。」
「そっちのお前もだ!」
ええ…俺も?
「仕方ないな…ほら。」
「……どうやら、本当のようだな。」
というか、なんでCってだけでそんなに食いついてくるんだ?
「ほら、貴方の依頼にちょうどいいでしょう?」
「…確かに、奴らはCランク相当だ。」
なるほど、Cランク冒険者を探していたわけだな。
確かに、今は間の悪い事に殆どが出払っている状態だ。
俺達以外となると、やはり数日程待たなければならないだろう。
「だったら、俺達に聞かせてくれよ。」
「お前な…なんでわざわざ面倒事に首突っ込みに行くんだよ。」
「いいじゃないか別に。Cランクの依頼なんてそうそう無いんだし、実入りもいいんだからさ。」
「いや、まあそうだが…。」
「…お前達、盛り上がっている所悪いが私はまだお前達に任せるとは一言も言っていないぞ?」
「えー、いいじゃないか。急いでるんだろ?」
「むう、確かにそうだが…。」
「なら決まりじゃないか。今は俺達以外いないし。」
「むむむ…。……わかった、お前達に依頼しよう。」
…はあ、もうどうにでもなってしまえ。
こうなったらとことん付き合うしかないしな…。
「よし。じゃあ依頼内容を聞かせてくれ。」
「ああ。依頼はこの近くのエルフの森の魔物の討伐、報酬は銀貨一枚だ。」
「銀貨一枚…少ないな。」
「…仕方がないだろう、家にあった少ない人の貨幣を持ち出してきたんだから。」
なかなか行動派なエルフだな…。
しかし、あのエルフの森まで行かないといけないのか…。
あそこは余所者に厳しい事で有名なんだがな…。
「待てよ?あそこのエルフって確かかなり余所者に厳しかったよな。なのに何で銀貨なんて持ってるんだ?」
「…私達が余所者に厳しいのは、ここ数年の話だ。それ以前は普通に交流があったんだ。」
そうだったのか…。
その数年前とやらに、何かあったんだろう。
まあ、詮索する気はないがな。
「それで、肝心な魔物っていうのは何だ?」
「魔狼だ。しかも群れのな。」
「…おいおい、魔狼の群れっていうとCランクじゃ収まらなく無いか?」
「いや、群れといっても三匹の小規模なものだ。だからまあ、ギリギリCランクという訳だ。」
「ふうん…なあマオ、受けてもいいよな?銀貨一枚とはいえ、Dランクのやつよりも高いしさ。」
「何だ、俺はてっきり受けるのは確定だと思ってたぞ。」
「いや、一応確認はしとこうと思ってさ…。ここまで話を進めておいて言うのもなんだけど。」
全くもってその通りだな。
まあ、報酬が安くないというのは事実だし、俺は別に受けてもいいが。
面倒事も、起こると決まった訳では無いし。
「お前が決めろ、俺はお前の意思を尊重する。」
「ありがとう、マオ。」
なに、弟子の希望を叶えてやるのも師匠の仕事だ。
そうそう、だから仕方ない仕方ない。
「じゃあ、この依頼を受けさせてもらうよ。」
「ほ、本当か!?」
「ああ、元々断る理由だって…報酬はちょっと少ないけど…無いし。」
「なら、早く行こう。なるべく早く済ませたいんだ。」
「ああ、わかった。…そうだ、お前の名前は?俺はユウ、こっちのはマオだ。まあ、さっきから呼んだりしてるからわかると思うけど。」
「そういえば、自己紹介がまだだったか。私はアクト、短い間だろうがまあ、よろしく頼む。」
「ああ、こちらこそ。」
***************
「ここがエルフの森か…。流石に一週間走り続けるのはキツイな…。」
「すまないな、急いでるんだ。」
街から走り続けて一週間、漸くエルフの森に着いた。
準備なんかもかなり適当に済ませたせいで、大分しんどかったな。
帰り、食糧保つかな…。
「できれば、誰にも見つからないようにしたいんだが…。」
「なんでだ?何か見つかると不都合でも…。」
「…漸く帰ってきたか、アクト。」
「…父上。」
いつの間にか現れた男とアクトが睨み合う。
…また何だか面倒な事になりそうな予感。
「人間を連れてきたのか。」
「………。」
「…黙りか、まあいい。人間よ、速やかに立ち去る事だ。この森に入る事は許さん。」
「…何をそんなに人を嫌う事があるのですか。あの時の彼も、故意だった訳では無いではないですか。」
「だからと言って許せるものではない。今までどれだけの被害が出たと思っている。」
「だったら尚更!…ならば、尚の事早く討たなければならないではないですか。」
「余所者が入ってまた似たような事が起きたらどうする?今度はお前が出て行くか?アクト。」
「ッ!今の言葉!取り消してください!」
「何故私が取り消さねばならん。あれは自分の意思でここと縁を切ったのだ。それはお前も知っているだろう。」
やべえ…凄い置いてきぼりなんだが…。
「何?何の話だ?」
「何か凄い剣幕だし、少し黙っておいた方が良いぞ。空気になるんだ空気に。」
「そ、そうか。」
はあ、やっぱり面倒事に巻き込まれたな…。
まあ、受けた依頼は最後までやり切るけどな。
…だが、入れなければやりようが無いな。
「もういい!私が一人で行きます!」
「勝手にしろ。」
おいおい、それは流石に拙いだろう。
早く追いかけないと…。
「待て、お前達が森へ入る事は許さんと言ったはずだ。」
ええい、面倒臭い!
早く追いかけないといけないっていうのに!
(ユウ、俺が足止めしておくから先に行ってろ。俺は後から追いかける。)
(わかった!)
目配せで合図を出して、ユウに走らせる。
「ッ、行かせん!」
脇を抜けようとするユウの腕を、アクトの父親が掴もうとする。
もちろん、行かせはしないがな。
「…その手を離せ。」
「そう言われてはいそうですかと離す奴がいると思うか?」
何があったのかは知らんが、流石に死人が出るのは見過ごせんからな。
少しは我慢してもらいたいものだ。
…もっとも、既に何人か出てるかもしれんがな。
「…なあ、お前は自分の子供が死んでも何とも思わないのか?」
「ふん、私の子供を私がどう扱おうと勝手だろう。貴様に何か言われる筋合いは無いな。」
「お前…本気で言ってるのか?」
「だったらどうする。貴様に何かできるとも思えんがな。」
「…お前みたいな子供を何とも思っていないような奴を見てると、吐き気がしてくるよ。」
山賊なんかとは違う胸糞悪さだ。
このまま腕を握り潰してしまおうかとすら思うくらいだな。
…まあ、こんな奴は意外と多くいるものだが。
いちいち反応していても仕方が無い、のだが…やっぱり、そう簡単には割り切れんよ。
…そろそろいいか、ここに居ても不愉快な気分になるだけだしな。
「…もう気は済んだか?それなら開放してくれると嬉しいのだがな。」
「いいだろう、離してやる。俺もそろそろ行かなければならないしな。」
「…まあいい、一人も二人も大して変わらんか。」
「なんだ、見逃してくれるのか?」
「勝手に行くがいいさ。考えてみれば、貴様らが入ったところでアレに食い殺されるだけだろうからな。」
「…チッ、つくづく腹の立つ奴だな。」
とにかく、早くユウ達を探しに行かないと。
流石に三匹ともなるとユウには荷が重いかもしれん。
…アクトもいる事だしな。
あいつは今取り乱していて危険だ。
無事でいるといいが…。