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魔王が転生した話  作者: 水白厂
第一章 少年期編
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第十三話 魔王、王都を去る

「えー、今日はお前達に重要なお知らせがある。」

「「「………?」」」

「なんと、気付いたら明日でここに来て二週間になっていた。」

「…いや…知っていますよ…。」

「だから、今日お前達がどれだけ自分の魔力を制御できるようになったのかテストをするぞ。」

「「「……えー…。」」」


 今日は依頼の期間最終日だ。

 この二週間俺はずっと三人を見ていた訳だから、制御できるかどうかくらいもちろんわかっている。

 だが、三人はどれくらい制御できるようになったかをあまり自覚できていないだろうからな、そのためにはテストという形でやるのが一番わかりやすいだろう。

 まあ、前よりかは大分できるようになったという感覚はあるかもしれないな。

 …ちなみにユウは先に行って準備をしている。

 まあやらせたのは俺だが。

 あと暇そうだったからゴーシュにも押し付けておいた。

 今頃ぶつくさ言いながら器具を引っ張り出していることだろう。

 そういえば、この二週間でユウとゴーシュはかなり打ち解けていた。

 ユウは一応敬語を使おうとしているからな、その辺をゴーシュが気に入ったのだろう。

 父さんと雰囲気が微妙に似てなくもないしな。


「まあ、試験と言っても別に合格不合格がある訳でもないけどな。初日にやったあれだし。」

「…私達…やってません…。」

「…不公平……。」


 あー、そういえばイリスとエリアの二人にはやらせてなかったな。


「と言っても、どうしようもないしなあ…。」

「…まあ…だからと言って…何かあるという訳でも……。」


 何だそれ…どう補おうか考えたじゃないか…。

 …まあ、気にしてないならいいが。


「…そもそも…ユミトだって…あれじゃあ…やったとは…言えないと…思う…。」

「いや…まあ、確かにそうだが。」


 内容だって威力を抑えて魔法を撃つってだけだしな。


「…はあ、行くか。」

「…そう…ですね…。早く…行きましょう…。」


 ***************


「くそ…なぜ私がこんな事を…。」

「なんか俺最近雑用係として認識されている気がする…。」

「…なんか、すまんな。」


 確かに最近雑用を押し付けてばかりだった気もする…。

 いや、俺も別に働いてなかったわけじゃなくてだな、違う仕事をしていただけなんだよ。

 魔力操作についてまとめた資料の作成とか、紙は自費なんだぞ?

 …まあ、百パーセント俺のお節介なんだが。

 そう考えると仕事してないな、俺。

 …後で謝っておくか。


「お疲れ二人とも。後は休んでていいぞ。」

「やらせておいて…何様のつもりだ貴様は…。」

「そんなことより、早くテストを終わらせておくか。今回もユミトからな。」

「…はい……。…雷霆グローム…!」


 二週間前と同じように、ユミトの突き出した手から雷が伸びる。

 雷は真っ直ぐに的へと向かっていき、衝突する。

 しかし、以前とは違い音も、光も、かなり抑えられている。

 そして当たった的はもちろん、後ろの壁も無事だ。

 それを見たユミト達は、唖然としている。

 まあ、当然と言えば当然だがな、なにせ自分達が成長しているという自覚は無かったのだから。


「…凄い…。」


 …しかし、威力を抑えて喜ぶというのも変な話だな。

 まあ、力が強すぎるというのも迷惑な話なんだが。


「よし、じゃあ次はエリアがやってみろ。」

「…は、はい…。」


 エリアは確か火魔法だったな。

 失敗したら大惨事だが、大丈夫だろう。

 火魔法は扱いやすい方だからな、多分ユミトよりも調整が楽なはずだ。


「…業火クレマシオン!」


 エリアの手から、その名の通り、正しく業火が放たれる。

 炎は揺らめきながら、しかし真っ直ぐに的へと向かっていく。

 そして的に触れた瞬間、一瞬にして的が燃え上がる。

 …しばらく待っていると、段々と炎も収まってきた。

 どうやら、的も無事なようだ。


「…わあ……。」

「よし、次はイリスだ。」

「…なんか…段々…適当に…なってる…。」

「いや、そんなこと言われても…。」


 別に言うことも無いしな…。


「まあ…いい…。…突風ラファール。」


 イリスがそう唱えると、ドン、という音とともに的が吹っ飛ぶ。

 まるで重さを感じさせないかのように飛んだ的は、壁へと激突し、訓練場に轟音を響かせる。

 これにはユミト、エリア、ユウ、俺、さらにはゴーシュまで唖然としてしまう。

 しかし、当のイリス本人は満足気だ。


「…的が…折角出したのに…。」


 …ああうん、的を出したのはお前達だもんな。

 でもな、俺達が驚いているのは少し違う理由なんだぞ、ユウ。


「…どう…?」

「いや、どう?じゃねーよ。俺、ちゃんと制御できるかどうかのテストだって言わなかったっけ?」

「…でも…壁…突き破って…ない…。」

「そういう問題じゃねーよ。自由かお前。」

「…制御…できてる…。」

「いや、そうだけどな?わざわざ壁まで飛ばすことは無いだろう。ほら見ろ、壁ちょっと凹んでんじゃねーか。」

「…調整…したから…。」


 こいつってこんなに扱いづらかったか?

 いつもはもう少し自重してる気がするんだが…。

 …もしかして。


「イリス、もう一度だ。次はもっと威力を抑えて撃て。」

「ゴホッゴホッ…。ああ、持病の喘息が…。」

「お前喘息持ちじゃないだろ…。」

「ゴホッゴホッ…。ああ…先生に…私の…実力を…見せられなくて…残念…。ゴホッゴホッ…。」

「いや、まずはそのわざとらしい咳を止めろよ。」

「ゴホッゴホッ…。何の…事やら…。ゴホッゴホッ。」


 なるほど、よくわかった。


「イリス、お前実はこれが制御の限界なんだろ?」

「ゴホッゴホッ!ゴホッゴホッ!」

「いや、別にできなくても怒ったりはしないから。進歩はしてる訳だし、これから直していけばいいからな。正直に言え。」

「……うん…実は…まだ…あまり…制御…できて…ない…。」


 やっぱりな…。


「まったく…最初から言えばいいものを…。」

「…そ、それは…。」

「…まさか、サボってたなんてことはないだろうな。」

「………。」

「おい、何か言ったらどうだ。」

「…まさか…私が…そんなことを…するわけが…。」


 目を見て話せ目を。


「……痛っ。…怒らないって…言ったのに…。」

「ちゃんとやっててできないんだったらな。お前はサボってたんだから怒られて当然だ。むしろ拳骨一発ですんで良かったと思え。」

「むうう…。」


 はあ…こんなんで大丈夫なんだろうか…。

 心配だ…。


 ***************


「…ユウ、荷物は纏まったか?」

「ああ、もういつでも出発できるぞ。」

「取り敢えず、最後に挨拶だけするか、時間もあるしな。」


 ゴーシュ、ユミト達三人、あとは他の職員達とかか。

 ちなみにエリックはいつの間にか王都を発っていた。

 本当に神出鬼没な奴だ。


「…おいマオ、ユウ、居るか?院長が呼んでいるぞ。」


 軽くノックをして、ゴーシュが中に入ってきた。

 ちょうどいい、今から行こうと思っていたところだ。


「わかった、今行く。」

「折角だ、そのまま挨拶を終えてくるといい。」

「ああ、そのつもりだ。お前は今から仕事か?」

「そうだ、貴様らが居なくなってやっと通常の仕事に戻れる。」


 ああ…そういえばゴーシュは元々Sクラスの担任だったな、すっかり忘れていた。


「まあ頑張れ。後でそっちにも行くつもりだ。」

「うむ、ユミト達にも顔を見せてやってくれ。」

「もちろんだ。…じゃあ、また後でな。」

「ああ。」


 ***************


「ユウとマオです。入っても大丈夫ですか?」

「どうぞ。」


 さて、入るか。

 そういえば、なんだかんだ院長室にはよく来ているな。

 最初の時や邪神の時、他にも色々呼び出され、今回で大体…五、六回目か。


「よく来たね、ユウ君、マオ君。まあ、そう用事があるというわけでもないんだが。」


 おい、だったら呼ぶなよ。

 …まあ、呼ばれなくてもこちらから出向いたが。


「話すことというとやっぱり報酬についてかな?確か、額の記載もしていなかった気がするし。」

「そうですね、その辺りは依頼用紙にはなにも書いていなかったはずです。」


 だから誰も受けなかったんだがな。

 依頼主が一般人だったら門前払だぞ。


「報酬は…ほとんど完璧にこなしてくれたから、銀貨三枚といったところかな。はい。」

「ありがとうございます。マオ、袋の中入れといてくれ。」

「ああ。…これで銀貨三十枚か。」


 学院の授業料は一括で払うと金貨一枚分、だからあと銀貨七十枚だな。

 …なかなかに遠いな。

 今までDランク以下だったというのもあるが、一年で三十枚だからな。

 今回の報酬はかなり多い方だ、やはりCランクともなると違う。

 まあ、Cランクの依頼の報酬は大体銀貨二、三枚らしいし、運が良ければ今年中には貯まるかもしれんな。


「他には…特には無いかな。」

「そうですか、なら僕達はこの辺で…。」

「ああそうだ。マオ君、あの件は頼んだよ。」


 あの件…ああ、邪神のことか。


「わかってる、受けた依頼はしっかりとこなすよ、俺は。」

「そうかい、それなら余計なお世話だったかな。」

「…依頼って、何の話だ?マオ、そんなの受けたか?」

「こっちの話だ、気にするな。」


 いっそのこと、話した方が早い気もするな。

 確認の為にいちいちユウと離れるのも面倒だし。

 …まあ、そう気軽に話せる様な話でも無いんだが。


「じゃあな院長、俺達はそろそろ御暇するよ。」

「うむ、また五年後に会えるのを楽しみにしているよ。」


 次は…職員室の方を適当に済ませて、さっさとユミト達の所に行くか。


 ***************


  「さて、職員室も終わったし、あとはユミト達の所に行くだけだな。」


 他の職員とはそこまで深い交流があったわけでも無いし、適当に済ませた。

 まあ、魔力操作について纏めた資料を渡したら大喜びだったし、十分だと思うが。


「…もう出なくちゃいけないんだな。」

「仕方ないだろう、そういう依頼内容だったんだし。それとも何だ、こっちを拠点にするか?」


 一応、生活する為に必要な施設は全部あるしな。


「いや、駄目だ。王都は物価が高いからな。宿代も高いし。」

「まあそうだな、それが無難だろう。」


 物価が高い分、仕事は多いんだがな。

 …そんなことを考えてるうちに着いたか。


「おいゴーシュ、来たぞ。」

「む…来たか。ちょうど諸連絡が終わったところだ。授業の時間まであと…十分程度か、まあそれまでは好きに居るといい。」


 十分か、まあ言いたい事がある訳でも無い、大丈夫だろう。


「昨日言ったが、俺達は今日帰る。何か言いたい事はあるか?」

「…普通…逆…では…?」


 確かにそうかもしれんが、特に無いからな、仕方が無い。


「…先生…冒険者は…楽しいですか…?」

「ん?まあ、楽しいぞ、そこそこ。どうした、興味が出てきたか?」

「はい…少しだけ…。」

「そうかそうか、だがお勧めはできんぞ、こんな碌でもない職業。下手打つと死ぬしな。」

「…それでも…先生達は…やってますから…。」

「まあそれももう少ししたら休業だがな。お前達が卒業する頃にはもういないんじゃないか?」

「…そう…ですか…。」

「そのうち再開するかもしれんがな。まあ、もし冒険者になるのなら応援はするぞ。卒業したらそう簡単には死なんだろうしな。」

「…それなら…少し…考えてみます…。」


 なんだかんだ言って、冒険者は楽しいからな。

 何せ退屈しない、刺激に溢れる毎日だ。

 油断すると死へ一直線だがな。


「…先生は…どうして冒険者に…?」

「身も蓋もない言い方だが、金稼ぎの為だ。冒険者は手っ取り早く荒稼ぎができるからな。」

「…そう…だったんですか…。」

「それも学院に入る為という目的が一応あるがな。」


 まあ、学院に行くという目的以前にアリアを探すという目的がある訳だが。


「そんなだから別に冒険者という職業自体に特別な思い入れは無いぞ。楽しいとは思っているが。むしろもっとゆっくりしたいくらいだ。」


 流石に死ぬのは御免だしな。

 折角の人生、長く楽しみたいじゃないか。


「…私は…やりたいことが…無いですから…。冒険者に…なろうかなと…。」

「…そうか。まあ、よく考えることだ。それに冒険者になっても必ずしも活動しなければいけないという訳じゃない。一度なってみて、気に入らなかったら辞めてもいいと思うぞ。」

「…ありがとう…ございます…。よく…考えて…決めようと…思います…。」

「それがいい。」


 さて、あとはイリスだけだが…こいつには俺から言いたいことがある。


「イリス、もうサボるなよ。」

「……わかってる…。」

「まったく、サボっててもあれだけできたんだから、お前にはかなり才能があると思うんだがな。」

「…買い被り…すぎ…。」


 そもそも、この二週間だけで魔力操作を形にするというだけでも割と無理難題なんだから、才能の話をすると三人全員があるんだがな。


「そうだ、お前は冒険者に興味は無いのか?」

「…私は…別に…。」

「まあ、さっきも言ったが俺自身お勧めはしないしな。もっと堅実に生きるのもありだと思うぞ。」

「……なんか…お爺さんみたい…。」


 ぐおお…とうとう言われてしまった…。

 多分、この態度がいけないんだろうな…。

 いや、偉そうだという自覚もあるし、直そうと思ったこともあるんだがな、直らないんだ、これが。

 まあ、もう諦めよう。

 仕方がないんだこれは、千年とか生きてた訳だしな、仕方ない。


「…まあ、そういう訳で、俺達は王都を出る。じゃあなお前達、元気でやれよ。」

「ゴーシュ先生、ユミト、エリア、イリス、お元気で。」

「「「…さようなら…。お元気で…。」」」

「さらばだ、マオ、ユウ。達者でな。」


 さて、挨拶も済ませたし、荷物を取りに戻るか。


「よし、じゃあ行くかユウ。パレーテに帰ろう。」


 久し振りだな、パレーテも、二週間が随分と長かったように思える。


「ああ、少し寂しい気もするけどな。 早く帰って、何か美味しい物を食べよう。」

「お前は本当にそればっかりだな。」


 それじゃあ、久し振りのパレーテに帰るとしようか。

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