第十一話 魔王、神様からの依頼を受ける
「なあ、まだつかないのか?」
「もう少しだと思うんだが…。」
「なんで把握してないんだよ…。」
「すまないね…。」
今俺は院長に連れられ、長く続く螺旋階段を降りている。
王都学院の地下、もっと言うと、院長室の地下。
まさか、院長室の本棚の奥に扉が隠されていて、それが地下に続いてたなんてな。
魔法でうまく隠蔽していて、もし誰かに見られても安心…らしい。
俺はそんな魔法を使えないし、初めて聞いたからよくわからないが。
なんでも、光魔法の応用だそうだ。
そもそも俺は光魔法自体が初耳なんだがな。
ちなみに、ここでの明かりも光魔法を使っているらしい。
便利な魔法だ。
「…なんだかここに居ると気分悪くなってくるな。なんだこれは?」
「ああ、それは奴の放つ魔力のせいだろう。かく言う私も、この身では結構辛くてね。あまり長居したくはない。」
「…おい、魔力で気分が悪くなるって、どういうことだ。意味がわからんぞ。」
「そうかい?君なら知っていると思ったんだが。」
「俺が?」
「ああ、魔力操作のことを知っているくらいだしね。」
ふむ、魔力操作とこれに何か関係があるのだろうか。
それはまあ、どちらも魔力の話ではあるんだが。
「…そろそろかな。」
しかし、本当に嫌な感じだ。
階段を下りるごとに強くなっている気もする。
まったく、俺は前世から厄介事に巻き込まれる事が多いな。
…まあ、こちらから首を突っ込む事も多々あるが。
「到着だ。紹介するよ、奴こそが我らの宿敵、諸悪の根源、邪悪なる神、マール。」
「やっぱり、邪神か…。」
そこにあったのは、凄まじい形相をした男の石像。
しかし、普通の石像とは違いその双眸は紫色に妖しく輝いている。
「まあ、予想はついていたが、な。」
とはいえ実際に来られると流石に驚くものだ。
「ふむ、その様子からすると、邪神のことは知っているのかな?」
「ああ、前に本で読んだことがある。」
まさか実話だったとは思っていなかったがな。
「で、こいつを俺に見せた理由はなんだ?まさかぶち壊せというわけでもあるまい。」
「まさか、そんなことをしたら封印が解けてしまうよ。…君に頼みたいのは、この大陸各地にある邪神の欠片の監視だ。」
「…欠片?」
「邪神の力は封印するにしても強大だった、そこでいくつかの欠片に分けたのさ。この石像もその一つだよ。」
「それは初耳だな。」
「そうだろうね。なにせ、この話は私を含めてごく一部のものしか知らないのだから。」
「そうか…。それで、監視というのはどういうことだ?」
「監視と言うと、少し語弊があるかな。近くに行った時でいいから、欠片の様子を見に行って欲しいんだ。封印がちゃんと機能しているかとか、誰かに荒らされてはいないか、とかね。」
「なるほど。しかし、場所がわからん、それに数も。」
「そうだね、ここで教えてもいいんだけど、忘れてしまっても困る。だからこれを渡しておくよ。」
「これは…首飾りか?」
ついているのはミスリルか、やけに光っているが。
「ああ、そのミスリルには特別な魔法がかけてあってね、邪神の魔力に反応して光るんだ。この欠片だったら、王都くらいの範囲にいれば反応するはずだよ。」
王都の中だとずっと光っているのか…少し鬱陶しそうだな。
服の中にでも入れとくか、それなら大分マシになるだろう。
「さて、それで、受けてくれるか?」
「ああ、もちろんだ。」
「ありがとう、助かるよ。」
別に断る理由もないしな。
「あと、邪神に近づくにあたって気をつけるべきことがある。」
「なんだ?」
「邪神は、力を持つ者に呪いをかける。邪神に魅入られてしまったら、体と精神が蝕まれ、最終的には理性を失ってしまう。現に今、三人魅入られたものがいるんだ。」
「…呪われたあとの対処法は、無いんだな?」
「ああ、強く抵抗すれば進行を遅らせることができるのだが、呪いを解除する方法は…。」
無い、ということか。
「幸い、その三人はまだ理性を保っている。…一人はもう、限界が近いそうだけど。」
「そう、か…。わかった、気を付けよう。」
「そうしてくれ。」
理性を失うってことは、暴れだすんだろうな…。
しかも、進行を止める方法がないならば。
…殺すしかない、か。
…いや、きっと、何かあるはずだ。
そう、信じよう…。
「最後に、ユミト君達三人の魔力について説明しよう。」
「…そういえば、関係があるといっていたな。」
「ああ、それは多分、邪神の魔力に彼らの魔力が反応してしまったんだと思うよ。」
「反応?」
「そう、反応。一種の防衛本能ってやつかな?邪神の魔力に当てられて、うっかり箍を外してしまったみたいなんだ。」
ああ、大丈夫っていうのはそう言う…。
「…前までは、こんな事も無かったんだけれどね…。」
ふむ、何かの前兆とかじゃなければいいが…。
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学院に来て一週間、三人の特訓は順調に進んでいる。
残り一週間、魔力操作をものにするまではいかないだろうが、力の制御くらいはできるようになるだろう。
それより先は自分達でやればいい。
そうそう、ゴーシュも魔力操作を特訓している。
なんでも、危険がないかどうか自分で実践するのだそうだ。
まああいつも、危険がないことは分かっているだろうし、本当のところは俺達がいなくなってからもユミト達に指導するためとかだろう、熱心なことだ。
態度はともかく優秀だからな、あいつなら半年以内には完璧にできるだろう。
元々魔力操作というのは基礎みたいなものだからな、そこまで行けば後は鍛えるだけだ。
「しかし、今日は休みか…。やることないな。」
ちなみにユウは食べ歩くらしい。
王都のグルメを味わい尽くすと豪語していた。
「今日は久しぶりに依頼でも受けてみるか…。あ、二重契約は確か規約違反なんだった。…まあいいか別に、今日は休みだし、多分大丈夫だろう。」
そうと決まればギルドへ行こうか。
二週間ぶりだな、ギルドに行くのも。
と言っても、王都のギルド、つまり本部に行くのは初めてだが…。
パレーテのやつよりもでかいに違いない。
見るのが楽しみだ。
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そして到着したギルド本部。
…思ったよりも小さいな。
まあ、あまりでかくしても無駄だしな、そういうのは冒険者は嫌いな奴が多い。
「…とにかく入るか。」
さて、どんな依頼を受けようか…。
「ん?あ、おーいエリックー。」
「あ、マオ君、久しぶり。奇遇だね、どうして王都に?」
「ああ、学院からの依頼でな、臨時教師をやっているんだ。」
「へえ、そうなんだ。でも、あの院長が外部に教師をさせるなんて、珍しい…。」
「ああ、なんか俺自身にも用事があったみたいだ。厄介事を押し付けられたよ。」
「あはは…まあ、あの人はそういう人だから。ところで、受ける依頼は決まっているかい?」
「いや、まだだが…。」
「それなら、一緒に受けないかい?どうせなら二人で受けたほうが楽しいよ。」
楽しいって…。
Aランクにもなると報酬は割とどうでもよくなったりするのかもな。
…羨ましい。
「まあ、一緒に受けるのは構わんが…俺はCランクだぞ?」
「あ、もうCランクになったのかい。依頼の方は大丈夫、元々Eランクのやつを受けようと思っていたからね。」
「なぜAランクなのにわざわざ…。」
「この依頼の場所には使える薬草がいっぱい生えててね。ここらで補充しておこうかなと思ったんだ。」
「薬草?薬草なんて何に使うんだ。」
「そりゃあ、薬を作るんだよ。知り合いが病気でね。」
「そうか…大変なんだな。」
「まあね。それじゃあ、そろそろ行こうか。」
「おう。」
そういえば、採集依頼なんて久しぶりだな。
あれってすごい地味なんだよな…。
まあ、今日はどうせ暇だったからいいけどな。
しかし、知り合いが病気か…。
もしかしたら、探し物っていうのもそれ関係かもな。
早く治るといいが。