みんな変わり果ててしまい………、
ヨハン先生。ボクが幼少の頃から家庭教師をしていた先生。
出会った当初、美貌の顔に時折見せていた寂しげな表情。[一つ前]の頃を思い出して酷く不快だった。美人の憂い顔はそれは良い絵になるが、長く見慣れていると眼からカビが生えてきそうな位鬱陶しい事この上無かった。遂に我慢の限界が来て思わず叩いてしまったあの出来事は忘れられない。
『手前が一番不幸ですって顔してんじゃねぇよ!!』
と、まだコップさえ握れなかった小さな手で美顔を叩いて、胸ぐら掴んでヤ○ザよろしく凄んだ出来事………。やった後で恥ずかしくなってゴロゴロと部屋を転がったのも忘れられない。
けれどそれ以降、ヨハン先生は人が変わったように明るくなってボクの家庭教師の仕事に精を出していった。
ボクがオルボーア学園で学費免除が受けられる程上位の成績なのは今まで教えてくれたヨハン先生の勉強があったから。ヨハン先生はまさに教師の鏡…。
ヨハン先生はボクにとって、時に厳しくそして優しい「憧れの先生」…だった。
「ねぇヨハンせんせ。アヤカに勉強教えて欲しいんだけど…。」
「いいですよ。特別に次のテストの問題の範囲もちょっとだけ教えましょう。」
「やった!!アヤカ頑張って100点取るねっ!!」
ランドルフ。
隣の席である縁か、ランドルフは入学当初から何かと隣のボクに声をかけてきた。
[一つ前]のトラウマで必要最低限の返事しかしなかったボクに毎日毎日根気よくボクに話しかけてきてくれた。そんな彼にボクも少しずつ心を開く様になって、ボクが何とか友人作りにも励めたのは彼のお陰だった。
明るい笑顔は子犬のようで、先輩には可愛がられて後輩にも深く慕われていたムードメーカー的存在。異性としての意識は殆ど無く年の近い「きょうだい」の様で。または愛くるしい子犬の様で、思わず髪をワシワシしたくなってしまったのは一度だけでは無い。
ランドルフはボクにとって、男女を意識しない「異性の親友」…なのに。
「うふふっ、ランドルフ君ってば面白ーい!!」
「そうでしょうアヤカ様!! あっ、あとこれ…アヤカ様にお似合いかと買ったのですが……」
「うわぁ素敵なブローチ!! 有難うランドルフ君!!」
ナターシャもといナータ。
ナターシャの通称「ナータ」は、実はボクが付けた呼び名。
ボクがランドルフのお陰で性格改善して今度は自分から話しかけて友人を作ろうと声をかけたのがナータ。当時の彼女は学校の空気に馴染めなかったのか酷く引っ込み思案で、いつも俯いて顔を隠して酷く無口な女の子だった。
ボクはそんな彼女に声を掛け、手を差し伸べた。ナータはボクが差し伸べた手に一気に飛び付いて、一週間もしない内にボクは彼女を呼び名で呼ぶ程の親友になった。ヨハン先生に惚れてしまった時には、距離を縮めようと画策したし,ヨハン先生の嫌いな物や好きなお菓子だって教えた。
ナータへのお願いは叶えられる範囲で叶えてあげた。だって、全てを話せる「同性の親友」…だったもの。
「“なっちゃん”って呼ぶからアヤカの事は“あーちゃん”って呼んでね」
「えっ、で…でもアヤカ様の事をそんな風には………。」
「駄目!! だってアヤカ達、唯一無二の親友になったんだもの!!」
■■■
気付けばアヤカはみんなとの繋がりを着々と築きあげていた。
みんなアヤカの取り巻きになっていた。
ボクはまた――――――、
『あ、あれ?』
ボクは偶然、みんなを見かけた。
みんな貴族の服装に着替えて煌びやかな馬車に乗り込もうとしていた。
『ね、ねぇみんな!! みんな何処に行くの!?』
ボクは走って声を掛ければ、止まってボクの方を振り返る。
良かった。まだみんなはボクの事を………。
「これから王宮でパーティが開かれるんですよサイナ。」
ヨハン先生は当たり前の様に言う。
「南大陸中の王族達がアヤカ様を謁見するんだ!!」
ランドルフは酷く興奮した顔で喜んでいた。
どういう事…? パーティが開かれるなんてボクは聞かされていない。
謁見ではちゃんと呼ばれたのに。
『ぼ、ボクは……そんな事聞いて…。』
呆然とするボクにナータは不思議そうに首を傾げて…、
「だってサイナは…。もう《貴族》じゃないでしょ?」
えっ?