[一つ前]のいもうとがあらわれた!! いもうとはどんどんしんりゃくをかいししていく!!
●志村彩華。
主人公の前世の妹。一人称は「アヤカ」
可愛い外見に反して中身は性悪。
姉である主人公を貶めたり奪ったりして、人気を集めていた。
何故か異世界にやって来て…。
………………………………何故、[一つ前]の妹が此処(この世界)にいるのか。
あらすじをかいつまめばこうだった。
ある日突然、神々しい光と共に妹は現れた。最初は刺客かと王族達は訝しんだが、たちまち彼女に夢中となった。世継ぎがいなかった国王と王妃は彼女を養子として引き取り、それに反対する者は誰一人としていなかった。
何故なら彼女は………。
そして場は王宮・謁見の間。
「そなた達が集まった理由は他でも無い。」
ボクとヨハン先生にナータにランドルフ。
ボク達は王の前で片膝と頭を下げた状態で其処にいた。
(本来王族からお払い箱にされた【ナイト】の一族であるボクは此処にいてもいいのかという疑問もあったが王に呼ばれたのだから仕方が無い。)
目の前の玉座に座る南大陸の王と女王。
そして…、アヤカは彼等の隣で何が嬉しいのかニコニコと微笑んでいた。
「そなた達には[現世]から来た少女…、アヤカの身辺警護及び話し相手となって欲しい」
………………………………は?
■■■
そうして。
王の命を受けてから数週間が経ち。
『(…………どうしてこうなったの?)』
その疑問で一杯になった。
学園では箝口令が敷かれてボク達にしか知らない筈なのに、アヤカ=シムラの噂は全校生徒にまで知れ渡っていた。
「アヤカ様って違う世界から来たって本当ですか?」
「うんっ、そうだよっ!!」
「まぁ素敵!! どんな国でしょうか?」
「えっとね、ニホンっていうとっても平和で平等な国の出身なの。」
「何かあったら何でも言って下さい。力になりますから!!」
「うんっ!! 有難うみんなっ!!」
…張本人は吹く風知らずと愛嬌を振りまいて全校生徒の交流に大忙し。
噂が一体何処で流出したのかと………恐らくアヤカ本人だろう。
あのアヤカならやりかねない。可憐な外見に反して、異常なまでの目立ちたがりだ。
[一つ前]のボクを悪者に仕立て上げて、注目を高める事を趣味にしていたのだから。
…本当にどうしてアヤカが此処にいるのか?
[一つ前]のボクが死んで、【亡き姉を慕う健気な妹】を演じて人気を集めていた筈ではないのか?
そんな自問自答をしていた時…。
「そう言えばアヤカ様のご家族はどんな方ですの?」
「………………………………。」
生徒の一人がアヤカに質問をしたら、妹はふと黙った。
眼が一瞬だけギラリと輝いたのに、気付いたのはボクだけだった。
あ。これはいつものアレだ。他人の気を惹く為に………。
「あ、あの…アヤカ様?」
突然黙り込んだアヤカに恐る恐る尋ねた時。
………ふらぁっ…。
「ア、アヤカ様っ!!?」
「「「アヤカっ!!」」」
突然気を失う様に床に倒れるアヤカ。
そんな彼女に駆けつけたのはランドルフとヨハン先生。
「大丈夫か、アヤカ?」
「うっ、うん…。大丈夫ですヨハン先生………」
ランドルフに抱きかかえられ、ヨハン先生の声かけに気弱に答える素振りをする。
「なっ、何か御気分に触る事でも…」
「うっ、うん…。大丈夫……あ、あのね…実はね………アヤカね…。」
呟きながら泣き出すアヤカに、一気に教室が静かになった。
「アヤカね…。………向こうの世界で親や友達から酷いイジメを受けてたの…」
……………………………………………ハイオチツケボクー。
「いつもお姉ちゃんと比べられてきて。」
「パパやママにずっと酷い事されてきて。」
「お姉ちゃんにもいっぱい嫌がらせされて。」
「学校の皆はお姉ちゃんの嘘を鵜呑みにして。」
「先生も"少しは姉さんを見習いなさい"って。」
「毎日毎日本当に辛くてつらく、って…ぐすっ。」
「何て酷い!!」
アヤカの言葉をみんな鵜呑みにして怒りを露わにする。
やめろやめろやめろ!!!
[一つ前]の過去を思い出させるな!!
「私」の体験をまるで自分が体験したかの様に脚色して…、「私」をまた悪者にするな!!
「でもね…。アヤカどんなに辛くされても家族の事が大好きだから…」
顔を手で覆いながら両親と「私」を庇うアヤカに何て優しいんだと涙を浮かべている者までいる。
誰も気付かない。
それは手で顔を覆っているのは笑みを隠している仕草だという事に。
一瞬だけ愉悦に歪んだのに、気付いたのはボクだけだった。
………………………………落ち着け。
そうだ、ボクはもう「私」じゃない。アヤカはボクの事に気付いていない。
大丈夫…。
そう、大丈夫だいじょうぶ。
それに今のボクには、ヨハン先生にランドルフにナータがいる。
………………………甘かった。有頂天になっていた。
[一つ前]ではどんなに願い続けていた異世界転生をしてた事に。
[一つ前]では散々な幸薄人生だったから、幸せになれると信じ込んでいた。
けれど。ボクを取り巻く学園生活はすっかり変わってしまった。
みんな段々と変わってしまった。
ランドルフも。ナータも。ヨハン先生も。