早くも14年の時が経ち。学園へ入学して、友人が出来て、これから青春を過ご………。
まぁそんなこんなありながら、早くもボクは十四才。
もうすぐ春の季節になろうとした頃。
「サイナ。僕と一緒にオルボーア学園に行ってみないかい?」
そうボクに訊ねたのは、住み込み家庭教師のヨハンさん。
ヨハン=サイクル。
【ナイト】と同じ王族の御側人である国務の一族【サイクル】。
最年少で国王から勲章を貰ったというエリート中のエリート。
オマケに「天は二物を与えず」の諺を、『嘘だッ!!!』と否定したくなる程の見目麗しさ。ボクは未だその美貌を見慣れる事が出来ない。
『え、オルボーア学園って………』
この辺りには農耕地帯だから農業だけの知識しか必要ないので学校は無い。
それにオルボーア学園は[南大陸]でも有数の最大を誇る学園。
西の方角に位置する大陸;西大陸からの留学生さえ「え? お城じゃなくて校舎?」と思わずそう呟いてしまう程に広大な敷地面積と建築校舎。
一般の貴族さえ入学するのはそう容易では無いとされる名門中の名門。
何故詳しいのかというと、実はお父さんとお母さんが学園のOBだから。
…学園の詳細を二人に訊ねるつもりだったのが出会いや馴れ初めも学生時代でかれこれ夕暮れになった。…あれはもう精神のHPがマイナスになりそうだったので、訊ねるのは止めようと心に誓った。
おっと、閑話休題。
「学院生時代の恩師から手紙が来たんだ!!“君の力が必要だ。是非とも我がオルボーア学園に来て欲しい”とあってね。返事と一緒に君の事も書いて送ったら、そしたらその子も一緒に来て欲しいと、直々に推薦状を出してくれるそうなんだ!!」
『ボ、ボクもですか?』
「君はとても優秀だ。学費も免除してくれるだろう。…それに,君が一緒に来てくれると、僕は………」
そうヨハンさんは口を濁らせた。
ヨハンさんのそんな顔を見るのは、ボクがヨハンさんの学歴を父さんから聞いて…何でそんな人が此処で家庭教師という職についているのだろうと疑問に思い、聞いた時以来だ。
【…ちょっとね。あの頃の僕は上ばかり見過ぎていたんだ………】
ボクの問いに、たちまち華が萎れる様な苦い表情を浮かべて力無くそう言ったきりだった。
それ以来ボクはヨハンさんに過去を尋ねない事にした。
ヨハンさんも訳アリだと感じたから。
そして今。ヨハンさんは笑顔で学院生時代の恩師からの手紙をボクに話している。
そしてボクに“一緒に”来て欲しいと頼んでいる。
『………分かりました。一緒に行きましょう ヨハンさん!!』
そうしてボクはオルボーア学園に入学する事になった。
両親と離れるのはちょっぴり辛かったけれど…。
「成績なんて気にせずに好きなだけ遊べ!!」
「うふふ、懐かしいわ…。授業サボってデートした頃の事を…」
両親に学園の事を話したらすんなりOKを貰った。
(途中ノロケ話があったのは置いといて)
「何かあったらすぐに呼べ。駆け付けるからな。」
「そうよサイナ。私達はずっと貴女の味方よ」
………有難うお父さん,お母さん。
ボクは…本当に…。
『行ってきます!! お父さん、お母さん!!!』
■■■
そうしてオルボーア学園に入学して。
勉学のみに力を入れず、友人作りにも励んだ。
[一つ前]のボクが両親の次に欲しかった存在だから。
かと言って友達は多ければ良い訳じゃない。というか多く作るのに抵抗感があった。[一つ前]なんて孤独の余りに作り過ぎて、妹に奪われた時には一気に手の平を返されたから。
まぁ[一つ前]の事は置いといて。
そんなトラウマ乗り越えて、二人の≪親友≫が出来ました。
「宿題見せて下さいませ、サイナ様!!」
『ふむふむ、今日の学食デザートでどう?』
一人はボクの隣の席に座るランドルフ=ヨルムンガンド。
クラスのムードメーカーで何かと隣の席のボクに声をかけてくる、オールバックに人懐っこい笑みが特徴の明るく子犬の様な男子。
「サ、サイナ…。今日ね、ヨハン先生がね………ww」
『ふふっ。相変わらずナータはヨハン先生が大好きなんだね?』
もう一人はボクの一つ前の席に座るナターシャ=ラプソディ。通称ナータ。
ヨハンさ…じゃない,ヨハン先生の大ファンで猛アタックをしている、長い髪に大きな眼鏡をかけた可愛い女子。
『おはようございますヨハン先生。』
「おはようサイナ。宿題は出来たかい?」
そしてヨハン先生は歴史教師(歴史が一番得意だと言っていた)として活き活きと教鞭を振るっている。
益々美貌に磨きがかかり、当然ながらナータを含めた新入生や先輩の心を鷲掴みにして、二年間教え子であったボクも思わずヤキモチを妬いてしまいそうだ。
あ、そうそう。
ボク(サイナ=ウィル=ヴィレッジ=ナイト)とヨハン先生にナータにランドルフ。
オルボーア学園で知らない者はいない程の有名な四人衆。
現世から言えば一種のアイドルグループみたいな存在となって思わず鼻が高くなりそう。
…やっとだ。
ボクはやっと報われたと感じていた。
転生した「理想の自分」。
全てを話せる「同性の親友」。
やっと出会えた「最愛の家族」。
男女を意識しない「異性の親友」。
全てに努力し報われた「努力の成功」。
時に厳しくそして優しい「憧れの先生」。
ボクはやっと報われたんだと信じて疑わなかった。
「初めまして、アヤカ=シムラといいますっ!! よろしくねっ!!」
………………………………え?
あの透き通った白い肌。
あの華が咲き綻ぶ様に可憐な笑顔。
あのビスクドールの様に細い手足。
あのサラサラとした長いツインテール。
あのぱっちりとした目に小さな鼻に赤い唇。
え? え? え? え? え?
どうして妹が此処にいるの?.