規格外2
ナスヤルーン城に案内されて30日目、今日も午前中は座学そして昼食を挟んで
午後からは実技の履修だった。
「どうやら、コントロールできるようになってきたようね。」
昼食前に城内の厩舎で馬の手入れをしていると後ろから声がかかった。
馬のブラッシングの手を止めて振り返るといつのまにか城王様が魔導教官と共に立っていた。
僕は躾られたように軽く膝を折って頭を垂れて礼をして答える。
「おかげさまで、人様に迷惑をかけぬ程度に。」
「慣れないことだとは思いますが、ここで生きていくためですからがんばりなさい。
王宮や元老院でも調べておりますからそのうちわかることもあるでしょう。」
「ありがとうございます。」
城王…エルフの国は現在、他の種族との交流を断っている。(鎖国だね)
その為にか他国からの干渉を避けるために結界を張ってその中に隠っている状態である。
それを支えるのが国内の5箇所に設けられた結界発生装置であり、それを置く場所が城である。
その城の主が城王と呼ばれる。
あれから毎日体を鍛えている、別に筋骨隆々とした体になれば男に戻れるとか、
見た目だけでもとかいうわけではない。
ここがたちの悪い冗談とか、どっきりの世界ではなくて現実の異世界である以上、
頼れるのが自分だけー今はエルフ達の保護下だが、彼らが外界と交流を断って暮らしていると
いうことは、いずれここから出なければいけないことになるからその時に身を守る術を身につける為、
できることはしておかないといけないから城王に頼んで、知識を体術を身につけようとしている。
付け焼き刃かもしれない、何年何十年かかることを短時間でこなそうとしているのもわかっている。
けれど、このゲームのようなファンタジー設定の世界を生きていかねばならないのだ。
何年かかるかわからないし、一生無理かもしれないけれど。
馴れない女性の体で生きていく、それは思うほど簡単ではなかった。
今でも女の人の方が好きだし。エルフの男性を見ても恋愛対象として考えられるか、
というと疑問である。
しかも、この世界はここ数十年子供が全種族的にできていない=襲われやすいと言うか、
暴行することに抵抗が少なくなっているらしく、性犯罪の発生率はうなぎのぼりらしい。
自分が犯されるなんて考えたくないが、ないとはいえない。
自分で見てびっくりのプロポーションだしな。胸なんて見事に膨らんで柔らかいし
これ何カップて言うんだろうな、ラーネさんに聞いてもわからないだろうなぁ。
この世界では殆どの種族での混血が可能だそうで、これは彼らの創造主がムゥーマ、
つまり人間を基本型として創りだしたからだそうだ。
俺には無尽蔵の魔力がある~と言ったところで、それはいまだにコントロールしきれない力であるし、
物理的に何とか出来るならそれに越したことはないということと、この手の話だと魔法職は
そのほとんどが紙防御=極めて防御力の低い装備しかできないというのがセオリーで、
魔法による防御が剥がれると死亡するのがほとんどだ。
お話とかゲームならばそれでもいい、この世界も自分の複製に転生できるらしいがそれは確実ではない
ならば、体力があればフルメタルアーマーは無理としてもある程度の装備できるはずと考えて鍛えてるのだ。
最終的には軽金属クラスなら装備してても何とか出きる程にはしたかった。
その日の夕食の席で知らされたことは、俺のようにこの世界以外から来たらしい人々が、
ここ数年で急増してるらしいとのことだが性別が変わったという事例はないらしい。
男から女へというのも実にやっかいなことではあるが、その逆も大変だろうなぁと思う。
ただ本来そうあるべき人がそうなれたのなら、それは幸せなことであり(異世界だが)
その場合だれも申告しないよなぁとも思うわけで、でも異種族への転移はあるのだろかと考えてみる。
例えば、ムゥーマからエルフの場合は総じて外見も美形になるわけだしそう気にしないかもしれない。
けれど、オークやゴブリンならどうだろうか?。
城内にあてがわれた居室に戻り、着替えているとラーネさんがやって来た。
「明日、家に帰ろうと思うの。」
ラーネさんは、メル・ゼッヴァ・フェルバという人の娘である。
メルは貴族の階級でゼッヴァというのが家の名前(氏)にあたり、フェルバが名前らしい。
ゼッヴァ家と言うのは、この城ナスヤルーンの臣下ではなく対角線上に位置するアドラン城の貴族で
かなり旧い家系らしい。ちなみに廃棄された砦の司令官ランドゥは伯父にあたる人でわけあって
タール王家(ナスヤルーン城王)で働いているらしい。
「わかりました準備します、お祖父様と会えるのですね。」
「…ありがとうシオン。」
彼女は母親ではない、けれどこの異世界での保護者のようなものだ。
とくに鎖国下のエルフの国でムゥーマの外見を持つ僕が滞在する為にはその方が都合が良いから
でもある。この事実を知るのは僕と彼女と彼女の伯父であるランドゥ司令官だけである。
無論ランドゥ司令官の助言でもある、その方がラーネさんの父親フェルバ侯が収まるという計らいも
あるわけだが。
翌朝、世話になった城の人々や城王のシャ・ヤ・タール様に挨拶をしてナスヤルーン城を後にした。
アドラン城にはその日の夕刻に着いた。歓迎の宴もなく門番に誰何されての入城だった。
「止まれ、何者か?。」
「ラ-ネルッと申します、入城を許可願いたい。」
「そちらは?。」
「娘のシオン、シオン・と…。」
「「「シオン!災厄のシオン。」」」
な、なんか慌ただしくなって来ましたけど、僕何かしましたか?。
なんか兵隊さんが一杯出てきましたけど。
兵隊さんの中から馬に乗ったちょいと偉そうな人が出てきました。
「我はアドラン城 警備隊長 ドナッツ・メゼ・ゼッヴァである。シオンとやらはこれをつけよ。」
そういって、こちらに袋が投げられた。
中を改めたラーネさんの顔が怖い。何が入っていたんだろう?。
「ドナ!兄上。何故我が娘にこの仕打ちをするの?。」
何か?酷いものが入っていたんでしょうか、気になるんですけど。
「我が城内に入りたければ、従え妹よ。」
「これは罪人の戒め。身に着けるならそれは私。」
「そうではない妹よ、この国の存在を外に知らしめることとなったのは、」
こっち見てますよね、お兄さま。ということは伯父様ですよね~て場合じゃなさそう。
何を身に着けるんだろう?[ざいにんのいましめ]と聞こえたから手錠みたいなのかな?。
でも着けないと入れないなら、着けるしか無いでしょう。
そう思って袋に手を伸ばして中から出す、それは淡く輝く…首輪だよな?たぶん。
「着けよ、話はそれからだ。」
見ると全ての兵士が武器を構えている。
「首につけるだけだ、そうそれでよい。」
言われるままにつけることにする。その後は覚えてない…。