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なんでこうなった。

追記 一部変更しました

さっきまでの喧噪が嘘のように消え、おまけに今まで目の前にあった店まで消え失せてしまった。

いや、似たような石造りの町並みの中にはいる。けれどちがう、ここには電動バイクも自動車も走っていない。

馬に似た動物が馬車を牽き、またはそれにまたがる人のようなものが通りを行き交っている。


「ここはーどこだ?。」


一瞬にしてどこかのテーマパークに飛ばされたか、はたまた映画のロケか?

または長時間のフライトと午前中のかけあし観光の疲れから眠りに落ちたかと、色々考えるがどうも説明が付かない。


ポケットに手を入れるとスマートフォンがあった。そうだこれの地図を見ればGPSで居場所がわかるじゃないか、

そう思いついたので取り出してアプリを起動させる。

画面に出たのはーエラーの文字。どこにいるのかもわからない、それに圏外の表示にが出ているし、

試しに起動させた電子コンパスも使えない。

あれ?確かSIMは入れ替えたはず、ホテルじゃ使えてたから不良品じゃないだろうけど。

なにかが、おかしいと思っていると声をかけてくる人がいる。人・・・かな?。


「:*+%&」


その小さいけど手足の末端が大きい人が何か喋ったのだが聞き取れない。

チェコかハンガリーの訛かな?というレベルじゃないのは確かだった。

根元的な何かがちがう言語だったので相手から見るとボーっとしてるように見えたのだろう。


いきなり手を引かれ(えっと思うほど力が強かった)路地の方につれて行かれそうになる。

やばい襲われる。外国で道の真ん中で呆けているとそら「かも」だわなぁ・・・と考えて身構える。

人目に付かないところに連れて行かれるのは非常に危ない。

あらがわず牽かれる力の方向に自ら動き力を逃がしつつ…そのまま相手の力を利用して…と考えてるうちに。

あれ?れれ・・牽かれていったのは、何かのお店のようだ。


「なにを言ってるんだろう?。」


つれてこられた店の中で、周りを見回すが、まず何屋なのかと考えてみる。

カウンターの向こうにはどうみても人間ではない、美しいという言葉が似合う女性が微笑んでいる。

いや耳さえとんがってなければそんなことも思わないんだが、あれエルフだよなぁ~と。

まぁいまさらなんだが、足下にはこれまたハーフリングにしか見えない男性がいるわけで。

その小さい親父が何を言ったのか、エルフの姉さんは振り返り背後の棚から瓶を取り出し、

カウンターの上で調合を始めたかとおもうと、カウンターの下から分厚い本を取り出したかと思うとありえないことをした。

カウンターの上の調合をしているカップの上に置くとなにかつぶやいて押し込んだ。


「わぉイリュージョン!。」


と思わずつぶやいてしまった。なにせ本はそのカップに飲み込まれたのだから。

ちょっと煙はでたけれどそこがまた手品っぽい。で、できあがった液体を僕に飲めといってるらしい。


恐る恐るカップを手に取るとその中身は、ドス黒くえもいわれぬ芳香を放つ怪しい液体などではなく、

すっきりと透き通った無色透明でしかもかすかにバニラの香りのする液体だった。

しかたなく飲み干すと頭の中に文字やら言葉が津波のように押し寄せて目が回って、気を失った。


目覚めたら暖かい布団の中だった。心なしか体が軽く柔らかい気がする。

胸はふっくらとして、いい匂いのシーツに包まれて 「?!」。


ええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!。

むむむ胸がふっくら膨らんでるんですけど?。

こ・こ・股間の大事なものの感触がありません。

触って確かめたいけど、それも怖い気がして手が硬直してます。

この体誰ですか?。僕、僕でしたよね?。あれあれ…

というような夢を見た気がして目を覚ますと、体は見ないようにして体を起こして

しっかり現実に直面した。ここは誰の部屋?そして、私は誰でしょう…。


バランスがとりにくいのはなぜだろうと考えながら(考えたくなかったが)

部屋の扉を開けて廊下をぬけて声が聞こえる方に歩いていく。


「やあ、目が覚めたようだね。」

「どうだい、言葉が解るようになっただろ?。」


カウンターの向こうにいた、とんがり耳の美女と手を引っ張った小さい親父が振り返って声をかけてきた。

彼らは対面式のテーブルに腰をかけて、机の上の何かをいじくりまわしていた。

どこかで見たような何かー僕の携帯とタブレットじゃないか。

走りよってなかばもぎ取るように拾い上げ、電源を入れるーつかないー電源が入らない。

何をしたんだこいつらは?。


「変わった箱だねぇ、開かないし…。」

「あっ、でも初めは明るく光ったようじゃが。」


んわああ…もしかして、電源を入れっぱなしにしてバッテリーを使いきったのか?。

て、それ以前に人のものを勝手に触るのか?


「中に妖精がいたのかなぁ?喋ってたけど。おまえみたいにわけのわからん言葉で、」

「どこの田舎の言葉なんだろう?。とてもムゥーマの言葉には思えないが、どこから来たんだい?。」


半分耳に入ってなかった、充電アダプターはホテルの部屋のトランクの中だったっけ?。

どうするんだ綾ちゃんのアパルトメントの住所や携帯の番号、覚えてない。

体が女の子になっちゃったことも忘れちゃった(ことにした)。

どうしようどうしょうどうしょうどうしようどうしょうどうしょうどうしようどうしょうどうしょう。


「もしかして、大事な妖精だったのか?その箱から出ていったのなら我々も捜索するが?。」


遠くで何かをほざく奴らが居るんですけど、気のせいですか。

捜索って電気をですか?それより僕の男の子の体を探してください。

誰か説明してください、これどんなドッキリなんですか?。

そうだ海外には素人を引っ掛ける番組があるってネットで見たことがあるぞ、

そうかこの乳や股間も特殊メイクで、この腕や脚や腰の細さもって、

そんなの聞いたことねーしって自分でツッコミ入れてどうする。

お、落ち着け俺…まずこんなときはどうしたらいいのだろうとググろうと考えて、思い出した。

スマフォもタブも彼らが電池を使いきった。

うむそうであればネットにつながらないからこの現状がドッキリでないということにできるーなるほど。

まだまだ現実が受け入れられない僕であった。


困ったことに着ていた服がなぜか大きくなっていた。女の子になって背も縮んだということか?

そういう設定で服まで用意してたのか?それとも用意した服と同じ僕が選ばれたのかもしれないな。


「まぁそこに立っていてもなんだから、椅子にお掛けよ。」

とエルフがすすめてくれる。


いきなりひっくり返ったり、床がぬけないか確かめながら勧められた椅子に座る。

その動作をみていた小さい親父ハーフリングが神妙な顔つきで


「なんじゃ珍しいのか?ただの木の椅子じゃぞ。儂が作ったんじゃ、おまえさんぐらいが座ったところで壊れわせんわい。」


座るとエルフの女性がティーカップに液体を注いでくれる。ハーブミントの香りがほのかにたちあがる、暖かそうだ。


「どうぞ、落ち着くよ?。」

「・・・ありがとう。」


一口くちにつけて味を確かめて、のどの渇きに気がついてちょうど飲み頃の温度だったので一気に飲み干した。


「美味しい・・・あったくて。」

「そうじゃあ、おかわりをどうぞ。」

そういって再びカップに液体を注いでくれる。


「おちついたら、教えてくれる?。あなたの名前と生まれた国と何をしにこの国に来たのか、

もちろん話したくないことは言わなくてもいいけれど、見たこともない持ち物や服に聞いたことのない言葉、そして一人できたの?。」


いきなりの尋問モードじゃないですか?どこかで巻きの指示が出ましたか?

などと考えながら、素直に答える僕がいる(僕だよねぇ)。


「僕は御那代(みなしろ)詩音(しおん)日本からチェコの叔母のアパートに行く途中でした。その途中でこの人に、」

小さい親父を指さして


「ここに拉致されたんです。そろそろホテルに帰りたいし、添乗員の人や叔母とも連絡をとりたいので、

このゲームか番組か知らないけれど収録をとめてくれませんか?。」

なんか思い出したらだんだん興奮してきたみたいで声が大きくなってたみたいだ。


「落ち着いて、興奮しないでもう一杯お茶を飲んで気を静めて聞いてね。」


エルフのお姉さんは困ったようなでも子供をあやすような優しい声で話してくれた。


「ここは、クラトン公国の北にあるチュレネー山脈にほど近い[ネルスタ]の町で、

あなたはその町の中央大通りの真ん中に突然現れて、惚けて突っ立てたの。彼が手を引かなければ、

定期馬車に曳かれるところだったのよ。」


そこで小さい親父が自慢気に語りだす。


「まぁ言うなら命の恩人じゃな。でもおぬしなんであそこに転移したんじゃ?。」


転移ってなんですか、聞いたことあるような気はします。


「えっーと定期馬車?。」

「そう八頭立ての大陸横断馬車よ、ちなみに馬車と人の場合、馬車が優先ね。」

「車が優先ですか、インドみたいだ。」

「いんど?」

「あっいえこっちの話で、それで助けてくれたと。」

「まぁ挽き肉になったおまえさんを片づけるより、その前の方が簡単じゃったしな。」

「あっそれはどうも、改めましてありがとうございます。」


「あとは、見慣れんなりだし変な言葉しゃべるからな、ここの翻訳薬を飲ませたわけじゃが、縮むとはな。」


そういうので自分のなりを見てみると確かにジーンズもシャツもブカブカだ。

おまけに胸が出て腰が締まってるし。


「あの~その薬って副作用があるんでしょうか?。」


聞かれたエルフは小首を傾げて


「え~とこの200年程聞かないわねぇ、私が売り初めても初めてだもの、縮んだうえに・・・」

「性別が変わるのは?。」

「ええ、もうびっくり。ギルドになんて報告しようかしらと悩んでるところ。」


「元に戻る魔法の薬ってないんですか?。」

「聞いたことがないからねぇ。」


「外見を一時的に変える薬を使って、過去にある国で即位した王女の話ってあったじゃろ?。」

「おとぎ話ね。」

「あるにはあったってこと?。」

「昔々、銀の国に跡継ぎの王子が生まれた~だけど本当は女の子だったので、

色々冒険して即位式には魔女の薬で男の子として王になって、叔父である悪大臣やその取り巻きを粛清した後法律を変えて、

女に戻って隣国の王子と結婚してめでたしめでたし…という話だったかの?。」


それ結局元に戻ってない?女→薬で男→女でしょ?女に戻るときは薬使ったのか?


「にしても、今は誰も知らないと言うことかしら。」

「ううううううっ、どうしてくれる。」

「まだ、結婚もしてないのに。」


「あら、性交はしたことあるの?。」

「・・・・・ない。」

「じゃいいんじゃない?。」

 

そういうもんなの?経験がなければ性別変わってもたいしたこと無いのか?。


「なぁラーネさんや、里の方の長老あたりじゃと知ってるかもしれんぞ?。」

「て、いうか、そろそろこのどっきりやめてくれないか?。」


もうね、なんか疲れてきて 俺(だよね?)きれちゃいそう。


「どっきり?。」

「どこの国のテレビ局か知らないけれど、もういいんじゃないか?。カメラはどこよ、ADとかいるんだろ。」

「て・れび?。」

「かめら、えでぃ?。」

「いや、とぼけなくていいから。」


「もしかして、私たちがあなたをだまして楽しんでるとか思ってる?。」

「ちがうのか?だいたい出来過ぎじゃないか?どうみてもファンタジー映画に出てくるエルフにハーフリングと

中世風の町並みに魔法だって?。その特殊メイクはハリウッド製かい?とにかくカメラを止めてホテルに返してくれよ。」


「・・・すまんがな少年、あっ元少年。」

「・・・細かいね・・・。」

「わしゃ生まれてこの方ずっとこの顔と体で生きて来とる。」

「まじで?。」

「その方があなたにとって都合がいいんだろうけれど、現実をちゃんと見た方がいいわよ。」


うそ、だと思いたいけど体が現実を告げてくる。(おしっこいきたい。)


「・・・トイレどこですか?。」

「こっちよ、気分が悪いの?。」


席を立ち案内してくれる、扉の向こうの便器は陶器ではなく木製のようだった。


「!!!。」


この衝撃がわかるだろうか、自ら望んでそうなったのとは違うのに、おちんちんが無くなって、

見えないところからおしっこが出てる感じが、どれだけか。

しかも立ってたからいろいろ濡れることになる。それもまたショックだった。


状況を察したのか、ラーネさん(さっきホビットのおっさんがそう呼んでた)が

助けに来てくれた、戸惑うばかりの俺に優しく声をかけてくれる。

あんな態度をとった後なのにそれは親身に接してくれる。寝かされていた部屋に

戻り、替えの下着とスカートを貸してもらって着替えも手伝ってくれながら励ましてくれる。


「ごめんね、元に戻れる方法考えようね。」

「うん。」


リビングに戻り小さい親父が、ちらっと俺の下半身を見たがそれにはふれずに、

カップの中身を飲み干して、椅子から降りた。出口に向かいながら


「さて、わしの家に泊めるわけにはいかんから頼むぞ。」

状況を察したのか、小さい親父も心配そうにしながら帰っていった。


行き場のない俺はそのまま彼女の家にやっかいになることになった。

その後、ともかくこの躰になれないといけないということで、二人でお風呂に入ることになった。

いろいろ覚えとかないといけないことがあるらしい。

エルフのラーネさんは美人だしこういう状況でなければとっても嬉しい状況なんだろうけど…なんか悔しい。


その夜はベッドが一つしかないという理由からか、お風呂の続きがあるからと一緒に寝ることになった。

少し期待した自分が恥ずかしかったけど、ほんのりとした暖かさが深い眠りに誘ってくれた。


翌日夢じゃないことを確認した後に、ラーネさんと朝の食事をしながらこの世界でどう生きていくか話し合った。


「とにかく身分証明書がいるわね、ギルドに行きましょう。あなたは私の妹の娘ということにしておくわね。」

「ギルド、ですか?。」

「魔法職のね。エルフの大使館に行くわけにもいかないし、冒険者ということにしておく方がこの世界を旅するには都合がいいからね。」


冒険者、ますますゲームじみてきたなぁ…と考えながらふと思い出した。

MMORPGというジャンルのゲームで自分の操るキャラクターに女性を選ぶ男性ゲーマーのことを「ネカマ」と呼ぶことを。

リアルネカマだ。あっでもリアルだとオカマかあれ?…と自分で考えて落ち込むことになった。


魔法なんて使えるのかなぁと聞いてみると、なんでも大気中にロヴィアと呼ばれるものがあり、

この不可視のエネルギーが魔力と呼ばれるもので、ある条件を満たせば使えるらしい。

ギルドに行くための服選び(女性にとっては大事なことらしい)のあいだにその辺りの説明を聞きながら実際にやってみることになった。


「まずは頭の中でイメージをするの、それを実体化させる為に言葉に出して、こういう感じに。」

「火よ。」


ラーネさんの左手の上に小さな火の球が現れた。

「やってみて。」


ちなみに火は料理にも使うのでできると便利なので、最初に覚えるに良いそうだ。


「火よ。」


やらなきゃよかった、というのは何でも終わったあとの感想なんだなと、

どうなったかって?。

一応家の外でやったんだよ、裏庭で昨日の俺の服なんか洗濯物が干してあったが

結果としては全部灰になった。それどころかお隣の家まで炎の海が迫って、

ラーネさんがあわてて大雨を降らして消し止めなければ、このあとここで暮らしていけないところだった。


「い…イメージが大きすぎたかもしれないわね。」


落ち込む俺を励まして、ご近所には謝り倒してくれたラーネさんとギルドに行ったのはその日の午後でした。


「魔法使い(メイジ)で登録していいんだね。」


ギルドの登録係のお兄さんが上目づかいで聞いてきた。


「ええ、あなたも名前を覚えておくといいわよ。稀代の魔術師になるんだからこの娘はね。」


ラーネさんはまだ少し焦げてる髪の毛の先を、その長くて白い指先でくるくるしながら俺の方を見ながらウィンクした。


「ほう、我が国にただ一人のエルフにして魔導師のラ-ネルッ・シュットハさんがそういうからには、

覚えておきませんと「シオン・ミナシロ・シュットハさんですね。」


「あっいいですよ。期待が大きいと潰されちゃいそうですから、流してください伯母さんは大げさなんだから。」


と俺も毛先が少し焦げてる髪の毛をいじりながら返す。

ギルドから身分証明証である紋章を貰い、ギルド会館を出る。


「帰りに服買わないとね、下着も可愛いの選ぼうね、何赤くなってんの?。」

「すいません、お金かならず返しますから。」

「…ああそんなの気にしないで、私はあなた達より長く生きてるからね。蓄えも多いんだから、

女の子の下着くらいお店ごと買えるわよ。」


そこ?問題点そこなの、店ごとの下着って異世界でいきなり店長ですか。

やってみたいかも~でも下着の知識がないよなぁ。

商店を何件かめぐり、日常生活に必要なあれこれを買い家に戻ったら、昨日の小さい親父が店の前で待っていた。


「あらエル待ったかしら?。」

「まぁな、ところでお前さんが調合に失敗するなんてな。

隣のオヤジが首ひねりながら話してくれたぞ、本当は何したんじゃ?。」

「まぁまぁ長くなるから中でね。」


そう言いながら裏に回ったら荷車が置いてあった。


「中で組み立てるから扉は開けたままで頼む。」

「なんです、それ?。」

「お前さんのベッドだよ、手伝えよ。わしひとりじゃ重いからなぁ。」


二階の物置を片付けて、ベッドを組み立て終わる頃に寝具が届いた。

買ってきた荷物を一瞥したおっさんが、~エルとか言ってたよなラーネさん。


「タンスもいるな、明日もってきてやろう。」

「ありがとうございます。」

「気にすんな、余りもんだ。」

「余り物?。」

「エルはね、家具屋さんなのよ。優秀な大工さんでもあるわね。」


リビングに移動して、昨日のテーブルを囲んで座り、お茶を飲みながら午前中に裏庭で起こったことを話した。


「なんとも凄いな。」

「偶然かもしれないけれど、確かめるのも怖くってね。」

「魔法はイメージとか言ってたよなぁラーネさんや、この[元少年]はどの位の火をイメージしたんだ?。」


元ってこだわらないでください、今でも心は少年です。


「えーとラーネさんの手のひらの火の玉くらいなんだけど。」

「それで裏庭全体を包む火の玉か?どんな魔法力だよ。」

「だからねエル、お店しばらく休むことにするわ。」

「うむ。」

「里に連れて帰ってちゃんと指導しないと、この街壊しちゃいそうだし。」

「いいのか?そろそろ帰ってくるころじゃぞ。」

「彼とは、また会えるし今はこの子の事のほうが大事だわ。」


こうして二日目にして俺はエルフの里に行くことになったわけだが、街に一つの薬屋がすぐ休めるわけもなく、

とりあえず一月は店を閉めることになるのでその為の準備に一週間をかけることになった、そんな時にその知らせは届いた。


6日目の午後にやってきたドワーフが、いつも仕入れをしてくれてたハンターが死んだことを知らせに立ち寄ってくれた。

僕はまだあったことはなかったが、朝からラーネさんがそわそわしてるのは感じていた。

「エル」に聞くと昔二人は恋人だったらしい。パーティを組んで旅をしていたことも教えてくれた。


ラーネさんがこの国にとどまっているのも彼の故郷がここであり、パーティが解散した後もここを起点に活動を続けたからだった。

一度は二人で暮らしていたそうだが別れたそうだ、ただお互いに嫌いで別れたわけではないので、

取引相手という形ではあったが交流は続いていたようで時には泊まっていくこともある大人な関係だったらしい。


実務的には仕入先が減ることになるが、それはギルドが調整してくれるので商売に影響はないーけれど。

店長であるラーネさんがあきらかに落ち込んでいると店全体が暗い。ラーネさんに午後のお茶を入れてから声をかける。


「今日はもう閉めましょうか?。」

「ああ、いやだめです。お客様に迷惑がかかりますから。」

「・・・まぁそうですけど、商品を渡し間違えた方が被害が大きくはないですか?。」

「いつ、私がそんなことをしました!。」

「開店後、二人目のお客様、5番目、8番目さらに10人目の女性の後は、

ほぼ全員の品物と請求金額とお釣りがーですけど。たぶん今日は金額があいませんよ。」

「数えていたんですか?。」

「見てられませんから。」


彼女はため息を一つつくと、店内を見回し


「言うとおりかもしれませんね、幸い今はお客様もいらっしゃいませんし、少し早いですが閉めましょうか。」


そういうとカウンターを出て、出入り口の扉に鍵をかけに行った。

僕も道路側の窓のカーテンを閉めて、在庫の確認を済ませて、帳簿と照らし併せて

次に金庫の金額を数えている彼女に渡して店内を掃除してカウンター以外の照明を消した。

店の奥に入り台所でお湯を沸かしてお茶を準備して、彼女に声をかけた。

帳簿と金庫を二階の自室になおして彼女は降りてきた。

お茶をカップに注ぎ、午前中にエルの妹さんが焼いたパイを切り分けて皿に載せてテーブルに出す。


「えっと、彼のこと聞いてもいいですか?というよりこういう時は話したほうが楽になるって母が言ってましたよ。」


彼女は自分の椅子に座り、お茶の入ったカップに目をおとして、語り始めた。


「ーエルフはあなた方ムゥーマに比べると長命すぎるんですよね。ですから何事も時間をかけて成すことが多いんです。」


遠くを見るような眼差しが可愛そうだった。


「彼とは、彼が十代の頃に出会いました。私も里から出たばかりでよくわかってなかったのです、

親から言われていた言葉の意味を」


「何て、言われてたんんですか?。」


「ムゥーマに惹かれても愛してはいけない」


「それはなぜ?。」


「時間の流れがちがうから。」

「当時は何を言ってるのかと」

「1時間は1時間。どの種族にも共通のはずですしね。」


「でも、ちがった?。」


「ええ、彼の一年は私の一ヶ月位に」


「それで?。」


「二人が出会ったのは偶然でした。」

「それから、特定のメンバーと旅をするようになり気がつくと。」


「お互いが必要な関係に?。」


「いつかは、こんな日が来ることは考えていました、いましたが・・・」


「お互いの気持ちは伝えていたのでしょう?。一緒に暮らすことはなかったのですか子供を作るとか?。」


「彼は考えていたのかもしれません。一緒に暮らしたこともありますよ。

でも子供は授かりませんでした。エルフとムゥーマで子供はできるんですけど、

東の王国は事実、王がムゥーマで后はエルフで王子、王女が生まれ代々続いてますし。」


そこでカップの口をつけると


「ああそうだ、シオンはこの町に来てから子供に会いましたか?。」


そう聞かれて、思い返してみるとーないー。

この町に子供の声が聞こえることはなかった。

自分のことばかりでそこまで考えられなかったのもあるけれど(ドッキリ)

じゃないかと疑ってたのもあるし、女の体に馴染んでないので外にでるのは怖かったし。


「今から200年ほど前から、子供が出来なくなっているんですよ、この世界ではね。」

「初めは、各種族の一部でしたが、またたくまに大陸全土に広まったので、

それでふだんいがみ合う種族同士でさえ話し合うことになったの程ですから。」


各種族?この世界にはムゥーマ(以下人間)、エルフ、ダークエルフ(エルフ亜種)、

ドワーフ、ホビット、オーク、ゴブリン、バーバリアン(ムゥーマ亜種)、レックス(爬虫類人)、

プランティク(植物人)などが主要な種族で国家を持っているという。

この中でレックスとプランティク以外が集まり協議した。

中でも繁殖力では他に秀でている人間との交配も試みられたが、僅か数年で混合種の生誕もなくなった。

いかに外見が似ていようとも、爬虫類や植物との交配はできなかった。

いや実際には試みたようだが流石に子供はできなかった。


次に彼らは増えないのなら減らさないようにできないかを考えた。

この中でもっとも短命なのは人間であった。その人生-平均で50歳、これはエルフの実に40分の1でしかない。


それに・・・やがては死んでしまう。大陸全土には話の通じない獣も多い。では、どうするか?

複製を創ればいいのではないか?神のまね事という倫理観が初め抵抗になるかと思われたが種の断絶という現実には抗えなかった。

エルフの知恵とドワーフの技や人間の努力様々な力を結集し、それは完成した。

簡単に言うとクローンである。

ただのクローンと違う点はこの肉体には魂が宿っていないことである。


しかも完全なクローンではなく、素体と呼ばれるものに遺伝子を組み込み促成するので、

遺伝子の提供者が登録をしてから30日ほどで元と同じものができるのだが、魂の定着がないとその後90日程で腐ってしまうのだ。

だから定期的な情報の登録と更新が必要になる。

元の体が使えなくなった場合、肉体を離れた魂を僧侶か神官が唱える呪文によって、

新しい複製された体に定着させることで生き返ることになる。


当然だが無料というわけにはいかないが、素体と呼ばれるものを使うことで大量に簡単に用意できることになり低価格化された。

さらにこの素体を生み出す際に研究した結果わかったことがあった。

それはレックスとプランテック以外は殆どの種が交配できる秘密である。

創造主(神)はムゥーマを元に各種族を生み出したということだった。


この方法で人口の減少は止めれるはずだったのだが、最近はそれでも生き返るものが減ってるというのだ。

なぜなのか、当初は魂の再定着に問題はなかったんだが、ここ2~3年はそれがうまくできなくなっており、

その代わりにシオンのような旅人が増えているらしい。

さらに、種族間での争いが激化しているそうだ。つまり再生がうまくいかず、それまでの権力者が死ぬことがわかったのだ。

種族を救うシステム=権力者が固定化されていた訳だが、それが無くなったのことで生き残りを賭けて戦いが起こるようになった。

なんか本末転倒のような話である。


「彼は戻らないの?。」

「たぶんだめだと思う。」

「再生というか復活はどこで?。」

「彼が登録場所を変えていなければ、この街の神殿で。」

「神殿には行ってみた?。」

「ええ、あれから毎朝、お店を開ける前に。」

「でも、再生の間に彼は現れない。」

「ただ、これでよかったのかもしれない。」

「どうして?。」

「無理に生きなくてもいいからね。」


悲しい答だった、もっとも俺のいた世界では甦れないが。


「死はこの世界ではどう考えるのかな?。消滅?転生?。」


「肉体が滅びることーだったよ?。魂は永遠で滅びることはなく、

次の世界に行くものとこの世界に残るものに分かれる。という考えが信仰の基本でどの種族も似たり寄ったりだね。

ただそこを人為的に壊したのが我々なんだけど、それも限界なのかもしれない。」


「そうだねぇ肉体の滅亡を再生した元の身体にそっくりな肉体に魂を戻してたんだから、

そのバランスが崩れて魂も消滅してしまったのかな?。」


「そう思いたくはないけれど、次の世界にいけたと思いたいね。」


まぁそうじゃないと救われないなぁ。と思いながらそれは流石に口にせず、

カップに新しいお茶を注いであげたあと自分のにも入れて口を付ける。


「神殿一緒に行ってもいいかな?。」


「これからですか?。」


「うん、その・・再生の間というか・・・」


「ああ見たことがないのだね。」


それじゃあ行こうか、と席をたつ。裏口から店を出て鍵をかけて、神殿に向かって歩いていく。


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