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竜魔玉  作者: 鈴神楽
3/14

ロンドンのビック・ベンと共鳴する、魔術師の呪文

ロンドンが舞台、王室と魔術結社が複雑に絡み合います

「霧のロンドンエアポート!」

 何故か空港で絶叫する良美。

 雷華が呆れた顔をして指差す。

「あれなんだ?」

 小較が肩を竦めて言う。

「何でも、MI6のダブルオー員の緊急呼び出しコードだって」

「えーと元ネタは、パタ……」

 何か言いかけた智代の口を塞いで較が言う。

「流石に、あれを小学生の前で言うのは、止めて」

 少し顔を赤くするエアーナが興味深げに言う。

「もしかしてエッチな本ですか?」

 難しそうな顔をして優子が言う。

「いわゆる男同士の恋愛が描かれている漫画で、けっこう過激な表現があるの」

 その後、口調が変わる。

「私も優子の部屋にあるのを読みました。この世界では、愛があれば、同性の生殖も可能なのですね」

 淫虫の魔王の言葉に大きく溜息を吐く風太。

「ああ、あれか、今だにやってるのか?」

 理解できない一部の人間を置いて、較達は、霧が深いロンドンに足を踏み入れた。



「今回は、場所も、持ち主もはっきりしてる」

 ホテルで一息吐いたところで較が説明を開始した。

「だったら、何の問題ないじゃん。ぶん捕りに行こう」

 あっさり言う良美に小較が呆れた顔をする。

「これだから、単純馬鹿な良美は、駄目だね」

「何だと、小学生!」

 良美が睨む中、優子が言う。

「もしかして、相手がかなり力を持つ組織なんですか?」

 較が頷く。

「イギリスでは、有名な魔術結社なの。『女王の王勺』って名前で、名前からも解る様に、王族と深い繋がりがある組織。八刃から交渉して、取り戻そうとしてるんだけど、中々良い返事が返ってこないの。いっその事、後回しにしようかとも思ったけど、次の竜魔玉が見つかるまで時間を余らせて仕方ないから、直接交渉に来たんだけど」

「白風の次期長が直接赴けば脅迫と取られかねないので止めてください」

 日本語の上手なイギリス人の青年が現れた。

「って言われて居るのよね」

 困った顔をする較。

 青年が頭を下げて言う。

「こちらで、『ホワイトファング』と言う白風の分家の組織を治めています、キバーノ=ホワイトです。白風の次期長とは、何度かお会いさせていただいた事がありますが、皆様とは、初めてと思います」

 簡単な自己紹介の後、良美が言う。

「それで、その女王の王勺って奴等は、何でそんなに竜魔玉に拘ってるんだ?」

 キバーノは、小さく溜息を吐いて言う。

「あれは、神器としては、かなり高位に分類される物です。あちらとしても折角手に入れた神器を易々と手放す訳には、いかないと言って居ますが、少し気になる事があります」

 較がいやそうな顔をする。

「もしかして、お約束の三大禁忌に関わる話?」

 キバーノが頷く。

 智代が不思議そうな顔をして言う。

「何、その三大禁忌って?」

 小較が手を上げて説明する。

「オカルト業界でも禁忌と言われる三大テーマがあるの。死者蘇生、不老不死、そして人工生命の製造」

「あくまで、表向きの話。たいていの組織は、一度は、研究してるし、成功例もある。ただ、その何倍も失敗例があり、とんでもない被害があるから、おおっぴらにされないだけだよ。しかし、女王の王勺なんて大きな組織が、今更、何でそんな下らない事をしてるの? あちきの記憶に間違いが無ければ、一通りは、成功して居たよね?」

 キバーノが王宮を指差して言う。

「王族の一人が、完璧な死者蘇生を要望しているらしいのです」

 目を丸くする較。

「冗談だよね? それって間違いなく大スキャンダルだよ!」

 雷華が不思議そうな顔をする。

「さっきまで、普通にやっているって言ってたのに、どうしてだよ」

「オカルト業界みたいに閉鎖的世界ならともかく、表の権力者が三大禁忌に触れるって言うのは、影響が大き過ぎるの。万が一でも死んだはずの要人が生き返ってみなよ、それだけで物凄い騒動になるから」

 較の言葉に優子が嫌そうな顔をする。

「考えたくもありませんよ。でも、相手だってそれくらいは、承知しているんでしょ?」

 キバーノも頷く。

「問題の相手が、王子の愛人らしい。一応は、一般人なんだが、事故で死亡。死体の損傷も酷く、時間も経過していたため、従来の方法では、難しいらしい」

 眉を顰める較。

「何かがおかしくない? 幾らなんでも、それで八刃を敵に回す程、女王の王勺は、馬鹿な組織だとは、思えない。何だったら、八刃で、蘇生が可能な筈」

 キバーノが首を横に振る。

「問題の人物が、女王の王勺の盟主の孫の一人らしい。自分達の権力と実力誇示の為にも自力での蘇生を成すつもりみたいですよ」

「くだらなーい! 実の孫をそんな事に使うなんて何を考えてるの!」

 良美があからさまな嫌悪感を示す。

「実際問題、死者蘇生なんて本気で出来るのか?」

 風太が真面目な顔をして質問して、エアーナを本人に気付かれない様に見たことから、大体の予想は、出来たので較が即答する。

「死者は、蘇らない。新しく全てが同じ人を製造するだけ。どうなに上手く作っても、死んだという事実と作られた事実だけは、消えない。だから八刃の盟主とも呼ばれる事がある、あちきのお父さんがお母さんを蘇らせてないんだよ」

「そうだよね……」

 少し寂しそうな顔をするエアーナ。

 そんな中、キバーノが言う。

「それでも、王室の要請に答えて完璧な蘇生をさせた実績を残したいというのが女王の王勺の考えで、その為にも竜魔玉の返却には、応じられないって言うのが本音の様ですよ」

 較は、立ち上がる。

「強引に奪回する。後始末は、面倒だけど、やらせて誰も幸せになれない」

 キバーノがその前に立ち言う。

「白風の次期長、貴女も自分の立場をお考え下さい。ここで強引な事をすれば、八刃の立場が悪くなるのは、解るはずです。せめて、奴等の馬鹿な行為が終るまで待つのが大人の対応だと思われます」

 較は、笑顔で答える。

「そうだね。相手に一生残るトラウマが残るのを知りながら見てみぬ振りしてでも、組織の立場を考えるのが大人だよね。でもね、あちきは、まだ子供なの。自分の不始末で起こる不幸を止めるのに躊躇するつもりは、無いよ」

 キバーノが必死に言う。

「せめて、二日だけ待って下さい。完全の蘇生となれば、最低でも一週間は、かかる筈です。それまでに返却要請を行いましょう」

 視線をぶつけ合う二人。

 そして、先に折れたのは、較だった。

「了解。でも、死者蘇生が成る前に、回収するのだけは、譲らないからね」

「ありがとうございます」

 キバーノは、ホテルの部屋を出て行く。

 較が小さく溜息を吐いて言う。

「あの人も、若くして組織を継いで大変なのに、余計な苦労させてしまってるな」

 風太が驚いた顔をする。

「お前もそんな周りの事を気にする事があるのか?」

 睨む較。

「それってどういう意味ですか?」

 風太が苦笑しながら言う。

「お前の武勇伝を色々聞いてるからな。山一つ消滅させた時は、ストレスの入院で病院一つが埋まったって、有名な話だぞ」

 較は、視線をそらして言う。

「そうだ、時間も出来たことだし、観光にでも行く?」

 苦笑する一同であった。



「本当に長い帽子をかぶってる!」

 嬉しそうに王宮を警護している衛兵を見る小較。

「フィッシュ・アンド・チップスって、不味いって本当だね」

 良美の言葉に雷華も頷く。

「もう少しまともな物ないのかよ」

 そんな事を言い合う二人を見ながら、歴史的な建物をチェックする優子とエアーナ。

「ねえ、一つ気になったんだけど、あれ何?」

 智代は、何気なく、自分達を見る数人のスーツ姿の男を指差す。

 較は、フィッシュ・アンド・チップスをどうにか美味しく食べる方法が無いかを考えながら言う。

「あれが有名なMI6だよ。有名な007なんかが所属しているイギリスのスパイ組織のメンバー。一応軍人で、王宮と繋がりがある。女王の王勺からの協力要請であちき達を監視してるんじゃない」

「スパイに尾行されている事は、フィッシュ・アンド・チップスの食べ方よりどうでもよさそうな事の様に言うな」

 風太の言葉に較が平然と答える。

「スパイに尾行されているなんて日常茶飯事だからね」

 その時、携帯が鳴り、較がとる。

『女王の王勺は、既に死者蘇生の為の悪魔契約を終えている』

 それだけを言って切れる携帯。

 難しそうな顔をする較。

「どうした?」

 良美の言葉に、較が携帯で電話をかけ始める。

「キバーノさん、これから女王の王勺の本部に向かうから」

『ちょっと、待って下さい』

 慌てるキバーノ。

「あちきに悪魔契約による死者蘇生が終ったってタレコミがあったって、通知だけだしておいて」

『本当ですか?』

 キバーノが驚き、直ぐに答える。

『解りました。しかし、私の部下をやりますので、それと一緒に動いてください』

「了解」

 較は、携帯を切ってから良美達に答える。

「情報源が不明なタレコミが来たよ。はっきり言って怪しさ爆発だけど、本当だったらほっとけないから女王の王勺の本部に行く。でも、罠の可能性も高いし、そのまま竜魔玉ゲットって流れになんないだろうから、あちきだけで行くつもりだけどどうする」

 良美が即答する。

「あたしは、ついてくぞ」

 他のメンバーも相談し、代表として優子が答える。

「白風と大門さんだけいかせる訳には、行きませんから一緒に行きます」

 こうして、較達は、女王の王勺の本部に向かった。



「白風の次期長、話は、聞いておりますが、完全なデマ情報です」(英語)

 そう言って、女王の王勺のメンバーが立ち塞がるが較は、笑顔で言う。

「それを確認させてもらいます。邪魔をしても良いですが、怪我しますよ」(英語)

 女王の王勺のメンバー達が目で合図を送り、呪文を唱える。

『始まりの樹よ、その力を示せ』

 床に魔方陣が輝き、光の触手が較達に襲い掛かる。

『タイタン』

 較が地面を連続して蹴り付け、その衝撃波を周囲に放ち、擬似地震を起こして、魔方陣を破壊する。

「力尽くで、良いって判断で良いですよね?」(英語)

 較の笑顔に女王の王勺のメンバーが冷や汗を垂らす。

「あれって絶対に脅迫だよね」

 智代の言葉に良美が答える。

「ヤヤって何時もあんな、さも相手が選んだって風にしてるんだよな。結果が変わらないんだから、問答抜きでやれば良いのに」

「色々事情があるんです!」

 小較が反論する。

 そんな会話に頬を掻きながら較が言う。

「出来れば平和的に解決したいんですけど?」(英語)

 較達の前に道が出来た。

 そして、気配を辿り、奥に向かうと、そこには、明らかに破壊が行われた跡があった。

「召喚した悪魔の暴走だよね?」

 較の問い掛けに、少し前に到着したキバーノが答える。

「我々に嘘を吐いて居た様ですね」

 キバーノの顔に今まで見せてなかった凄みが生まれる。

「命令に従う必要は、無い。しかし、騙してただで済むと思って居たのか?」(英語)

 キバーノの殺気を籠めた言葉に女王の王勺が恐怖し、この場に居る責任者が慌てて弁解する。

「これは、女王の王勺の総意では、ありません。盟主の一存で行われていた事です!」(英語)

「だったら、その盟主は、何処だ?」(英語)

 キバーノの質問に躊躇しながら女王の王勺側が答える。

「悪魔の暴走で死亡しました」(英語)

 疑いの目を向けるキバーノに較が言う。

「多分、本当だよ。タレコミも反盟主派の人間が、盟主が死んだのをいい事に盟主派の壊滅を狙ってしてきたんだよ」

 キバーノが荒んだ顔で言う。

「組織内の争いに俺達を使おうだと、良い根性だな」(英語)

 恐怖する女王の王勺。

「ここは、キバーノさんに任せて、あちき達は、竜魔玉の探索を始めよう」

 較はそういって探索を開始する。

 竜魔玉自体は、あっさり見つかったが、較は、それを見ずに言う。

「ここには、竜魔玉が無いね」(英語)

 エアーナが首を傾げる。

「無いって、そこに……」

「見つかるまでに呼び出された悪魔が見つかれば、ついでで倒しますか」(英語)

 較の発言をエアーナが訳すと雷華が手を叩く。

「なる程、悪魔退治を優先するって事だな」

 風太が苦笑する。

「竜魔玉が見つかったら関わる言い訳が無くなるから、わざと見つからないふりをするなんて、意外と大変みたいだな」

 こうして較達の悪魔の探索が始まる。



 駆けながら較が言う。

「かなり強力な気配。高位の悪魔を呼んだみたいだね」

 優子が手を上げる。

「一つ聞いていいですか? 悪魔って何なんですか?」

 較が答える。

「三種類居るよ。一つは、単なる悪意がある異世界の存在で、異邪の一種。他の二種は、高位悪魔と呼ばれるのが大半で、神の使徒。一種は、人に悪徳を知らしめるための必要悪として存在する悪魔。もう一種が面倒、神々の中でも意見の相違から派閥があって、弱い方の派閥の神の使徒で、契約による人の意志力を強奪し、力を集める仕事をしている。これだと、本来守るべきルールとかも無視してくるからヤバイんだよ」

 エアーナが唾を飲み込み言う。

「それで今回は?」

 較が溜息を吐いて言う。

「十中八九、最後の奴」

 そして、較が扉を開くと、高貴そうな男に襲い掛かる醜く変化した女が居た。

『邪魔をするな!』

 その女が無数のハエを放ってくる。

『アポロン』

 両手で発生させた高熱を掛け合わせて、更なる高温を生み出して、ハエを全滅させる較。

『流石は、人外八刃。しかし、ベルゼブブの名にかけて負ける訳には、いかない』

「正解だった」

 較が溜息を吐く。

「ベルゼブブって強いのか?」

 雷華の言葉に、優子が言う。

「空港で話題になった漫画にも出てきました。魔界の四大権力者の一人らしいです」

「あたしが聞いた話だと、そこらへんの悪魔は、反抗勢力の神の高位使徒の場合が多いって」

 小較が言うとエアーナが言う。

「それって強いんですか?」

 較が言う。

「ベルゼブブそのものが相手だったら、勝つには、八刃の長クラスが出ないと不可能と呼ばれる世界だよ」

 青褪める一同。

「おい、下手な意地を捨てて、逃げた方がいいんじゃないのか!」

 風太の言葉に較が言う。

「大丈夫、所詮は、その力で蘇ったゾンビがベルゼブブの力を借りているだけだから。楽勝とは、言わないけど、負けないよ」

 鋭い目をする較。

『舐めてくれる!』

 ベルゼブブがその口を大きく開けて、巨大なハエを生み出す。

 数体の巨大ハエは、四方に分かれて、結界を張る。

『我が古代神魔法の前にお前の力が通じるかな?』

「どうなった?」

 良美の質問に較が答える。

「動かないで、無数の毒がこの結界に埋め尽くされてるから」

 怯む一同。

「小較、周囲を守っていてね」

「解った、任せて!」

 小較が自分の意志力を高める。

『サクンチュアリ』

 小較の撃術で、毒が遮断されたのを確認してから較が自分の周囲い気を張り、毒を弾きながら突撃する。

『これを防げるか!』

 小ハエが、較に襲い掛かる。

 較は、髪の毛を抜き放つ。

『ベルゼブブ』

 髪の毛がハエを迎撃する。

「偶然、同じ名前だ」

 変な事に気付く良美に小較が言う。

「別に偶然じゃ無いよ。白風流撃術のベルゼブブもあのベルゼブブのハエ攻撃をイメージしてるもん」

 そんな会話があったが、較は、接近し、一気に攻める。

『オーディーン』

『食らうか!』

 ベルゼブブに侵食された女が背中に生やしたハエの羽根で飛ぶ。

『アポロンビーム』

 較が指先から熱線を放ち、羽根を撃ち抜く。

『まだだ!』

 至近距離で、凄まじい量のハエを放つベルゼブブ。

『ハーデス』

 較の拳にハエが集まる。

『ゼウス』

 ハエが集まった拳に雷を宿し、そのままベルゼブブに侵食された女を撃ち抜く。

 壁まで吹き飛ぶ女に一気に止めをさそうと較が接近した時、高貴そうな男が立ち塞がる。

「彼女は、殺させない!」

 較の動きが止まり、悔しそうな顔をした。

『お前の魂を摂り込み、こいつを滅ぼす力を得る!』

 女は、そう言って男を変化した口を拡げて食いつこうとする。

 較は、意外そうな顔をしたが、直ぐに反応する。

『トール』

 雷撃を宿した踵落しが女の頭を粉砕した。

 呆然とする男。

 その後、女王の王勺のメンバーが来て、後処理を行い、較達も竜魔玉を回収した。



 空港で較が手を合わせる。

「ゴメン、あちき、出国手続きに失敗したの。先に次の目的地に向かって」

 智代が肩を竦める。

「もう、ヤヤもドジなんだから」

「小較、皆の護衛、お願いね」

 較の言葉に小較が拳を握り締めて言う。

「任せて!」

 そして飛行機に向かおうとした一同だったが、良美が戻ってきて較の顔を睨む。

「本当の事を言え!」

「何の事?」

 笑顔で誤魔化そうとする較の頬を良美がぶつ。

「もう一発要るか?」

 較が顔を引き攣らせている間に、他のメンバーも戻ってくる。

「何をやっているんですか?」

 優子が慌てる中、良美が言う。

「この馬鹿が、あたし達に隠し事してるからだ。今回の事のやり残しがあるから残るんでしょ?」

 元クラスメイト達に見られて、較が視線を逸らす。

「諦めろ、正直に言わない限り動かないぞ」

 風太の言葉に較が大きく溜息を吐く。

「あんまり知っても気分良い事じゃないよ」

「関係ない。今回の事は、全部一蓮托生なんだ」

 良美の言葉に他のメンバーも頷いた。

 そして較が話し始める。

「始めに違和感に気付いたのは、ベルゼブブに侵食された人と戦った時に居た人、王子があちきの前に立ち塞がった時」

 智代が言う。

「でも、元々愛人だったと聞いてますから、そんなにおかしい事じゃないんじゃない?」

「立ち塞がった事が問題じゃ無いの。あの時、その前みたいにハエを放って攻撃してきたら、あちきは、あの王子を守る事が出来なかった。相手も王子越しにこっちを攻撃した方が確実だった筈だし、パワー的には、あっちが上だったから無理に王子を取り込む必要なんて無かった」

 較の説明に雷華が言う。

「確かに言われてみれば不自然だ。あの状況でエネルギー確保なんて隙を見せたらヤヤに攻撃されるだけだ。現にそれで滅びてるしな」

「でも、ある条件さえ変えれば納得いくの」

 較の言葉に小較が首を傾げる。

「ある条件って?」

 躊躇するが良美に睨まれて較が言う。

「暴走なんてしてなかった。王子の愛人は、ベルゼブブに取り込まれたふりをして、自分の祖父を滅ぼした」

 驚く一同。

「でも、どうしてそんな事を!」

 優子の言葉に較が言う。

「その理由を調べて貰っているんだよ。その答えがあと少しで解るからそれを聞いてから移動しようと思ったの」

 良美が呆れた顔をした後、頭を掻いて言う。

「最初から言ってよ、チケットの取り直しじゃないか」

「ゴメン」

 素直に頭を下げる較。



 そして、空港のVIP用の待ち合わせ室で、キバーノが調査結果を報告する。

「白風の次期長の考えが合っていました。女王の王勺は、王子を取り込む為に盟主の孫娘を使って魔術儀式を行おうとしていました。孫娘は、それに反発し全てを王子に打ち明けようとして、組織に事故に見せかけて殺されたみたいですね」

「最低!」

 智代が顔を吐き捨てるように言った。

「あの死者蘇生ですが、元は、孫娘が考えて居た物らしく、死ぬ直前に自分にもしもの時の為と色々と事前準備を済ませていたみたいです」

 キバーノの言葉を聞いて較が言う。

「詰り、自分が殺される事も予測し、死後の自分の死すら利用しようとする祖父を殺す準備をしていたって事だね。そして、王子が自分の事を引き摺らないようにタレコミであちきを呼んで、最悪な形で滅びる事を選んだ」

 沈黙する一同。

「人の愛する心とは、死すらも超越する物なのですね」

 優子の口を借りた淫虫の魔王の言葉が全てをあらわしていた。



 こうして、三つ目の竜魔玉を手に入れた較達であった。

 竜魔玉を集める困難は、増える一方であった。

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