古都の寺院で合わさる、僧侶の御経
京都の寺院の数は?
「ここか!」
清水寺の舞台に駆け込む、良美が叫んで、計器を見て舌打ちして、携帯を取り出す。
「ここも終わった後。次は、何処!」
『次は、建仁寺をお願いします』
電話口から優子の声が聞こえ、同時にメールが届く。
良美は、メールを開いて道順を確認して走り出す。
「絶対に見つけてみせる!」
この時、良美以外の五人も京都の寺院を駆けずり回っていた。
どうしてこんな事になったかというと、そこには、日本ならでは、横のつながりがあった。
京都の一休寺に較達が来ていた。
「下手な誤魔化しは、止めてくださいね。こちらの寺に竜魔玉が運び込まれたのは、既に確認済みです。大人しくだしてくれますよね?」
笑顔で告げる較に対して、住職は、申し訳なさそうに言う。
「本当に申し訳なく思われますが、その竜魔玉ですが、我が寺だけでは、清めきれず、他の寺にもご協力をお願いしたしだいです」
それを聞いて較が小さく溜め息を吐きながら言う。
「解りました。それでその寺とは、どこですか?」
それに対して住職が悩みながら言う。
「今は、何処を回っているかは、解らないのですよ」
それを聞いて較が戸惑った。
「何処を回っているかと言うとまさか、何箇所も回っているのですか?」
住職が頷き答える。
「京都中の寺を回して、清めることになっております」
較が沈痛な表情で黙ると良美が言う。
「しかたない、回るしかないか」
それを聞いて優子が言う。
「回るって京都に寺院がいくつあるか知っているの?」
智代が嫌そうな顔をして言う。
「いっぱいありそう。何十も回るの嫌だよ」
雷華も頷く。
「そうだな。七人で割っても、十以上回る事になりそうだな」
較も優子も何も言わない事に小較が首を傾げる。
「大変かもしれないけど皆で回ればすぐだよね」
それに対して優子が溜め息混じりに言う。
「京都の寺院の数は、二千五百を越すのよ。とても七人で回れる数じゃないわ」
較が嫌そうに言う。
「解った、八刃から人を呼ぶしかないわね」
それを聞いて住職が言う。
「八刃のお人が大量に流れ込めば、京都の術的防御が壊れる事になりますから、避けて頂きたいのですが」
較が引きつった笑顔で言う。
「詰り、竜魔玉を探すのは、止めろというのかしら?」
それに対して住職が首を横に振る。
「そんな事は、言いません。ただ、探されるのでしたら当事者の貴女達だけにして頂きたいと言っておるのです」
較が頷く。
「貴方達の算段が読めました。しかし、そんな事をしてただで済むと思っているんですか?」
住職が手を合わせて言う。
「全ては、御仏の命ずるままに」
一休寺を出た後、優子が言う。
「相手の思惑って何なのですか?」
較が不機嫌そうに言う。
「竜魔玉を使って特殊な儀式を行おうとしているの。京都の寺院全てを巻き込んだ大掛かりな物だろうけど、問題が一つ。その儀式が完成された後に竜魔玉を封印したら大惨事が起こる可能性があるって事」
智代が驚く。
「どういうこと?」
小較が解説する。
「儀式が成功して何かしらの効果が発動した後に、儀式の触媒の力が途絶えたら、その効果も失われる事になるの」
エアーナが言う。
「そんな危険な事をどうして?」
較が溜め息混じりに言う。
「日本には、助け合いとか談合とかあってね。京都に大惨事が起こると解っていたら、竜魔玉を封印するなんて事は、しないって思ってるんだよ。実際に、規模にもよるけど、京都に障害が出るような事になるんだったら、竜魔玉の封印のやり方を考え直さなければいけなくなるよ」
雷華が言う。
「奴らは、そんなふざけた事をされて、八刃が黙っていると思っているのか?」
較が言う。
「あっちは、あくまで偶然そうなったと言う主張を繰り返し、八刃に対して反意は、無いって態度をとる。いわゆる玉虫色の解決を狙っている訳」
風太が苦笑する。
「日本の古きヨキ風習って奴だな」
嫌味混じりの台詞に較が頷き、怖い顔をして言う。
「寺院の十や二十潰せば儀式が行えなくなるよね」
優子が言う。
「そういう怖い発想は、止めてください!」
較が不服そうに言う。
「京都その物を破壊尽くすよりましだと思うけどな」
智代が呆れた顔をする。
「どっちもどっちよ」
「しかし、このまま奴らの思惑通りに進ませるのか?」
雷華の言葉に良美が握りこぶしを突き上げて言う。
「あっちがその気なら、こっちは、無理でもこの七名で止めてやろうじゃないか!」
優子が顔を引きつらせる。
「本気でやるの?」
良美が頷く。
「もちろん。ヤヤ、あたし達でも竜魔玉の有無が解る装置を作ってくれ」
それを聞いて較が諦めた顔をして言う。
「それが一番、被害が少ないね。儀式が行われたかも解る装置を作らせるから、準備を開始しよう」
こうして較達は、京都を舞台にした寺院巡りの竜魔玉追いかけっこが始まった。
始まるにあたって、状況把握の為に優子がホテルで寺院マップとにらみ合いをする事になった。
「かなりの数の寺院がもう終わっているみたいね」
そして新たに較から電話が入る。
『儀式の関係か、随分といりくんだルートを通っているみたいだよ』
較から入った情報を元にチェックしていき、優子が言う。
「解りました。こっちでも意味を調べてもらいます」
そういって、インターネットで経過を八刃の術式解析の専門家に通知する。
「かなり、疲れてきたみたいだな」
風太の言葉に優子が頷く。
「白風さん達は、まだ余力があるみたいですが、空天さんや緑川さんは、限界に近いみたいです」
風太が頬を掻く。
「俺も参加したいのは、山々だが、ここで他の面子が入ったら抗議の対象になりそうなんでな」
優子が悲しそうな顔をする。
「向こうは、こっちの善意を信じて危険を伴う事をしているというのに、こちらは、最悪なケースを考えて打てる手が限られてくる。不合理ですね」
風太も嫌そうな顔をして言う。
「そこが日本人の悪いところかもしれないな。相手の気持ちを考えて行動するのは、良いが、最終的に自分の良心が痛まなければ多少の悪事には、目を瞑ってしまう。悪いことを悪い事だとはっきりと言える奴が多ければこんな事態には、ならなかっただろうな」
優子が気を取り直して言う。
「愚痴を言っていても始まりません。頑張りましょう」
新たに掛かってくる電話の対応をする優子であった。
「もう限界……」
石段の途中でへばる智代に近くの茶店のおばさんが寄ってきて言う。
「そこのおじょさん、こっちでお茶をしていかんか? 丁度、冷たい水菓子がある」
「本当!」
目を輝かせて、茶店の水菓子トラップに嵌る智代であった。
「もっと頑張らないと」
次のお寺への道を確認するエアーナにお寺のお坊さんが来て言う。
「そこの外人さん、丁度、秘蔵の仏像が拝める時間なんだが、寄っていかないか?」
エアーナが頭を下げて言う。
「すいませんが、今は、時間がありませんので」
「そう言わず」
半ば無理やり引っ張られていくエアーナだったが、そこで見せられた見事な仏像に目を奪われる。
「凄いですね」
「そうだろう。元々この仏像には……」
開始するお坊さんの長い説明を聞き始めてしまうエアーナであった。
寺院の中で計器を確認していた雷華が言う。
「ここももう終わった後か」
頭を掻きながら次の寺院への道に向かおうとした時、尼さんが来て言う。
「あの、もしかして貴女は、恋をしていませんか?」
それを聞いて雷華が顔を真赤にする。
「してるわけ無い!」
雷華の答えが聞こえてないみたいに尼さんが言う。
「すぐそこで、良く効く恋愛成就の儀式があるのですが、やっていきませんか?」
少し沈黙の後、雷華が言う。
「何事も経験というから、ちょっとやってみるか」
そういって、案内された先には、不思議な注連縄の輪があった。
「ここから小石を投げて、見事注連縄を通過出来れば恋愛が成就するという言い伝えです」
それを聞いて雷華が小石を拾う。
「簡単じゃないか! まかせておけ!」
そういって投げた石だが、コースは、良かったのだが、注連縄が風で揺れて外れてしまう。
悔しそうにする雷華に尼さんが言う。
「惜しいかったですね。もう一度やるには、一番上の仏像に手を合わせてからとなっております」
それを聞いて雷華が駆け出す。
「直に戻ってくるからな」
完全に恋愛成就の儀式を成功させようとしている雷華であった。
「ここも終わった後か!」
良美は、計器を見て報告すると直に次の寺院に向かう。
しかし、その途中、不良に絡まれる修学旅行中の女子生徒を発見する。
「この忙しいときに!」
文句を言いながらもその間に入る良美。
「あんた達、何を考えてるの!」
「邪魔すんな!」
向かってくる不良を圧倒する良美。
「みたか、あたしの実力」
そこに警官が来る。
「君達、こんな所で何をしているんだ」
良美が余裕の態度で言う。
「あんた達、大人しく警察のいう事を聞くんだよ」
しかし、何故か警察は、良美の腕を掴む。
「何を言っているんだ、君もだよ」
慌てる良美。
「どうして、あたしは、あそこの女子を助けようとして……」
良美が指差した先に、助けたはずの女子生徒が居なかった。
「そいつが一方的に絡んできたんです!」
不良の言葉に良美が言う。
「何でそうなるのよ!」
それに対して警官の一人が言う。
「怪我の差を見ると、そっちの方が加害者に見えるんだが?」
怯みながらも良美は、主張をする。
「ちゃんと話を聞いてよ!」
警官の一人が頷く。
「はいはい。それじゃあ、交番でじっくり話をしようね」
「あたしは、そんな事をしている時間は、ないの!」
暴れる良美は、警官数人がかりで交番まで運ばれる事になるのであった。
「この道で良いんだっけ?」
不安そうな目で碁盤状になった京都の町に困惑する小較であった。
「残り時間も後僅かって感じだな」
走りながら較が呟く中、携帯がなる。
「良美から?」
走りながら携帯に出る較。
「何かあったの?」
『ヤヤ、助けて! 警官の人が放してくれない!』
思わず足を止める較。
「何をしたの?」
『不良に絡まれた女子を助けたら、何故かあたしが加害者にされてた』
良美の答えに大きなため息を吐いて較が言う。
「近くの警官にかわって」
較の言葉に従って近くの警官が出る。
『君が、この子の知り合いかね。こんな危険な人間を放置しないでくれるかね』
それに対して較が言う。
「十数える間にその子を開放しなければ、京都の信号が一つ消えるよ」
『何を言っているんだ!』
警官の文句を無視して冷静に十数えて、近くの信号に向かって技を放つ。
『フェニックスウイング』
燃え上がる信号の周りで騒ぐ人の声を聞かせてから較が言う。
「これは、十毎に続けるから」
『そんな事をしてただで済むと思ってるのか!』
警官の言葉に較が淡々と言う。
「事前通知済み。そのこは、ウエイトオブアース、指一本でも危害を加えたり、捕まえようとした場合は、如何なる報復行動も容認される事になってるんだよ。それより、もう直、次の信号がなくなるけど良いの?」
『待て! 少しだけ、待て! 一般常識で考えろ! そんな非常識な事が許されると思っているのか!』
警官の必死の説得に較が告げる。
「世の中には、非常識な事は、いくらでもあるんですよ。山が地図の上からも消えるとかね。どうしますか?」
『開放する、だから迎えに来てくれ』
警官の言葉に較が舌打ちする。
「下手な事をしたら、死ぬほど後悔する事になりますからね」
そして、指定された交番に向かった較だが、そこでは、警官が待ち構えて居た。
『大人しく投降しなさい。悪い様には、しない!』
スピーカーから聞こえる声に較は、溜め息混じりに言う。
「小細工しないほうが良かったのにね」
較は、正面から歩いて交番に向かう。
周囲の警官が一斉に確保しようとするが較の足は、止まらない。
数十人の警官を引きずり交番に近づき言う。
「さっきの電話の警官いる?」
それに対して警官達の視線が一人の警官に集まる。
「あちきは、忠告しておいたよね? どうしてこんな事するの? そんなに地獄が見たい?」
その警官は、拳銃を抜く。
「黙れ! 止まらないと撃つぞ!」
『アテナ』
較が唱え、歩き続ける。
そして警官が拳銃を連射する。
周りの警官が流血を覚悟したが、銃弾は、較に弾かれるだけだった。
「ヨシ、変な事に時間を使わせないでよね」
良美が手を合わせる。
「ごめんね」
そうして二人が出ようとした時、他の警官が拳銃を向けようとした時、較が腕をふった。
『ガルーダ』
警官数十人が吹き飛ばされ、壁に激突する。
「まだやるの?」
警官達は、涙目で首を横に振るだけだったが、較がこのトラブルで大幅にタイムロスをする事になった。
そして、一休寺の入り口に住職が立っていた。
「もう直ですね」
嬉しそうに呟く住職に声がかけられる。
「何がもう直なんですか?」
住職が振り返るとそこには、優子が居た。
「どうしてここに?」
動揺する住職の言葉に優子が答える。
「竜魔玉が輸送される経路を辿っているうちに解ったんです。これは、最初の出発点に一度戻る必要があると。本当だったら白風さんに来て欲しかったんですが、何かトラブルに巻き込まれたみたいで」
住職がその言葉に笑みを浮かべる。
「白風の次期長が居なければ問題ない。この儀式は、京にとってどうしても必要なのだ。京こそ真の日本の都。何時までも東の田舎都市にでかい顔をさせておけない。この儀式が成功すれば、人々は、自然と京を日本の中心と思うようになる筈なのだ!」
高笑いをあげる住職に優子が悲しそうに告げる。
「残念ですが、あたし達にも事情があります。竜魔玉は、返してもらいます」
それを聞いて住職が優子に掴みかかる。
「修行で鍛えたこの肉体で押し通すまで!」
その後の事は、到底口に出来る状況で無かった。
大阪の国際空港。
「それにしても、どうして委員長に手を出そうなんて馬鹿な事を考えたんだろうな」
雷華は、新聞に掲載された一休寺の住職による真昼の破廉恥事件の記事を見ながら言う。
同じ新聞を見ながら風太が言う。
「俺は、それよりも、交番を襲撃したヤヤの凶行が何処にも報道されていない事に八刃の怖さを感じるぞ」
較は、平然と言う。
「ヨシに手を出して、この程度で済んだって言うのに、掘り返そうなんて馬鹿が居ないって事ですよ」
「委員長、大丈夫?」
智代が住職の破廉恥行為を見たショックのダメージが抜けきれない優子に声をかけた。
「何とか。さあ次が最後です。頑張りましょう」
京都に大騒ぎを起こしながらも少女達は、次の目的地に向かう。
こうして、十二個目の竜魔玉を手に入れた較達が次の竜魔玉の探索に向うのであった。




