ベトナムのジャングルに住む、異能力者の嘆き
ヤヤの新たな戦いの旅が始まる
東京二十四区、東京湾の埋立地、竜夢区の中心部にある、白風の本家。
その蔵では、白風の高校二年の長女、較が一生懸命、探し物をしていた。
「ねえ、このデッカイ石版に付いたドラゴンボールっぽいの何?」
較の中学時代からの友達、緑川智代が蔵から出された一つの六芒星が描かれた石版を見せてくる。
それをハーフの少女、エアーナ=空天が言う。
「変な例えをしないでよ。ドラゴンボールなんてアニメみたいな物が実在する訳ないじゃん」
しかし較があっさり言う。
「それは、竜魔玉って言って、上位異界の竜魔神との契約を行う道具で、願い事と同時に世界中に飛んで行って、揃えると願いが叶うんだよ」
白けた空気が流れる。
眼鏡をした優等生風の友達、鈴木優子が引き攣った顔で言う。
「何の冗談ですか?」
較が肩を竦めて言う。
「本当。実際の話、その手のアイテムは、幾つか存在するの。一応理由があって、神々が設定したルールで上位世界の存在が、下位世界に干渉するには、それなりの手続きが必要なの。その儀式の道具で、それを満たす必要があるって事なんだけど、あちきに言わせれば、そんな苦労するくらいなら、自分達の力でどうにかした方が早いと思うんだけどね」
「所詮は、そんなアイテムに頼ろうって奴等は、自分に自信がないんだろう。吸血鬼の僕になる奴等にもお手軽に吸血鬼の力を手に入れようとして、命を落とす馬鹿もいっぱい居たからな」
友達の一人で、元吸血鬼ハンターの赤芽雷華がしみじみ言うが、智代が肩を竦める。
「お手軽に神器を貰いに来た雷華が言うと、説得力あるな」
そっぽを向く雷華。
「仕方ないだろ、自分の問題くらい、自分で解決する為の武器が欲しいんだから」
微妙な態度をとる雷華に首を傾げる智代にエアーナが耳打ちする。
「学校の部活のコーチと事件に巻き込まれたのが切っ掛けで、ラブラブみたいだよ」
智代が面白そうに頷く。
「詰り、ヤヤに干渉されて、二人だけの秘密な関係を壊したくないって訳だ。乙女だね」
「頼りっきりになるより良いだろう!」
顔を真赤にして怒鳴る雷華。
そんな平和な風景に笑みを浮かべながら較が蔵の中から目的の神器、心光刀を見つけ出す。
「見つかったよ。これが、持ち主の心の力を使って刀身を作る神器、心光刀だよ」
渡された神器を受け取る雷華。
「どうやって使うんだ?」
「呪文を唱えるだけ」
呪文を教える較。
『我が心を喰らい、魔を討つ刃を生み出せ、心光刀』
雷華が呪文を唱えると、普通の刀並みの長さの光の刀身が生み出された。
「流石は、元シルバーアイのマスター。並みの人間だと、小刀位が限界なんだけどね」
較がそう褒めて居ると、金髪なのに較の九歳の妹、小較がシャーベットの盛り合わせを持ってやってくる。
「希代子さんからもらった銀座の洋菓子店の物だよ」
智代が食いつく。
「高級品じゃない! ヤヤの叔母さんって凄いね!」
感激する智代を見て小さく溜息を吐きながら較が言う。
「それって、少し前に起こした問題のお詫び巡回に使った余りで、持って来た時には、小言を言われたよ」
エアーナは、シャーベットを食べながら言う。
「こんなに余るなんて、どんだけ迷惑かけてるの?」
遠い目をする較。
「昔の事は、忘れたよ」
そこに、奥で涼んでいた複雑な事情で較と一蓮托生な空手少女、大門良美がやって来て言う。
「前回って相手の事務所が入っていたショッピングモール一つを全壊させただけなのに、弁償もした上、お詫び巡回やったのか?」
優子が大きく溜息を吐いて言う。
「白風さんと付き合いに慣れて、一般常識からかけ離れてます。ショッピングモール一つ全壊させたら大事です」
智代がしみじみ言う。
「そうか、あのショッピングモールの全壊ってヤヤの仕業だったのか」
そんな多少非日常的な単語も飛び交うがここまでは、少なくとも較の傍では、良くある日常であった。
大騒乱の幕開けは、休んでいた良美が智代の弄っていた竜魔玉に気付いた所から始まる。
「それなに!」
触れようとした所で較が怒鳴る。
「ヨシは、触ったら駄目。下手な事をして封印が破れたら面倒なんだから」
「ドラゴンボールみたいで面白そうじゃ無いか」
良美が手を伸ばした時、慌てて優子がその竜魔玉が収まった石版を遠ざけようと掴んだ。
その瞬間、石版が壊れた。
『世界平和、その願い、聞き届けた。願いを達成したければ我が竜魔玉を揃えるが良い』
そのまま、竜魔玉が世界中に飛び散って行った。
優子が顔を引き攣らせて固まる。
「いけないんだ、いけないんだ!」
智代が囃し立てると優子が慌てて言う。
「あたしは、何にもしてませんし、願ってません!」
それに対して較が疲れた顔をして言う。
「優子の体には、淫虫の魔王が宿っているから、石版の封印に過負荷が掛かって壊れたの。そして竜魔玉は、その人の心の中で一番難しい願いを自動的に読み取って叶え様とするんだよ」
雷華が感心した顔をして言う。
「さすが委員長、世界平和を願ってるなんて、本気で優等生だな」
智代も驚く。
「そうだよね、委員長だったら、てっきり彼氏と両思いに成りたいって願いが一番大きいかと思ってた」
優子が顔を真赤にして言う。
「あのね、あたしが何時もそんな事を考えていると思わないで下さい!」
良美が言う。
「でも、一番の願いが世界平和だって言うのは、流石に無いだろ?」
的確な突っ込みに怯む優子。
「叶えるのが難しい願いだって事で、一番の願いって事じゃないよ」
較の解説に智代が優子の肩を叩いて言う。
「良かったね、両思いに成るのは、世界平和よりは、簡単らしいよ」
「何の救いにもなりません!」
涙目で怒鳴る優子。
そんな中、エアーナが言う。
「所で、飛び散った竜魔玉は、ほっておいていいの?」
較が難しい顔をしているのに気付いて良美が近づき言う。
「隠し事は、止めような。正直に話せ」
較が大きく溜息を吐いてから言う。
「あの竜魔玉は、願いを叶える力を得るために、人の欲望を吸収する。その際に、その人物に強力な力を授けるらしく、竜魔玉絡みで大事になると思う」
一気に顔を真青にする優子。
「あたしの所為だ!」
較が首を横に振る。
「儀式開始の条件である、七人の女性が集まってるのを忘れて放置してたあちきの責任。あちきが責任を持って回収するから気にしないで良いよ」
「そうか、八刃の組織力を使えば、楽に集められるよな」
雷華の言葉に、智代も頷く。
「そうだね、それじゃ後は、宜しくね」
気楽な雰囲気に戻りそうな所で小較が言う。
「でも、そういう儀式って参加者が揃ってないと駄目なんじゃない?」
視線が再び集まり、良美が睨むと較は、諦めたように頷く。
「回収の際に、儀式を行ったメンバーが揃って無いと、獲得の証明にならなくって、幾ら持ち主を倒しても別の持ち主の所に飛んで行く筈だよ」
重い空気の中、良美が言う。
「詰り、このメンバーで世界中に散らばった竜魔玉を探し出せば良いって事だな」
慌てて較が言う。
「そこ等へんは、最後だけ協力してもらえれば大丈夫。途中は、術でなんとか誤魔化すから」
軽く較の頭を叩く良美。
「変な遠慮をするな。どうせ、夏休みなんだから、バカンスだと思って皆で楽しもうぜ!」
他のメンバーも同意する。
そんな中、雷華が心光刀を見ながら呟く。
「楽な手段で力を手に入れようとしたら、こういう破目になるんだな」
智代も隣で頷くのであった。
「ベトナムって始めて!」
空港を出てはしゃぐ智代。
「こんな事をしていて良いのかしら?」
優子は、不安そうな顔をして言うと智代が言う。
「それじゃあ、あたし達が協力しないで、世界中のあちこちで大騒動になっても委員長は、良いの?」
怯む優子。
「でも、夏休みは、バイトする予定だったの。来年は、大学受験もあるから、今のうちにお小遣いでも稼いでおかないと……」
智代は、疑いの目を向け、そして一言。
「淫虫の魔王さん、本当の所は、どうなの?」
「バイト先のお兄さんと仲良くなって、もしかしたら一夏の体験を期待していました」
優子の中に潜む、恋愛を学ぶ為にやって来た淫虫の魔王が優子の口を使って勝手に答える。
言い終わってから優子が慌てて口を塞ぐが、後の祭りで、智代が肩を叩きながら言う。
「駄目だよ、そんなノーマルな夢想を抱いたら。どうせ、毎度の如く夢は、裏切られるだけだから」
「五月蝿い!」
優子が涙目で怒鳴る。
「ほら、遊んで無いで、行くよ」
海外に慣れているエアーナが呼びに来た。
こっちで合流したエアーナの保護者でもある、伯父の空天風太が運転するワゴンに乗り込む。
「また、大変な事に巻き込まれたな」
「お手数をお掛けします」
頭を下げる優子に風太は、気楽に言う。
「気にしなくても良い。俺も、八刃との関係が深いし、今回は、世界中を飛び回る事になるとしたら、流石に大人が居ないわけには、行かないだろうからな」
「所で、ヤヤと良美は、何時頃合流出来そうなんだ?」
雷華の質問に難しそうな顔をして風太が答える。
「あれは、核ミサイルより危険物扱いだから、簡単には、許可が降りないからな。それでも、明後日までには、合流出来るだろう」
「その間は、あたしが、皆さんを護ります!」
小較が健気に言うが、流石に小学生にそんな事を言われても説得力が無いので、曖昧な表情を返す一同であった。
一行が泊まるのは、現地の最高級ホテル。
そこのVIPルームを貸切になっていた。
「凄い!」
目を輝かせる智代。
「こんな所に本当に泊まって良いんですか?」
腰が引ける優子。
「金は、ヤヤが払うんだからいいんじゃないか」
前の仕事でこういう所にも泊まった経験がある雷華は、落ち着いている。
風太と一緒に色々な手続きを終えてやって来たエアーナが言う。
「取り敢えずは、ここで、情報収集をする事に成るから、皆は、休んでて良いって」
高級ソファーでくつろぐ智代が頷き、テレビをつけた。
すると、世界的にも有名なダンサー、谷歩進が来訪して事が報じられていた。
「あたし、この人のダンスって好きなんだよね。時間があったら、見に行きたいな」
智代がそんな暢気な事を言っていると、ニュースが始まる。
その中で、激しい銃撃戦が映し出される。
「やっぱりここらへんは、治安が悪いのね」
優子がしみじみと言っていた時、雷華が画面に近づく。
「どうしたの?」
エアーナの言葉に雷華は、画面に映るテロメンバーの一人を指差して言う。
「コレって竜魔玉じゃないか?」
全員の視線が集まる。
そのテロリストの首から下がっていたのは、確かに竜魔玉であった。
『調査結果から言うと、問題のテロ組織って言うか、部族は、ジャングルに住んでいた異能集団で今の政府から弾圧されて居たみたい。今までも反政府活動は、行ってたみたいだけど、ここ数日で大きな行動に出たんだけど、原因は、竜魔玉みたいだね』
ヤヤからの回答に優子が問い返す。
「それで、あたし達は、どうしたらいいの?」
『あちき達が到着するまで何もしないでくれると嬉しい』
ヤヤの答えに不満そうな顔をする智代に優子がフォローする。
「そうよね、もし確保が出来たとしても白風さん達が居ないと意味が無いから」
『そういう事。なんとか頑張って今日中に許可をもらってそっちに行くから、大人しく待っててね』
ヤヤは、そういい残し電話を切る。
「つまらないの!」
智代が文句を言うが、このメンバーでは、唯一のノーマルな人間のエアーナが言う。
「仕方ないですよ、相手は、政府に喧嘩を売ってる人達ですから」
そんな時に爆発が起こり、VIPルームに現地人と思われる人達が入りこみ、銃を突きつけてくる。
その中の一人、あのテレビに映っていた竜魔玉をつけた青年が英語で言う。
『大人しくしろ。お前達には、政府と取引をする人質になってもらう』(英語)
エアーナが他の人間に説明し、風太が言う。
「取り敢えず、大人しくいう事を聞いておこう」
こうして、優子たちは、自分達の意思とは、関係なく竜魔玉の傍に到達してしまった。
一つの部屋に押し込められる優子達。
小較が言う。
「あたしが、全部倒します!」
強気に言うが、優子が止める。
「駄目、小較ちゃんにもしもの事があったら、白風さんに申し訳がないもの」
「銃器なんてへっちゃらです!」
強気の小較に雷華が釘を刺す。
「駄目だ、奴等異能力者、それもかなり強力な力がある。それに厄介なのは、竜魔玉があいつの力を格段に増幅してやがる」
悔しそうな顔をする小較。
そんな時、例の男が入ってきた。
『お前達が何者かは、知らないが、こんな部屋に泊まる奴等だ、ろくな連中じゃないだろう』(英語)
不満そうな顔をして小較が反論する。
『銃を突きつけて、いう事をきかせようとしている奴に言われたくないよ!』(英語)
小較に銃を突きつける男。
『何だと!』(英語)
銃の前に出る優子。
『子供に銃、向ける、いけない』(英語)
拙い英語だが、その必死さは、伝わる。
舌打ちして男が出て行こうとした時、一人の女性が入ってくる。
『レンレ、止めて!』(部族語)
『リンリ、何で、ここに居るんだ!』(部族語)
驚く男、レンレに女、リンリが答える。
『レンレを止める為に決まってるわ! レンレが憧れていた、SUSUMUも来てる。一緒にダンスライブを見に行こうって言ってくれたじゃない!』(部族語)
その言葉に悔しそうにするレンレ。
『それが、俺に決心させた。この国の奴等は、俺達との約束を守る気も無い。必死に英語を習い、働いて溜めた金を騙し取りやがったんだ』(部族語)
『レンレ……』(部族語)
言葉を無くすリンリ。
『丁度良い、お前は、観光案内のバイトで日本語が出来たな。こいつ等は、日本から来たみたいだから、お前が見張れ』(部族語)
そして部屋を出て行くレンレ。
落ち込むリンリに優子が話をかける。
『どうしたんですか?』(英語)
リンリが日本語で事情を説明する。
「うーん、未だにそんな奴等がいるんだ」
驚く智代に苦笑するリンリ。
「私達の部族は、特別の力ある」
そう言ってリンリは、風を操って見せた。
「普通の人、これ怖がる」
自嘲気味な言葉に風太が苦笑する。
「確かに普通じゃないみたいだが、少なくともこの部屋では、その程度の事では、誰も驚かないぞ」
首を傾げるリンリ。
「小較、見せてやれ!」
智代に言われて小較が頷き、手を振る。
『ガルーダ』
突風が起こるのを見てリンリが目を丸くする。
「すごい、村でもこんな強力な風を起こせるの、レンレだけ」
優子が、遠い目をして言う。
「普通じゃない友達は、一杯居るの」
そんな事を話していた時、いきなり部屋中を煙が立ち込めた。
「何よ、これ!」
叫ぶ智代に雷華が答える。
「制圧用の煙幕だ。多分、政府の奴等が強行突入してくるぞ!」
その言葉が正しさを示すようにガラスが割れる音と共に、銃撃が鳴り響く。
そんな中、物凄い突風が起き、全ての煙幕と政府軍の人間を部屋の外に押し出す。
政府軍は、そのままホテルに隣接したプールに落ちていく。
『レンレ、大丈夫!』(部族語)
リンリが、レンレ達が居た部屋に行くと、そこには無数のけが人が居た。
その中央に立つレンレが怒りに顔を歪めて居た。
『奴等、絶対に思い知らせてやる!』(部族語)
その怒りに共鳴するように竜魔玉が輝く。
それを見て雷華が言う。
「止めないと駄目だな」
エアーナが慌てて言う。
「どうして!」
雷華が心光刀と構えながら言う。
「あたし達が解放した竜魔玉の力があいつを暴走させている。このままほっておいたら、多くの人間が不幸になる。小較、行くぞ」
「はい!」
小較も後に続く。
レンレの前に出て雷華が言う。
『お前の胸の玉は、あたし達の物だから返してもらう!』(英語、小較通訳)
レンレは、竜魔玉を握り締めて言う。
『返せない! これは、俺達の復讐に必要な物だ! 邪魔をするならお前らも殺す!』(英語)
強烈な突風が雷華と小較を襲うが、小較が素早くアクションを起こす。
『カーバンクルパラソル!』
対魔法逸らしの技で直撃を逸らすと、雷華が一気に接近する。
『我が心を喰らい、魔を討つ刃を生み出せ、心光刀』
光の刃がレンレに向かって振り下ろされる。
『負けるか!』(部族語)
レンレも両手に風を纏い、光の刃を受け止める。
二人の力が均衡を保っていた。
『俺は、負けない。部族の明日の為にも!』(部族語)
雷華が怒鳴る。
「何を言ってるか解らないけど、単純な戦闘力だけで何かを救えると思うな、ボケ!」
光と風が強烈になる中、風太が、後からレンレの首から竜魔玉を奪い取る。
一気にレンレの風が弱まり、雷華の心光刀に弾き飛ばされる。
残ったレンレの仲間が三人に攻撃をしようとした時、政府軍の第二陣が突入して来て、捉えていく。
そして、責任者風の男が風太に近づく。
『それを寄越せ。それは、我等が有効に活用する』(英語)
風太が頭をかきながら言う。
「軍人と政治家は、何処の国も一緒という事か」
軍人達が銃を突きつけ、責任者風の男が言う。
『大人しくいう事を聞いておいた方が身の為だ。外国人旅行者がテロに巻き込まれて死亡って筋書きでも私は、一向に構わないのだからな』(英語)
『もしも、それを実行したら、この国をあちきが潰すかもね』(英語)
いきなりの少女の声に驚き責任者風の男が振り返るとそこには、較と良美が居た。
「ヤヤ、どうしてこいつ等が、竜魔玉の事を知ってるんだ?」
雷華の質問に較が溜息を吐いて言う。
「あちきの入国理由に明記しておいたから、だけど、全部をこの人達に押し付ける算段だったみたいだね」
較の言葉に、責任者風の男が冷や汗を書く。
『こうなったらもう構わない! 皆殺しにしろ!』(現地語)
良美が肩を竦ませて言う。
「最悪の選択だな」
そして、政府の人間の殆どが地獄を見ることになった。
七人が揃ったところで、雷華が代表して、竜魔玉を触れると、それまで放っていた禍々しい光が消えた。
「これってどうするんだ?」
雷華の言葉に較がポシェットを取り出す。
「これに入れて。急ごしらえだけど間結に作ってもらった封印アイテムだから」
「とてもそんな大層な物には、見えないけど。最初に封印されていた石版は、駄目なの?」
智代の言葉に較が答える。
「技術は、日々進化してるの。どこにでも売ってそうな外見だけど、あの石版の何倍も強力な封印だよ」
竜魔玉を収めたポシェットを小較に渡す。
「これの護衛をお願いね」
小較が強く頷く。
「任せて、ヤヤお姉ちゃん」
そして、優子が言う。
「あの人達は、どうするの?」
較は風太に監視させている異能力者の部族の人々を見る。
皆、較の圧倒的な力に恐れているが、一人、レンレだけは、強い意志を残したままだった。
『殺すなら殺せ!』(英語)
慌ててリンリが言う。
「お願い、レンレの命、助けて」
ヤヤは、ホテルを脅して割り込ませたもう一つのVIPルームの隣の部屋に指差して言う。
「風太さん、すいませんが、お客さんが来るんで、隣の部屋に移してもらえますか?」
「構わないが、政府の人間か?」
「ちょっとした身内ですよ」
そう答えた後、レンレの前に行く。
『SUSUMU、TANIBASIRIのファンなんだって?』(英語)
レンレがそっぽを向いて答える。
『お前には、関係ない!』(英語)
較がリンリの方を向くとリンリが答える。
「ずっと、彼みたいなダンサーになりたいと言ってた」
レンレは、悔しそうに言う。
『五月蝿い! どんなに努力したって俺みたいな異能力者は、あの人みたいに成ることなんて出来ないんだ!』(英語)
較が肩を竦めて言う。
『結局、出来ないって諦めてグレたって落ちだね』(英語)
『お前みたいな奴に何が解る!』(英語)
怒鳴るレンレを無視して風太を促すと、風太は、レンレを抱えて隣の部屋に行く。
そして、チャイムが鳴り、客人が来た。
先頭に居るのは、そのメンバーのマネージャーの白人女性だった。
『この度は、ご招待、ありがとうございます』(英語)
それに対して、不機嫌そうな顔をする日本人の男、ニュースにも取り上げられていた世界的ダンサー、谷歩進が日本語でぼやく。
「金持ちの娯楽になんで付き合わないといけないなんて最低だ」
マネージャーの白人女性が軽く睨む。
「黙ってて、もし日本語が解る人だったら大変よ」
それに対して、較が答える。
「気にしなくても大丈夫だよ、知り合いだから」
その声に、進は、驚愕した。
「なんで、あんたがこんな所に居るんだ!」
彼の仲間が驚く中、較が淡々と答える。
「色々事情があってね。それより、なんであちきが貴方をここに招待したか解るよね?」
戸惑いながらマネージャーの白人女性が言う。
「あのどの様な知り合いなのでしょうか?」
そのまま近づこうとした所を進が前に出て押さえる。
「これ以上近づくな、マリン! こいつは、見かけは、小娘だが、怪獣より危険だ!」
「冗談だろう?」
進の仲間の一人が引き攣った笑みで言うと較は、手を振る。
『ヘルコンドル』
カマイタチが進達の後ろの壁を切り裂き、出口を塞ぐ。
一気に青褪める進の仲間達。
「こいつ等は、関係ない! 手を出すな」
進が較を睨みつける。
較は、頷いて、マリンと呼ばれた女性に部屋の片隅に置かれたアタッシュケースを指差す。
「開けてみなよ、米ドルで五千万ドルあるから」
信じられない思いで、マリンは、それを確認すると確かにそれだけの金額があった。
進の仲間達も驚く中、較が言う。
「さっき、進が言ったように貴方達には、関係ない話にしたいの。これから以降進と関わらないで貰うための手切れ金と思って」
進が悔しそうな顔をして何も言えないで居る中、マリンが言う。
「貴女が何者かは、知りませんがこのお金は、受け取れません。進は、あたし達にとって、大切な仲間なのですから」
他のメンバーも同意する。
「そうだそうだ!」
「化け物でも?」
較の言葉にマリンが問う。
「どういう意味ですか?」
較が説明を開始する。
「進は、あちき達、八刃に所属する者の一員で、谷走家の分家、谷歩家の人間。遺伝子から人間じゃ無い化け物なんだよ」
驚きの視線が進に集まる。
「嘘よね?」
マリンの言葉に進が拳を握り締めながら言う。
「本当だ。今まで黙っていてすまなかった」
ショックを受けるマリン達を見ながら較が言う。
「進、貴方は、目立ち過ぎた。八刃の長達の会議の中、貴方を始末しろって意見も出た。今戻れば谷走の長も命だけは、助けてくれるわよ」
「俺は、戻らない! 例え死ぬことになっても俺は、俺の道を進む!」
強い意志を籠めた瞳で答える進。
肩を竦めて較が言う。
「あっそ。それで、貴女達は、どうする? さっきの取引は、継続中よ。化け物と一緒にいれば危険なだけ、さっさと手切れ金を受け取った方が良いよ」
進は、振り返らず言う。
「そうしてくれ、今まで騙していた迷惑料だ」
マリン達は、暗い表情になる中、進が続けて言う。
「一緒にやれて楽しかった。俺は、俺でまた、一人で頑張るさ」
笑顔で振り返った進にマリンが言う。
「あたし達だって楽しかったわよ」
すると他のメンバーも同調する。
「そうだ、ダンスで世界のトップに立つって約束を破るつもりか!」
「お前達……」
進が泣きそうになる。
そして、較の方を向き、告げる。
「俺達は、どんな脅しにも負けない!」
その答えに、較は、隣の部屋に向かって言う。
『解った? 何かを一生懸命目指すってこういう事を言うのよ』(英語)
進が眉を顰めて言う。
「どういうことだ?」
較が舌を出して言う。
「ちょっと煮え切らない奴が居たから、丁度良い頑張ってる見本として来てもらったのよ。ありがとうね、ギャラは、先払いので良いよね。それって今回の事件の解決用のお金なんだよね」
にじり寄る進。
「さっきの話は、なんだったんだ!」
較が笑顔で言う。
「始末しろって話が出たのは、本当だけど、お父さんが釘刺して止めてたから実行される事は、無いよ」
「ふざけやがって!」
やり場の無い怒りを籠めて叫ぶ進であった。
『本当に大変だったのですね!』(英語)
苦労話を聞かされて感動するレンレに頷き進が較を見ながら言う。
『まあな、そいつには、出国しようとして始末されかけたからな』(英語)
「人聞きが悪いな。あちきは、不殺主義だよ」
較の反論に進が言う。
「そういってお前に人生を終らせられた奴等は、三桁ですんでるのか?」
「この間、退院した人が居たから、多分三桁に戻った筈だよ」
良美の答えに周りの人間も顔を引き攣らせる。
風太が来て言う。
「それで結局あいつらは、どうするんだ?」
較は、さっき見せたお金を指差して言う。
「今回の事は、大元の原因は、あちき達だから、あの金で政府に無かった事にさせる。そこから先は、あの人達自身の問題だよ」
風太は、目を輝かせて進達の話を聞くレンレ達を見て言う。
「あんな目が出来るようになれば大丈夫だな」
そして、その夜は、大宴会になるのであった。
こうして、一つ目の竜魔玉を手に入れた較達であったが、竜魔玉は、欲望を吸収して更に力を増大させていく。
これからの先、今回以上のトラブルが待ち構えている事になるのであった。




