完全球再生
――Nに捧げる。
蒼穹に射し込む透き通った光の輪っかが聖らな光芒を描いて、
いつまでも連続する世界に虚空を震わせる再生の感触を心の深淵で感じながら、
いつか涸いてしまうかもしれない覚束ない祈りを神経叢の深奥で懐いて、
けれど同時に君の生命をいつか壊してしまう哀れな連鎖を崩していって、
幾重にも重なった間違い探しの言葉を紡ぐことをいつでも考えている。
生まれた意味と柔らかい性衝動を一緒にして僕の胸臆にそっと忍ばせて、
君とともに繭の中で成長させていけたらいいなと思うのだ。
お互いを犯しあうみたいに可憐に咲き続ける花弁を傷つけたとしても、
鮮血を流し続ける八つ裂きの陥穽の埋没とともに、
いつか重々しい罪は晴れて、黎明たる意識がせりあがる。
それは鳴りやまない救済の交わりなんだ。僕たちは鳳凰になって翔けていくんだ。
再生の民の限りないキスシーンよ。獣の如く互いの軀を貪り続ける愛の交歓よ。
僕たちに決して揺らぐことのない祝福を、二度と離れることのない纜を与えてはくれないだろうか!
夢で終わることのない具現化する痛みを、真夜中の交媾を、僕たちに劈いてはくれないか。
そうすれば、淡い惑星のちっぽけな存在の僕だけど、きっとどこにいたって君を見つけ出すんだ。
見失いたくない愛の集積回路が流動する圧搾空気に飲まれて闇の底に落ちていったとしても、
厭な事象空間、悪意に塗れた嘘、罰の負圧、呪術めいた蛾の集団、
そして、狂ったままの感情を虚無的なブラックホールにぶつけて、夕嵐の彼方へ追い出そう。
そうしたらきっと僕たちに怖いことなんてなくなってしまうんだ。
瞼の内側に重なった風景は、青々とした梧桐の幹となって、
真赭に耀く落日を背景に、ずっと心の中に焼きついている。
深甚なオルガスムだって古の無感覚だって結局は子宮の王国の過去の歌。
恋人たちは楕円の鏡に取り込まれ、いつまでも幸せのまま昇天するんだ。
脱脂綿で育っているのは甘い甘い恋の胚芽。醇乎たる光彩のかたまり。
もし枯れてしまってもスカラベに象られた死と再生の繰り返しを辿って、黄泉の果てから蘇るんだ。
この世はいつまでも畢らない苦界だけど、どんな酷い葬殮だって、
きっとそれはどこまでも丸くなって、文字霊の完全球が樹つんだよ。
それは全ゆる障碍を乗り越えて、幾筋の暁を過ぎって、涙は滲んでも、倖せになっていく。
宇宙が闇に飲まれるならば、ロケットに乗って別の宇宙に脱出しよう。
そしてそんなSF小説の結末を楽しもうじゃないか。きっとハッピーエンドさ。
秩序の分泌――それは古い土器の破片と同じ。表面も内側も愛で満ち満ちているんだ。
奇跡はいつでも起こせるんだ。仰いだ天から奇跡の紐が低れているんだよ。
それを手繰っていけば、そこはきっと再生場だ。――破壊された想い出だって復活するんだ。
うん。そうさ。数年後きっと忘れてしまった君のことを憶いだすんだ。
再生される僕たちの記憶。それがもう届かないと思っていた魂の記録。
完全に再生したその亡き骸の完全球をいつまでも奏でていくよ。
だから君は何も惧れることはないんだ。心配しないで希望の朝を迎えたらいいんだ。
僕たちはそれを咀嚼しながら雪花石膏の時間を待ち続けるんだ。
たとえ地の涯海の涯真っ逆様に墜ちていこうとも。
どれだけの地雷原だってほんのつまらない冗談のように感じることになるんだ。もう不幸は霧散した。
閉ざされた宇宙の巨海にたった二人で生きていこう。