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王立学園七不思議  作者: 春呼


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王立学園七不思議


 はじめまして!

 私は二学年のヒューレン・フルヒトよ。

 ああそんなにかしこまらないで。どうか気を楽にして頂戴。私と貴方、寮でも同室なのよ。ふふふ! だからこれからよろしくね。

 さて、じっくりと腰を据えて親交を深めたい所ではあるのだけれど、後が閊えてはいけないから歩きながらお話しさせてもらうわね。これも規則で決まっているのよ。

 妙に細かく時間指定されていたでしょう?

 新入生が本格的に学園に通い始める前に幾つかの注意事項を伝えなければならないから、今日も私達含めて何組かのペアが案内する事になっているの。

 この学園は広いからすれ違う事はないでしょうけれどね。まあ、すれ違っちゃいけないのだけれど。

 あ、ごめんなさい!

 それじゃあ案内して行くわね!




【枯れる噴水】


 まずはここ、第二庭園にある噴水よ。

 庭園は他に第一と第三もあるのだけれど、噴水があるのはこの第二庭園だけなの。

 ……ええそうね、綺麗な所よね。

 ベンチもあるからか晴れた日にはここで昼食を摂る方も何人かお見掛けするわ。すごいわよね。

 それで、何故ここを最初に案内したかというと順路が決められているというのもあるけれど、注意して欲しい事があるからなの。


 今日案内する場所は全部そう。


 全部、すごく大事な話だから、しっかり覚えていってね。いいわね?


 ではまず──この噴水には一人で近付かないで。近付くなら必ず誰かと一緒にいて。噴水の周りに既に人がいるから大丈夫……なんて事はないわ。必ず、第二庭園に入る前から誰かと一緒でなきゃダメよ。これが一つ目。


 二つ目は──もし噴水が枯れていたら即座に離れて。その日はもうダメだから、誰かと一緒でもダメ。絶対に近付かないで。


 ここの説明は以上だけど、何か質問あるかしら?

 ……まあ意味わからないわよね。私も詳しい理由とか原因とかは知らないの。ごめんなさい。

 ただ『そうだから』としか言えなくて……ああでも、破った場合どうなるかは知っているわ。


 みんな溺れるの。


 ええ、そう。この噴水で溺れるのよ。

 不思議な話よね。

 こうして水が出ている時でも足首くらいまでしか溜まらないのに、みんな溺死体になって見つかるそうなのよ。意味わからないわよね。

 でも、『そうなる』のよ。

 だからしっかり覚えて気を付けてね。




【赤いハンカチ】


 次は蒼玉館のとある場所に行くのだけれど、ここから本館を通り抜けた向こうにあってかなり歩くから、ついでに館全体──本館であるここ金剛館とその両側に建つ蒼玉館と紅玉館を総合しての注意事項を先に一つ教えるわね。


 それは──「落としましたよ」と赤いハンカチを渡されたら丁寧に受け取る事。


 ……ああ、貴女は知らない世界かもしれないけれど貴族の──高位貴族の方だと特に地面に落ちた物を、それも平民に触られた物なら尚更自分の物であっても不潔だから要らないと突っぱねる人がいるのよ。そういう世界があるの。

 だからこれはそういう人向け……と思えるでしょうけれどそうじゃないのよ。


 赤いハンカチ、と言ったでしょう?

 

 渡されるその赤いハンカチは自分の物ではなかったりするのよ。

 でも必ず受け取って、相手にしっかりお礼を伝えなくちゃならないの。

 そしてこの時、絶対に相手の顔はまじまじと見ちゃダメよ。失礼にならない程度にさっと受け取ってさっと離れて。

 渡されたハンカチもよく見てはダメ。誰のものか調べるのも以ての外。

 とにかく相手から離れたらすぐに礼拝堂に行って、そこで神官様にハンカチを渡して相談しなさい。

 相談して、神官様に言われた事をしっかり守って過ごすの。そうすれば、助かる筈だから。


 ……守らなかった場合?

 まあ、知っておいた方が必死で守りたくなるかしらね。


 真っ赤になるわ。


 渡されたハンカチみたいに全身、赤黒く濡れた状態で見つかるの。すごい形相してね。

 酷い場合だと皮も剥がされて…………って、これ以上言うと怖がらせ過ぎちゃうかしらね。ごめんなさい。

 まあでも、清く正しく過ごしていれば遭遇する事は無いと言われているから大丈夫よ!


 あ、因みにこの話を元にした迷惑行為は許されてないわよ。

 清く正しく過ごしていればとさっき言ったでしょう?

 だから偽物の赤いハンカチ用意して誰かに渡すような悪戯は禁止されているの。


 だって、それをやった人が過去に真っ赤になってしまったらしいし、そりゃあ禁止されるわよね。

 



【無限階段】


 ッそこで止まって! ……はい、ではここが目的地である蒼玉館の端にある階段よ。

 今は春休み期間で全体的に人がいないからピンと来ないかもしれないけれど、ここって普段から人通りがあまり無い場所なのよね。

 教室がある紅玉館や、教員室がある本館とかと違って蒼玉館は理科室とか音楽室といった特別教室が集中しているの。

 クラブ活動で使用される所もあるけどそうした特別教室は本館側に偏っていてね、反対側にあるこちらの階段付近はどうしても人気が少なくなるのよ。

 それでまあ……貴女の言う通り、この階段にも曰くがあるわ。


 ──この階段は使っちゃダメ。それだけよ。


 ……ごめんなさい、一旦ちょっと離れても良いかしら?

 ありがとう。ごめんね。さっきもわざわざ止めたけれど、あそこまでが多分安全と言われている範囲なの。

 前は一人で来なければ大丈夫という話だったのだけれど、例外が発生してから二人以上でも危なくなってしまったのよ。


 ……ああ、その意見はよくわかるわ。

 そんな危ない場所なら簡易的にでも封鎖すべきよね。ただ、どんなに看板を立てたり鎖で塞いだりしても暫くすると綺麗さっぱり無くなってしまうそうなのよ。

 他の場所も大体そう。

 だからこうして注意喚起するしかないという訳よ。


 因みにここの約束を破った場合は三パターンあって、行方不明になるか、踊り場で全身骨折の重傷または死体で見つかるか、行方不明後に戻ってきても精神錯乱状態で廃人になるか……のどれかよ。

 三番目の戻ってきた子達の証言を集めるとね、どうも登っても登っても終わらない階段にグルグル閉じ込められて、暫くすると階段の上から女の子が転がり落ちてくるそうなのよ。血塗れの形相で、何度も。何度も。


 とにかく、近付かないのが正解ね。


 


【教科書破り】


 さて次は本館に行くまでまた一つ、この学園全体での注意事項を挙げるわね。


 それは──教科書やノートを破ってはダメという事よ。自分の物も、誰かの物も。


 ……当たり前よね。当たり前の事なのだけれど、ペナルティが酷いからこその注意喚起よ。


 自分も破れちゃうの。


 ……そう、破ったら破っただけその教科書やノートみたいに自分の体が紙のように引き裂かれるらしいわ。

 ああでも、ノートに関してはミスしてしまったページを破棄したい場合とかなら大丈夫らしいのよ。

 あくまでも、悪意を持って破った場合にのみ発生するらしいわ。


 それでも、怖いものは怖いから皆丁寧に扱うけれどね。




【生徒会室併設休憩室】


 次はここ、本館にある生徒会室よ。

 流石に入る許可は降りないから扉越しの説明になるけれど、実際は生徒会室内に併設されている休憩室が問題の場所なの。


 生徒会役員に選ばれるのは極限れられた人達で大多数の生徒にはあまり関係のない話かもしれないけれど、例えば貴方がとびきり成績優秀であれば役員に選ばれる可能性だってあるからとりあえず胸に留めておいてね。


 ──休憩室から二回、ノックの音がしたら三回続くまでに隠れる事。


 ──そして部屋が明るくなるまで決して見つからない事。


 これが生徒会併設休憩室に纏わる注意事項よ。

 ……何が起こるのかは正直わからないわ。

 ただ、三回目が終わると出て来るんですって、休憩室から。それに見つかってしまうと助からないみたいね。

 ……ああ、そう考えて過去の生徒会役員が違う部屋で作業した事があったらしいわ。


 だけどそうしたら部屋ごと消えちゃったのよ。


 ……ええ、部屋ごと。

 ぽっかりと、その部屋があった場所だけ廊下側の壁半分残して、まるで剥ぎ取られたみたいに失くなってしまったんですって。


 それでも、いたらしいのよ生存者。


 まあでもすぐ亡くなってしまったのだけれど、それも仕方なくて……当時の副会長を務めていた女性だったらしいのだけれど、部屋からなんとか脱出しようとしたんでしょうね。

 その寸前、だったのかしら。


 腰から膝の辺りにかけて斜めに、そこから下半分が捩じ切れたように消失した状態だったらしいのよ。


 だから見つかった時も既に虫の息でね、ずっと譫言で「違う」「私じゃない」「来ないで」を何度も繰り返しながら死んじゃったんですって。


 何があったんでしょうね……怖いわよね……。

 そんな訳で、生徒会室を移動させるのも禁止になったのよ。逃げられないの。

 まあ、一般の生徒にはあまり関係ない話だからそんなに怯える必要はないかもね。




【ホールの囁き】


 はい、ではここが最後の場所になります。

 貴方も覚えがあるでしょう?

 入学式や卒業式、その他行事の際に使用される本館の大ホールよ。

 ……そう、ここでも実はあるのよ注意事項。まあ入学式に参加している新入生がいきなり巻き込まれたなんて聞いた事ないから問題ない、筈よ。


 それで、ここでの注意はただ一つ──卒業までに十回ささやきを聴かない事、よ。


 ……どういう事かというと、この大ホールにいる時にね、ささやきが聴こえてくる事があるのよ。

 周囲に人がいようと、いなかろうと。

 体験した人の話では、ザワザワと不明瞭にも思える沢山の人の声がするのに、妙にはっきりと自分の事を噂しているその内容が聴こえてくるんですって。


 自分の悪事に関する噂が。


 誰にも知られていない筈の、自分しか知らない筈の、大きな罪から小さな罪まで噂話という形で囁かれ、聴こえてくるそうよ。


 だからもし、ささやきを聴いてしまったら礼拝堂でその事を報告して悔い改めなければならない。

 そしてもう罪を犯さない様に過ごして、またささやきを聴かない様に徹するしかないの。


 ……ささやきをもし十回聴いてしまったら?

 もちろん、卒業式の日にここで死んでしまうわ。例外なく。


 人によって様々だけど、首を落とされて死んだり、全身焼かれて死んだり、どこからともなく野犬に群がられて噛み殺されたり、散々よ。


 ……ここに来なくても関係ないの。

 家に篭っていても、誰かに頑丈な部屋で鎖でグルグル巻きにして閉じ込めてもらってても、気が付いたらここに来てて死んでしまうそうよ。


 だから、前も言ったけれど清く正しく学園生活を送ること。


 それだけが、ここで生き残る方法よ。

 わかった?





 はい、ではこれでこの王立学園に伝わる七不思議に関する注意事項は終わりよ。

 おつかれさま。

 沢山怖がらせちゃったけれど、さっきも言った通り模範的にルールを守って過ごしていれば大丈夫だから、安心して

 怖い事ばかりじゃなく素敵な事だってこれからきっと沢山あるから、どうか楽しんで学園生活を過ごして欲しいわ。


 ……どうしたの? 何か気になる事でも出てきたかしら?


 ……七不思議なのに一つ足りない?


 ……ああ──気付いちゃった?


 ふふふ、ごめんなさい。別に騙していた訳じゃないのよ?

 今敢えて言う必要はないかなと思って、帰ったら伝える気でいたのよ。本当よ。そんな目で見ないで。

 ちゃんと今から教えるから許して頂戴。


 七つ目の不思議はね──七不思議について知る事よ。


 酷い話よね。

 七不思議について知らないとうっかり死んでしまうかもしれないのに、七不思議について知ったら知ったでまた死ぬ可能性があるのよ。


 ……ええそうよね。そこも勿論話すわ。

 まず七不思議について知ってしまった学園生は卒業式までにある対策をしないと眠ったように死んでしまうわ。


 そして、その死体が忽然と消える。


 死体がどこに行くのかわかってないけれど、一説では七不思議に取り込まれるんじゃないかと言われているわ。

 ほら、噴水の時に言ったでしょう?

 噴水の周りに人がいても一人じゃ入っちゃいけないって。

 なんでも居たらしいのよ……卒業式までに間に合わなかった学園生が噴水の周りに。後輩の子が見たんですって。

 あとはハンカチを渡してくる人がそうだったなんて噂もあるわ。

 あくまで噂だけれどね。


 ……ふふ、焦らなくても教えるわよ。


 卒業式までに行うべき対策はね──今日の『これ』よ。


 誰か一人で良いから七不思議について知らない学園生に、七不思議について教える事。

 それが死ななくて済む唯一の方法。

 わざわざ一対一で、すれ違う事すらしないようにしているのもその為。


 必ず『自分だけから全ての説明を相手が聞いた』という状況が大事なの。


 ああ、あと事実でないことを伝えるのも禁止されているわね。

 昔、七不思議についてデタラメを教えた方がいたそうで、大変な事になったらしいわ。身内にも被害が出たとかなんとか……詳しくは知らないけれど、きっと碌なものではないわね。

 だから私が教えた注意事項は全部事実。そこは保証するわ。死にたくないもの。


 ……え? ああ──貴方、本当に察しが良いのね。

 もしかしたら本当に生徒会役員に選ばれちゃうかも? ふふふ。


 そう、そうよ。

 平民の貴方がこの学園に入学できたのも、貴方が優秀な魔法の素質があるからだとか、ましてや珍しい光属性持ちの聖女候補だったからだとか、そんな理由じゃないわ。


 私の為よ。


 七不思議を知らない学園生じゃないといけないと、さっき言ったでしょう?

 だから、その辺の平民に教えた所で意味はないの。さらには、一時的に入学させて七不思議を教えた後に退学させる……なんて方法も効かない。

 正式に、卒業まで通うために学園に入学してきた生徒でないとダメなのよ。


 平民の枠が毎年変わるのもその為。


 我がフルヒト領で平民枠が今年だけ設けられたのもお父様が私の為にやってくださったの。

 今年は入学する貴族子息の数が少なかったからね。仕方なくよ。


 ……ああ、安心なさい。

 平民だからって貴方を虐めたり扱き使うような事なんてしないわ。

 一緒の部屋で一年間過ごすんですもの。仲良くしたいと思っているのは本心よ。

 んー、だからこそ……かしら?

 一つだけ貴方に助言するわね。


 入学式で、周りの新入生達に「聖女になる」と豪語していたそうだけれど、それはもう諦めなさい。


 ……なんでかって? それは、この学園に"入れている"からよ。


 七不思議の恐ろしさは貴方も十分理解しているでしょう? この学園がまともじゃないって、今ならよくわかる筈。

 だけど真の聖女様というのは入る前からわかるらしいのよ。凄い方だと学園の名前を聴いただけで拒否反応を示すんですって。


 『ここには行きたくない』『こんな場所で過ごすくらいなら聖女になれなくて良い』とね。


 ある意味、真の聖女を見分けられる場所でもあるの。

 だから厳しい事を言うけれど、貴方がこの学園に平気な顔で入れてしまった時点でもう聖女候補から脱落している様なものよ。


 ……ショックよね。でもこれが現実よ。

 それでも候補として選ばれるくらい貴方は優秀な筈。この学園でしっかり勉強して、魔法を磨いて、どうか新たな道に羽ばたいて行って欲しいわ。


 ……ほら、もう帰りましょう?

 随分時間も掛かってしまったから、今日は暖かいとはいえそろそろ冷えるわ。

 寮にも貴方の荷物はもう届いているでしょうし、そこで荷解きしながらゆっくりお話しましょう。

 


 ──今更だけど、ようこそ王立ゲファレナ学園へ。


 私達は貴方を歓迎するわ。



◻️補足

そもそも学園に通わないとか、留学するとか、学園新設して実質的に廃校に持っていくとか試みた先人達がいるけどこの有り様です。


ドアマット役の子も全員が全員、逆転勝利できる訳じゃなく無惨に散る事もあるんだろうなと考えてたら怪異になっちゃいました。末代まで祟るっきゃない。


※気が向いたら各七不思議の被害者話とか書くかもしれないので短編ではなく連載形式で上げてます。

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