魔王城
2話目となります!
お楽しみ頂けますように!
「みんな死んじまった…。」
「くそ、魔王…。なんのために…。」
みんなの元に戻ると、生き残った人達が口々に魔王たちへの恨み言を口にしていた。
あまりに多くの人が失われ、みんな正気を保つには"魔王"のせいにするしかないことは容易に想像できた。
魔王は誰も見たことがない。それでも魔王は憎まれていた。
「…みんな無事でよかった」
信じられないほどの災害で生きているだけで奇跡だと思えた。
「マリウス、お前よく無事だったな…、あの一帯はみんな死んじまった。」
ドキリとした。
口が裂けても魔王に助けられたとは言えなかった。奇跡としか言うしかなかった。
この集落は天印教の人が多いため、魔王という存在を良く言うことは憚られたからだ。
天印教とは、簡単に言えば天使の刻印を神聖視するもので、魔王の証である悪魔の刻印を蔑視するものである。災いの種である魔王は幼いうちに消してしまうという思想である。
「みなさん、ご無事ですか?」
優しげな顔立ちをした天印教の衣を身にまとった青年がとても苦しそうに尋ねてくる。
その人は若い身でありながら、大司教の座に上り詰めた聖人、ルシアン・ヴェインである。
「大司教さま…」
「どうしてここに…」
などなど周囲から漏れ出す。
自分がいる集落のように小さなところになどこの世のほとんどの人が信じている天印教の大司教さまが来ることがありえないとしか言いようがなかった。
「このような悲劇を遠くから眺めているなど出来なかったのです。さあ、皆さん教会へどうぞ。暫くは教会で生活をしてください。ご無事で何よりです…」
今にも涙が出そうな目で自分たちを哀れんでくれる大司教様を見て、さっきまで魔王の恨み言が止まらなかった村人たちも一気に落ち着きを取り戻す。
噂には聞いていたが、これが聖者さまかと思わざるを得なかった。
そして生存者全員で教会にしばらく住まわせて貰うことになった。さすがに何もせずに住まわせて貰う訳には行かないので、みんなそれぞれ教会の仕事に就くことになった。
その仕事は多岐にわたった。僕は、まず孤児の面倒を見ることになった。災害や争いなどで家族を失った子供たちは時折子供らしからぬ顔で魔王への恨み言を吐露することがあった。
でも、僕にはただの青年たちにしか見えなかった。誰にも言えず積もっていく気持ちに耐えられなくなり、終業後懺悔室に行くことにした。
「天使様、私の悩みを聞いてくださいませんか」
作法など何も分からないけれど、とりあえず言ってみると、壁の向こうから声が聞こえてくる
「はい、喜んでお聞きします。ただし、嘘はつかず正直に教えてくださいね。」
とても優しい声だった。さっきまで言ってもいいのか悩んでいたのが嘘かのようにすんなりと言葉が紡がれていく。
「僕は、魔王に助けられました。でも、魔王は聞いていたのとは全然違い、普通の青年だったのです。僕は…魔王が本当に悪いのか疑問に思ってしまいました。」
言ってしまったあとで、酷く後悔した。天印教では、敵対すべき存在を疑問に思ってしまうなど、不信心所の話ではない。なんなら処刑だってない話ではない。
冷や汗が止まらなくなる。でも聞こえてきたのは叱咤でも罵倒でもなかった。
「ふふふ、まさかそんなに危険なことだとは…。」
楽しげに笑う声に驚きを隠せなかった。
「…私も実は常々疑問に思っていたのです。魔王は本当に天災や争いを引き起こせるのか、人間の的なのか。ではどうして長い間魔王による世界の破壊が行われていないのか。」
数百年前、初代魔王と言われる破壊の魔王は、世界を崩壊まで導いた。それは今でも語り継がれていることで、それがきっかけで今でも魔王のいる魔王城には貢物としてたくさんの物資が送られている。
「それは…貢物のお陰では…?」
相も変わらず壁の向こうの声は楽しそうに答える
「そうかもしれません。でも、私は不思議に思うのですよ。」
そしてそのまま楽しそうに笑いながら
「この話はここだけの秘密ですよ?
では、ゆっくりお休み下さい。」
胸の中はスッキリというより、疑問で溢れた。
あの青年たちは本当に魔王なのか、魔王ならどうして助けたのか。本当に天災を引き起こせるのか…たくさんの疑問が浮かんでは萎んでいった。そして、眠れないまま朝が来る。
仕事に向かおうとすると、ルシアン大司教に引き止められた。
「マリウスくんでしたか?」
「はい、そうですが…」
すると不意に小声になる
「昨日の懺悔室の話なんですが…」
心臓が一瞬で冷えた。やっぱりダメなことだった…そう思ったが、
「確かめに行ってくれませんか?」
「…え?」
先述した通り、魔王城には定期的に貢物を送ることになっている。それを運ぶ任を受けて欲しいということだった。その時に魔王の様子をうかがってみて欲しいと。
怖いと思っていたが、せっかくの機会だから、行ってみようと思った。
これまで運んだ者は皆無事に戻ってきたと聞いたこともあるが、あの大司教さま直々に頼まれたのだから、行くしかないだろう。
そして僕は寝不足の体に鞭打って、魔王城へ貢物を運ぶことになった。
結構な時間がかかった。割と朝方に教会を出たのに、魔王城へ着く頃には空は暗くなっていた。魔王城は木々に囲まれており、とても物々しい雰囲気だった。
仰々しいドアを恐る恐る叩く。
「魔王様ー、お届けにあがりましたー…」
足音がする…。だんだんと近づいてくる足跡にどんどんと心臓が早打ってくる。
あぁ、まずい、こわい、こわすぎる。
そう思ったが出てきたのは自分より少し小さめの若い男だった。
「いつもありがとうございます。もう暗いですね、良かったら中へどうぞ!」
すごく愛想のいい人だなぁ。え、この人も魔王なの!?
なんて思っていると名乗ってくれた。
「わたしは、アベルです!魔王城のお手伝いしてます。なので、魔王様じゃないですからね!」
「魔王城にお手伝いとかあるんだ…」
あ、やばい口から出てた…。
「あはは、あるって言うか勝手にやってるって言うか。」
随分の気分のいい人だなあ。結構この人好きかも。
「僕はマリウス・エコー、今日初めて貢物を持ってきたんだけど、君がいるならまた来たいな。」
アベルはぱあっと笑顔になって、見ているこっちが幸せな気持ちになる。
なんか、小さい子とかってイメージではないのに癒されるなぁ…。
「もう暗いですし泊まっていきますか?魔王様たちもそう言うと思いますよ?」
魔王様たちもそういうと思います????
魔王とは??
僕の知ってる魔王と違いすぎませんか???
心の声が暴走するほど衝撃でしか無かった。
困惑していると、
「どうぞ、泊まっていってください。」
金髪の長い髪の女の子かと思うような少年だった。身長は低い訳でもないが、なんというか、儚い印象の子だ。
「あ、えっと…」
「僕はリヒト・グリムです。リヒトって呼んでください。」
そういうとリヒトは僕の腕を掴み中へと連れていこうとする。見た目に反し、その力は決して弱くはなかった。
そして、どこかの部屋につき、リヒトがドアを開けようとした瞬間動きが止まる、そして自分の方に倒れ込んできた。
咄嗟に抱きとめると目の下に涙のあとのような羽のような不思議な模様が浮かび上がっていた。
「これは…天使の刻印…?」
主人公 マリウス・エコー
魔王城のお手伝い アベル
大司教 ルシアン・ヴェイン
天使の刻印(?)を持つ少年 リヒト




