ぼくと、おかあさんと、おとうさん。そしてみゆき。
窓の外、キラキラ光ってきれいで、温かい。
僕は、守られた世界にいた。
でも……、お母さんは不安げに、僕を覗き込むのだった。
僕はそんな夢を見た。でも、夢の続きはわからない。
◇◇
「オギャーオギャー」
「みゆきちゃん待っててね。ミルク作るからね」
「おかあさん……」
おとうさん、ぼく、おかあさんと3人で寝ていた部屋に、妹のみゆきが加わって、ぼくはみゆきとおとうさんに挟まれて、寝る事になった。
おかあさんは暗い部屋に、ぼくと、おとうさんを残して、別の部屋に行ってしまう。
その時、ブルブルって震えて、おトイレに行きたくなる。
「おとうさん、おとうさん起きて、トイレ行きたい」
「あ……、彰……、トイレか……」
おとうさんは、顔をこすりながら体を起こす。
「彰、もう来年、小学生で、もうお兄さんだから、もうトイレは1人で行ける様になろうな」
おとうさんはそう言って、トイレの扉を閉めてしまう。
ぼくは慌てて、トイレの扉を開けるとーー。
「彰、早いなぁ、もうトイレできたのか?」
「おかあさんは、トイレ開けといてくれるのに、おとうさんじゃ、やだ……」
そう言って、手で顔を隠すと、次から次へと涙が溢れでてくる。
みゆきが来る前には、おかあさんがついて来てくれたのに……。
「わっ、ごめん、ごめん、彰、おとうさんもトイレの中に居るから、おトイレしようなー」
そう言ってくれたおかげで、ぼくは漏らさずに済んだけど。
去年まではおかあさんが、トイレについて来てくれて、お兄さんにも、ならずに済んでいたのに……。
みゆきが来てから、ぼくには大変な事ばかり……。
◇◇
次の朝、目をさますとおばあちゃんがいた!
「彰くん、おはよう」
ご飯を食べるところにいる、おばあちゃん。
ぼくは思わず、おかあさんの後ろに隠れる。
「彰、おばあちゃんに、おはようは?」
「おばあちゃん、おはよう」
おかあさんの背中から、少しだけ顔を出して言えた。
「みゆきが背中に居ない時は、こんな感じなの……、優先する様にしているけど、一人っ子の時と違うから……、翔真さんの言う『お兄さんだから』も、嫌いみたいで……」
コッペパンを食べだした、ぼくの前で、おかあさんはそう話す。
「大丈夫、大丈夫、コッペパンもちゃんとちぎって食べてるし、りっぱなもんよ。彰くん、フルーツ食べたら、おばあちゃんを彰くん幼稚園まで、案内してくれないかしら?」
ちょっと甘いパンを食べてるぼくに、おばあちゃんはニコニコ笑顔で、そう言った。
「……いいけど、おばあちゃん来たことなかった? 運動会の時とか」
「彰くんに、案内して貰うのが嬉しいのよ」
「へっー、いいよ」
「わぁ、嬉しい」
おばあちゃんは、みゆきじゃなくて、ぼくと幼稚園に行く事が嬉しいのか……。
そうなんだ。
少しだけ、パンが美味しくなった気がした。
◇◇
幼稚園までの道、おかあさんはついて来てくれなかった……。
「おばあちゃん、ぼくはお兄さんになりたく、ないんだけどー」
「おばあちゃんはお姉さんになったけど、そういう時期あったわ。正直、上手くお姉さんなれた気が、今でもしないわ」
「おばあちゃんも嫌だったんだ。じゃあ、どうしてたの?」
「おばあちゃんの姉妹も始めは、小さかったけど、彰くんと同じで自然に大きくなっていていくのよね。人間って不思議ね。うちは歳が近かったから、助け合える姉妹になり、大人になれば、お姉さんにあまり意味がなくなってたわねー」
「あんまり、よくわかんない」
「彰くんの歳でわかったら、おばあちゃんの立つ瀬がなくなっちゃうから、それでいいわよ」
幼稚園の前の細い道へ行く前に、おばあちゃんといっぱい話をしたけれど、やっぱりお兄さんも、お姉さんも大変らしいって事がわかった。
園に入って、先生と手をつないで、おばあちゃんにバイバイすると、帰りは1人で帰れるみたい。おばあちゃんも、『おばあちゃんでしょう?』と、言われない様に、道をちゃんと覚えるのかな?
◇◇
明日は土曜日、大好きな映画を観に行く約束の日。
夕御飯を食べて、その大好きなアニメを見ていると……。
「お母さん、みゆきに眼鏡のフレームを曲げられた……」
「えぇー!? 2人とも大丈夫なの?」
「それは大丈夫、けど、映画の前に眼鏡のお店に行く事になりそうだ」
「プレゼントは貰える?」
ぼくは映画館で、貰えるカードが、貰えなくなるのが心配だった。
ソファから降りて、ご飯を食べるところにいるおかあさんと、おとうさんに、聞きに行った。
「初日だから、大丈夫よ」
「彰、ごめんな。眼鏡がなおったらすぐに、映画館へ行こう」
「うん、アニメの続きみるね」
みゆきは、おとうさんの眼鏡を壊しちゃった。
おかあさんと、みゆきを抱っこしている、眼鏡が斜めになったおとうさん。
おとうさんの眼鏡を、あんなにしちゃうなら……。
そろそろ、みゆきも、ぼくくらいには大きくなるのかな?
◇
次の日になっても、妹は小さいままだった。
小さなままで、大きなお店に行って、映画を見る。
映画は夢の中の、キラキラ素敵な世界によく似ている。
あまーいのは、まだダメって言うから、ふわふわしょっぱいポップコーンを食べて、ジュースを買って、そしてちゃんとトイレに行かなくちゃ。
だけど……。
おとうさんが、眼鏡のお店に行ってしまうと、全然楽しくない。
おかあさんは歩きまわる、みゆきについて、歩いて行く。
「おかあさん、楽しくない。ぼく、おとうさんの眼鏡のお店で待ってる」
「彰、ごめんね。みゆき、今、抱っこひもも、ベビーカーもダメらしくて、無理強いすると泣いちゃうから……」
そう、さっきみゆきはベビーカーで、エビみたいになって泣いてた。
このままだと、みゆきはエビになっちゃうかもしれない。
食べられない、エビのお兄さんは嫌だなー。
食べられる、エビのお兄さんも嫌だけど……。
「…………おかあさん?」
いつの間にかおかあさんと、みゆきが居なくなっちゃった。
これ……どうしよう? お兄さんだからーー。
「大変、2人を探しにいかなくちゃ!?」
ぼくはお兄さん! 確か、エスカレーターでーー。
「すみません。エスカレーターに、一緒に乗って貰っていいですか?」
「あら大変、ぼく、迷子なの?」
エスカレーターは、1人で乗っちゃダメって言われているので、おばあちゃんくらいの人に声をかけた。
「おとうさんが、眼鏡のお店にいるから迎えに行くの」
「うーん、待ってて、店員さんに連絡だけ残して行きましょう」
「わかった」
そうすると、お店からお姉さんが出てきて、お姉さんもついて来てくれる。
「2人とも兄妹いる? ぼくはこの前、お兄さんになったんだよ」
「うちは私だけなので、楽しそうで羨ましい」
「私にはお兄さんがいるのよ。兄にはいろいろ助けて貰ったから、君がお兄さんなら応援したくなっちゃうわ」
「兄妹が居ない時も、楽しかったよ。でも……みゆきも、ぼくが居て嬉しいって思うのかな」
そんなことを話していると、エスカレーターを降りて、眼鏡のお店があった。行くと、おとうさんがソファに座っている。
ぼくはそっと近づいて、おとうさんの横に座る。
「あれ、彰、お母さんは?」
「居なくなっちゃったから、二人に連れて来て貰ったんだよ」
「上の階で、迷子になっていたところを、こちらのお客様が……」
「いいのよ、いいのよ。ぼくも、うちの立派なお兄さんになってあげてね。じゃあね」
「では、私も失礼します」
「「ありがとう」ございました」
二人は上と、下のエスカレーターに乗って、バイバイして行っちゃった。
「おとうさん、お姉さんは兄妹が居なくて、おばあちゃんはお兄さんがいるんだって」
「教えて貰ったのか?」
「うん」
「彰はよそでは、社交性があるタイプなんだな……。そうだ!? お母さんに電話しないと、探してるはずだよ」
「じゃあ、お願い」
お母さんは電話の後、背中におんぶされ、泣いているみゆきと、エスカレーターに乗ってやってくる。
「ごめーん、彰、探してたわよね……。本当にごめんね」
「お兄さんだから、大丈夫」
そしておとうさんがお店の人に呼ばれると、お店の小さな窓に雨の粒が当たって、流れ落ちていく。車の赤いライトが当たって、とてもきれい。
「ただいま」
「おかえり、おとうさん、おかあさん、あのね、この窓のキラキラよりもっと夜に、こんな雨を見たんだよ。何かにくるまれながら見る、赤や白がきれいだった」
そう言うと、二人は顔を見合わせる。
「彰がみゆきと同じくらいの時、夜に泣き止まない時があったのね。おばあちゃんが言うには、車に乗せて走ってみれば? と言われて、おとうさんが運転して、みんなが眠っている時間に、彰を車に乗せて走ったことがあるの。それが丁度、雨のだったのよ。覚えていたのかしら?」
「次の日も、って覚悟してたのに、次の日からは、ミルクを飲んで、普通に寝るようになったんだったな……」
「わからない……」
ぼくが見たその夢は、とってもきれいで安心する。
そんな夢、夜なのにそんなに怖くなかった。
もしかしたら……、みゆきも言えないだけで、何か怖いのかも?
「みゆき、大丈夫だよ」
「オギャー、オギャー」
ぼくの声の方が怖かったのか、おかあさんの背中に居る、みゆきがまた泣き出しちゃった……。
「……ぼくじゃダメなのかな?」
「「ううん! そんな事ないおにちゃん、ありがとー! って泣いているんだよ」」
「そうなのかな?」
やっぱりみゆきは難しい。早く、大きくなってくれないかな?
「じゃあ、映画館へ行こうか」
「うん!」
ぼくと、おかあさんとおとうさん。
それから『妹なんだから』って、たぶん言われる妹のみゆき。
ぼくたちかぞくは、映画館へ歩きだす。
いつか、この映画がおもしろいって、教えてあげるね。
ぼくは、ぼくだから教えてあげるよ。
おしまい
見てくださりありがとうございます。
またどこかで!




