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仕事

 今日の講義は3限までだった。そこから大学を出て食料や日用品を買ったり、適当に街をうろついたりして、アパートに帰ったのは午後4時より少し前だった。

 玄関を開錠したところで、向こう側からぱたぱたと軽い足音が聞こえた。ハユリさんが中で歩き回っているんだろう。

 構わず扉を開けると、予想通りハユリさんが廊下の真ん中に立っていた。口元を両手で隠しており、何やらほっぺたがもぐもぐと動いている。

「……ただいま」

「んっ……おかえりなさい、恩人さんっ!」

 挨拶の前に、一度喉が動いていた。何かを飲み込んだ?

「食事中だった?」

「えっと、はい! 悪い虫がいたので、やっつけておきました!」

「食ったのかぁ……」

「えっ、はい」

 まあ、そりゃそうか。クモだしな。

「……待って、どんな虫だった?」

 この廊下は台所と合体した構造になっている。どうしても嫌な想像をしてしまうが……。

「えっと、このくらいの翅が生えた……何ていうんでしょうね? わたし、種の名前に興味が無くって……」

「あっそう……それなら良かった」

 ハユリさんが示した指の隙間は、数ミリ程度の小さいものだった。幸いにも、今回捕らえたのは何かしらの羽虫だったらしい。ヤツじゃなくて良かった。かといって、今後出ないとも限らないし……。

「どうしよ、毒餌か罠でも買おうかな……」

 殺虫スプレーでも良いと思うけど、ハユリさんには毒かもしれないし。

「えっそんな! わたしが頑張ってやっつけますから!」

 いきなりハユリさんが泣きそうな顔で詰め寄ってきた。

「いきなりどうした」

「わ、わたしが、頑張りますから……どうか捨てないでください……」

「本当にどうした。別に捨てないから……」

 慰めていて気が付いた。害虫をこっちで駆除したら、ハユリさんの仕事が無くなるじゃないか。ハユリさんは虫捕りで恩を返したいって言ってたし、その仕事を奪うような真似もハユリさんに失礼だよな。

「……まぁ、殺虫グッズって微妙に高いもんなぁ。ハユリさんがやってくれるって言うなら、甘えさせてもらっても良い?」

 そう尋ねると、ハユリさんは露骨に嬉しそうな顔で頷いた。

「はいっ、お任せください!」

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