越冬
12月に入って結構経ったけれど、やっぱり『もう冬だな』と思わされる。諸々のことを差し置いて、とにかく寒いのだ。朝、自分の体温で温まった布団から抜け出すのが極めて面倒な程度には寒すぎる。
電気代が心配になるが、エアコンに頼るべきか? でも暖房焚くと頭痛くなるんだよなぁ……。
そんな悩みを抱えながら生活していたある朝。目を覚ますと、何か身体が重かった。風邪引いたとかではなく物理的に。この感覚には覚えがある。
布団をめくって中を確認してみると、予想通りハユリさんが潜り込んで、俺の腹の上で寝息を立てていた。布団を完全に退かして寒気に晒すと、ハユリさんは小さく震えて目を覚ました。
「おはよう、ハユリさん。寒かった?」
「んぇ、おはようございます恩人さん……ごめんなさい、”はんもっく”の中は寒くて……恩人さんが温かかったので……」
「まぁ良いんだけど。やっぱり節足動物に冬の寒さは厳しかった?」
「せ……んー……? たぶん……?」
「ごめん難しい言葉使った。ハユリさん、寒いの苦手?」
「んにゃ……むりです……」
ハユリさんは俺の上で小さく身体を丸めて動かなくなってしまった。まぁ、クモだし冬は動きが鈍くなるんだろう。ハエトリグモが冬眠するのかは分からないけど、この手の小さな生き物で冬眠しないってことはなさそうだし。
「ハユリさーん、起きてー。俺大学行かないといけないんだけどー」
「にゃ……」
呼びかけたり揺すってみたり、いろいろ試したがさらに縮こまるだけで反応が無い。くっつかれたままだと色々と困るんだが……。
「……あ、そういやユイさんは?」
「んー…………ユイちゃん…………あそびばですかね……? おちば、たくさんで……ふかふか……だし…………」
マズいな、完全に眠りかけてる。
「寝るなー、起きろー」
「むりぃ……」
「そっかぁ……」
幸いにも糸で括られたりはしてはいなかったので、ハユリさんを抱き上げて起き上がり、ハユリさんだけをベッドに戻して掛け布団を被せる。
「これで温かい?」
尋ねると、眠そうな顔をしたハユリさんが顔だけ出してきた。
「ぬくーぃ……あぃぁと……ござ……」
言い終わる前に、ハユリさんは寝落ちしてしまったようだ。まぁ仕方ない。生態ばっかりは気合でどうにかなるものじゃないだろうからな。ハユリさんを起こさないよう、できるだけ静かに身支度を済ませて家を出た。
15時過ぎ、帰ってくると布団の膨らみが一つ増えていた。中身を覗いてみると、予想通りハユリさんの隣にユイさんが丸くなっていた。二人とも寝ていたようだが、冷気を入れてしまったせいかハユリさんの方が目を覚まし、こちらと目が合う。
「んー…………恩人さん、おかえりなさぃ……」
「ただいま、ハユリさん。起こしちゃってごめんな」
「へいきです……」
そう答えたものの、ハユリさんは再び丸くなってしまった。よほど寒いんだろうか。布団の中に手を入れると、すっかり冷え切っていた。ハユリさんたちはあまり体温が高くないらしい。
「暖房焚こうか?」
「ん……だん……んー…………?」
「部屋の中暖かくなるよ」
「にゃぁ……良いんですか?」
「うん」
「お願いします……」
「了解」
エアコンの電源を入れて少し待つと、温風を吐き出す力強い機械音が聞こえてきた。それに気づいたようで、ユイさんが先に布団から顔を出す。
「おはよう、ユイさん」
「ん、おにーさん、これ何?」
「部屋を暖かくしてるんだよ。少し時間かかると思うけど」
「んー」
ユイさんがマントを身体にしっかり巻き付けた状態で、布団から這い出してくる。そのままの姿でしばらくもぞもぞしていたかと思うと、温風が吹き付けてくるポイントを見つけたようで体に巻いたマントを解いてその場に蹲った。
「ぬくーい……」
「そりゃ良かった。ハユリさんも来る?」
布団に向けて呼びかけると、ハユリさんも出てきてユイさんの隣で小さくなった。
「ぬくーい……」
「そりゃ良かった」
電気代は痛いが、二人が快適に過ごせるならそのくらいの出費は受け入れよう。
部屋も温まってきたので、防寒用のダウンジャケットを脱いでいると、ふとハユリさんと目が合った。ハユリさんはこっちの動きをしばらく見つめた後、ユイさんの肩を叩き、何やら内緒話を始めた。
「おにーさん、それちょーだい?」
「どれ……これ?」
脱いだばかりのダウンジャケットを掲げるとユイさんが頷いたので差し出すと、ハユリさんとユイさんは二人でジャケットを被ってしまった。
「あっ、やっぱり温かいですよユイちゃん!」
「ぬくーい……!」
二人の顔は見えないが、何やら楽しそうだ。
「まぁ……さっきまで俺が着てたからなぁ」
そう呟くと、二人がジャケットの中から顔を出してきた。
「……つまり、温かいのは、恩人さん……?」
「まぁそうなるかな」
人間は恒温動物だしな。そう考えていると、二人がダウンジャケットを被ったままにじり寄ってきた。動向を見守っていると、ハユリさんが蜘蛛脚を展開して俺に抱き着いてきた。流石に幼女二人+蜘蛛脚分の重さを支えるのは腰と膝によろしくないが……。
「わぁ、本当に温かいです!」
「ぬくーい……!」
「……そりゃ良かった」
二人とも嬉しそうだし、俺が頑張って支えれば良いか。




