表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の部屋に出るクモが何かかわいい  作者: 七支何某
2.イエユウレイグモ
16/24

約束

 朝目を覚ますと、蜘蛛糸ハンモックから顔だけを出したハユリさんと目が合った。

「おはようございますっ、恩人さんっ」

 ハユリさんは何故かウィスパーボイスで挨拶してきた。

「……おはよ。なんでそんなヒソヒソ声?」

 こちらも声を潜めて返す。

「ユイちゃんがまだ寝てるんです」

「そっかぁ……」

 静かに立ち上がりハンモックを覗いてみると、たしかにユイさんはハユリさんの腰の辺りに抱き着いたまま幸せそうに寝息を立てていた。

「ガッツリ捕まってんじゃん」

「大丈夫です、ユイちゃんもすぐ起きてくれると思うので」

「……そっかぁ…………」

 ハユリさんの「大丈夫です」の辺りから既に目を開けていたユイさんとしっかり目が合ってしまっているが、ハユリさんは気付いていないようなので放置しておく。仲良きことはナントカってやつだ。

「恩人さん、恩人さん」

 ハユリさんが手招きをしてきた。内緒話でもあるのかと顔を近づけると、彼女の手が頬に触れた。

「……え、何」

「あ、あのっ、恩人さんは今日もお出かけですか?」

「まぁうん」

 平日なんで当然俺は大学に行かなきゃならないが。

「そのっ、今日はいつ頃お帰りでしょうかっ」

「どうした突然。昼過ぎには帰ってくるけど」

「ほっ……ほ、本当ですか?」

ハユリさんは大声を上げかけて、思い出したように再びヒソヒソ声になった。

「本当だけど」

「じゃっ、じゃあっ、恩人さんが帰ってきたら、また甘えても良いですかっ」

 ……連日甘えられてる気もするが、わざわざ訊くのは律儀だなぁ……。

「……まぁ良いけども」

「ありがとうございますっ。それじゃあわたし、恩人さんが出かけてる間に頑張って悪い虫やっつけてますね!」

「うん頑張れー」

 嬉しそうにしているハユリさんの腰に引っ付いたまま、ユイさんが俺の顔をじっと見ている。相変わらず何考えてるか分からない無表情だ。そしてずっと見つめ合っていたのに気付かれたのか、ハユリさんが俺の視線を追って首をゆっくりと回し――ユイさんと目が合った。

「………………」

「おねーさん、またおにーさんに」

「わひゃぁあ⁉」

 ユイさんが言い終わるより早く、ハユリさんは奇声を上げてハンモックから転げ落ち、俺の腕の中に収まった。

「ひゃ、おっ、恩人さんっ⁉」

「すげー慌てるじゃん」

「ひぇ、ご、ごめんなさいぃっ!」

 ハユリさんはクモ姿に変身して、俺の身体を伝って床まで下りてしまった。ベッドの下に潜り込む小さなクモの姿を見送っていると、ユイさんがこちらに這い寄ってきて俺の背中に負ぶさるように絡みついてきた。

「おねーさん、逃げちゃった」

「逃げちゃったなぁ……なんでだろうなぁ」

「ねー」

「まぁそういうわけで、俺今日は2限までだから、多分1時くらいには帰れると思うから」

「うんー」

「それまで、ハユリさんと一緒に虫退治頑張ってな?」

「うんー」

 ユイさんも俺の肩からベッドに下り、そのまま台所の方へふらふらと向かった。二人がいなくなったところで身支度と荷物の準備を整え、ベッド下に声をかける。

「じゃ、俺出るからね」

 ガタガタ音が鳴り、数秒置いてハユリさんが顔を出してくる。

「うぅ……はぃ……いってらっしゃい、恩人さん」

「うん、いってきます」

 ハユリさんに手を振り、玄関に向かう。そういえば……いや当然のことではあるけど、一人暮らしを始めてから「いってきます」を言うことなんて無かったな。ハユリさんが棲み着いてからほぼ毎日「ただいま」は言ってたけど、『誰かが家にいてくれる』って状況を再認識してしまった。

「……何つーか、気分良いよなぁ…………」

 ハユリさんは善人だから、なおさら。ユイさんの方はまだよく分からない部分も多いけど、あっちも根本的には良い子な気がする。

 普段頑張ってくれているハユリさんに報いるためにも、今日はできるだけ早く帰るようにしよう。そしてそのために、まずは今日の分の学業を済ませてこなくては。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ