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俺の部屋に出るクモが何かかわいい  作者: 七支何某
2.イエユウレイグモ
15/24

我儘

「おにーさん、おにーさん。これ、捕まえた……!」

 ユイさんがそう言いながら、何かの甲虫の死骸を手に乗せて見せびらかしてきた。

「そっかぁ……どこにいたのそれ」

「あっち……!」

 ユイさんは誇らしげな表情で窓の方を指差した。ちょっとした隙間から潜り込んできた感じかな。窓はきちんと閉めるようにしよう。

「やっぱり食べるの?」

「たべる……」

 ユイさんはそう呟いて、甲虫を口元に運んだ。彼女はただでさえ身体が小さい上に、口もあまり開かないらしく、捕まえた虫をちまちまと食べる癖がある。ハユリさんと違って獲物を俺に見せてくる癖もあって、どこか猫のような雰囲気を感じさせる。あまり千切れた虫の断面とか見たくはないから、できればハユリさんみたいに陰でひっそり済ませてくれると嬉しいんだが……。

「あ……おにーさんも食べる?」

「お兄さんはあんまり虫食べないタイプかなぁ」

 半分になった死骸を差し出してきたユイさんに、やんわりとお断りの言葉を返した。

「そういやハユリさんは?」

「おねーさんは、ねてる」

「寝て……?」

 思い立って、天井近くに張られた蜘蛛糸ハンモックを覗き込むと、ハユリさんが気持ちよさそうに眠っていた。あまりに静かで気付かなかった。

「おねーさん、今夜はおにーさんのことたべたいって言ってた」

「そんな徹夜するために昼間のうちに寝溜めしとくみてーな……」

 ……待って、もしかして夜通しハユリさんに食いつかれ続けるってこと? まぁ、ハユリさん割と体重軽めだから別に良いんだけどさぁ……。

「……そういやユイさん。ユイさんは夜になっても平気なの?」

「んー……? なにが?」

「あーいや、ほら。ハユリさんみたいに食人衝動出たりしねえのかなって。俺のこと、食べたくなったりしない?」

 ユイさんはぼんやりした表情でしばらく考え込み、ぼんやりしたまま顔を上げた。

「たぶん……?」

「肯定ってことで良い?」

 ユイさんが頷いた。

「そっかぁ……」

 この子もかぁ……。まぁ、ハユリさん以上にか弱いスペックしてるし、別に問題は無いかなぁ……。

 天を仰いでそんなことを考えていると、蜘蛛糸ハンモックが小さく揺れた。ハユリさんが寝返りでも打ったのかと思っていると、彼女がひょっこりと顔を覗かせた。

「おはよう、ハユリさん」

「んぁ、お、おはようございますっ。そのっ、ごめんなさい、恩人さんに恩返ししなきゃなのに居眠りなんて……」

 ハユリさんの顔がハンモックの中に引っ込んでいく。

「別に良いよ。ユイさんもいるし、ハユリさん今日は夜更かししたかったんだろ?」

「うぅ、はぃぃ……」

 完全に顔を引っ込めてしまったハユリさんを追いかけるように、ハンモックの中を覗く。彼女はハンモックの中で身体を小さく丸め、小さく呻き声をあげている。

「……ハユリさーん?」

「ひゃぁあっ⁉ にゃっ、何でしょうか恩人さんっ⁉」

「すげー慌てるじゃん。何度も言ってるけど、遠慮しなくて良いからね? ハユリさんがいつも頑張ってるのは知ってるし、ユイさんも手伝ってくれてるんだから、適度に休んだりワガママ言ってくれて良いんだよ?」

「ぁぅ、あ、ありがとうございます」

 ハユリさんは更に縮こまってしまった。

「…………その、それじゃあ恩人さん?」

「なに?」

「ワガママ、しても……良いですか?」

「俺にできることならね」

「じゃっ、じゃぁ……」

 ハユリさんがゆっくりとハンモックから這い出し、俺の首の辺りに絡みついてきた。ベッドを足場にしていたのでバランスを崩しそうになったけど、何とか堪えて腰を下ろした。

「まだ昼間なのにすげー引っ付いてくるじゃん」

「うぅ、ごめんなさい……」

「いや別に良いよ。今暇だし、ハユリさん軽いし」

「えへへ、恐縮です……」

 ハユリさんが体勢を変えつつ、手足をガッツリ絡めてくる。彼女を抱き支えようとしていると、背中にも重みが追加された。ユイさんにのしかかられているらしい。

「……あのー? ユイさーん?」

「わたしも……」

「いや流石に二人は……」

「やっ、やっぱり離れますごめんなさい!」

「ハユリさんは離れなくて大丈夫だよ? ……もう良いや。二人とも好きにしな」

 少なくともこうしてじっとしている限りは、そこまで影響ないし。二人が満足するまで放置してれば良いか。

 ……このまま夜になると、多分二人はマジで離れないよな? 明日の朝までこのままは正直言ってかなりしんどいぞ? 好きにしていいって言ったのは失敗だったかな……。

 しかし、既に言ってしまった手前、今更やっぱり離れてくれってのは忍びない。

「…………よし」

 俺の声に反応して、ハユリさんが頭を上げた。

「恩人さん? どうかしましたか?」

「いや、覚悟決めてた」

「何のです?」

「んー? ハユリさんは気にしなくて良いよ」

「はぇ……」

 予想通り、陽が沈んでからは二人に、首やら耳やら指やらをひたすら食われ続けた。二人とも咬合力が無さ過ぎて直接のダメージは無かったけど、くすぐったくて一睡もできなかった。あと、次の日ずっと肩と腰が痛かった。

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