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俺の部屋に女の子の幽霊が住み着いてた件

作者: サツマイモ

「おまえ、そのポテチ……」


 放課後の部室。俺、朝霧あさぎり れんの言葉が虚しく響く。

 原因は分かりきっている。俺の目の前で、半透明の少女が「あーん」と口を開け、ポテチの袋を傾けているからだ。

 むろん彼女はポテチの袋を持っているわけではない。正しくは霊力とやらで浮かしているらしい。

 

 そしてポテチは…彼女の体をすり抜け、床にパラパラと虚しく散らばっていく。


「いやー、レンがおごってくれたポテチは魂に染みるねー! 心が満たされる味がする!」

「食えてねえだろ! っていうか、食えないんだったら最初からいってくれない!?おごって損したわ‼」


 こいつの名前は、白鷺しらさぎ みお

 何を隠そう、このオカルト研究会――通称「幽霊部」の部室に住み着いた、正真正銘の幽霊である。


「そもそもだ。なんでお前、自分の死因も成仏の条件も覚えてないんだよ」

「うーん、なんかこう、頭に霞がかかったみたいで…。でも、レンと一緒にいると楽しいから、いっか! って!」

「よくねえよ! 俺は一刻も早くお前に成仏してほしいんだよ!」


 ケラケラと悪びれもなく笑う澪。こいつはいつもこうだ。テンションは無駄に高いが、やることなすこと全てがズレている。

 俺がこの弱小部活に籍を置いているのは、部員が俺一人だから。つまり、この部室は俺のプライベート空間になるはずだった。静かで快適な、放課後の隠れ家が…。


「そうだ、レン! 今日こそ、私の成仏の条件を探しに行こうよ!」

「…またかよ。先週は『私の死因はきっと、体育館の倉庫に閉じ込められたことだ!』とか言って、半日も体育館倉庫に引きこもっただろ。俺も付き合わされた上、結局、何も起きなかったし」

「あれは惜しかった! たぶん一週間ぐらい閉じこもってたらあるいは……また一緒に行く?」

「その前に俺が成仏するわ!」


 澪の「成仏チャレンジ」に付き合わされるのは、もはや日課だ。

 先々週は「学食のA定食が食べられなかった未練!」とか言って、俺にA定食を食わせ、その様子を実況させた。はたから見れば、食堂で男子生徒が一人で食レポをしているとんでもなくシュールな光景に映っていただろう。…うん、恥ずかしくて思い出しくもない。

 他にも「屋上から好きな人に告白できなかった!」と言い出し、俺が澪の代わりに、誰もいない屋上に向かって「好きだー!」と叫ばされる羽目に。通りかかった風紀委員にめちゃくちゃ怒られた。


「今日の私は一味違うよ! きっと、私の未練は『恋愛』だ!」

「はあ…」

「考えてみてよ! 死してなおこの世に留まる乙女の霊! その未練といえば、叶わなかった恋以外にありえないでしょ!」

「お前、自分のことなのに全部憶測なんだな」


 ぐいぐいと、半透明の体で俺の背中を押す(もちろん、感触はないが圧は感じる)澪。

「で、どうするんだよ」

「決まってるでしょ! 私に恋をさせてくれる男子を探すの!」

「幽霊に恋する物好きがいるか!」

「大丈夫! 私、レンの背中に張り付いて、一緒に探すから! 名付けて、『二人羽織で運命の人を探そう大作戦』!」

「そのまんまじゃねえか! しかも、俺が恥ずかしいだけだろそれ!」


 抵抗も虚しく、俺は澪に引きずられるようにして部室を出た。

 廊下を歩けば、すれ違う女子生徒たちが俺を見てヒソヒソと噂している。


「ねえ、朝霧くんって、いつも一人でブツブツ言ってない?」

「わかるー。たまに急に叫んだりするし、ちょっと怖いよね…」


 全部、お前のせいだからな!?

 俺は背後にいるであろう澪を、思いっきり睨みつけてやった。


「おっ、レン! あそこの彼とかどうかな!? 爽やかイケメンだよ!」

 澪が指差す(もちろん、指は見えない)先には、バスケ部のエース、鈴木がいた。女子からの人気も絶大だ。

「無理に決まってんだろ。俺があいつに『僕の後ろにいる幽霊と付き合ってください』って言えんのか? ただのヤバいやつだろ……主に俺が」

「うーん、確かに…。じゃあ、あそこのメガネくんは? 優しそうだよ!」

「図書委員の佐藤だな。あいつは三次元に興味ないぞ。ラノベのヒロインが嫁だから」

強敵ライバルだ…!」


「…そ…そんな……この私が二次元なんかに負けるはずが!」


 ……悔しがる点 そこか?


 そんなことを繰り返しているうちに、気づけば下駄箱まで来てしまった。

「だーめだ! 今日も収穫なしかー!」

「当たり前だ。お前の作戦が根本的に破綻してるんだよ」

「こうなったら仕方ない…」


 澪はそう言うと、ふわりと俺の目の前に回り込み、なぜか偉そうに仁王立ちした。


「レン! お願いがある!」

「…嫌な予感しかしない」

「私と、デートして!」

「はあああああ!?」


 今日一番の絶叫が、夕暮れの下駄箱に響き渡った。

 近くにいたカップルが、ビクッとして俺を二度見している。やめてくれ。


「いやいやいや! なんでそうなる!?」

「だって、手っ取り早いじゃない! レンが私とデートしてくれれば、私の恋の未練も解消されるかも!」

「俺は断固拒否する! なんで俺がお前の成仏のために、一人でデートごっこしなきゃなんねえんだよ!」

「えー! いいじゃん、減るもんじゃないし!」

「減るよ! 俺のSAN値と社会的信用がマッハで減ってくんだよ!」


 ぷくーっと頬を膨らませる澪。その顔は、まあ、なんだ。その辺のアイドルよりよっぽど可愛いと思う。…なんて、絶対に本人には言ってやらないが。


「…分かったよ」

「え、ほんと!?」

「ただし! これで成仏できなかったら、今後半年は俺のポテチに触るな。いいな?」

「うん、分かった! 約束する!」


 ぱあっと顔を輝かせる澪。

 どうせ、こいつとのデート(仮)なんて、いつもの「成仏チャレンジ」と大差ないだろう。

 俺は大きなため息をつき、夕焼け空を仰いだ。


 平凡だったはずの俺の日常は、どうしてこうなったんだか。

 まあ、退屈じゃなくなったことだけは、確かかもしれない。


「で、レン! デートといえば、まずはクレープだよね! 駅前の!」

「お前は食えないだろ…」


 俺のツッコミと、澪の能天気な笑い声が、夕暮れの帰り道に溶けていく。

 こいつが成仏する日は、どうやらまだまだ遠そうだ。


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