じゃあ、火鍋作ったときのことでも書くか……
──何か、エッセイを書こう。
そうは決めたものの、いざとなると筆が進まない。
いや、「筆」なんか高校の習字で握ったのが最後か。
それはいい。とにかく、キーを叩く指が止まっている。
作品の宣伝のためにエッセイを書こうか、などと動機は不純だった。
もちろん、それだけではなくて……。
自分の考えを整理しながら、独り言のように頭の中身を書き留めるというのは、自分の考える“創作”への理解につながるのではないか、とも思った。
しかし……うーん……何を書こう……。
ここで頭がショートして、オイラは質問掲示板に突撃した。
何のためにエッセイを書くか? 何を書くか? と。
ありがたいことに、返信はすぐに来た。
みんな結構、エッセイを書いているようだ。
ラノベレビュー、日常の体験談、作品の設定語り(これはオイラもやりたい)。
漫才のような会話劇に、作者さん向けのアドバイス。
なんだか、最後のヤツはよく見る気がする。
「なろう」のエッセイと言えばコレ!というイメージだ。
ブックマークの増やし方や、評価の上げ方なんかに対して、システムについて考察しながらあれこれ論じる……そんなエッセイをよく見ていた覚えがある。
そうか、あれもエッセイだよな……。
──閑話休題。
先に述べた通り、エッセイと一口に言っても幅広い。
それを書く理由も、作品ごとに、作者ごとに様々なようだった。
物語と比べると、読まれなくてもそれほど気にならない。だから気楽に書けるのだ……という意見があった。「なるほどな」と思う。
オイラも今、壁に向かって話す独り言のつもりでコレを書いているから、誰かがこれを読んでくれなくとも、物語をスルーされるほどのショックはないだろう。
この回答者さんは、エッセイを通じて他人に知識を共有することで、自分もそれを身に着けるのだということだった。とっても素晴らしい。
ちょこっと真似をしてみようかと思ったが、そもそも人に何かを教えられるほど、「なろう」や執筆ということに造詣が深いわけではない。
何かを論じようとしても、きっとふよふよしたことしか話せないだろう。
と、別の回答者さんが、好んで読むタイプのエッセイを教えてくれた。
この御仁は、人の体験談──特に「やらかし」なんかの笑える話がお好きなようだ。
たしかに、そういう笑える話はオイラも好きだ。
なら、とっておきの「やらかし」エピソードを語ろうか。
つい最近、気温がいきなり寒くなってきた頃合いの話だ。
あまりにも寒かったもので、辛いものでも食べて体の内から温まろうと思った。
だから、その日は火鍋を食べることにした。
火鍋、ご存じだろうか。
よく分からない木の実が入っている、中国大陸のホットな鍋料理だ。
9年前、台湾旅行で初めてコレを食べて感動した覚えがある。
それはともかく、スーパーに火鍋スープが売っていた。
鍋に水、具材、スープを入れてグツグツと煮込んだら完成するお手軽なヤツ。
某社の製品によくある「鍋のもと」だ。
お腹が空いていたもので、大盛で食べようとスープの袋を「二つ」開けた。
ここから既に、オイラの間違いは始まっていたのだ。
スープ1袋で既に2~3人前。
それを二倍入れたということは、単純に濃度を上げただけなのだ。
オイラはある程度、具材を煮込んでから味見をした。
「……ん? あんま辛くないな……」
ここでオイラはよく気付いていなかったが、スープが良く混ざっていなかった。
上澄みの、最も味の薄い部分だけを器用にすくって舐めていたのだ。
誰か、コイツを止めろ、止めてくれ──。オイラはキッチンに転がっていた「燃○唐辛子」を掴んで、ブンブンとそれを振り、鍋の中に赤い粉を撒き散らした。
──よし、完成だ。
オイラは鍋をダイニングテーブルに運び、炊飯器から熱々の米をついだ。
ダイニングの明るい照明の下に置いて、ようやく気付いた。
「随分と、赤黒いな……?」
それは台湾で初めて食べた火鍋というより、むしろ火災の現場を彷彿とさせた。
ともあれ、食べなければ始まらない──。
箸をそろえ、肉を一枚すくい取る。
ぱくっと口に入れた。
──おお!
ちょっとしょっぱいかもしれないが、中々美味い。
そうそう、これが火鍋だよ。
そのままオイラは、白菜を取って、熱々の米の上に乗せて食らった。
直後、口の中のものを噴き出す成人男性。ビクッと驚く飼い猫。
端的に言って、気管が燃え盛った。
凝縮されたカプサイシンが舌を、喉を灼き払い、炊き立ての白米がそこに直撃した。
気づけば鼻水はダムの決壊、オイラは“クソガキ・スタイル”で泣いていた。
あまりの辛さに、蕁麻疹まで出た。
オイラは一言も発さず、鍋に蓋をすると、そのままベッドに倒れ伏した。
目が覚めたのはそれから二時間後の深夜だった。
冷めたことで大分マシになったが、それでも食べきることはできず、ひどい食品ロスをやらかしてしまったのだ。これは本当に反省せねばならない。
とりあえずは、こうして“熱烈な”リクエストがあった火鍋のエピソードを書き連ねたのが、これもエッセイなのだろうかと、未だに心が迷っている。
──まあ、いい。
次は当初の目的通り、自分の考える“創作”についてでもブツクサ語ろうか。
何はともあれ、如何だっただろうか、オイラの失敗談は。
多少でも笑っていただけたのなら何よりだ。
片手間に書いたエッセイ(?)が意外と評価良くて嬉しい。「ヴァルハラ・ホライズン」ってロボット小説も書いているから、良かったら作者ページから読んでいってね(ばっちり宣伝)