アウトサイダー
ラヴクラフトは恐怖を描こうとした、けれど恐怖というものの多くは最終的には死に結び付く
ラヴクラフトが描こうとしたのは、死のその先の恐怖だ
『永遠の憩いにやすらぐを見て、死せるものと呼ぶなかれ 果て知らぬ時ののちには、死もまた死ぬる定めなれば 』
と、彼は謂うけれど、そんなものは如何ほどのこともない、私という自我の終わりに比べれば
千なる異形のわれに出会わぬことを祈るがよい、われこそは這い寄る混沌、ニャルラトホテプ
かなたより饗宴に列する名状しがたきもの、ハスター
かつて地球を支配した古のものにより作り出されし原始の奴隷、忌まわしい不定形の原形質、ショゴス
けれど、それが何だというのだろうか
そこにおける未知は、なおも死以前の恐怖に近く、目にみえ、手でさわれるものとしてそこにある
ラヴクラフトは冒涜的な神話の形式において恐怖を描こうとしたけれど、それらはあまり成功していないように思う
その中の幾つかはその先に行こうとして、かえって、死と同義の恐怖を描くこととなった
だが、ラヴクラフトが異質な恐怖を描く事に成功した作品がある
イースの大いなる種族によって行われる精神の捕囚を描いた時間からの影
存在の不可避の変質を描いた宇宙からの色
自己そのものが得体のしれない何かである事をしるインスマウスの影、アーサー・ジャーミン卿の秘密
無為に世界が転倒し続けるアウトサイダー
雷に逐われ地下に潜ったマーテンス一族が異形の怪物へと変貌する潜み棲む恐怖
ラヴクラフトの傑出した作品はクトゥルフ神話といった体系化可能な部分にはなく、自己そのものがなにか自分自身の知らない得体のしれない異様なものなのではないかという、私と狂気との狭間に位置するところにある
ただし、アウトサイダーだけは更に特別と言っていいだろう、そこには自己と把握可能な私すらなく彷徨い歩くだけなのだから




