Night paradise
暗闇の荒野を再び進む。
既に時刻は午前1時を切っていた。
「そういえばガチャ、一体君どこ行ってたんだ?」
「近くに村があったからシグレとご飯食べてきた」
「なんだずるいなぁ」
「あんたが馬鹿やってる間に飯食ったんだよ」
「でも一応みんなの分も買ってきたから」
「お、やったぁ!」
クロズコップは少女のように喜ぶ。
その表情は既に一つ眼お化けとは程遠いものであった。
ガチャは全員にプラスチックの容器を配る。
...と。2人に配ったところで、私には配られなかった。
「...」
「あらら」
「冷血二士に意地悪しちゃ可哀想だよ、ガチャ」
「ばか、私はあんたと違うっての」
「はい。口開けて」
「...何のつもりだ?」
「フキ、あんた怪我してるってのにどうやって食べるの?」
「...」
「...余計な気遣いは御免だ」
「私は大量の血で自身を汚した。あんたから嫌われてもおかしくない_______」
「...ごむっ」
口に何かを突っ込まれる。
ほのかな辛さと瑞々しさがあった。
多分タコスだ。
「確かに血に染った臭いは嫌いだけど」
「1番嫌なのは私が浴びること」
「...」
「今回、幸いにも私は浴びることは無かった」
「その点あなたには感謝してる」
「...」
「ではなぜこの仕事を選んだ?」
「...」
「талант(才能)」
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_____エル・シネマ_______
とあるメキシコシティの映画館。
今日は"パルプ・フィクション"がリバイバル上映していた。
ホルヘは第12シアターの扉を開き、薄暗い空間に入る。
そしてD31席を求めて光った階段を下る。
____1人、ストライプのシャツを着た女がいた。
D31席である。
ホルヘはその腰にまで長い黒髪でボスのゴメスだと理解した。
ホルヘは隣の席に座る。
「____ゴメス、チュパカブラが...」
「しー」
「...」
ゴメスは口元に手を当てる。
ちょうどその時、スクリーンでは男と女のダンスシーンが始まった。
2人はステージの上で独特のダンスを披露する。
地味ながらも味がある。
短時間ながらもホルヘは頭を空っぽにして見てしまった。
「話せ」
ゴメスはナチョスをかじる。
「あ、あぁ」
「(この女...自分勝手だから苦手なんだよなぁ...)」
「まさか私と映画を見たいから来たのか?」
「いや...違う」
「チュパカブラ一行をミゲル邸へ向かわせた」
「奴らの自動車に取り付けた発信機も上手く反応している」
「ほんとに奴らは行ったのか?」
「あぁ。途中飲食店に寄り道していたが」
「...」
「___トント」
「...え?」
「バカって意味だ。この大バカ野郎が」
「ば...ばか?」
「...ホルヘお前なぁ」
「これからカルテルのボス殺しに行くっていうのに、寄り道する奴がいるか」
「記念にフライドチキンでも食いにいこうってか?このトントが」
「あ、おぉ...」
「考えすぎなんじゃないのか?」
「考えすぎなものか。私の名前が男名の理由を知ってるだろ」
「身分を隠すためだ。私はお前ら幹部以外には姿は見せない。それが例えローマ教皇でもな」
「理由は一つ。表に立った瞬間悪いイメージが立つからだ」
「すると政治家として成功しずらくなる。人を殺しまくった人間に投票する物好きは極小数だからな」
「(またその話かよ...)」
「物事には慎重になれって話だよトント」
「...仕方ない」
「ブリエト姉妹を呼べ」
「ゴメス、あの姉妹は...」
「やかましいぞ。お前が呼ぶんだ」
「そして依頼しろ。メキシコシティに到着したチュパカブラ共を殺せとな」
「奴らには消えてもらう」
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それから数時間走る。
地面は砂からコンクリートへと変わった。
私らはピカピカと光るネオンの風俗街へと出る。
路上には娼婦が列を成してスマホをいじっている。
「ここで止めろ」
シグレが切り出す。
そこは風俗店"ciero(天国)"だった。
...意味がわからない。
「シグレ、ここは風俗店だ」
思わず声に出す。
「そうだ」
「全員降りろ」
「「「!?」」」
「馬鹿な想像するな。情報収集に決まってるだろ」
シグレは少し耳を赤くする。
頭からはぷしゅうと湯気がたっていた。
「しかしシグレ。こんな小屋からどんな情報が得られるんだ?」
「娼婦から直にゴメスに関する情報が得られるとは思えない」
「ここはアフガンではない、メキシコだペズ」
「この中にマキージョの構成員がいる。必ずだ」
「どうやって探す?」
「一人一人風俗店を回る。個室で娼婦にゴメスの家を探していると言え」
「不審な行動をすればそいつを絞ればいい」
「なるほど、それは確実だ」
パサッ
「これが資金だ。タイムリミットは2時間」
「各自拳銃を携帯し、何かあれば直ぐに報告しろ」
「以上。皆車から降りろ」
そうして私は、"ciero"の建物へと足を踏み込んだ。




