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アケロン川の渡し守



「_______」




強烈な眼球の痛みと共に目を覚ます。


とっくに冷たい砂利の上かと思ってたものだが、私が寝ていたのはトヨタの居心地のいいシートだった。




「...っ」




全身が痛む。


手を動かすだけでも電流が走ったかのような痛みだ。


動けない状態の私はそっと目を閉じ無音の世界に身を委ねる。


さっきの冷たい機械音すら今は聞こえない。



「...」



ザッ ザッ ザッ ザッ




「ッ!」




89式を手に取る。


それは足音だった。


明るいぼうぼうとする光を携えながら、それは近づいてくる。



ガチャッ



チャキッ




ドアが開くと同時に銃口をドアに向ける。


だが先にいたのは、松明を持ったクロズコップだった。




「傷の具合は?」



「...」




クロズコップは怖気もせず私に笑顔を絶やさない。




「ついてこい。まだ寝かせないぞ」


「Moerder(殺人鬼)ちゃん」



「...」




_____________________




暗闇の荒野を歩く。


相変わらずクロズコップは口を開かない。


その背中は、三途の川を渡るカロンのようだった。




ピタリ




船の渡し守は漕ぐのをやめる。


依然として私の目には背中が映る。




「フキ」


「君はウサギを殺したことはあるかい?」




クロズコップは問いかける。




「...ウサギ?」



「そう、檻の中で育てられた純新無垢な茶色のウサギ」


「ガキの頃の私は、そいつを部屋の押し入れに隠して飼っていた」



「...」



「そいつは人懐っこくてさ、指を近づけるとすぐ近づいてきて、匂いを嗅ぐんだ」


「でもある日、親父が私の押し入れを覗いた」



「...」



「そうすると、親父はこう言った」


「"獣くせぇ正体はこれか"、って」


「親父は私の首を掴み外の庭へと連れ出した。そしてこう命じたんだ」


「"首をへし折って林に捨てろ"」


「"お前がだ。お前が責任を取れ"って」




「...」




「私は首を親指で潰すようにして360°捻った。ぎぃ、という断末魔を聞きながら」


「そして家の裏の林の遠くめがけて、そいつの大きな耳を掴んで思いっきり投げた」


「その時は悲しかったよ。人生で一番泣いたって言ってもいいくらい」



「...お前は何を言ってるんだ?」



「...」


「フキ。君はウサギも殺したことないそうだな」


「これを見て、悲しいと感じるか?」




ボワっ




クロズコップは左を向き、松明のオレンジ色をその方向に照らしてみせる。


そこにはいく百の死体、血溜まり。


夜のメキシコの荒野にさらされ冷たくなった蝋人形達がいた。



「...」



それ以上でもそれ以下でもない。


ただ、錆び付いた荒野に蝋人形達が横たわっていた。




「...悲しい?」


「なぜそう感じるんだ?」


「私が殺したのに」



「...」



「こいつらが麻薬のために戦うクズだから、一般人を脅かすヤクザだから殺しても心が痛まないだとか」


「そういうことではなく」


「ましてや正規の訓練された兵隊じゃないから」


「ということでもない」


「ただ脳に電極を刺すために」


「私自身の刺激のために」


「行動した結果がこれだ」



「...」


「フキ、お前は」


「異常だ。普通じゃない」



「...」



「死にたくなければここから失せろ」


「感情のない機械は仲間を殺す」




クロズコップは振り向く。


炎に揺られたその顔は、一つ眼お化けそのものだった。




私は腰の銃剣を握る。




チャキッ





「...残念だよ。君のこと、結構気に入ってたのに」




一つ眼お化けは黒のファイティングナイフを取り出す。


ザリザリとこっちへと擦り寄ってくる。





ザギャッ





強烈に左脚を踏み込む単眼。


2メートルある距離をとんでもない速さで詰めてくる。


私は羽織ってたカーキのポンチョを投げつけ後ろへ引いた。


しかし単眼のナイフが頬を掠めた。


相も変わらず単眼は土を踏み込み、一瞬にして私の上に馬乗りになった。



「全身が痛いんだろ?わかるよ」


「今、終わらせてやる」




強い。


この女は私よりも。




「...」



ナイフが私の胸をチクリと刺す。


私は死を覚悟した。




パーンッ パーンッ パーンッ




「____貴様ら何してる」



「...」




3度の発砲音。


シグレである。


暗闇から。




「悪いけどシグレ。こいつはここで殺す」



「なら私も、お前をここで殺す」




ジャキッ




「...」




向けられたガバメント。


単眼はそれを音で察知したらしい。




「嫌だなシグレ、私を殺すのか?」


「こいつはいずれ仲間まで傷つけかねない。それなら今ここで殺しておいた方が為になるとは思わないのか」



「殺すことに抵抗を感じるのは三流だ」


「そして何も抵抗がなければ、そいつは優秀な兵隊だ」


「貴様は抵抗を感じて草間二士にこの死体の山を見せつけたな」



「抵抗なんてないさ」


「ただ、自分の奪った命の重みは人として知っておいた方がいいと思っただけさ」



「...」


「2人とも車に戻れ」




______________________



そして車内。


また私は後部座席に腰をかける。




「ガチャ、無線機を」



「はい」



ガチャが無線機をシグレに渡す。


チャンネルを9番にいじると声が聞こえてきた。


あのホルヘという男の声だ。




『___シ___グレ___』




ガチャが無線機の調整をする。


少し右に手を捻る。




『____シグレ、俺だ』



「こちらシグレ。報告は済んだはずだが」



『いや、報告ではない』


『このまま南東を60キロ進み、ノガーカルテルのボスの家へ向かえ』


『それで仕事は終わりだ』



「追加報酬は?」



『30万ドル』



「引き受けよう。では」




ガチャッ




シグレはガチャに無線機を渡す。




「...罠か」



シグレは言葉を漏らす。



「まぁ、敵のボス討ち取るのに私らが出向く理由もないからねぇ」



単眼もため息混じりに言葉を漏らす。


しかし、不可解な疑問が浮かぶ。



「なぜ奴らは私らを嵌めようとする?」




その私の疑問に対し、シグレはこう答えた。



「一つ。金を払いたくないから」


「二つ。マキージョカルテルのボス、ゴメス・ロドリゲスが自身のカルテルを政党として進出させることを目指しているから」



「政党...?」



「言った通りよ。メキシコ全土の麻薬網を掌握した後、自身のカルテルを政党化し、政界に進出する」


「コロンビアの麻薬王と同じことをしようとしている」


「その時に、傭兵を使った事実や一般人を巻き込んだ事実を大っぴらに公表されたらまずいから私らを消すってわけ」



「....」



「じゃあ、もう目的地は決まったね」




ガチャが言う。




「あぁ。ペズ、もう一度メキシコシティに戻れ」


「報酬を受け取りに行くぞ」






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