Todesspiel(トーデシュピール)
「よぉ、お前がシグレか?」
晴天。
活気のある街通りの中、葉巻を吸った髭男が白いプラスチックの椅子に座っている。
紫呉は立ちながらその様子を眺めていた。
後ろには腰に拳銃をさした坊主頭が2人。
こちらに睨みをきかせている。
「座りなよ。それとも日本人ってのは立って相手と話すのか?」
「座標を聞きに来ただけだ」
「あんたは金を払って、私らは標的を潰す。そういう話のはずだが」
「せっかちだな、そんなに敵を撃ちたくて仕方ないのか」
ホルヘは側近に笑いかける。
すると後ろの坊主兄弟も笑った。
ガキは玩具を与えられるとすぐ遊びたくなる、と。
クロズコップはそれを紫呉に一言違わずに伝える。
紫呉は毅然とした表情で無言を貫く。
「いいだろ、教えてやる」
「北緯20度21分、西度100度10分。そこでドンパチやってるから全員殺してこい」
「...」
「行くぞ、目的は果たした」
紫呉が真顔で振り返り、それに合わせて私らも背中を向け歩き出す。
「さすが、麻薬で吸った甘い汁は頭をバカにするんだねぇ」
クロズコップは笑う。
「過小評価は判断を鈍らせる。控えろ」
「はいはい」
「___でも結局、シグレも足元見てるだろ?」
「...」
「足元は見てない。私はいつだって対等さ」
「ただ、段差が低いから話す時に首が自然と下がっちまう」
「そうすると...ゴキブリと間違えて思わず踏み潰しちまうだけだ...ッ!」
「...」
少女の顔じゃない、それは________
それはlobo(狼)だった。
___________________
___再び車で2時間。
私らは目的地の座標にあと少しというところまで来た。
すると
パパパパッ...
「...!」
遠方からなにか破裂音が聞こえてくる。
「銃声が聞こえた。車を止めろ」
キキーッ...
紫呉の声でクロズコップは車を止める。
「ここから先は戦闘区域だ。フキ、後部から武器を取って全員に回せ」
私は後ろから灰色の布に覆われた89式を取り出した。
「HK416」
次の布をめくる。
クロズコップにHK416を渡す。
ガチャッ
「どうも」
「私はアバカーン」
また次の布を捲り、AN-94をガチャに渡す。
私は座席に戻った。
「各自座席の下の弾薬を持て。その銃に合わせた物を置いてある」
5.56mmのNATO弾だ。
それを3つマガジンに詰め込み、そのうち1つをハウジングに取り付ける。
「...あんた、大丈夫?」
「震えてるけど」
ガチャは弾を込めながら私に言う。
「...どうもさっきから震えが止まらない」
「これから生きた人間を撃てると思うと」
「______思わず股が濡れる」
「...」
「シグレちゃん、あんたとんでもない奴連れてきたね」
「まさか、バケモンを連れてきたつもりはない」
「無線を付けたら皆外に出ろ。指揮系統は私が執る」
ガラガラガラッ
「通訳は必要か?」
「対話するつもりは無い。見つけ次第全員殺せ」
「索敵殺害か。分かりやすくていいねぇ」
「私は車にいる。では諸君」
「今回も生きて帰れ。以上」
そう言って、紫呉は車の扉を閉めた。
それを見て私らは荒野へと歩き出す。
「今回も生きて帰れ、だってさ」
「生きて帰るのは簡単さ。今すぐ車に引き返せばいい」
「逃げるなら今のうちだよ、ルーキー」
「...」
ぽたっ...ぽたっ...
「...」
「(...草間フキ二士。こいつ、唾液が溢れだしているな。目もおぼつかない感じだ)」
「(...まるで野に放たれた虎、といったところか)」
「(...面白い。やはり戦場ってのはこうでなくちゃ)」
歩き出す。
鉛の荒野に。
歩き...ダス。




