[ルートY] broken crystal (壊れた水晶)
____警視庁本部公安部 理事官執務室_____
ガチャッ
「失礼します」
「錦野彌生、参りました」
「ご苦労。楽にしたまえ」
「国際指名手配犯、花咲紫呉の活動が近頃活発になってきている」
「そこで君に花咲紫呉の調査を頼みたい」
「奴の根城はここだ。必要なら君の直属部隊を使っても構わん」
「はっ、かしこまりました」
「それと、奴は近頃妙な人間共を集めている。ただの探りではないと心してかかれ」
「妙な人間...?」
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黒スーツを着た黒髪の女、錦野は銀色のハコスカのなかで双眼鏡を手にしていた。
彼女の目つきはいつにも増して鋭い。
カチョッ
タバコ屋入口から大きなゴミ袋を抱えた黒髪の少女が出てくる。
「...いた、あれが花咲紫呉か」
「浦賀村42人殺しの犯人、神奈川県前市長を殺害し逃走。その後タバコ屋にて傭兵ビジネスを繰り返す」
「政府もよくこんな奴を野放しにしていたものだ」
しばらくするとさらに入口から2人の女がでてきた。
眼帯の女と幸の薄そうな黒髪の女だ。
「眼帯...クロズコップ・ペズーヘか。それにあれは草間フキ」
「紫呉はまだ店にいるのか...」
ガチャッ
カツ カツ カツ カツ...
「(なら、まずは2人を尾行する。私はあくまで紫呉の調査が任務だが)」
「(これも仕事のうちだ。徹底的に情報を絞る)」
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「ん...?」
2人に距離20mの感覚を維持し後ろから尾行していた訳だが、途中で二つに分かれた道に遭遇する。
すると眼帯の女と草間はそれぞれ別の道に行った。
クロズコップは左に、草間は右に。
私はクロズコップに的を絞り左の道へ進むことに決めた。
「(どういうつもりだ...?)」
さらに歩くこと30分。
クロズコップはとうとうどぶ板通りに出た。
人通りが多く、なおかつ人目のつく場所である。
私は見失わないように一定の間隔を維持し続ける。
「(裏路地に入ったか。出てくるのは薬物か、はたまた拳銃か)」
コツ コツ コツ コツ
奴はすぐに表に戻ってきた。
そして私は驚愕した。
奴が手に抱えていたのは鮮血の滴る生首だったのだ。
「_____諜報員に告ぐ」
「今すぐこの国を立ち去れ。さもなくば_____」
「______三途の川に渡してやる」
「________」
それは、そいつの狂気を見た瞬間だった。
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ポタッ ポタッ ポタッ ポタッ
「...なにあれ、映画の撮影?」
「悪趣味ー」
変わらず私は歩く。
昔と変わらず、見せしめのように。
前頭葉はとうに血と暴力に染め上げられ、体には冷たい血液が循環する。
...冷たい。
しかし誰も私を助けに来ない。
そんな感覚が________
_______とても心地よい。
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_______4年前 ドイツ 東ベルリン
オレンジに輝く照明。変わらぬ木製の椅子とテーブル。
ああ、ここは東ベルリンだ。
胸焼けする油とアルコールの臭い。
それが私を苛つかせる原因であった。
ある意味、この街に適していたのかもしれない。
「_______なあ姉ちゃん、そんなに暗い顔してどうしたの?酒不味くなるよ?」
「...」
「おいおい無視かよ。傷ついちゃうなぁ、そういうの」
「なんもしないってことは、どうしてもいいってことだよね?」
ぐいッ
「...」
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「_____おい!このアルカイダの女を輪姦そうぜ!」
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「_________ッ!」
_________ぶっぢゅあっ
「_________に"っ」
「_______ぐぎぁぁあああッッ!!」
「目が...っ!俺の目がぁぁあああッッ!!!」
ぐいっ
「...ふ...ふぅ...っ!」
ずるずる
「嫌だ...どこへ....どこへ連れてくんだぁ...!」
「_______助けてくれぇぇえええええッッ!」
その夜、私は25の男の脊椎を切断し殺害した。
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...ガチャッ
「...」
「...悪い、マスター。裏汚しちまった...」
「...」
「ペズちゃん。もう殺しはやめな」
「...」
ガチャッ
コツ コツ コツ コツ...
私は戦争から帰ってきても人を殺し続けた。
あの日の正義感に苛まれて、衝動的に。
私は無実の村人を大量に殺したくせに。
コツ コッ...
「...」
そこに、空き瓶があった。
バリンッ
「_______...したくせに」
「...村人を...殺したくせに」
ザクッ シュッ ザクッ
「村人を...!殺したくせに...ッ!」
ザシュッ ザシュッ ザシュッ
「クロズコップ・ペズーヘッ!お前はッ!村人を殺したくせにッ!」
「自分の身勝手なッ、正義を語るのかよぉおおおおおッッ!!」
ザッパァッッ!!
「死ね"ッ!死ん"じま"え"ごの偽善者ッ!ぶっ殺すぞお"前ッ!」
「ごぇ...ッ!」
ズザザザザザザッ
「_________死ね"ッ!」
ブズッ!
ブシっ ぶっしゅぅ...
「ぶ...ぶふ...っ...そうか...そんなにじにたくないのか...っ」
「なら永遠に消えない印を刻んでやる...このゴミ野郎...っ」
「お前が、お前自身が穢れた存在だという証を」
ぐぐぐ...
ぐりっ...ぎり...
「ご...ッ...が...っ」
ぐじゅっ
「ぎゃ...ッ!!!」
べちゃっ ぐち...っ
「...ぇ"...っ」
...ドサッ
沈黙。
それは死を意味していた。
冷たいベルリンのコンクリートの上で死ぬ。
まさにそれは、私の望んだものだった。
「______クロズコップ様...?」
_______しかし
死ぬ間際の幻聴とやらが聞こえてくる。
誰だろう。
きっと走馬灯とやらかもしれない。
「_____あなた、クロズコップ様...ですよね....?」
「...」
「誰か...誰か救急車を...っ!」
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「...全身の深い刺傷に加え右眼球の重度損傷。体内からガラス片が検出されたので、恐らく自傷行為によるものかと」
「戦争経験者がよく発症するPTSDが原因ですね。それも深刻な」
「...戦...争...?」
「クロズコップ様が...戦争に...?」
「ええ、"現在のアフガニスタンの紛争でドイツ連邦軍の軍事作戦に参加していた"と報告書には書かれています」
「な...っ」
「それより、入院費の件ですが」
「2週間で2000€とさせていただきます」
「...申し訳ありません。代金は、その...持ち合わせてないのです」
「なのでこの方は、私が引き取ります」
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「_______」
ふと、白い空間に目を覚ます。
よく晴れた日差し。それに靡くカーテン。
それはとても...安らかであった。
「...ここは...」
________ガチャッ
「あぁ...目が覚めたのですね...っ」
「良かった...本当に良かった...」
「_______君は?」
「...申し遅れました。小さい頃あなたによく遊んでいただいたレーナです」
「...覚えていらっしゃらないですか...?」
「_______やぁレーナ!初めまして!」
「...」
「今日は公園でみんなでかくれんぼをするんだ。君も来てよ!」
「...っ」
「あれ、恥ずかしがり屋だったか。そうか、知らない子と一緒にいきなり遊ぶのは怖いよね」
ぎゅっ
「よしよし...お姉さんが一緒だから大丈夫だぞー」
「...ひ...ぅ...っ」
「クロズコップ...様...っ...」
「なんで泣いてるのさ。困っちゃう子だなぁ」
「...かわいそうに...っ...一体誰がこんな姿に...っ!」
「かわいそうって、私が?なんで________?」
ガッシャァンッッ!
「...ッ!!!」
「______ぎゃぁぁぁああッッ!!!」
「ッ!!」
「...村人だ...っ...村人が私を殺しに来たぁ...っ!」
「嫌だ...!許してくれ...っ!あれは事故だったんだッ!」
「お、落ち着いてください!あれはゴミ箱が風で飛ばされただけです!」
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「もし患者が興奮した場合、これを注射してください。鎮静剤です」
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「ッ!!」
ガサガサッ
「あった...これを...!」
「...少々痛みますが、我慢してください」
ブスッ
「_____う_____あ_______」
「...そう、落ち着いて。深呼吸を...」
「...ふ...っ、ふぅ...ふぅ...」
「大丈夫。もうここにはあなたを傷つけるものはありません」
「私が...あなたを守ります」




