[ルートZ] That day, the girl took over the world.(その日、少女は世界を手にした)
「______診察結果が出ました。どうぞ、そのままでいいので」
「より詳細な精神分析を実施したところ、どうやら紫呉さんは解離性同一性障害のようです」
「これは子供の頃に想像を超えたトラウマを経験したりして過度なストレスがトリガーになって引き起こされるものです」
「紫呉さん、なにか心当たりは?」
「_____ないです」
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バシッ
「ぎゃっッ!!」
「紫呉お前、剣道の集合には10分前には来いと言ってあるだろうが」
「ごめんなさい...でも、学校の帰りの会が長引いて、それで...」
ボギャッ
「そんなの抜け出して来いや!私を、みんなを待たせるな!」
「うがっ...!」
「ぶふぅ...ぅ...っ」
学校が終われば顔から血を流す。
それが私の日常だった。
小学校の頃に母に入れられた名前もない剣道教室には、木刀で私を殴る赤津という男がいた。
遅刻をしなくても、習った技が出来ていても、なにかと理由をつけ私の顔を真っ赤な血で染めた。
「よし、練習終わり。明日は朝の8時に集合っ」
「...」
「(泣きたいのに、泣けない。こんな顔をボコボコにされても)」
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ガチャッ
「...ただいま」
「...」
「その顔は?」
「先生に...殴られました」
「....」
「またミスをしたのね。その顔でわかるわ」
「今日はご飯抜き。6000文字反省文書いて寝なさい」
「...はい」
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「...おい、紫呉。その顔どうした」
「...」
「またあの馬鹿赤津か。いつの時代も馬鹿は変わらん」
「ほれ、こっちに来なさい」
「おじいちゃん...」
「全く紫呉の綺麗な顔をこんなんしおって...痛いだろうに」
「消毒する、痛むぞ」
ちょんっ
「いっ...!」
「おぉ痛かったなぁ、よしよし」
「でもじいちゃんは昔軍医だったから、人を治すには慣れてるでな。安心しな」
「...」
「痛かった、の?」
「あ?なにが?」
「その...右腕...無くなった時...」
「あぁ...これか」
「これはニューギニアにいた時、米軍の爆撃で腕が吹き飛んで、それで」
「ニューギニア...」
「その後ある人に助けられてな。その爆撃機を竹槍で堕としちまった」
「あれはまさに...鬼の勢いだったな...」
「...」
「まぁ、紫呉は知らんでいいことだ。今日はもう寝なさい」
「...」
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次の日、私は図書室で子供の好奇心からか"ニューギニア"に関する本を探して読んだ。
「(ニューギニアの戦い...おじいちゃんが行った戦場はこれかな...)」
ペラ...
「うっ...!」
「...これは...」
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こっ こっ こっ ...
「ん、紫呉か」
「ねぇ、おじいちゃん」
「おじいちゃんはなんで、まだこの世界で生きていこうと思えるの」
「そりゃどういう...」
「ニューギニアの戦い...今日学校で見たよ」
「おじいちゃんはあんな辛い思いしてるのに、なんでまだ生きていこうと思えるの...!?」
「紫呉...」
「...そうか。見てしまったか、お前も」
「確かに...なんで生きとるんだろうなぁ、わしも」
「樹海ん中で泥まみれで、敵を殺しながら仲間が腐っていくのを眺めて、それでも生きたくて蛇を捕まえて」
「きっと...家族の顔が見たかったからだろなぁ...」
「...」
______なで
「わしはきっと、紫呉に会うために生きのこったんだろうなぁ」
「お前からは何故か、希望を感じるんだ」
「....」
「だからそんなこと考えるな。いいな」
「...」
「わかった」
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その翌日、祖父は浴槽に顔を突っ込んで溺死した。
ぽく ぽく ぽく...
「______般若波羅蜜多...」
「...」
「...良かった」
「...え?」
「_______これでお金に困らないわ」
「...」
「お母さん...まさか...」
「...えぇ」
「______昨日飲ませた睡眠薬が効いたみたい」
「_________」
ドクッ ドクッ ドクッ ドクッ
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクッ
______あぁ_____殺そう_____
ブッギョンッッッ
「ぶげっ....!げっ...!」
「______負けても負けても自分の頑張りが報われず」
「______地獄の南方から生還したとて家族に恵まれず」
「______挙句生きてきた意義すらも食い物にされる」
「_______屑は英霊の無念を知れ____」
バギャンッッ
ぷっしゅうぅ.....
...べちゃっ
「あ、あいつ銃持ってるぞ...!」
「そうだ、南部十四年式っていうんだ。覚えておけ」
パンッ パンパンッッ
「ぐぎゃ...ッ!」
パンパンッ パパパッ
「に、逃げろ...っ!!」
「警察呼んでッッ!!早くッッ!!」
パパッ パパパンッ
「...」
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私は村中を回った。
殺して回った。
殺して殺して、殺して回った。
とうとう最後の村民、赤子を抱えた男が砂利の上で震えていた。
「ふぅ...っ、ふぅ...っ」
「(...草間んとこのじじいか。最近身内で子供が生まれたとは聞いてたが)」
「...お前が最後だ。何か言いたいことは?」
「この子は...この子は助けてくれ...!」
「まだ生後5ヶ月なんだ...!」
「ダメだ、そいつはこの村で生まれた」
「この村の人間は全員殺すと決めている」
バギョン
「ぶぇあ...ッ!」
ドサ...
「...」
「...う...ぅ...」
「(...心臓を狙いそびれたか。だが確実に狙ったはずだが...)」
ババッ バキョンバキョンッ
ザクッ ザシュッ ザシュッ
「ふぅ...」
「...」
ピクッ
ググッ...
「...ッ!」
「なぜ...生きている...っ」
「_________ッ」
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「____あれはまさに...鬼の勢いだったな...」
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「...鬼は...」
「________鬼は、存在する」
「...」
「これを使えば...おじいちゃんのような人間を救える」
「無能な上官に尊厳を踏みにじられた人間を...」
「...」
「くくっ...」
「くかかっ...」
「_____この世界を___支配できる____」




