[ルートZ] Volkodlak(人狼)
______キイイィィィンッ
「______クロズコップ様。成田空港まで残り2時間のようです」
「...」
「(...2時間、か)」
「果たしてペシューコフはそれまで耐えられるか...」
「...クロズコップ様?」
使用人のレーナは静かに、表情も変えずにそう言葉をこぼした。
決まって、こういう時彼女は不安だったりするのだ。
「ん、どうした」
「いえ。少しお顔が優れないようでしたので...」
気がつくとレーナは顔が触れそうな距離まで近づいてきていた。
相変わらずその輝く金髪からはサボンの優しい匂いが立ち込めてくる。
「レーナ。顔が近い」
「これは失礼しました。いつもの悪い癖です」
「...」
そう言っても、彼女は顔を遠ざけたりもしない。
人間の素肌のタンパク質の匂い。
ごちゃごちゃした頭の中が動物の本能によって1箇所に整理される。
「______Danke、レーナ」
「問題はありません」
彼女の細く小さい体を優しく抱き寄せる。
項に鼻を当て、本能を解放するように純粋な匂いを脳に保管する。
「...」
「やはり、なにか考えこんでいるようですね」
「...」
構わず私は一方的に彼女を"扱う"。
悩みから開放されたと同時に、腹からなにか湧き上がる衝動に駆られたからだ。
「私にはお見通しです、私には...あっ...」
「決まってあなたは...何か危険なことに近づいていて...っ」
「...そんなのいつもの事さ。所詮はコインが全て裏目の博打にハマってしまっただけのこと」
「____夢の終わりなぞ、そんなものだ」
______________________
ガチャッ
「ふぅ....ふ...ッ!」
古びたアパートの扉を開けると、その白い肌に染まった血塗れの女がうずくまっていた。
それをただなんの表情もなく眺める。
「_________」
コツ コツ コツ コツ
ぶすっ
「うぐっ...!」
「鎮静剤だ。ベッドまで運ぶぞ」
ぐぐっ
「(...瞳孔が開き始めたか。しかして奇妙だ)」
「(締まった瞳孔が抵抗するように鎮静剤を拒んでいる...?普通なら一瞬で眠りにつくはずだ)」
「....ぺ...ズ...」
「もう喋るな、Scheiße...一体どうなっている...」
「にくを...」
「______肉を、寄越せ」
_____________________
それからというもの、ガチャの様子は明らかにおかしかった。
部屋の布団の中で苦しそうにうずくまっているかと思えば、時たま台所へ足を運び冷蔵庫から肉を取り出しそれを生のまま食らう。
今さっきはスーパーの5割引牛こま切れだ。
そんな様子を私はタバコを吸いながら半ば観察している。
「_____狼は空腹を知らない、か」
「...」
「なに...?」
「野生の成熟した狼は、番を探しに行くために親元を離れて一匹狼になる」
「その狼は1人で生きていくものだから、当然狩りも1人で行い、」
「自然と食う量も増える」
「まさに今のお前にそっくりじゃないか?」
「...」
ガチャは自身の手を握ったり開いたりして、その様子を眺めていた。
どうやら本当に狼になってしまったのかと思ってしまったらしい。
相変わらず純粋なやつだ。
「...馬鹿なこと言わないで。冗談でも許さない、そんなの」
「次変なこと言ったら...あんたを殺すわ」
「...」
「はは、まぁそれも楽しそうだが、今はシグレをなんとかする必要があるだろ」
「殺るつもりか?」
「...」
ガチャッ
バリバリ ぐちゃっ むしゃ
「...当然。私がフキをあの悪魔の手から救ってやる」
「私はフキを、愛しているのだから」
「...」
「ひとつお前に大事な忠告。もう既に人間のレールを外れてしまった"人狼様"」
「お前が今持ち合わせている力は、草間フキが持ち合わせている強力な力と酷似している」
「草間フキは長時間その力を使うことが出来た。恐らく力が発現してからの年数が大きく影響してるのだろう」
「だがお前はたった今その力を発現させた。1日も経っていない」
「だからなに?」
「______...殺されるぞ、ガチャ」
「...」
「_______ねぇペズ。私いますごい嬉しいの、わかる?」
「...」
「フキと同じ世界で、同じ感覚を共有して、同じ感情で、同じ時をすごしている」
「やっとあの人を見つけられたって...そう思うと胸が高鳴って頭がおかしくなりそう」
「さらにフキをあのシグレの元から解放すれば幸せの最高値に達する事ができる」
「その為なら...奴と相打ちになったとしても」
「_______花崎シグレを地獄に叩き落とす」
「...」
「...でも今は、まだその時じゃない」
「蝶が羽化して羽を乾かすように、私も形を整えてから______」
「______確実に殺してあげる______」




