[ルートX・エピローグ] イサク:彼は笑う
「______鬼人はVX程度の毒性では死なない」
「鬼人を殺す唯一の方法、それは______」
「▅▅▅▅▅▅を注入すること」
______蝶番軌の実験報告書_______
______________________
バツン バツン バツンッ
急激な光に目を焼かれる。
それはあの廃工場を彷彿とさせるものだった。
「__________」
いや、違う。
これは...白い回廊。
雲の上に浮かぶようなここは______天国だろうか。
とても明るい。
「____久しぶり、フキ」
聞きなれた声に後ろを向いた。
それはあの青髪の女が優しそうな顔をしてこちらに微笑みかけていた。
白い透き通ったワンピースを着て、手を後ろで組んでいるのだ。
「マリ______ア」
再びマリアが笑う。
その笑顔は正に聖母であった。
がばッ
「ごめん...ごめんなさぃ...」
「私が守れなくて...私が...っ」
マリアは黙って私の頭を撫でる。
______ここは...心地がいい。
大気のそよ風を感じ、それが私達の体全体を包み込む。
夏に吹く涼しい風のよう。
「聞いてくれマリア、私は頭のおかしい軍人に毒を打たれたんだ」
「酷いだろ...私は何もしてないのに」
「...はぁ。また無茶したんでしょ」
「なんで無茶したか知らないけど」
「...もう危ないことはしないで」
「しない。もうしたくない」
「...私はここで暮らすんだ」
「_________君と、ここで」
「...」
「_____鬼人は常に戦場を求めなければならない」
「_______」
私は本能的にマリアから離れる。
ぶわっと溢れ出した汗は、涼しかったはずのそよ風を冷水に変えた。
それは、氷点下だった。
ゴゴゴゴゴゴ....ッ
マリアの顔が歪み、青い髪色さえもドブ色に変わっていく。
そして白い空間も崩れ始めた。
「_____鬼人の由来は正に"鬼の人"。獰猛かつ好戦的な血をその体に秘めている」
「甘えていてはならない、鬼人草間フキ。これからも戦場にさまよい_______」
「______私の鬼人でいてくれ」
ドロ...ドロ...
ドブの中から姿を現した諸悪の根源。
それはあの脚長の女医であった。
「_____軌...ッッ!」
「楽しみにしているよ、草間フキちゃん」
「_______"鬼人"フキちゃん」
「待て軌...ッ!!!」
「私に...私に何をしたッッ!」
「待ちやがれ軌ぃいいいいいッ!!」
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ピッ ピッ ピッ ピッ...
「つはッ...!はっ...!!」
「せ、先生!患者さんが目を覚ましました!」
「...はぁ..ふ...」
「...」
「...ろす...わだ、ち...ぶっ...ころ...すっ」
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________2ヶ月後_______
私はタバコ屋の近くの病院を退院し、とある横須賀のアパートを借りてガチャと生活することになった。
紫呉も表の姿に戻り、しばらくは"仕事"とは無縁の生活をしていた。
くちゅ...くちゅ...
「...あ、フキ...っ」
ガチャのその白い肌がよじれる。
感覚過敏のその体が私の指を捉えて締め付ける。
「(あれ以降...紫呉から仕事の依頼はきていない)」
「(...彼女が今何を企んでいるのかも)」
ぐちっ ぐちっ
「うっ...フキ...」
「(それにあの蝶番軌という女....奴は鬼人という存在を知っていた...ッ)」
「(カルテルでさえ知りえなかった情報をなぜそいつが...ッ!)」
ガシガシッ
「あ"...い、いたい...ッ!」
「(まさか、紫呉は私が鬼人ということを知っている...?)」
「フキっ!」
ガバッ
「あっ...」
「最近おかしいよ...!ずっと何かを考えてるみたいで...」
ガチャは勢いよく私から離れた。
ベッドの上は彼女の汁まみれなのに。
「...」
「...ごめん。」
すっ すっ
がばっ
「ちょっ、どこいくのっ...!」
ぎぃ バタンッ
「...」
ガチャッ
「______迎えに来たぞ、草間フキ」
「...」
ドアノブを開いたその先。
そこには黒のノースリーブシャツを着た1人の幼女、花崎紫呉がいた。
高く落ち着いた声から裏の姿だと察する。
「何を...しに来た...」
混濁する脳内。
目の前の少女の姿があの白衣の女と重なる。
「来い、私と」
少女はその小さな手を差し伸べる。
どうにも私は、それに吸い寄せられるように手を取ろうとした。
_____脳がそれを命令するかのように。
ドタッ ガチャッ
「紫呉...あんた何しに来たッ!」
刹那、毛を逆立てた白い猫が私を手で押しのける。
「...ふっ、ベラルーシの売国奴が」
ザクッ
「ぉ...あ...」
ずる...ず...
...どさっ
「...」
「...ガチャ?」
壁からずりおちる腹を押えたガチャ。
私の足元に横たわった後、動かなくなる。
バチンっ
左から強烈な衝撃が走る。
どうやら気付けのビンタを食らったらしい。
そして再び手をさしのべられる。
「さぁ来い、草間フキ」
「_______"鬼人"草間フキ」
「...」
「...はい」




