[ルートX] Karma rupture (因果断裂)
「はぁ...はぁ...」
ブシィッッ
「ぐっ...ッ!」
撃たれた肩から血が吹き出す。
なんだ、これは...肩を撃たれただけなのに...
「これ...普通の弾丸じゃない」
「...え?」
「毒性浸透式9mm弾。通称"HANNIBAL"」
「鉛と液状のVXを混ぜ合わせた死亡率90%の"劇弾"」
「撃ち込まれたらもう...」
「...死ぬしかない、か」
「...」
ガチャの肩が震える。
私は知らなかったが、実はガチャは泣き虫らしい。
電極が徐々に抜かれていく私は弱って縮こまった彼女の耳元に口を近づけこう言った。
「_______私は死なない。それは絶対だ」
「...え?」
ピッ
「こちらフキ。聞こえるか紫呉」
[_____あぁ、聞こえる]
[どうした、奴は倒せたのか]
「猿芝居はやめろ。どうせ、私らの状況を見ていただろ」
[...]
[それで、なにが目的だ]
「血清がほしい。毒名は"HANNIBAL"」
「それを届けてくれると約束すれば必ずクラシコフを殺害する」
「紫呉、お前がどういうつもりで私らを裏で操ってるか知らないがな」
[...]
[別にお前らを嵌めようってわけじゃない]
「じゃあなぜ一切連絡を寄越さなかった...!」
[...]
[...血清は用意する。その代わりしっかりと勤めは果たせ。いいな]
ピッ
「...クソ...信じてたのに...」
「...恐らく紫呉の目的は、"タバコ"...」
「...なに?」
「メキシコの時もそうだった。巨大な麻薬産業の乗っ取りという目的があった」
「今回はベラルーシ産のタバコの密輸網。ここでは、脱税した格安タバコをロシアに密輸している」
「その密輸を担っていたのが...」
「______クラシコフの直属部隊ベリョーザ」
「紫呉は奴を殺害しそのタバコを日本に密輸する為に私達をベラルーシに派遣した...というシナリオか」
「クソ...それがタバコ屋の娘やっている理由か...!」
「紫呉はきっと...Dual(二重人格)なんだよ...」
「表のシグレからは...やっぱり想像できない」
「...悪は何処まで行こうとやはり悪だ」
「結局、私らを騙していたことと変わりはない」
「フキ...」
「次また紫呉が私らをコマのように扱ったら...私はあいつを許さない」
「この部隊を抜ける」
「その時は、ガチャ。私と来てくれ」
「...無理だよ...私は...シグレに魂を売っちゃったから...」
「いい加減にしろガチャッ!!」
「ッ!」
「いつまで誰かに支配されるのを待っているッ!クラシコフの次はタバコ屋の娘かッ!?」
「いい加減自分の意思で生きろッ!お前の魂はお前だけのものなんだぞッ!!」
「...ぅ...う...」
「そうだよ...っ。でも、そう上手くは行かない時だってあるでしょっ....」
「無理...言わないでよ...っ」
「...生憎、私の本性は強引さ。だがそれは百も承知だ」
「私はただ...ガチャに幸せになって欲しいだけなんだ」
「...ッ」
ガチャの目が開き、呼吸を止まる。
恐怖とはまた違う、過敏な肌でそれを受け取ったようだ。
「ガチャがまた支配されそうになったら、私が必ずそれらを跳ね返す」
「だから...私と来てくれ。ペシューコフ・ガチャ」
「....っ」
ガチャの目に光が宿る。
それは、まるで数十年眠っていたダイヤモンドのようだった。
「...ぅん...うん、いくよ私...」
「ここから生き残れたら...私を...」
「______どうか連れてって」
「...」
「ふ...」
「________当たり前さ」
コツ コツ コツ コツ
空間に響き渡る冷たい足音。
しかし、それはどこかけたたましさがあった。
「賭けの、続きだ」
「_____草間フキ」
それは地獄のような光景。
鼻からは濃い血液を垂れ流し、胸から覗いたその穴はなにか黒い物体が奇妙に動きながらその姿を現した。
青年はこれ以上ないほどに笑顔だ。
「ガチャ、行くぞ」
「う、うん」
ドッグンッ
「ぐッッ!」
「...フキ...っ?」
「(まずい...毒が回って...きたな...)」
「(視界が...朦朧と...)」
ガクッ
「や...だ...」
「やだやだやだやだッ!死なないでフキ!」
「私を...ガチャを連れてってくれるって言ったじゃんッ!」
うわあん、と私の背中を激しく揺らしながら泣きじゃくるガチャ。
全くいつ見ても、その泣き顔は子供の駄々をこねるそれだ。
「そんな...顔を...するなよ」
「地獄まで...連れてってやりたく...なる」
「私行くよ...っ!地獄でもなんでも...!」
「だから死なないで...死なないでよフキッ!」
「______ガチャッッ!」
「...っ!」
「帰ったら...お前を抱きたい」
「その時の為に...先に帰っててくれるか」
「...っ」
「抱いてよ...絶対...っ」
「必死に守った...処女なんだから...」
ガチャは少し戸惑ったように顔を赤くした後、廃工場の地下出口へと走っていった。
「...そうだ...それでいい...」
「君は今...開放された...全てから...」
「_____もう終わったか?」
「稚拙な別れは_______」
私は毒の回った体に電極を繋げた。
ぐぐっ...ぐっ...
「_____悪いな、好きな子には臭いセリフをつい言ってしまうんだ」
「待ったか______?」
「いいや、全然」
「...」
「...」
静寂が流れる。
他の部下は着いてきていないみたいだ。
ガチャッ
先にSFP9を抜く。
バギュッ
「....っづッ!」
しかし照準が正確に定まっていたのはクラシコフの方だった。
45口径の弾丸が私の脇腹を撃ち抜く。
「君の電極。確かに毒を回すのを防ぐほど強力なものだ」
「しかし、だめだ」
「その毒は1ミリでも体内に入れば常人には致死量な猛毒なんだ。いくら君でも早撃ちでは俺には勝てないよ」
「そうか。なら...」
ダダっ...!
「...背を向けて逃げるとは...焼きが回ったな」
「背中から撃たれたいなら、お望み通りに」
バシュッ
「...ぐッ...!」
背中に鈍い感覚が刺さる。
一瞬倒れそうになったが...
ダッ
「へぇ...45口径を食らっても尚倒れないとは」
「一体俺をどこに連れてくつもりなんだぁッ!」
「_____草間二士ッッ!」
クラシコフは私に着いてくる。
右へ、次に左。
そして直進。
私は走り続けた。
薄暗い監獄のような空間を、ただ走り続けた。
そして曲がり角を曲がった瞬間、身を隠すように立ち止まる。
「...足音が止まったな。鬼ごっこはもう終いか」
コツ コツ コツ コツ
「俺はな、賭けで全てを手に入れてきた」
「道端で歩いていて、突然ソ連の犬共に顔面蹴られようが」
「身分も弁えず身分の高い女を奪うためにブルジョワ共のイカサマポーカーに乗り込もうが」
「結局、最後には俺が勝ってきた。努力も才能も何も持たなかったこの俺がだ」
「惜しかったな草間フキッ!このギャンブル、やはり俺が勝利することにッッ!」
「________今決めたッ!」
ガバッ
クラシコフが曲がり角を飛び出してこちらに銃口を向けたその時。
ザクッ
「ふぅっ....!」
「...」
私は、紫呉から受け取った日本刀をちょうど空いたその心臓に突き刺した。
「な...んだ...それ」
「ご、ぉえ...っ!!」
口から大量の血を吐く。
剣先は奴の心臓を捉えて僅かな動きも許さなかった。
「______努力をしなかった者はいくら運に恵まれていても」
「_______時代に呑まれるものだ」
ジャギィッ
ドサァッ
剣先を思いっきり引き抜く。
すると奴はとうとう動かなくなり、血溜まりが広がっていっただけだった。
ポタッ ポタッ ポタッ ...
「...」
「...紫呉から受け取ったこの軍刀。いざと言う時の為に潜入前に隠しておいて助かった」
「...」
「...因果断裂。作戦...終...了」
ドサッ




