[ルートX] assassination mission
午後6時。
ガチャが暖炉に火をつける。
テーブルを囲んだ白いソファーに私は座った。
紫呉は向かいのソファーに。
ガチャとベチカは暖炉前で遊んでいる。
「で、紫呉」
「作戦はどうする」
「...」
紫呉はイチゴのヴァレニエを一口食べアールグレイティーをその小さな口に流し込んだ。
※ヴァレニエとは東ヨーロッパに伝わる伝統的なのジャムのことである。
そしてテーブルにミンスク全域の地図を広げる。
「今回は少将暗殺を目的として動く。つまり、市街地でいきなり銃撃を始める訳にも行かない」
「じゃあゴルゴみたいにM16で狙撃するのか?」
「それもまた難易度が高い。第一、そんなことはペズにだって不可能だ」
「そこで集団的に暗殺を遂行する」
「私、フキ、ガチャの3人が連携して初めて織り成す作戦だ」
紫呉はボールペンを取りだしてある場所をまるで囲んだ。
「...ワークスマン製紙工場跡地?」
「奴はこの廃工場の地下で拷問を行っていることが分かった」
「そこにフキとガチャが潜入し、少将を暗殺する」
「それで作戦終了だ」
「...」
「少し難易度が高すぎないか?」
「私は潜入なんてした事ないぞ」
「そんな事だろうと思って、これを用意した」
ゴトッ
それは五つ目のついた奇怪な物体。
黒いそれはまるで蜘蛛の様だった。
「これは...ナイトスコープ(暗視ゴーグル)...?」
「正解。でもただのゴーグルじゃない」
「360°後方まで全方位視認可能、赤外線カメラ付き」
「_____そして、生体反応センサー付き」
「...生体反応センサー?」
「試しに付けてみろ」
「...」
カチャッ...
ピッ
視界が鮮明になる。
奇妙な感覚だ。後方に飾られた肖像画までもが視認されている。
「今は通常のカメラモードだけど、暗い空間に作動すればナイトモードに自動で移行するから」
「それと、その附属のイヤホンも付けて」
言われたままそのゴーグルに繋がった黒いイヤホンを耳につける。
ピーーー、という甲高いアラームのようなものが鳴っている。
「...なるほど、これは紫呉に反応して鳴っているのか」
「当たり。試しに離れてみるよ」
紫呉はソファーから立ち上がり、後ろに下がる。
ピッ ピッ ピッ ピッ...
「音が点滅するように遠くなっていったぞ」
「そう。人間が近ければ近いほど音は早まり、遠ければ遠いほど音は遅くなる」
「今回はこれを使って作戦遂行を目指すこと」
「それと________」
カチャッ
「サプレッサー付きのSFP9。89式にサプレッサー付けただけじゃ音が大きすぎるからね」
「フキが扱いやすいように自衛隊が使ってる拳銃にしておいた」
「ドットサイトに滑り止めのグリップ強化テープ...随分と豪華だな」
「ハンドガンだけじゃ心もとないだろうから」
「それと、これが少将の写真」
ペラッ
紫呉はテーブルに写真を置いた。
それはベラルーシ建国時代を築いた一員の人間としてはとても信じ難いものだった。
「______青年...?」
爽やかな笑顔の青年。
歳は20代くらいだろうか。
とても少将クラスの軍人とは思えなかった。
「騙されるな。こいつは45歳のおっさんだ」
「なぜこいつがこんなにも若いのかは不明。不思議なことに、こいつについての情報が一切掴めないのが現状だ」
「略歴、住所、人格までも全てが不明」
「こいつがガチャ達ソビエト一家を殺した件にだけには絡んでると分かっている、か」
「そういうことだ」
「作戦は明日実行する。準備するように」
「了解」
作戦は明日実行される。
ガチャの定められた因果を断ち切るために。
私はいちごのヴァレニエを一口含み、カップいっぱいの生ぬるいアールグレイを流し込んだ。




