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Redada

「...」



「それで?お嬢さん。ゴメスの家は一体どこなんだ?」



「...っ!」




クロズコップがマリアに腕を絡ませる。


怖がったのか、瞼をピクつかせ縮こまってしまった。



「よせ、ペズ」


「驚かせて悪かった。だがさっきも言ったように奴の居場所を教えてくれれば安全は保証する」



「安全なんて...ないわ」



「ふぅん、こりゃ相当彫り込まれてるな」



「や、奴ら従わないと拷問するって言ったのよ!」



青い髪がプルプルと震える。


落ち着かせなければ。


私はゆっくりと近づき、肩に手を触れた。


ビクッと震えたので一度離し、もう一度ゆっくりと触れた。



「...大丈夫だ。ここは安全だから」



「...っ」



すると震えは止まらなかったが、私の胸に顔を埋め暖かい何かを流した。



「ぅ...っ...う...」



体が痛む。


しかし情報を聞き出さなければ。


私はそのまま郊外へ着くまでずっとこの状態でいた。



____________________



ガチャッ




「とりあえず、この民宿で待機する。情報を聞き出すまでは」



シグレはそう言ってドアから出た。


私らもその古そうな民宿に向かって歩く。


木造の大きな宿で、入口のドアは妙に小さかった。



「(この女...まだ私の腕に引っ付いてるのか)」


「(重い...)」



シグレが3回ドアを叩くと、顔がしわくちゃな老婆が横引きのドアスコープから両目を出した。


しばらく睨んだ後、無言でドアを開ける。



「...早く入りな」



「なんとも陰湿な場所だなぁ」


「で、部屋割りはどうする?」



「私はいつも通りで」



ガチャは1人カバンを持って奥へ入っていく。



「フキはその子と、私はペズとで」


「一晩その子と居て。...その方が安心すると思うし」



「...」



「それじゃ各自、明日は6時起きね」



______________________




13号室に入る。


中はベッドとシャワー室の簡素なものだった。



「...すまない、少し離れてくれないか」



「...」



「傷口が...痛む」




するとしぶしぶマリアは手を離し、ベッドにちょこんと座った。



「シャワーを浴びてくる。君は鍵を閉めてここで待っててくれ」


「...」



しゅるっ



私はもう一度この女の前で服を脱いだ。


ゆっくりと包帯を捲り、にちっという嫌な音を立てて痛みに耐える。


その様子をじっとマリアが眺めていた。



「...」


「待って」



マリアがゆっくりと歩いてこちらに来る。


すると私の包帯を解き始めた。




「っ...!」



「...痛かった?」



「いや...大丈夫だ」



そしてマリアもまた服を脱ぎ始める。


さっきの風俗店とは違い、静かな空間だった。



「(...なんだこの感覚は)」



そして、再び腕を巻き付けシャワー室へと歩き出した。


____________________



ジャァアアアッ




「...」



上腕二頭筋から手首まで滑らせるように洗われる。


人に洗われるのは妙にくすぐったかった。




「あなた、名前は?」



「フキ。草間フキ」



「フキ...変な名前」


「フキ。なんでこんなに怪我してるの...?」



「敵と撃ち合った」



「まさか...カルテルと戦ったの?」



「ああ」


「私がその場にいた全員を殺した」



「...」


「そう」



「...なんだ」



「自分が殺した数を言うのは、それを誇ってるってこと」


「あなたは...野蛮」



「誇ってなんかいないっ」



「じゃあなんで自分が全員殺したなんて言ったの?」



「それは_____」




...おかしい。


なぜ私は"全員殺した"なんて言ったのだろう。


これは...私が言いたかったのか?



「...確かに、それを言った瞬間に...変な高揚感があった」


「...なぜだ」



「...」



するとマリアは手を止め、しばらく私の臍辺りを凝視した。


3秒間、時間が停止する。


残されたのは水の勢いよく落ちる音だけだった。



「...ふっ」



マリアが笑ったのかバカにしたのか、よく分からない音を出す。


そして腹を優しく撫でるように洗い出した。



「...なんだ」



「あなた、何も知らない子供みたい」



「...バカにしてるのか?」



「いや別に?」


「そういえば、ここ洗うの忘れてた」



マリアが私の膣に指を入れる。



「うっ...」



「フキ...処女?」



「...かもしれないっ」



「ふふっ、なにそれ。かもしれないって」


「___力抜いて」



____________________




「...っ」



暗闇。


かかっていた毛布を剥がし、マリアにかける。



「...」



マリアは赤子のように眠っていた。


小さな呼吸を繰り返し、さっきまでとは見違えるほどに。



...ベッドから起きて椅子に座る。


裸で木製の椅子に座るのは初めてだ。



「...」



この女に出会ってから何かが妙だ。


心臓が熱い何かで溶かされるよう、彼女の白い肌が記憶に焼き付いている。



「(...いや、私の心が冷えついていたのか)」



カチッ カチッ



時刻は午前1時。


辺りは未だ光の欠片も見えない。


黒Tシャツに着替え、外に出る。



ガチャッ



廊下はまだ明かりがついていた。



「...」



ガチャッ



衝動的に鍵を閉めた。


やはりこの女に会ってから妙な行動ばかりだ。




「隅に置けないね、フキ」



「...ペズ」



「少し、外で話さないか」


「どうも今日は眠れない」



「...」



またペズの後ろをついて行く。


アケロン川の渡し守は階段を降り、裏口から出た。




ガチャッ




やはり外は静かで、透き通った匂いが鼻腔を包んだ。


ペズは金のイムコライターを取り出しタバコに火をつけた。




「ふぅ...」


「静かすぎる夜はどうも眠れない」


「昔を思い出す」



「敵兵67人殺したことか?」



「...いや」


「いや、違う。私は」


「私は民間人含めた84人を殺した」



「...」


「...なに」



首筋に冷気が吹かかる。


ペズの口角は下がり、プルプルと唇は震えていた。



「民間人も...殺した?」



「昔の私は...誰もが認める正義感と優しさを備えていた」


「野良犬に昼食のサンドイッチあげて、公園で子供たちと追いかけっこをして」


「いつも私は鬼役だった。でもそれが楽しかった」



「...」



「ある日私は...」



ペズが鼻を擦る。


そして再びひと吸い。


煙を吐く。



「ニュースでアフガニスタンの紛争を見た」


「過激派組織が国民を侵略してると」



「...だから正義感に駆られて、現地へ行った...」



「すると蓋を開けてみればなんだ」


「目に見える悪人なんてどこにもいなかった」


「...駐屯したミキシーという村で、私はしばらく生活した」


「ドイツと同じように子供と遊んださ」


「すると1人の子供が寄ってきて」


「私にくっついたと思えばいきなり爆発した」



「...」




「...当時ドイツ連邦軍に所属してた私は過激派から見れば敵だ」


「その敵を匿ってたとして過激派が子供を爆弾にして私らを攻撃した」



「...」



「片目が破けた私はハンヴィーの機関銃でミキシーの村人に向けて射撃した」


「誰が過激派なのかわからない。それでも撃った」


「足がもげたり顔面が破裂して一瞬でその村は血の海になった」


「全員殺し終わると、そこで私は気がついた」


「これが私の本性なんだって」



「...」




ペズは顔を横に背け、またタバコをひと吸いした。




「...だから私にあの死体の山を見せたのか」



「...」


「あぁ、そうだ」



「...」


「...難しいものだ、正義というのは」



私はペズのタバコを1本取り、金のイムコで火をつけた。




「安心しろ。無関係の人間は殺さない」


「あんたの過ちはここで、私の胸に生きている」




ペズはじっと私を見つめ、手を止める。




「...ははっ、なんだ。もうとっくにルーキーなんかじゃないじゃん」



ペズが私の肩に腕を絡ませる。


今度は自然と、不快ではなかった。



「それじゃあ改めてよろしく。草間二士_____」





ドガァァァァッ




轟音。


それは突如として鳴り響いた。




「___なっ____」



真上の宿の壁が爆発する。


そこはマリアの部屋だ。



「マリアっ_______」




バジュンッ




再び空を切り裂く何か。


肩に乗っているペズの腕は力をなくした。


そして音もなく倒れる。


彼女の胸の中心には大きな穴が空いていた。



突然のことに頭がショートし_____



_____私の脳内は、既に焼ききれていた。

















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