表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

正義など僕にはない

作者: えあち

胸糞系の話が好きな人に読んでもらえたら嬉しいです。

•メインストーリー

少女「ロトゥルケ、アムゥ、ナラペルッヌィ」

兵士A「何語だ?」

兵士B「さあ、そいつずっと門の前でボロ布まとって、つっ立ってんだ。きっと言葉の通じない移民だろうな。子供なのにかわいそうなこった」

僕「気をつけろ!それは他国の言葉なんかじゃない!呪詛だ!!」

少女「マルッツゥ!」

漆黒、光すら反射しない黒が少女の周りを包む。同時に兵士の体が歪んでいく、歪んでいる。まるで元々人間ではなかったかのように。俺は必死にその黒の引力から耐えようとする、でも抗えない。その瞬間、視界は暗黒に包まれた。



これは、きっと、少女の夢。貧しい、与えられなかった、少女の夢。きっと白い白い馬の馬車が来て、宝石を見にまとった王子様が私を見初めてくれて、それでこの貧民街から出ることができるんだ。そうしたら服も可愛いフリル付きのものを買ってもらえて、、、色んな服着て、ダンスして、、、



歪む、世界が反転する。王子様だと思ってたケダモノの反吐の出る口の匂い、大きすぎる気味の悪い鼻、かけられる湿ったい息、けむくじゃらの気持ち悪い腕。血の赤。真っ赤な煙、痛い、苦しい、狭い、痛い。ケダモノの子種が注ぎ込まれた膨れ上がった腹。無機質な棒で掻き回されて、生まれる前にこの世から消された命。穢らわしいケダモノの血が通っていると知っていても、芽生えてしまった母性が泣き叫んでいる。なんで助けれなかったんだろう。なんで私はこんな目にあうんだろう。神様なんて人でなしだ。こんな世界消し去ってしまえ。

ロトゥルケ(悪魔よ)、アムゥ(私に)、ナラペルッヌィ(滅びを呼ぶ)、マルッツゥ(力を分けて)!


感情が流れ込んでくる。その感情が自分の持ってた感情かのように錯覚する。感情が合わさって、一つになってしまう。元の自分としての感情、自我が失われていく。「勇者さん、あんたの正義ってなんなの!」感情と感情が対峙する。「魔物〔じゃくしゃ〕を殺して何が正義なの?」「こんな世界を作った神さまが憎い!」恨み辛みが流れ込んでくる。思わずそれに共感してしまいそうになる。飲まれてしまいそうになる。

「正義など僕にはない!」

魔剣を振り下ろす、実際の魔剣が存在するのではない。脳の中の想像として魔剣を作り出し、それを振り下ろす。黒い霧に血飛沫のような赤が混じる。ドロドロと血が溢れてくる。その痛みは自分に共有される。でもやめない、斬る。斬る。たとえ少女の苦しみが俺の心でもがき苦しもうとも、斬る、斬る。無情に、自分のために斬る。斬って斬って、彼女に共感してしまった自分の心が泣き腫らしてもやめない。斬る。斬る、斬り続ける。そんなことをしても憎しみの連鎖になるだけだとわかってても、少女の悲痛な叫びが何度聞こえても、斬る。そうしてようやく、「ワタシ、フツウニ、イキタカッタ、ダケナノ」少女の断末魔と共に黒い霧は晴れる。



自我を飲み込まれてしまった兵士は、着ていた鎧ごとぐちゃぐちゃになっており、血みどろの肉塊となっていた。『彼女』に取り込まれて、『彼女』を斬った時に『彼女』と共に斬り刻まれてしまったのだろう。救えなかった。勇者というのは世界を救う、勇敢で優しい仕事だと思われているが、実際は残酷な仕事だ。世界に恨みを持った弱者が追い込まれて呪詛を唱え、『悪魔』と契約し、社会に復讐するために行動する。それが魔物と呼ばれる存在で、それを抹消するのが勇者の仕事だ。現在裕福に暮らせている我々の安寧を保つためだけに、不平を漏らす人間を口減らしするのが僕の飯のタネだ。きっと普通に生活していると、魔物という存在が自分たちの平穏を脅かしてくる、純粋な悪に見えるだろう。しかし勇者をやってるとそうは思えなくなる。魔物はただ悪として存在するバケモノではない。みんな人間だ。追い込まれた人間だ。魔物は悪意のために我々の意識を飲み込むのではない、世界への恨みを、自分たちの境遇を伝えるために飲み込んでくるのだ。うちの王国は非常に大きな貧富の差を抱えている。長年勇者をしていると、平民は貧民街に暮らす弱者たちを見て見ぬふりしていることに気づく。なぜならほとんどの魔物は貧民街出身だからだ。だから僕は自分が勇者であることは名乗らないことにした。人々の賞賛など受けないことにした。受けれる立場ではない。生きてお金をもらって、魔物側にならないために、魔物役になった彼女らを殺すことで、魔物側ににならずに済んでいるのだから。だから、正義など僕にはない。


•サイドストーリー①(王室での後日談)

魔導士「王様、緊急報告です。勇者ロザリオのマナの汚染度がレベル9に達しています。このままでは魔物化してしまう危険があります!彼は王国最強の勇者です、魔物化すればこの国なんて消し飛ばされてしまいます!どうかご判断を!」

王様「致し方ない...魔物化する前に殺せ!」

魔導士「ははっ!」

王様「彼をも手放さざるを得なくなったか。この国はどうなってしまうのだろうな。勇敢で正義感の強いものほど、魔物化してしまうのは、皮肉なものだな。我々がむしろ悪魔みたいじゃないか」

魔導士「王様...」

王様「彼は強い。十分注意して暗殺に取り掛かれ。だがもし、もし仮に彼を追い詰めることができて、彼を殺す間際、話す暇が取れれば伝えてほしい。魔物となってしまった国民を、そしてお前を救えなくて、巻き込んでしまって申し訳ない、と。決して私も敵なんかになりたくなかった、と」


•サイドストーリー②(ケダモノ)

「汚い」「臭い」「気持ち悪い」

橋の下の小便臭い家もどきのゴミ山で生まれた、僕にかけられた言葉たち。言葉だけでなく貴族なんかに唾をかけられることもある。それでも逆らうことができない。橋の上では幸せそうなカップルが歩いていたりする。彼女が僕と目があったりすると彼氏は目を覆ったりする。目を覆ったりする存在。せめてゴミ山の中では仲間と寄り添いあいたかった。だが、鼻が大きくて、体毛も濃い奇形ケダモノの僕には寄り添える相手なんていなかった。橋の下からも橋の上からかけられるのと同じ言葉をかけられた。嫌われるのも気味悪がられるのも慣れっこだ。でも一度は橋の上の人みたいに誰かと愛し合ってみたい。橋の下で生まれても、顔の美しい女の子の元には気の弱そうな青年が一生懸命ご飯やお金を持ってきたりして、橋の下から救ってくれたりする。そこまでは望めなくても橋の下同士で愛し合ってる人たちもいる。彼らは幸せそうだった。僕も愛されたかった。みんなに嫌われててもいい、誰か一人だけでも愛してくれる人がいればよかった。せめて普通の顔さえしていればよかった。そう考えていると全てが憎くなってきた。我慢していたかけられてきた言葉もふつふつと怒りに変わってきた。ボクモ、イツカ、カッコイイ、オウジサマニナリタイ。ダレカト、ダキアイタカッタ。ソンナコトモ、ユルサレナイ、セカイナンテ、イラナイ。ロトゥルケ、アムゥ、ナラペルッヌィ、マルッツゥ。

嫌な気持ちになってもらえたら、その感想をぶつけてもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ