宴を後に
お読み頂き有難う御座います。
お待たせ致しました。ラストですね。
華が舞うお昼が終わって、使用人達が片付けと夜会の準備に慌ただしく動き回っているのが見える。
庭園の白い花は夕暮れで赤く染まりつつあって……。
何時も夕刻を告げる鐘の音が、今日は一際綺麗だわ……。
「滅茶苦茶疲れた……」
私、ルーキアは疲れ果てているの……。
何故なら……。
また! また!!
今度は……今度は!! 煌びやかなドレスじゃなくて!! 細かく体を測り作られた……昼の光にも夕焼けにも美しく光る! フルオーダーメイドの新品フルプレート鎧に身を包み!!
また! 門番業務をさせられているのよおおおおお!
しかも、一番目立つ正門の横を!!
この! 騎士団所属と言え、れっきとした内勤! 事務官の私が!! か弱き文系乙女が!!
また門番を!!
何故!?
何故なのよ!!
「その煮え滾る業炎の如き憤怒……ルーク……。その殺気を仕舞い給え……」
「その名で……呼ぶな」
「すみませんちょっと場を和ませようと!! 怖い……!! 早く交代来てくれよお……」
んもう! ボレー迄意味不明で大袈裟なんだから!
ちょっと気軽にプンスカしてるだけじゃない! だって、理不尽なんだもの!
普通ねえ!? 私、非公式とは言え、王太子様の恩人じゃない!?
こう、おふたりが愛を誓う場の片隅の方でウフフ……良かったわ……とか呟いて!
優雅で可憐な都会的ピンクドレスを纏い! 微笑みを浮かべるポジションでは無いの!?
身分差が有るから大っぴらに労れないけど! たんまりのご褒美とか! 固辞してもたっぷりのご褒美とか!!
……今の所、何も無いの。涙を堪えて通常業務に勤しんでいるのに。
それなのに、この追加業務……。
こうして上に対するフラストレーションが溜まってストレスで儚くなっていくのだわ。
ああ、悲しき私の運命……。
「ルーキ……ルークから魔界より出でし、おどろおどろしい闇黒闘気が」
「そんなものは出ておらぬ……!!」
んもう! 魔法も使えない人体からそんな怪しい気体が出る訳無いじゃない! ボレーったら厨ニでテキトーなんだから!
はあー、ミラクルキュートで不思議な力が欲しい転生だったわ。
この! 理不尽追加業務しかやってこないってどういう事なのよ。
大体、ミシー様との政略結婚の話はどうなってるのよ。伯父様が変な横槍入れてるって小耳に挟んだんだから! ちょっぴり怒髪天なんだけど……!! この業務が終わったら恒例の怒鳴りこみに行かなきゃ!
「ちょっと! 私を入れなさい!!」
「招待状を出しなさい」
「この私自身が招待状よ!!」
ハアー、お腹いっぱい気味の恒例変な電波娘も出てくるし。
つかもう披露宴が終わって二次会的な夜会でしょ?
一次会に出れないヤツが二次会参加って時点で……何にせよ羨ましいけど。
どの道招待状無しなら不審者よね。
つかどっかで見たことあるわね。この汚れてる金髪ぽい女……。
「……いいか、娘。
我々は門番に限らず、日々の治安維持業務を命を賭して遂行している。招待客の顔迄覚えてはおられぬのだ。
この門を潜るその資格! 即ち現物の招待状が全てだ。良いか……。分かったら去ね!!」
「ヒッ!?」
「……迫力の口上……真似したい……」
「……何よ。何よ何よ何よ!! 何で……たかが兵士如きが!! この、王女のわたくしに!!」
「えっ、王女……!?」
そんな馬鹿な!
……と、言いたいところだけど……この、パチモノの鶴みたいな声!
まさかこの女……モリーニュ王女!?
え、私を拐わせた癖に何でこんな所に居るの!? 人知れずひっそりとした監獄で幽閉とかじゃないの!? 抜け出てるの!? 見張りの首が物理的に一族郎党飛ぶじゃないの!
いや、それともこう堂々と歩いてるなら、まさかのお咎めなしルート!? それなら私に対して酷くない!?
「ていっ」
「あっ……」
でも、見た目通り弱かったわ。ヒョロヒョロ向かってくるもんだからちょっと槍の石突で膝をつついただけなのに……。簡単に倒れたわ。まあ! 当然ね。
二の腕とかほっそりして、ウェストもほっそり。何て華奢な骨格……くそう! 羨ましいボディね!
脱走して私に襲いかかるなら、もっと死にものぐるいで筋トレして肉体改造しなさいよ! 地味に肉離れが治ったばかりで、そんなのと立ち回って怪我するの御免だけど!
「曲者だ! 捕らえよ」
私が曲者を捕まえた偉業を伝える、高らかな笛の音も響き渡ってしまうわね……。……誰も褒めてくれないから自分で褒めるわ。ていうかボレー、ボケッと棒立ちして立ち尽くし過ぎよ! 棒立ち立ち絵乙女ゲームなの!?
「えっ、またか」
「ルーキ……ルークの時に不審者出過ぎじゃねーか?」
「無駄口を叩かんと早く連れてゆけ!!」
「何で口調変わるんだ……」
「怖すぎる」
何なのよその……振り返らないから分からないけどその顔! 悉く失礼ね!
「モモヨ、今日の晩御飯は何にしましょう? そうだ、窓辺に飾る花は何がいいですか?」
「ええと……あの、ジャージ。態々夜勤なのにあたしのご飯作りに帰ってこなくて良いんだよ? もうちょい適切な距離をさあ」
「なぁーにを言っているんですモモヨ。我らは新婚では無いですか!」
「……粘着激重……。うう、王子様……。夜会……選択肢……したかったのに何で……」
「僕がモモヨの王子様だなんて、照れますね!」
……えっちらおっちらとモリーニュ王女を運んでいるの遠目に見てたら、通りがかった通行人がヒロインだったわ。そして付属品いえ、庶子様ジャージ氏……。そしてモモヨって名前だったのねヒロイン。デフォルトネームそんなのだっけ? 何かもっとこう……ドン引きネームでは? まあいいわ。
「いや本当に……距離感……」
「慎ましいですねモモヨ!」
でも、今の会話から推測するに、やべーあのふたりはガチで結ばれたのね。
と言うか結ばれざるを得なかったのかしら。
何てったって、人様の婚約者にコナ掛けてプレゼント貢がせて、挙げ句婚約をブッ壊したんだものね。世間的にもとっても離婚もしづらそうだわ……。
地味にヒロインてば、略奪愛の報いを受けてるのね……。コレが、ヒロインザマアって奴なのかしら。 でも百夜も夜会に出ずに攻略対象ゲットしてるし、特例クリア? ゲーム終了ってことよね。凄いな、やっぱりチートなんだわ。流出せず良かった。国内エンドで何よりだわ。
しかし、ヒロインが結局誰狙いだったのか、謎が深まるばかりだわ。でも面倒だし関わらんとこ。私のポジション、結局乙女ゲームとは何の関係も無かったしね……。
「あ!」
何か踏んだわ! ボケッとしてちゃ駄目よね……。ザリって鳴ったわ!
「……モリーニュが持ってたのか」
「え?」
……何この……ええと、形容し難いネックレス? 紐が短いから長さ的にブレスレットかしら。まるで牢屋の扉のような変な格子ブレスレットだわ……。センス無いな。
でも……この金属靴で滅茶苦茶踏んでしまったわ。どうしよう、やば! 不審者の持ち物を傷付けてないかしら。この頃コンプライアンスが煩いのよね。
「おお……闇夜に煌めく銀糸……」
「ボレー煩いわ」
「す、すみません」
「み、ミシー様……? 何故、此方に……」
「それはこっちの科白だよ。会えずに妨害されてたから」
「えっ……」
そ、それってどういう事なの。
妨害!?
「君の上司とか、あの伯父君だね」
「そんな……何て事を!」
だから実家からも結婚話がウンともスンとも言ってこないの!? 伯父様が握り潰してる!?
て言うか、何で私の上司……まさかの兵士長かしら。やだ、悲しみで拳が震えちゃう。こんなに健気に勤労してる私に対して嫌がらなの!?
もう、全て話し合いで解決出来る自信がないわ。
「……あの、ミシー様……」
「ルーキ……ルーク! も、もう交代だから! 其処の怖い美形と立ち去ってくれ! とても好きです怖い!」
後30分程有るんだけど……お、追い出されてしまったわ。
ボレーめ……。私が職務放棄をしたって事じゃないの!
「取り敢えず行こうか、ルーキア」
「はい……はいい!?」
て! 手を!
ミシー様と私は、手を繋いでいる!! それなのに、手甲が!!
着替えたい!! 着替えたいわ!! ミシー様の前で多分将来へのお話!
せめて鎧を脱ぎ、中のシャツでも……ああ駄目だわ汗臭い!
「せめてマシな後日……」
「後日にしたらまた妨害喰らうよ」
「そんなに妨害を!?」
「してきたよ。……まあ、大事にされてるよね。良い事だけど……ルーキア」
「はい!?」
伯父様は兎も角、職場に大事にされた覚えがまるで無いのだけど。と、戸惑ってたらペラリ、とまた紙を渡されたわ。
……兜のバイザーと暗くなってきたせいで、よく分からないな……。
「王太子殿下から許可証貰って来た。結婚しよう」
「……ブフォ!?」
思わず吹いたらガシャコン! ってバイザーを上げられたわよ!!
こ、このタイミングで!!
「君とトゲトゲガメを保護していきたいんだ」
「えっ……」
「もう俺には君しかいない。トゲトゲガメを可愛いと言った豪胆な令嬢は……」
「そんな……。ミシー様、確かにトゲトゲガメは可愛いですが。本当に私で宜しいのですか?」
タイミングとかどうでもいいわ!
告白にムードとかもどうでもいい。
今、私がどんな格好でも……ミシー様は愛の籠もった眼差しをくださっている。
それが、私の憧れていた光景ではないのかしら。
「無茶振りにも一生懸命取り組む、君でなければ、好きになれなかった」
「ミシー様……!!」
幸せな瞬間って、シチュエーションじゃないんだわ。
ボロ服だろうと、全身鎧だろうと。
私を見てくださる方が……愛を囁いてくれる。
その方に心を動かされない事が……有るかしら。
この方となら、苦労してもいいと……私の心は、叫んでしまうのよ。
「身分差とかはゴリ押しする。どうせ君にも王家の血がうっすら入ってるんだから」
「そんな、身分……え? 王家?」
……え?
え?兜越しに聞いたから、聞き間違い?
オウケ……とは? 王家でなくて? オッケー! 後!
とか? いやオッケー後!って何よ。
だって私、根っからの田舎生まれよね? 都会とは無関係極まりなくて……。
「ちょっと、兜を脱いで宜しいですか?
オウケノチがうっすら……とは? え、まさかお祖母様とかが高貴の出? でも大体近隣の村娘で……」
「ジョーサイドに何代か前に借金漬けになった祖先が居たって聞いたけど」
……な、何て事なの。駄目祖先の事は有名無実とはいえミシー様に言われると堪えるわ……。
鎧が蒸れそうな勢いで汗が出てきちゃった……。
「う、ウホホホホ。よくご存知で……。それはそれは苦労を重ねまして。
ええ!? まさかの曾曾お祖父様!?」
「能力は有るけど、破綻してたんだろ? 裏貴族年鑑にも載ってる。嘗て唯一生き残った庶子だったよ」
「裏貴族年鑑!?」
いやちょっと……待って。
「まままさか。何代か前に何か、このようなややこしい出来事が……」
「まあ、忘れた頃に変なのが湧いて歴史は繰り返すからな……。王家はやはり痛ましい」
「だから、我が一族は煙たがられてますの!? え、王家の庶子系一族なんですの!?」
「滅茶苦茶薄まってるんだけど、知ってる奴はしつこく覚えて伝えてるからな」
「何故子孫本人が知りませんの!?」
「多分本家や、ルーキアの兄君である後継ぎ殿は知ってるんじゃないか?
でもまあ気にするなよ。君が優秀なのは君の高祖父だけじゃなく、ご苦労された高祖母様がた筋のご苦労有ってのことだろ」
「そ、そう……ですわね」
た、確かに。分家筋で、家を継がない私には……知らなくても良いことだったのかしら。単に都会で就職するってだけの末娘が……。まさかこんな事に巻き込まれるとは思わないものね。
「だから、血筋の話は良いよ。高祖父に迷惑を掛けられた分、気楽に使ってやればいい。単なるコケ脅しとして」
そ、そっか。
そういう考え方も、有るのね。ちょっと、頭が知らずに強張って硬くなってたみたい。
……何か、今日まで情報が……過多だわ。
「だから、俺と明日書類を出して、結婚しよう。披露は……沼薔薇のようなドレスを着て欲しい」
「ミシー様……喜んで」
私は、笑顔のミシー様に手を握られたまま、軽やかにその場を後にした。
背後には、華やかであろう夜会。王太子様を祝う沢山のお客様がステップを踏むのでしょうね。
あの場ではもう狼藉は赦されない。
例え束の間で有ろうとも、平和な夜会を皆が楽しむのね。
不本意だけど……治安維持の一端を担えて、良かった。そう思えるわ。
この手を取って、本当に……良かった。
あ。……ピンクが好きですって、結局言えなかったわね。
素敵な作品群の中からお読み頂いた、貴方に感謝を!
有難う御座いました。




