浮かれて浮いて王宮へ
お読み頂き有難う御座います。
夜会へ乗り込む羽目になった門番令嬢です。
「……」
「何?」
「い、いえいえ。見惚れてしまって。よくお似合いです……」
「アンナ様の命令だし、仕方ない。俺の趣味じゃない」
……銀髪に薄いピンクの薔薇のようなお召し物って、合うのねえ。見目麗しさと儚さが倍増って言うのかしら。
……いえ、顔面のせいかしら。きっとそうね。
私の髪を明日ガリゴリ手触りになるの覚悟で銀に染めても、多分このお色目の服は似合わないわ……。
此処はティナー侯爵家。
流石に後ろボタンの細かさに音を上げて、メイドさんにお頼みしてお借りしたドレスを着付けて頂いたの。
そして、依頼人のミシー様と顔を合わせたらまあ素敵な……ピンク色のお召し物でね。
着てる御本人不服そうだけど滅茶苦茶お似合いでね。
絶句して今に至る訳よ。
因みに私のお借りしたドレスは……ピンクじゃなくても素晴らしいものだったわ。
薔薇の葉っぱのような、鮮やかな濃いグリーンの……裾が少しばかり窄まった……壺を逆さにしたようなデザインの……ええと、都会的ドレスよ。ドレスの形をパッと答えられるような貴婦人教育を受けてないのよ、うう!
少しばかり動きやすく裾が踝丈で、プリンセスが着てそうよね。プリンセスを実際見たことないからイメージ先行だけど。……アンナ様は……元王女様はプリンセスカテゴリ分けに迷うわね。
不満はないの。ドレスは素敵なの。只ねえ。ちょーっとだけ。
この薩摩芋色の髪と相まって……更に芋っぽさが深まる気もしなくもないわね。よくてクリスマスカラー……。
……いえ、止しましょう。裾に少しばかりピンクっ……いえ、黄色のレースも有るのよ。ちょっと枯れかけの葉っぱぽくも見え……いえ、都会的ナイスアクセントよね。
……ピンク色が好きだとアピールしておけば良かったわ……。施して貰ったアイメイクもグリーンだし。流石に口紅は緑じゃなくて良かったけど。流石にそこまでアバンギャルドにならなくて良かったわ。
「まあ、服と頭が白っぽくて目立たないかもな」
「いえ、存在感が薔薇のようです」
「この色の沼薔薇は無い」
「ぬ、沼薔薇がお好きなんですのね……本当に。キレイですわよね沼薔薇」
亀もお好きだけど……拘りがお強いな。まあ、嫌いなお花を生け垣にしないわよね。あのお花、沼地と共に侵入者撃退だけど……警備に実用的で良いのかもしれないわ。ウチの領地でも育つかなぁ。山賊避けに良いかも。
「葉っぱが炙り出しの香辛料にもなるしな」
「炙り出しの香辛料……? 食べられますの?」
まさか、沼薔薇は焼くと美味しいのかしら。トゲトゲガメもムシャムシャ食べてたし、まさかの活用法ね。売れるならウチの領地でも検討したいなぁ。
「トゲトゲガメと、とある一族のみにはウケがいいよ」
「どんなお味なんでしょうか」
「ある一族のみには激辛らしい。他の奴が食うと痺れるよ」
……その一族の味覚のみに辛味が働くってどういう植物なのかしら。トゲトゲガメの栄養食にもなるって言うし、謎だわ沼薔薇……。
でもそのとある一族の愛用品なら、上手く育てればガッポガッポかも。
ただ、惜しむらくは……ウチの領地の村民の農業部門が花に全く詳しくなさそうなのよね。野菜と飼料に全力なんだけど。
「見るからに激辛そうだから、夜会で食わない方がいいよ。楽しそうに食う奴には要注意」
「その一族は、激辛好きなんですのね……」
……そういやジドが、激辛煮込みで軽症を負ったせいで、巡り巡って私がこんな意味不明な任務を請け負う羽目になったのよね。
……ジドに恨みが募らないでもないわ。そしてキリエにもよ。
「そのドレス、似合ってるよ」
「えっ」
ま、まさかのお褒めの言葉!?
「髪の赤煉瓦色とよく合う。晴れた秋の色付いた葉のようだ。爽やかで良いね」
「そ、そうでしょうか……?」
緑と相まってひとり薩摩芋かひとりクリスマス浮かれポンチかしらと思ったけど……。
考えてみりゃ此処にクリスマス無いし! 赤と緑避ける必要無いわね!
「飾ると可愛い」
「あっ……り、ガトウゴザイマス……」
「さ、行くよー」
ふ、再び、お褒め頂いちゃった!? 嫌だわ、ちょーっと微笑みが止まらないかも!
「ウホホホ……ウフフ」
「声をそろそろ潜めて」
アレ? 何で中庭に行くのかしら。
此処は馬車で王宮に乗り入れて……。
「え、ええと。正門から階段を上がってティナー侯爵令息様の御成〜りィィ! では……」
「あの夜会は800人居るのに、身分読み上げ口上をイチイチやらないよ。後、御成りは言わない」
……し、しないのね。イメージでは江戸時代的な時代劇だったからなあ。
まあ……口上やってる兵士のひとり、ボレーを知ってるけど(第三騎士団の管轄だし)800人の名前を声張り上げて呼ぶはちょっと無茶よね。
最早我が喉は近い内に空より迎えが来るだろう……ってガラガラ声で、先週前髪弄りながら喉飴頬張って嘆いてたわ。
喉が痛いってことかしら。ボレーはちょっと厨二よね。
「さっ、行くよ」
「えぐっ!?」
わ、わー、たしの、手を……!!
ミシー様が私の手を取って……!!
ふわっと!
宙に……。宙に!?
「う、うううう浮いて……浮いてェ!?」
「静かにね」
四阿の土台を踏んでる筈の足元に、何もない!
これぞ、ミラクルファンタジー! 異世界!?
「ど、ああれええええ」
「着いたよ、ルーキア」
……あれ?
この小汚い、そこはかとなく汗臭い部屋は……?
ガランとしてるけど、滅茶苦茶見覚え有るわよ?
「……此処は」
「第三騎士団の詰所。門の位置を変えてやった」
「それは……摩訶不思議なお力魔法ですの?」
「媒介の門番が馴染んでるから丁度良かったね」
媒介の門番とは……。魔法の媒介ってマジカルな感じでは? イメージだけど。 分からんわ。
しかし最早、私って何なのかしら……。そんな不思議な力に使えるような高貴なマジカル血筋は……からっきし引いてない筈なんだけど。例のDQNな曾曾祖父様もかつては中級貴族だったし。もしかして代々ご苦労が祟って早死にされてるお祖母様の方の恨みパワー効果なのかしら。やだ、怖くなってきた!
「さあ、武者震いしてないで行こうルーキア。この夜会で……王家を変える」
オウケヲカエル……?
蛙?
カエル……。
王家を変える!? そんな話だった!? 震えてた肩もスンッて止まったわよ!!
「んおあえええ!? ちょっとお待ち下さいな!? 単なる夜会に潜入して、しょ……危険な香りの殿方に引っ掛かりそうなお嬢さんを保護するだけなのでは!?」
「そうだよ。王太子殿下の治世を盤石にする為にも」
うっそお、ヤバそうよ……帰りたい、と思った私の手は……キレイな手袋と、ミシー様のお手に包まれていたわ。
解けない……。
だって、震えておられるのだもの。
身分ゼロに近い私なんかよりも、高貴な方とか、頼りにされる部下とかを使わずに私の手を握って乗り込もうとされているのは、何故。
ミシー様は……何を抱えていらっしゃるの。
どうして、自業自得とはいえ王家に弓引く行いのお手伝いをされるの……。
恐らく不遇を囲われているお姉様の御為なのかしら。
真剣な表情に、何も聞けなかったわ。
庶子は一体誰なのか。




