AIスピーカーの冗談
今日で仕事がひと段落付き、同僚4人と打上げに行った。
しかし、店は早々に終了してしまう。
「まあ、そういうご時世だから仕方ない。うちで飲もう。」
同僚の一人に誘われて、彼の家で宴会の続きをすることになった。
「広い家だな。」
「奥さんに悪くないか?」
「今は一人だから大丈夫だよ。」
みんながリビングのテーブルに座ると、彼は冷蔵庫からビールを取り出す。
その時だ。
『チーズがもうすぐ賞味期限です。』
突然の声にみんなが驚く。機械的な抑揚のない音声だ。
彼は笑いながら棚の上を指さし、「AIスピーカーだよ」と説明した。
「こいつは天気もニュースも、冷蔵庫の中の物の賞味期限も教えてくれる。」
「すごい便利だな。」
「これがあると寂しくない。冗談だって言うんだぜ。」
「なんか言わせてみろよ。」
「AIスピーカー、冗談を言って。」
『トゥルルルルルルルル。誰も電話に出んわ。』
みんなは笑った。
「なんだ、駄洒落じゃないか。」
「まだオレの方がセンスあるジョーク言うよ。」
「たまに鋭いの言うんだって。」
みんなで笑いながら、ビールを飲む。
つまみのチーズがなくなったところで、彼が立ち上がった。
「最近、叉焼作るのにハマっててさ。食べてみてよ。」
皿に美味しそうな叉焼を乗せて持ってきた。待ってましたと、みんな箸でつつく。
「うまいなぁ。」
「しっかり味が染みてる。」
「だろう? いろんな部位の肉で試してみてるんだ。」
話も盛り上がり、ビールもあっという間になくなる。
彼がビールのおかわりを冷蔵庫から取り出した。
『奥様がもうすぐ賞味期限です。』
AIスピーカーが抑揚のない声で言う。
「な、鋭い冗談だって言うだろ。」
「たしかに。」
「うちの嫁はもう賞味期限切れてるな。」
「こらこら、そんなこと言ってると捨てられるぞ。」
再びみんなは大笑いし、口々に自分の妻に対するグチを言い始めた。
宴会は大いに盛り上がり、今日の所はお開きとなった。
「ありがとう、じゃあな。」
「おう、またな。」
歩いて帰る夜道。冷気に当てられて酔いが醒めてくる。
…はて?
あの時、誰がAIスピーカーに「冗談を言って」と頼んだだろうか。