57着目 音楽対決! 決着の時!!
敵の音楽が消えると、オレはすぐさま城壁を下り、敵軍に突入した。
目的はただ一つ。あの音楽を演奏し、今回ヴェラセネ・キンダーの軍勢を指揮していると思われるマルガレーテ・シュトラウスを探し出し、倒すためだ。
もちろん、オレの狙いは敵も勘づいている。オレ達を止めようと敵が群がってくる。
だが、残念ながら直接的な戦闘力という意味では、このデスメタルの衣装はあまり高くない。特に一対多となると、ほぼ無力だ。
登録してある他の衣装に着替えて戦闘しながら捜索するという手もあるのだが、マルガレーテとの直接対決に注力したいので、なるべく体力を温存したかった。
そのため、必然的にオレに付いてきているエルマとローザが戦闘を担当することになる。
最初は二人の力でもなんとかなったのだが、徐々に苦しくなってきた。
「……レオナさん、エルマさん。ここは私に任せて、お二人で捜索を続行していただけますか?」
「ローザ。お前、何する気だ?」
「ここで敵を引きつけます。私のジョブ能力であれば、多人数を相手にしやすいので。それに、少々味方の判別に難がありますし……」
少し考え、オレはローザを信じることにした。
「わかった。なるべく早くケリを付けるから」
「気をつけてね、ローザ」
「はい。心配ありませんから!」
そして、オレとエルマは二人でマルガレーテの捜索を続行した。
なお、オレが少し離れるといきなり太いツタの津波が発生し、ヴェラセネ・キンダーの兵士を締め上げているのが見えた。
~エルマside~
レオナとエルマがマルガレーテを探している途中。
突如、花火が二人の前で爆発した。
「おっと、マルガレーテの所には行かせねぇよ」
「ボニファーツ……」
目の前に現れたのは、マルガレーテの部下であるボニファーツだった。
「レオナ、先に行ってて。多分、こいつが出てきたって事は、マルガレーテは近くに居ると思う」
「……わかった。気をつけろよ」
そして、レオナは駆けていった。
当然、それを見逃すボニファーツではない。
「させるか!」
「やらせない!」
花火をレオナへ発射しようとしたボニファーツだったが、エルマの風を纏ったブーメランにかき消されてしまった。
「お前邪魔だな。だったら、サクッと殺してやるよ」
「やれるものなら!」
ここにエルマ対ボニファーツの戦闘が始まった。
だが、その展開は一方的で、終始エルマの優勢であった。
それもそのはず。エルマは風魔法が使え、それを利用することで花火をかき消せるのだ。
なので、ボニファーツにとってエルマは非常に相性が悪い相手であったのだ。
「ちくしょう、ちくしょう! ボクは強いんだ! こんなザコに負けるはずなんて無いんだ!!」
「……ねぇ、君の過去に何があったの?」
エルマは、狂気めいたボニファーツの己の強さへの自信が気になった。
あんなに自分が強いと信じたい気持ちの根源を、少しでも見てみたくなったのだ。
「あん? ま、いいだろう。どこにでもある話で、つまらないと思うぞ」
ボニファーツは元々、田舎の生まれで、幼少期はおとなしい子だったそうだ。
だが、ジョブ選択の儀で『ファイヤーワーカー』という正体不明のジョブを授かった。しかも田舎だから、満足にジョブの情報も得られない。
必然的に、ボニファーツは『何も出来ない人間』と見られ、村八分に。さらに石を投げられても文句を言えない身になってしまった。
ところがある時、この村にヴェラセネ・キンダーのマイスターが来訪した。
マイスターはボニファーツのジョブ能力を見抜き、その使い方を教えた。
その結果、ボニファーツは今までの仕返しとばかりに、村を全焼させた。
そして彼の性格はおとなしい少年から一変。非常に暴力的なものへと変化してしまった。
「……そうだ。ボクは自分をバカにした人間を赦さねぇ! 皆殺しにするんだ! そのためにも……お前はここで死ぬんだよ!!」
刹那。ボニファーツは足下で花火を爆破。その勢いで上空へと飛んだ。
花火を使った跳躍が頂点に達すると、さらに花火を爆破。今度は地面への直撃コースだ。
そして頭には花火の火種。つまり、彼は猛スピードで突っ込むと同時に花火を爆破。突進の威力と花火の威力のダブルパンチでエルマを葬り去ろうという魂胆だった。
「……そっか。よくわかったよ」
エルマは冷静に、あるブーメランを投げた。
ボニファーツはブーメランをはじき返せると思ったのか、避ける気配すら見せない。
やがてブーメランは、ボニファーツの首をかすめた。
「……あ、れ……。意識が……」
だが、ボニファーツは急に意識が遠くなってしまった。
そしてついに意識を手放し、花火の火種は消え、身体はそのまま墜落してしまった。
実は、エルマが投げたのは外側が刃になっているブーメランだ。
それを避けようともせず首に当たったのならば、首の頸動脈が切れ、致命傷になるのは必然だった。
エルマは危なげなく刃付きブーメランをキャッチすると、こうつぶやいた。
「君とあたしは似ていたんだね」
エルマもボニファーツと同じく、田舎の生まれだった。
ただ、彼と違うのは村八分にはされず、いじめも受けなかったこと。それでも自分のジョブに悩み、リリエンシュタットまでやって来たのだが。
そう考えると、わずかな運の差でここまで運命が変わってしまうのかと考えてしまう。
そしてエルマは、自信の運の良さに静かに感謝したのだった。
~レオナside~
エルマと分かれてからしばらく捜索を続けていたが、とうとうマルガレーテを見つけた。
キャスター付きの移動できるピアノが置いてあり、その前にあるイスに座っていていつでも演奏できる体勢だ。
「……あなただったのね。あの不気味なサウンドを流していたのは。……それにしても、一見ただ唸るように叫んだりお世辞にも上品とは言えない歌詞が付いているけど、きちんと音楽的な理論に乗っ取っている。不思議ね」
「『デスメタル』っていうジャンルだよ。それより、もう降参したらどうだ? ここまでオレ達に来られてしまった時点で、お前に勝ち目は無い」
「……そうかもね。でも、ヴェラセネ・キンダーの一員として、ここであきらめるわけにはいかないの」
するとマルガレーテは、ピアノを弾こうとした。
「させるか!」
オレはすぐさまギターを振りかぶり、ピアノを破壊した。
同時に、ギターも壊れてしまったが。
「デスメタルはな、楽器を破壊するパフォーマンスもあるんだよ。けど、実際は音を出す本当に大事な部分は丈夫に作っていて、そのほかは壊れやすくなっている。公演が終わったら短い時間でまた修理できて、すぐ次の公演で使える。決して楽器を粗末にしているわけでは無いからな」
「……そう。本当、あなたにはつくづく驚かされるわね」
そう言いながら、マルガレーテは何かを取り出し飲んだ。
あまりにも自然すぎて、オレは気付くのが遅れてしまった。
「お前……」
「私ね、この戦いの勝敗はどうでも良かったの。そりゃ、ヴェラセネ・キンダーとしては勝った方がいいけどね。私にとって重要なのは、両親から虐待みたいな教育を受けたことと、テロリストに荷担して重大事件を起こした事実を知らしめること」
それを聞いて、オレはマルガレーテの目的が理解出来た。
この人は、いわゆる『教育虐待』を無くしたかったんだと。
教育虐待を受けた人物が稀代のテロリストになったとなれば、世間はその関係性を疑う。
そして必然的に、厳しすぎる教育を忌避しようとするだろう。
マルガレーテは、教育虐待を無くそうと自ら人柱になろうとしていたのだ。
「……もし、あの時……私がジョブの力の使い方を知って、屋敷の人間ごと両親を殺した日よりも前に、デスメタルを知っていたら……全然違う結果になっていたでしょうね……」
そしてマルガレーテは、静かに息を引き取った。




