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44着目 終結! 釣りの後始末!! その2

 帝都で発生したヴェラセネ・キンダーとの戦闘は、とりあえず終結した。

 しかし戦場となった地区は破壊されており、また市民にも被害が及んだため、ここ数日はリリエンタール大公と一緒に復興業務を手伝っていた。

 それが一段落し、大公が決めなければならないこともほぼ終えたため、オレ達は休憩を取っていた。


「皆さん、とりあえずお疲れ様でした。ここまで作業が進めば、後は現場の方々の判断で作業が進むでしょう」


 リリエンタール大公がねぎらいの言葉をかける。

 そして彼は、皇帝陛下や他の大公ともある程度連絡を取り合っていたようで、その当たりのことも話してくれた。


 まずそれぞれの復興作業だが、おおむねオレ達と同様。トップが決めるべき段取りはすでに終わり、すでに現場で動けるよう仕込みは完了しているらしい。

 ただ、それは業務上のことで、各大公の個人的な事件が起こっていたことも知らされた。


 まず東部のシュピーケルマン大公。

 彼もヴェラセネ・キンダーの四天王と戦闘をしたのだが、なんとその四天王というのがシュピーケルマン大公の学生時代の先輩だったらしい。

 しかもその人、研究の才能はあったのにラティーナ語が不得意だったことと説明が苦手だったことが祟って学術界を辞めざるを得なかったらしい。

 そしてシュピーケルマン大公が研究資金集めに注力する理由ともなった人のようだ。


 そういう多大な影響を受けた先輩がテロリストになっていたなんて、シュピーケルマン大公の心情は察するに余りある。


 それよりもひどいのはアルテンブルク大公だ。

 なんでも彼女は、自らのアイデンティティであった厳罰主義の限界を敵から指摘され、心に深い傷を負ってしまった。

 そのせいで部屋に閉じこもったままになってしまい、現在は武術大会でオレと戦っていた嘱託冒険者のハルトヴィヒさんが職務を代行しているのだとか。


「そんなにひどい状態だったんですね」


「あたし達が助けに来たとき呆然としていたけど、まさかそんな事になっていたなんて……」


 アルテンブルク大公軍を救援に行ったのは、エルマとローザだ。

 二人は一部始終を見ていたらしく、アルテンブルク大公がなにか精神的にショックを受けていたことはわかったらしいが、ここまで深刻だとは思ってもいなかったらしい。


「そうそう、エーベルハルト家の事情について、新しい情報を入手しましたよ」


「心底どうでもいいですけど、とりあえず聞いときます」


 実はヴェラセネ・キンダーとの戦闘が終了してから、オレの実家であるエーベルハルト家から追放の取り消しを打診してきたのだ。

 というのもオレは武術大会で、勇者のジョブを持つ妹のクリスタを完膚なきまでに叩きのめした。失禁させ、気絶させてしまうほどに。

 さらに皇帝陛下の洗脳をいち早く解き救出したほか、この戦闘の終結に深く寄与した。


 オレがこうした成果を上げたものだから、当然オレのことについて詳しく調べる人間も現れる。

 その結果、オレがエーベルハルト家を『無能なジョブを授かった』という理由で追放されたことがすぐに判明した。


 そして何が起こったかというと、オレの能力を見誤り追放処分を下した両親に非難の声が上がった。

 世間体を過剰に意識する両親にとってこの非難は耐えられるものでは無く、オレの追放取り消しに動いたと言うわけだ。


 ところで、帝国の貴族の戸籍管理はかなりしっかりしている。

 貴族ともなると結構な財産を持っているし、領地を持つ貴族も半数以上いる。社会的な地位が高いので信用されやすい。

 そのため財産や家督を巡って争いが起きたりするし、貴族を称した詐欺師が現れる事もある。

 そういった時に備え、貴族の戸籍管理は民衆の戸籍よりもしっかり、かつ厳しくなっている。


 もちろん貴族家からの追放の記録も行っており、オレの両親もオレに追放宣言を出してからすぐに役所へ報告に行ったらしい。

 そしてオレの両親は、この追放の取り消しを行うため役所に出向いた。


 結果は却下された。

 そもそも貴族家からの追放はかなり重い意味を持つもので、そう簡単に撤回できるものでは無い。

 過去には追放を取り消す事例もあったらしいが、それは何らかの理由で後を継げる人間が追放した子息しかいなかったり、わだかまりが解けたりした場合のみ。しかもどの例も追放から数十年以上経っている。

 それなのに両親は、一年も経たずに追放を撤回しようとした。さすがに役人も『偽装追放なのではないか』と怪しんで、追放撤回の申し出を却下したそうだが。


 ついでにオレの所にも事情を聞きに役人がやって来た。

 オレは追放に至った経緯を丁寧に説明し、エーベルハルト家に復帰する意図は無い事を伝えると同情してくれた上『追放撤回を役所としては受け入れませんから』と言ってくれた。


 役所の手続きが上手くいかなくなると、両親は次に復帰生活の実態を作ろうとした。要はオレをエーベルハルト家に住まわせ、事実上追放を無くそうとしたのだ。

 そのためリリエンタール大公の下へわざわざ出向き、オレの引き渡しを要求してきた。


 当然、リリエンタール大公がその要求を飲むことも無く。

 むしろオレの両親に対して追放処分が貴族家にとっていかに重いか、それなのに自らの承認欲求のために追放を振りかざした挙げ句、舌の根も乾かぬうちに撤回しようとするとはいかがなものかと説教をし。

 最後に『貴族以前に人間としてなっていない。恥を知りなさい!』と一喝した。利リエンタール大公が激怒するのを見たのは初めてのことだった。


 そんな感じに、このクソ忙しいときに人を振り回しまくっている両親だが、今度は何をしでかしたというのだろうか。


「レオナさんの妹さん――クリスタさんでしたか。彼女を追放しようとしたそうですよ。そうすれば跡継ぎがいなくなるから、レオナさんの復帰も認められるだろうと……」


「無理でしょう、そんなの」


 エーベルハルト家は、そもそも勇者のジョブによって成り立った貴族家だ。勇者のジョブというのは他の貴族家と違い、ものすごく意味が重い。神聖視と言ってもいい位に。

 だから勇者のジョブを持つクリスタを追放するのは絶対にあり得ないし、クリスタがエーベルハルト家の家督を継ぐのは決定事項なのだ。オレが追放されていなくても必ずそうなっていた。

 仮にクリスタが当主として不適格でも、お飾りとして立てておいて実務は他の誰かがやる。それくらいエーベルハルト家にとって最重要な要素なのだ。


 それをわかっているはずなのに、両親はオレの復帰のためだけにクリスタを追放しようとした。

 もしかしたら、両親はもう『暴走』と言っていい領域に突っ込み始めているのかもしれない。オレに固執しすぎたせいで周りが見えなくなっているのだろうか。


「さすがに、エーベルハルト家の家臣や親類が止めたそうですよ。『勇者のジョブ持ちになんてことしようとしているんですか!』ってね」


「まぁ、そうなるでしょうね」


 しかし、こうなってくるとクリスタがかわいそうになってくるな。暴走を始めている親に振り回されるなんて。

 あまり仲がいいとは言えなかったが、さすがに同情してしまった。それくらい両親がおかしくなっているとも言えるが。




~ヴェラセネ・キンダーside~


「皆、礼を言う。これで相手の戦力の大まかな内容が掴めた」


 ヴェラセネ・キンダーのボス、マイスターはそう礼を述べた。

 ここはヴェラセネ・キンダーのアジトの一つ。ここで四天王全員を集め、帝都で起こした暴動――に見せかけた威力偵察の報告を受けていたのだ。


「だが、ここからの動きは速い。あの皇帝が何の策も無く無防備で大会を開くとは思えない。おそらく、手練れの斥候を使い君たちに気付かれること無く後を付けられたと思っていいだろう」


 ここまでは、帝都で暴動を起こす前から話を聞いている。

 だから、ここに集まったメンバーは誰一人として驚くそぶりを見せない。


「だから、我々は帝国の動きよりも早く行動を起こさなければならない。そこで最初の標的となるのは――アルテンブルク大公だ」


 マイスターも、アルテンブルク大公が精神的にダメージを負い、とても指揮を執れる状態でない事は把握していた。そうなったのが四天王の一人、カスパルだということも。


 そして当のカスパルも、その言葉に過剰に反応した。


「ボス。アルテンブルク大公は俺達にやらせて下さい。この手でヤツを殺したい」


「もとよりその通りだ。だが一つ言っておく。君がアルテンブルク大公に恨みを持っているのは知っているし理解出来るが、必要以上に熱くなってはいけない。冷静さを欠くと、とんでもない判断ミスをしてしまうからね」


「わかりました。心に留めておきます」


 話が一段落すると、マイスターは全員に向かって言葉を発した。


「他の者も、各大公領を攻撃する準備を整えておいてくれ。では、これから我がヴェラセネ・キンダーの計画は最終段階に移行する。各々の奮闘に期待する!」


『ハッ!!』


 全員返事を返すと、それぞれ自分の持ち場へと戻った。

 ヴェラセネ・キンダーの悲願を達成するために。



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