39着目 目指せリリエンタール大公邸! あの事件の真相!!
皇帝陛下に従い、オレ達はなんとか闘技場を脱出することが出来た。
だが、それで一安心というわけでは無かった。
「な、なんだ、これ……」
「どうやら、すでに街中で行動を起こされたようだな」
オレ達の目に飛び込んできたのは、至る所で戦闘が行われている帝都の姿だった。
どうやら、帝都中でほぼ同時に行動を起こされてしまったらしい。
「それで陛下、この後はどうするんですか?」
「最も近い大公邸へ向かう。大公達にはこういう場合に備え、各自の屋敷に待機を命じていたからな。確か、ここから近い大公の屋敷と言えば――リリエンタール大公邸か」
そもそもこの大会は、ヴェラセネ・キンダーを釣る目的で開催されたものだ。
そのため、釣り上げた後に備えて大公達にはそれぞれの屋敷で待機させておき、有事になったら私兵や割り当てられた帝国軍の部隊を指揮して対処するという手はずになっていたようだ。
幸いにもオレ達の上司であるリリエンタール大公の屋敷が近いので、そこへ向かえば仕切り直すことが出来るだろう。
オレも衣装を着替えられる。今は防具代わりになる衣装は破壊されているし、そもそもいつ理性が飛んでもおかしくないベルセルクの衣装のままなので、早い内に別の衣装に切り替えたいのだ。
リリエンタール大公邸まで残り三分の一の所まで来た。
今のところ大規模な戦闘に巻き込まれてはいないが、とうとう戦闘に突入せざるを得なくなってしまった。
バンッ、という破裂音と共に、足下の土が少し抉れた。
「やぁ、久しぶりだね。元気にしてたかい?」
声の主は、近くの建物の屋根にいた。
「ゲルトラウトさんに、ヒルデガルトさん……?」
かつてリリエンタール大公領で起きた、グルンシュルドビルン商会の銃と弾丸の強奪事件。
そのときに商会側の警備主任としてオレ達と一緒に仕事をした、ゲルトラウトさんと部下のヒルデガルトさん。
その二人が、なぜか――オレ達に銃を向ける形で待ち構えていたのだ。
「……どういうつもりだ?」
「どういうつもりも何も、これが私に課せられた仕事だからさ。一応、ヴェラセネ・キンダーの四天王の一人だからね。ちなみにヒルデガルトは私の部下、右腕さ」
まさか、グルンシュルドビルン商会の警備主任をしている彼女が、ヴェラセネ・キンダーの関係者、しかも四天王だと!?
「あんた、自分が何をしているのかわかっているのか? 商会に知られたら、せっかく得られたあんたの立場が――」
「……『グルンシュルドビルン』って、『初等教育』のことなんだよね」
いきなり、ゲルトラウトがそんなことを言い出した。
「初等教育ってさ、普通は子供が受けるものだよね? そして『ヴェラセネ・キンダー』は『見捨てられた子供達』」
……おい、待てよ……。もしかしたら、この国はすでに、割とマズイ段階まで来ているんじゃ無いのか……?
「その顔は気付いたようだね! そうさ、グルンシュルドビルン商会は、ヴェラセネ・キンダーの隠れ蓑さ! 商会を経営しつつ、帝国各地に根を張り、商人の情報網に入り込んで情報を集めた! そうやって地道に活動して、ようやく最近になって本格的な活動を開始したんだ!!」
やはりそうだったか!
ヴェラセネ・キンダーは、ボスであるマイスターが活動宣言を出す以前から綿密に準備をしていたのだ。グルンシュルドビルン商会という組織を表向きの看板にして。
この周到さ、一筋縄では行かないぞ? しかもヴェラセネ・キンダーとの戦いに勝てたとして、帝国はかなり疲弊するんじゃ無いか?
「さて、私とヒルデガルトの仕事は、君たちをどこかの大公邸に行かせないこと。出来れば殺して欲しいと命令されている。だから、悪く思わないでくれ」
そして、ゲルトラウトはオレ達に向かって発砲した。
「させません!」
ローザが遺伝子編集をした植物を使い、分厚く丈夫なツタが絡まった壁を作り出し、なんとか銃弾を防いだ。
「とりゃ!」
そしてエルマが風魔法を施したブーメランを投げ、反撃を試みる。
「……風魔法ですか。それを待っていました」
すると、声からしてヒルデガルトだと思うが、銃を撃ってきた。
弾は壁にはじかれるだろうと思っていたが、なんとツタの壁を貫通した!
もう少しズレていたら、オレの頭をぶち抜いていたかもしれない。
「風魔法を放つのなら好都合です。それを利用して弾速を上げ、威力を向上させますから」
……すごい能力だな。風魔法を読み切り、計算して正確に弾速を上げる狙撃をしてくるなんて。
「どうする? 普通のブーメランを投げる?」
「いや、効果はあまりないだろ。単純に投げただけでは、打ち落とされるのがオチだ。それが出来るだけの技量を敵は持っている」
オレはエルマの提案を却下した。
では他に何か手があるのかと言うと、何も無い。オレの現在の衣装は近接戦闘特化で、しかも丸裸と同じ状態。ローザも手持ちの植物はあまり所持しておらず、皇帝陛下は戦闘系のジョブでは無いので除外。
正直、何か相手を近距離までおびき出さなければ何も出来ないし、敵もそれをわかっているだろうから不用意に近づくこともしないだろう。
そして壁にしているツタの遺伝子編集の効力が切れる時間があるので、それを考慮するとこのままで居るわけにも行かない。
なにか打開策がないかと必死で頭を回転させていたその時、戦闘が突如として終わりを迎えた。
「残念だけど、私達が相手できるのはここまでのようだ。厄介な連中が来てしまったからね」
ゲルトラウトがそう言うと、さっさと戦場を離脱してしまった。
なぜ有利に進んでいた戦闘を突然やめてしまったか疑問に思ったが、それはすぐに解消された。
「皆さん、ご無事ですか!?」
リリエンタール大公の部隊がやって来たからだ。




